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第9話 戸川くんとはじめてのお家④
しおりを挟むポロポロと涙を流し下を向いている私の頬に手を当てたまま、戸川くんはじっとしてくれている。
どんな顔をして戸川くんの顔を見れば良いのか分からず、すっと下を向いていた私に戸川くんは優しく話しかけてくれた。
「ごめんね。変な心配をかけてしまって。机の上にある写真、あれね、高校の時の写真で、中学時代からずっと続いていた友達との写真なんだ。あそこに写っている写真の中にお付き合いをしていた様な女の子はいないよ」
「それでね、鈴音さんが気にしている僕の昔の事だけど……確かに過去、僕は何人かの女の子と付き合った事があるよ」
私が知りたかった事を、でも聞きたく無かった事を戸川くんの口から直接知り、心臓がギュッと痛くなる。
「でもね。当然だけど今僕が好きなのは鈴音さんだけ。彼女も鈴音さんだけ。大切にしてるのも鈴音さんだけ」
そう言って頬に当てていた手で私の涙を拭う。
「初めて告白してくれた時に、『本当の僕を知らないけど良い?』って聞いたよね。自分で言うのも何だけど、僕、昔はちょっと女癖が悪い時期があってね。でもある時を境にそう言った自分が嫌になってお洒落をするのも女の子と仲良くするのも全部辞めちゃったんだ」
「外見を見繕わなくなったからね、それ以来女の子とお付き合いをすると言う事は無くなったんだけど。そんな時、鈴音さんから告白されてびっくりしたよ」
顔を上げ戸川くんを見るとニコリと笑ってくれる
「この子、こんな外見の僕を見てどこを好きになったんだろうって。特に大学に入学してすぐだからね。男も女の子も皆外見に気合入ってるしその中で僕を選ぶかねって」
戸川くんは照れくさそうに微笑む。
「でも鈴音さんはどう言う訳だか僕を選んでくれた。本当の僕を知らなくてもそれでも良いって言ってくれた。だから僕は鈴音さんの事をもっと知ろうと思った。もっと言えば……あの告白をされた瞬間から僕も鈴音さんに恋をしはじめたんだ。あの時からずっと、僕は君の事が好きだよ」
そして私の手をギュッと握ってくれる。
「机の上にある写真立ての女の子、鈴音さんは可愛い女の子達って言うけど、僕の中では鈴音さんも可愛い女の子なんだけどな」
私の顔を見ながら優しく笑ってくれる。
「そんな事無いよ。私なんて全然可愛くないしお洒落でも無いし……戸川くんと釣り合うか……」
私は生まれて初めて経験した、嫉妬心や独占欲と言った負の感情のせいで自身への自己評価が限り無くゼロになってしまっていた。
「もし僕の外見が気になるなら何時でも元に戻すよ。髪型も服装も全部鈴音さんにもっと気に入って貰えるかなと思って着飾っただけだし。鈴音さんに気に入って貰えないならお洒落をする必要も無いからね」
そう言って戸川くんは両方の手で私の両頬を包む。
「鈴音さん自身が自分の事をどう思おうが、例え周りの人がどう思おうが、僕の中では鈴音さんは可愛い女の子だし、大切な彼女だよ」
ニコッと笑う戸川くん
そんな戸川くんの顔を見て私はうぇ~んと子供の様に泣いてしまう。
泣きじゃくってる私の横に座り直した戸川くんはよしよしと肩を抱き頭を撫でてくれる。
どれ位泣いていただろう。
気持ちも大分落ち着いて来たので戸川くんの顔を見る。
「ごめんね。折角の楽しいお家デートだったのに台無しにしちゃって。私、思っている以上に戸川くんの事が好きみたいで。今まで嫉妬とかそう言うのを感じた事が無かったからどうして良いか分からなくなっちゃって」
「うん。でももう大丈夫。戸川くんが好きって言ってくれた言葉を信じる。戸川くんの昔の事は今の私には関係無い事だから気にしない。ごめんね変な事言っちゃって」
戸川くんに笑いかける。
「あ、あと戸川くんの服装とか外見だけど……私、戸川くんの事を外見だけで好きになった訳では無いけれど戸川くんのしたい様にして欲しい。自分の彼氏がお洒落でイケメンなのはそれはそれで嬉しいし!」
とテヘッと舌を出して笑う。
「じゃ、そうさせて貰うよ。鈴音さんの彼氏として格好良くいたいしね!」
そう言って戸川くんもあははと笑う。
良かった。戸川くんと笑って話せる。別に過去の事なんかどうでも良いんだ、今の戸川くんの彼女は私なんだから。
そう心に決めた時、戸川くんが私の顎に手を当てクイッっと顔を上に向かせた。
自然と、目線も上がり戸川くんを見上げるようになる。
そして唇にスッとキスをされる。
流れる様な動作でキスをされてポーッとなってる私に戸川くんが優しく静かな声で囁く。
「鈴音さん、少しだけ口を開ける?」
言われるがままに少し口を開く。
また戸川くんの顔が近づいてきて軽く私の唇にチュッとキスをする。
そしてごく自然に、戸川くんの舌がスッと口の中に入って来た。
体全体がビクッとなって固まってしまうが全然嫌な感じがしない。
寧ろ、もっと……戸川くんと一緒になりたいと思うけどどうして良いか分からず全て戸川くんに任せる。
どれ位そうしていただろう、すっと戸川くんが離れてニコッと笑う。
「続きはまた今度しようね」
そう言ってギュッと抱きしめてくれた。
泣いたり笑ったりドキドキしたり夢の中にいる様な気持ちになったり。
まるでジェットコースターの様に、私の気持ちはクルクルと回っていった。
その後は他愛も無いお話をしておいとまする事になった。
「送っていかないで大丈夫?」
「うん。大丈夫。お邪魔しました!」
そう言って玄関で戸川くんに頭を下げる。
すると廊下の向こうから戸川くんのお父さんとお兄さんが歩いて来た。
「あれ凛ちゃん、もう帰るの?」
笑顔で蒼さんが私に話かける。
(戸川くんでも未だに鈴音さんと呼ぶのに会ったその日に凛ちゃんと呼ぶとは……流石、戸川くんのお兄さんっ)
と変な感心をしつつ
「あっ、はい。お邪魔しました。後、映画ありがとうございました!」
と言って頭を下げる。
「また何時でもいらっしゃい。歓迎するよ」
優しく口調で、戸川くんのお父さんも私に微笑みかけた。
「では失礼します!」
再び頭を深く下げ、私は戸川くんのお家から自宅への帰途についた。
「お前さ、家に連れ込んだ初日から女の子を泣かすなよ」
怜の後ろから、やれやれと言った口調で蒼が話しかける。
「何が?」
若干苛ついた感じで怜が答えた。
「『何が?』じゃねーよ。凛ちゃん、来た時と帰る時の顔が違い過ぎるだろ。映画を見て泣いただけであんなに目を腫らす訳がないだろうよ」
そう言って蒼は凛が出ていった玄関の方を見る。
「凛ちゃん、良さそうな子じゃんよ。お前の女癖の悪さは知ってるけどあんな良い子を泣かせるなよな」
「女癖が悪いとかいつの話をしてるんだよ。それに泣かしたくて泣かせた訳じゃねーよ」
そう言って階段を上がる怜。
「まーったく」
はーっと溜息をつき、誰もいなくなった玄関を見る。
「何があったか知らないけど……怜を頼むね凛ちゃん」
凛が家に来た時と同じ言葉をつぶやいて蒼は居間に戻っていった。
一方怜は自室に戻り、ソファに深く沈み込む。
パソコンデスクにある写真立てをチラッと見た後、すぐに顔を上げ天を仰ぐ。
「参ったなぁ」
そうつぶやいて深く目をつぶった。
どれくらいそうしていただろうか、暫く経ってからすくっと立ち上がりパソコンデスクの前に立つ。
そして数段ある引き出しの一番上を開け、奥から紙で包まれた物を取り出した。
机の上で包まれた紙を広げると中からお守りが出てくる。
そのお守りをじっと見つめながら、怜は普段とは全く違う口調で吐き捨てるように言葉を発した。
「くっそ。マジでムカつく奴だな。オレはよ」
最大級の自己嫌悪を感じながら怜は再びお守りを紙に包み、引き出しの奥に戻して「バタンッ!」と強く閉めた。
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