はじめて出来た地味彼氏の戸川くん、実はワケありの元遊び人だった?

わーくほりっく

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第10話 戸川くんとはじめてのお迎え

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――これは、はじめて戸川くんの家にお伺いする数日前にあったお話――



「凛、実行委員会室にこれ持っていける?」


「うん、この袋とこの袋の2つだけ?」


私は友人の鈴木(さき)に問いかける。


「そうそう。とりえずその2つだけで良いわ」


 そう言って咲は、大学の校門近くの壁に文化祭の宣伝看板を飾り付ける作業に取り掛かる。
 辺りは大分日が落ちてきた。


「でも本当に悪いね。文化祭の実行委員でも何でも無いのに色々手伝わせちゃって」


申し訳無さそうな顔で咲は私に謝った。


「ううん。全然大丈夫だよ。ほら、別に私どこかのサークルに入っている訳でも無いし」


そう言って咲に笑いかける。


「でも、ほら~。例の彼氏と色々遊ぶんじゃないの?」


ニヤニヤしながら私の顔を見る。


「あ、いや戸川くんとは土曜日にお家に遊びに行く約束をしていて、それまでは特に……何も無いし大丈夫」


若干顔を赤らめながら咲に伝えた。


「おー、いきなりご自宅に!これは何か進展があるんじゃないのかなぁ~?」


咲はテキパキと作業をしながらニヤニヤ度を増して私に話しかける。


 咲は大学で一番最初に友達になってくれた子でとても話しやすい。誰とでも仲良くなれるので私以外にも友達はいっぱいいるけれど、何故か私には特に良くしてくれる。
 頼られやすいせいか、文化祭の実行委員を任されて作業に取り掛かったは良いが人手が全く足りず困り果てていたので私から進んで手伝いを申し出たのだ。
 まだ1年生だが、上級生からも頼りにされているらしく委員の中でも特に忙しく働いていた。


 そんな咲だが唯一、私が戸川くんとお付き合いを始めた事を知っている。
告白の後押しをしてくれたのも咲だ。
 最初に私が戸川くんの事が好きなんだけど、と相談した時


「え?戸川?誰それ?」


と言われ休み時間にあの人、と友達と仲良く話をしている戸川くんを指さしたら、「えー!あれが良いの!?マジで?」と笑われた時は軽く殺意が芽生えたけど。


 それでも「好きならさっさと告白しなよ。余りモテそうには見えないけど恋は早い者勝ちだよ。他人に取られてから泣いても遅いから」と背中を押してくれた。
 一応告白してOKを貰いはじめてのデートをした事は伝えたけれど、実はイケメンのお洒落さんだったり、キスをした事は流石にまだ言えていない……


「進展とか……まだ付き合い始めたばかりだし、そんなのは無いよ」


そう言って誤魔化す。


「いやいやわからないよー。はじめての彼氏宅訪問って事はそこで初チューでしょ」


ニヤニヤする咲


(いや、キスはもう既にされてしまっているんだよ!)と心の中で思いつつ、口に出して言える状況でも無いので、「じゃ、この袋、部室に持って行くね!」と言ってその場を逃げるように離れた。


 両手に袋を抱えて、実行委員会室の前に来る。
幸いドアは開放されていたのでそのまま部屋の中に入る。
 よいしょっと荷物を置いて咲の元へ戻ろうとすると部屋に何人かの男の人達が入ってきた。

 上級生だろうか?ちょっと派手目で得意では無いタイプの集団で、その中でも特に苦手だな~と思う男の人が私に話しかけてきた。


「あれ?実行委員の子?」


「あ、私は違うんですけど、実行委員をやっている鈴木咲の友人でお手伝いで荷物を持って来ました。すみません。すぐ失礼しますね」


そう言って頭を下げ部屋を出て行こうとすると


「あ、そうなんだ。実行委員でもないのに遅くまでありがとうね。何なら、文化祭後の打ち上げにも来てくれて良いからね。可愛い女の子なら大歓迎だから」


と軽い感じで誘われる。


「あ、いえ、部外者なので……申し訳ないのでご遠慮しておきます」


そう言って再び頭を下げそそくさと部室から退出する。


 部室内では「え、あれ誰?」とか「誰か誘って来いよ」と言った会話がされているがそのまま急いで部室を後にする。


「あー、本当にああ言う男の人苦手だわ……」


そう言って咲の所まで急いで走って戻っていった。





「ふいー、今日は遅くまでありがとうねー」


 実行委員会室が入っているサークル棟の前にある学生用の駐車場で、咲にそうお礼を言われる。


「ううん、いいよいいよ。とりあえず今日はこんな所でいいのかな?」


そう聞く私に「もうバッチリ!」と答える咲


「大分遅くなっちゃったけどどうする?私は委員会室に戻ってもうちょっと片付けちゃうけど」


 駐車場は街灯があるおかげでかなり明るいが、空はもう真っ暗である。
時計を見ると20時を過ぎていた。


「私はそろそろ帰ろうかな。咲も余り遅くならないようにね」


そう咲に伝えたと同時にスマートフォンがピコンと音を立てた。


通信アプリを開いてメッセージを見てみる。


わっ、戸川くんだ!


【鈴音さんお疲れ様!今日は文化祭準備のお手伝いって聞いていたけどまだ学校かな?】


メッセージを読んでいると、咲がニヤニヤしながらこちらを見ている。


「あれ、ダーリンから?良いよ、メッセージ返しちゃいなよ」


と満面のニヤニヤ顔で言う。


ダーリンとか言うなっと咲に言い、戸川くんにメッセージを返す。


【戸川くんこんばんは!うんまだ学校なんだ。今は友達の咲ちゃんとサークル棟前の駐車場でお話してるけどもう帰るよ!】


そう返信すると、またすぐにピコンと戸川くんから返信がくる。


【そうなんだ!実は今、大学から少しだけ離れた所にいるのだけど、もしまだ大学にいるならば一緒に帰ろうかなと思って連絡したんだ。一緒に帰れそう?】


 心臓がどきんと跳ねる。
予定外だったけど戸川くんに会える!


【うん。戸川くんが良ければ一緒に帰りたいな!私はどこにいれば良い?】


 ウキウキで返信を返す。
大学からだと一緒にいられるのは最寄りの駅くらいまでだけど、それでも嬉しい。


ピコンと返信が来る。


【そうしたら、そのままサークル棟前の駐車場にいて。僕がそっちに行くから。多分、あと10分前後で到着すると思うよ】


 戸川くんからのメッセージを読み終えた後、さっきからずっとニヤニヤしている咲に伝える。


「何か戸川くんが今学校の近くにいるからこれからこっちに来るって。一緒に帰ろうかって」


そう言って少し照れる。


「おーおー、良いですねぇ彼氏持ちは。んじゃ、私は早々に退散しますかぁ?」


とおちゃらけた感じで私に笑いかける。


「またそうやって茶化すからー」


 咲の脇をえいっとつついたりしていると、サークル棟からガヤガヤとまとまった声が出て来た。


ふと見ると、先程委員会室で声をかけてきた男の人達である。


 私があっと気がつくと、向こうのグループも私達に気が付いたらしくこちらにやってくる。


「あ、佐々木さん、お疲れ様っす」


咲がグループの先頭に居た男の人に声をかける。


「おお、鈴木ちゃん。遅くまでありがとうね。あ、そっちはさっきの子じゃん」


と委員会室で私に話かけてきた人――佐々木さん――が声をかけてくる。


「あ、先程はどうも」


私は軽く頭を下げる。


「鈴木ちゃん達、これからどうするの?」


咲の方を向き話しかける。


「私はこれから委員会室に戻って、残ってる作業を終わらせてしまいます。凛はこのまま帰宅です」


「あ、凛ちゃんって言うんだ。もう帰るの?うちらもこれから帰るから車で送っていくよ?」


また私の方を向き、若干馴れ馴れしい口調で話しかけてくる。


「あ、いや」と口ごもってると咲がさっと間に入って


「あ、でも凛はこれから彼氏が迎えに来るみたいなので大丈夫ですよ」


と笑顔で返す。


「あ、凛ちゃん彼氏いるんだー。まぁ可愛いもんねー。彼氏はこの学校?同学年?格好良いの?」


佐々木さんはニヤニヤしながら聞いてくる。


「あ、いや、あの凄く……良い人です」


下を向いてそう答えるのが精一杯だった。


 ふと咲を見てみる。
笑顔ではいるけれど、内心は穏やかではないのだろう。ちょっと顔が引きつっている。


(そうだよね。この場に戸川くんが来たら、この人達に何て言われるか……って心配だもんね)


 そんな事を考えていた矢先、スマートフォンがピコンとなる。
慌ててメッセージを開くと戸川くんからだった。


【今、丁度学校の前に付いたよ!これからそっちに向かうね!】


あれ?彼氏から?と佐々木さんとは違う男の人から声を掛けられる。


「あっ、はい。学校の近くに着いたみたいで……」


ボソボソと小さい声で答える。


「あ、それじゃ凛、戸川くんの所へ行けば?どうせ歩いて一緒に帰るなら、こっちに来たら戸川くん2度手間になるでしょ?」


と咲が助け舟を出してくれた。


「えっ、折角だから彼氏に来て貰いなよ~。凛ちゃんみたいな可愛い子の彼氏がどんな男なのか気になるし」


と言って、相変わらず佐々木さんはニヤニヤしている。


 私も咲もどうして良いか分からず気まずい空気が流れる中、「んっ?」とふと耳を澄ましてみる。


 遠くの方からドロロロロ、と言うかゴロロロロ、と言う音が近づいてくる。
車の音っぽいけど、今までに聞いた事が無い様な音である。
 音がする方を見ていると、やがて1台のピカピカな黒い車が駐車所の方にやって来た。


「うっわ、ジャガーMk2かよ。くっそ渋いな」


グループの中の1人が声を上げた。


 レトロな外見で生まれてはじめて見るようなデザインの車がガロロンッと言ってピタッと停まる。


そして男の人がスッと降りてきた。


そこにいる全員がその男の人を見る。


 それが誰かは当然誰も知らない。
咲も知らない。
 いや、咲は知ってるけど、分かっていない。
降りてきたのは戸川くん――デートの時に見た格好良い姿の戸川くんだった。


「あ、鈴音さんお待たせ!あれ、そっちは鈴木さんかな?遅くまでお疲れ様!」


戸川くんが最高の笑顔で咲に話しかける。


咲はぽかんと口を開け、暫くしてから


「誰?えっ、誰?あ?戸川くん?」


素っ頓狂すっとんきょうな声で話しかける。


「うん?そうだよ?」と笑顔で答える戸川くん。


「良い車乗ってるじゃん。1年?」


 さっきまでのヘラヘラした笑みが消えてピリッとした空気を醸し出し、佐々木さんが戸川くんに声をかける。


「あ、はい。1年の戸川と申します。車は兄の物で、今日車検から出来上がったので兄の代わりにショップから引き上げて来ました」


戸川くんは全く臆せずに笑顔でさらっと答える。


「それでは僕と鈴音さんはお先に失礼しますね。鈴木さんも先輩方もお疲れ様でした」


 そう言って軽く頭を下げ、じゃ行こっかと私の腰を優しく抱き、車の方へ連れて行く。


私は慌てて咲に向かって


「あっ、じゃ、私帰るね。咲も気をつけてねっ」


と話しかける。


咲は「あっ、うん。またね?」


と言って狐につままれた様な顔で私を見送ってくれる。


はいどーぞ、と言って戸川くんは助手席のドアを開けてくれる。
 
 人様に車のドアを開けて貰うなんてはじめてである。
あっお邪魔します……と言って私は車の中に乗り込んだ。


そして戸川くんは再び残っている人達に


「それでは先に失礼いたします」


と笑顔で頭を下げ車に乗り込んだ。


 私は車の中から咲に向かって「ごめんね!明日色々話すね!」と口をパクパクさせた。


 そんな私の言葉を理解してくれたかどうかは分からないけど、咲は手でOKマークを作って手を振ってくれる。


 これは絶対、後で咲に何か言われるな……と思いつつ、ふと横を見ると戸川くんが笑顔で「そうしたら、前に送って行った、鈴音さんの家の近くのドラッグストアまで行けば良いかな?」と言ってエンジンを掛ける。


「ドロンッ!」と聞いた事が無いような音でエンジンが掛かり、車が静かに動き出す。


 戸川くん、車の免許持ってたんだ。と、言うか普段から運転してるんだ。
もうこの人、何でも有りだな……


 そう思いながら運転する戸川くんの横顔を見て、小さい声で自然に「私の彼氏、格好良すぎるだろ」とつぶやいてしまった。


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