はじめて出来た地味彼氏の戸川くん、実はワケありの元遊び人だった?

わーくほりっく

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第14話 戸川くんとはじめてのドライブ④

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「ん~、気持ちいいなぁ~!」


 木のベンチに戸川くんと隣り合って座り、両手をぐ~っと上に伸ばしながら深呼吸をする。
 森林浴をしながら新鮮な空気を吸うと言うのは、こんなにも気持ちが良い事なんだと知ってびっくりする。


 サービスエリアを出てからは特に渋滞にはまる事も無く順調に高速を走り、無事目的地に着いた。

 山の中腹にある駐車場に車を停め、ゆっくりと穏やかな山道を戸川くんと2人で歩く。
 本格的な獣道等では無く、ある程度整地された緩やかな斜面を歩いて行く山道なので、周りを見ると比較的ご年配の方達もいらっしゃった。


「天気も気温も過ごしやすくて良かったよ」


戸川くんがお団子を頬張りながら微笑む。


 峠茶屋と旗看板が出ている所で、私と戸川くんはベンチに座って休憩を取っていた。


戸川くんはみたらし団子とお茶を、私はよもぎ団子とお茶を注文した。


「戸川くんのみたらし団子も美味しそうだねぇ。よもぎ団子も美味しいけどそっちにすれば良かったかな」


 私が何気なくつぶやくと、はいっと言ってまだお団子が幾つか残ってる串を目の前に差し出す。


「良かったら交換しようか?僕もよもぎ団子食べてみたいし」


そう言ってニコっと笑う。


「あっ、うんありがとう!じゃあはい!これ私のよもぎ団子」


私のお団子と串ごと交換する。


 もうキスもしてるので間接キス、とかで照れる必要は無いんだけどまだ若干照れてしまう。


「それにしても凄く良いところだね。戸川くんは前に来た事があるの?」


「うん。昔ね。その時は車じゃなくて電車で来たんだけどね」


戸川くんはそう言ってお茶をすする。


「この先に神社があるんだ。そこに鈴音さんと一緒に行きたいなと思っていてね。寄っても良いかな?」


「勿論!戸川くんが行きたいなら私も行ってみたいな」


「良かった。鈴音さんと一緒じゃないと意味がないからね」


少し意味深な事を言って戸川くんはお茶を飲み干した。


「ご馳走様でした!鈴音さんも終わったかな?まだ残ってればもうちょっとゆっくりするよ」


「あ、私も後少しだけだから大丈夫」


わずかに残っていたお茶をくっと飲み干す。


「ご馳走様でした!」


そう言って両手を合わせる。


「じゃあ行こっか!」と差し伸べてくれた戸川くんの手を握り「うんっ」と元気良く答えた。


(戸川くん、誰と来たのかな。ご家族の方かな。それとも……)


 そんな気持ちが一瞬浮かんだがすぐに頭の片隅に追いやって今を楽しむ事に集中する。






 先程休憩した峠茶屋から15分位歩いた所にその神社はあった。
 そこまで大きな神社では無いけれど、境内も綺麗にお掃除が行き届いており人もそこそこいる。


「あそこのベンチに座ろうか」と戸川くんが指をさす。


「うん!」と返事をして戸川くんと横に並んでベンチに腰掛ける。


「鈴音さんお疲れ様。足とか大丈夫?」


戸川くんが心配そうに声を掛けてくれる


「全然大丈夫だよ!」と元気に答えた。


 戸川くんは「そう、良かった」と微笑んだ後、ふーっと息をついた。
 そして前を向いたまま私に話しかける。


「ここね、縁結び神社で有名なんだ。それでさっき、鈴音さんが『戸川くんは前に来た事があるの?』って聞いてくれたよね。さっき返した言葉通り、来た事があるんだ」


そう言った後、少し間を開けて戸川くんは言った。


「一番最初の彼女と」


喉の奥がギュッとなりあのチリチリとした感覚で胸がいっぱいになる。


「少し昔の話をしても良い?」


黙っている私の顔を見て、戸川くんが尋ねる。


「うん」


短く私は答えた。


「ありがとう」と戸川くんは微笑みまた前を向いた。


「僕がその人と付き合いはじめたのは中学2年生の時。同じクラスの女の子でね。お互いにとって、はじめての彼氏と彼女だったよ。元々僕はお洒落するのは好きだったし、人の気持を汲み取るのも得意だったのでね。お付き合いに対しては出来る限りの事を頑張ったよ」


戸川くんが話すのを、私は静かに聞いている。


「中学3年になっても付き合いは進んで、さぁ高校へ進学ってなったんだけど、僕と彼女は別の学校になってしまってね。それでもお互い変わること無く付き合って行こうねって話もしてて。実際高校が別になっても仲の良い友人達も含めて皆で遊んでいたりしたんだ」


(あ、それがパソコンデスクの上にあった写真の人達かな...)と私は戸川くんの部屋の事を思い出した。


「最初は変わらない仲が続いていたんだけど高1の夏が終わった辺りかな、彼女の様子がおかしくなって、僕達いつものメンバーとも遊ぶ頻度が少なくなっていってね。おかしいなと思っていた矢先、彼女と同じ高校に行った友達から嫌な話を聞いたんだ」


「『他の男と付き合ってるっぽいよ』って」


私はいつの間にか手をギュッと強く握りしめ汗をかいていた。


「おまけに、何やら僕の悪口も言ってるって。彼女が何となく心が離れていってるのは薄々気がついていたし、他に好きな人が出来たならしょうがないとは思っていたけど、悪口まで言われてるとはびっくりしてね。そこで彼女は何ていってるの?って僕に色々教えてくれた友達に聞いてみたんだ」


「その友達は本当に良い奴で、本当は言いたくないんだけど知っておいた方が良いと思うからって話してくれたんだ。彼女、僕の事を『外見は良く、お洒落で気が利き、おまけに実家はお金持ち、そう究極に都合が良いんだよねハハハ』って」


戸川くんの話を聞いて私の心臓がギュッとなる。


「僕は信じられなくてね。実際に彼女を問い詰めたんだ。他に好きな男の子が出来たのなら仕方ない。でも僕に対する悪口だけは信じられない。君がそんな事を言うなんて思えない。君の口から本当の事を教えて欲しいってね」


「そしたら彼女はこう言ったよ。『言った事は本当。何でも出来るって自信がうざいし、鼻につく。そこが本当に嫌だった。最初から付き合わなければ良かった』ってね」


戸川くんは自嘲気味にハハッと笑った。


「僕、人の気持を汲み取るのは上手だと思ってたんだけどね。全然そんな事なかったし逆にそう言う思い上がりが、知らず知らずの内に彼女を苛つかせちゃたのかなって」


「そんな事があってね、彼女は僕だけじゃ無く、仲が良かった僕ら中学からの友人達全員と絶縁したんだ。机の上の写真に彼女が写っていなかったのはそういう事」


「それで僕もその件以来、少しおかしくなってしまってね。最初は落ち込んだんだけどその後……自暴自棄だったのかな、色々な女の子と付き合うようになって。女の子に好意を抱いて貰うのは得意だったんで、とにかくどうしようも無く女癖が悪くなってしまって」


「自分がショックを受けたからって、他の女の子で紛らわすのは……今考えると本当に愚かな行為だったよ」


そう言って戸川くんは下を向く。


「そんな事を1年もやってると今度は自分の事が嫌になって来てね。もう何もしたくなくなっちゃったんだ。お洒落も女の子と遊ぶのも何もかも」


「結局は外見を着飾っていて見栄えを良くしている僕と一緒にいれば良い気持ちになれるし、色々エスコートもされるからね。都合が良いんだろうなって」


今はじめて、私は戸川くんが外見を着飾る事を辞めてしまった理由を知った。


「高校3年に入ってからは、昔から仲が良かった友達とも全く遊ばなくなってしまってね。完全に絶縁状態さ。そのまま大学受験で知り合いがいない大学を選んで入ったんだ」


ふーっと大きく息を吐き私の顔を見る。


「だからね、前に僕の部屋の時にも話したんだけど、鈴音さんに告白された時はびっくりしたんだ。全く着飾らない僕で良いの?って。外見じゃ無くて中身をきちんと見てくれる人がいるんだなって。そして鈴音さんの前だったら昔みたいに着飾っても良いかなって。色々な僕を見てそれでも好きでいてくれるかなって」


戸川くんは優しく笑う。


「この前の鈴音さんを泣かしてしまった件、あれは本当に申し訳無かったと思うよ。女の子とお付き合いするのが久しぶりだったとは言え、鈴音さんが家に来る事に対して凄く浮かれちゃって全く気が利かなくて」


 いつも冷静な戸川くんが「浮かれちゃった」と言った事に私は驚きを隠せなかったが、戸川くんでも浮かれてくれるんだ、と嬉しくもなった。


「文化祭の準備の時もそうだし、今日のサービスエリアの件もそうだけど……僕は自分が思っている以上に鈴音さんの事が好きなんだと思う。だから……今日はここへ鈴音さんと一緒に来たかったんだ」


そう言って戸川くんはカバンに手を入れて何かを取り出した。


「ここさ、縁結びの神社って言ったでしょ?これ、ここで買った縁結びのお守りで、2個で1セットになってるんだ」


お守りを私に見せてくれる。


「そう。最初の彼女と一緒に買った物。ずっと捨てられなくてね。机の奥に閉まっておいたんだ。何だかんだで情けないよね僕」


下を向く戸川くん。


「でもね。僕は今、鈴音さんの事が大好きだし、しっかりとお付き合いして行きたいと思っているんだ。さっき、ここは縁結びの神社って言ったでしょ?それ以外にもう1つご利益をいただけるんだ。ここは縁切り神社でもあるんだ」


そう言って私の方を向く。


「今日、鈴音さんと一緒にここに来たかった理由は、僕は昔の縁をしっかり切って、鈴音さんと新しい縁を作りたかったんだ」


「楽しみにしていてくれたデートなのにこんな話をして申し訳と思う。でも……鈴音さんには全部きちんと話しておきたくて」


「こんな僕だけど……改めて聞くよ鈴音さん。こんな僕と本当にお付き合いしてくれるかな?」


そう言って私の目をじっと見る。


 私はゆっくりと口を開く。
当然これから言う言葉はずっと前から決まってる。


「うん。はじめて告白した時に言った通り……私は戸川くんが好き。例え私の知らない戸川くんが居ても好き。ううん、好きになれる自信がある」


そう言って戸川くんの目をじっと見る。


「だから戸川くん。改めて言うね。これからも私と付き合ってください。そして私の彼氏で居続けてください……あ、ううん、ここは少し変えるね」


軽く微笑んだ後、私は優しい口調で、でもはっきりとした口調で言った。


になってください」


戸川くんは嬉しそうに微笑み


「こちらこそよろしくお願いいたします。大好きだよ鈴音さん」


そう言って私の手をギュッと握った。


そして、戸川くんはスッと立ち上がる。


「あっちが縁切りの神様がいる所。そこにこのお守りを返してくるね。それを見ていてくれる?鈴音さん」


「うん」


ありがとう、と言ってニコッと笑う戸川くん。


 そんな戸川くんの手を強く握り、私は一緒に縁切りの神様の所まで歩いて行く。


「ごめんね。縁結び神社なのに縁起の悪い事に付き合わせて」


申し訳無さそうに戸川くんが謝る。


「ううん、そんな事無いよ。ここに来たおかげで戸川くんの昔の事を知る事が出来たし、戸川くんとの縁がもっと深まったと思う。神様に感謝だね」


そう言って戸川くんに微笑みかける。


「私は戸川くんとの縁を、自分から切る様な真似は絶対にしないからね」


戸川くんに聞こえない様に、私はポソっとつぶやいた。


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