病み墜ちした騎士を救う方法

無月陸兎

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04.

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 案内された大広間には、既に陽真と朔夜が揃っていた。二人の傍らには、それぞれの騎士──アルヴェールとダリオが控えている。
 扉が開かれた瞬間、賑やかだった声がぴたりと止まった。陽真が振り返り、俺と目が合う。

「お、蓮も来たか! 体調悪かったんだって? もう平気なのか?」

 赤茶の髪を揺らし、太陽みたいな笑顔を浮かべながら、勢いよく駆け寄ってくる。

「……うん。体調が悪いっていうよりは……色々と受け止めきれなくて、頭がパンクしそうで」
「あー、分かる。俺も分からなすぎてアルに聞きまくったもん。って言っても、結局まだ全然理解できてないけど!」
「えっと……所で君は、誰?」

 ゲームで知ってはいけるけど、黒月蓮としての体裁で首を傾げてみせる。

「あっ、ごめん! 蓮のことはさっきアルから聞いたんだけど、ちゃんと自己紹介してなかったな。俺は桐谷陽真。蓮と同じ神子だってさ。で、あっちにいるのが真壁朔夜!」

 指で示された先で、朔夜は座ったまま軽く頭を下げた。紫がかった黒髪がわずかに揺れ、冷めた瞳と視線がぶつかる。陽真とは対照的に、落ち着いた雰囲気だ。

「あ、騎士の名前は覚えてるよな?」
「……うん」
「俺のバディがアル──アルヴェールで、朔夜のバディがダリオ。で、蓮のバディがヴィルヘルトだよな? どう? もう仲良くなれた?」

 ずいっと前のめりに距離を詰めてくる陽真に、思わず身を引く。背中が何か硬いものにぶつかり、振り向くとヴィルヘルトだった。どうやら俺と陽真が話している間、入口で控えていたらしい。小さく謝ると、ヴィルヘルトは微笑を浮かべて首を振った。

「ハルマ、落ち着いて。神子様が驚いてしまわれているよ」

 アルヴェールが陽真の肩に手を置き、穏やかに笑う。陽真は慌てて「悪い」と素直に謝った。

「学校は違うけど、やっぱ同じ日本人として蓮が気になっちゃってさ。仲良くなれたらと思って……ちょっと馴れ馴れしかったよな?」
「ううん、大丈夫。僕も神子同士、協力出来ないかなって思っていたから。仲良くしてくれると嬉しいよ。僕は黒月蓮、よろしくね陽真」

 そう言って右手を差し出せば、陽真は満面の笑みでがっしり握ってきた。両手でぶんぶんと振られるたび、体が揺すられる。
 そういえば黒月蓮は陰キャタイプで、ほとんど外に出ない設定なんだっけ。この体、少しひ弱かもしれない。

「……ハルマ。神子様が辛そうだよ」
「あっ、悪い!」

 アルヴェールが止めてくれたおかげで、肩が外れずに済みそうだ。

「そ、それと……朔夜もよろしく。アルヴェールさんとダリオさんも」
「ん」

 朔夜は短く頷いた。アルヴェールは胸に手を当てて一礼し、ダリオは気だるげに笑いながら軽く手を振る。
 彼らも甲冑ではなく騎士服姿だ。ただ、ヴィルヘルトとは違い、アルヴェールのペリースの裏地は鮮やかな赤。ダリオは同じ深い青色だけど、やけに騎士服を気崩している。胸元のボタンが外れ、日焼けした肌が覗いていた。

「神子様。こちらへお座りください」

 ヴィルヘルトが静かに椅子を引いてくれる。お礼を言い、促されるまま腰を下ろした。

 その時、重厚な扉がもう一度開かれる。
 入ってきたのは、丸みを帯びた体格の神官だった。金の刺繍が施された赤紫のストラを肩にかけ、半球型の帽子を被っている。
 名前は覚えていないが、試練を担当する役職付きの神官だ。

「お揃いになられましたね。三人の神子様方」

 神子の椅子の後ろに、それぞれの騎士たちが立ち並ぶ。
 神官は両手を胸の前で組み、恭しく一礼した。

「ようこそおいでくださいました。この度は、神より選ばれし方々にお目通り叶い、誠に畏れ多く存じます。我が名はバロン。今後、神子様方の教育と進行をお手伝いさせていただきます」

 口調は穏やかだが、その声音には一切の情感がなかった。挨拶を終えると、バロンは静かに耳を傾ける神子たちを見回し、淡々とした調子で言葉を続ける。

「これより一月後、“第一の試練”が執り行われます。皆さまにはそれまでに《光の加護》──神より授かる力を安定して扱えるようになっていただかねばなりません。その力こそが、魔を祓い、騎士へ加護を授ける礎となるもの。いかに正確に、効率よく祈りを紡ぐかが重要となります」

 陽真が不思議そうに「光の……加護?」と呟くと、バロンはわずかに頷いた。

「はい。神子とは、神々の御力をこの世に顕現させるための“媒体”にして“器”です。騎士の務めは、皆様方がその資質を十分に発揮できるよう導くこと。神子様方が紡ぐ祈りは、彼らの剣に光を宿し、盾を堅牢にするでしょう」

 バロンはそこで一度、目を伏せ、静かに息を吸った。警告するように、重々しく言葉を続ける。

「──しかし、忘れてはなりません。神子の力は純粋にして強大。ゆえに制御を誤れば、闇の因子をも呼び寄せます。心を曇らせれば、加護は反転し、己を蝕むこととなる。信仰を絶やさず、己を律すること。それこそが、真の神子といえるでしょう」

 原作で黒月蓮が辿った運命を思い出し、背筋に冷たいものが走る。
 思わず隣のヴィルヘルトを見ると、彼がこちらを振り向く。その瞳の奥には、不安がる俺を気遣うような光があった。

「第一ということは、何個か試練があるのか?」

 朔夜が静かに問いかけると、バロンは頷く。

「第三までございます。本来は一年をかけて神子の力と心を整えるのですが……現在、魔物の発生が異常に増加しており、魔王の顕現が懸念されております。故に三人同時召喚という異例の措置が取られました。神子様方には、速やかに原因を探り、世界の均衡をお戻しいただきますよう」

 それは有無を言わせぬ口調だった。
 バロンにとって神子という存在は、ただ敬う対象ではなく、神の道具に近いのかもしれない。

「では本日はここまでと致します。明日より早朝の祈祷から始めますので、今宵はゆっくりお休みください」

 バロンが一礼して退出すると、室内に静寂が落ちる。
 最初に口を開いたのは、意外にも朔夜だった。

「……何なんだ、あの偉そうなジジィは。神子とか試練だとか、勝手に決めつけて。確かに力の制御は学ぶべきだと思うが、腹が立つ」

 苛立ちを隠そうともせず、朔夜は乱暴な足取りで扉に向かう。ダリオも苦笑しながら後を追いかける。

「どこに行く?」
「決まってるだろ、寝るんだよ」
「あー、俺の神子様はふて寝する訳ね」
「うるさい。……あ、夕食には必ず起こせ」
「はいはい」

 二人が出ていくと、部屋は再び静まり返った。次いで陽真が立ち上がり、アルヴェールの方を見る。

「なんか、難しくてよく分かんなかったけど……取り敢えず試練に向けて、アルと一緒に頑張れってことだよな?」
「そうだね。でも本当に突然のことだから、不安もあると思う。だからハルマの心に寄り添うのが、今の僕の使命だと思っているよ」
「なぁ、部屋で相談してもいい?」
「勿論」
「……ありがとな、アル」

 微笑むアルヴェールに、陽真はホッとしたような顔をする。すぐに笑顔に切り替えると、俺に向かって手を振った。

「じゃあな蓮! また夕飯で話そ!」
「うん。また後でね、二人共」

 残された俺とヴィルヘルトは一度顔を見合せ、部屋に戻ることにした。


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