僕を嫌っていた幼馴染みが記憶喪失になったら溺愛してきた

無月陸兎

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 クラスの中で魔力が少ない者同士、友人のベンと一緒に今日の魔法実技の模擬戦で、格上の相手にいかにして勝つかの戦略を語り合っていた時だった。

 ぶわりと、魔力の風を感じると同時に、甲高い悲鳴が上がった。

 騒ぎの中心へと視線を向けると、人だかりが出来ており、少し離れた場所でクラスメートのラグウェルが顔色を青くして震えていた。自分の出番が来るまでベンと話し合っていたため、僕はラグウェルの対戦相手を知らない。試合も見ていなかったから、どんな事故が起きてたのかも分からない。
 魔法実技担当のヘレウス先生が「救護の先生を呼びに行くからお前らはその場を動くな」と指示を残して、瞬間移動を使い姿を消した。

 一体、誰が倒れたんだろう?
 気になりはするけれどヘレウス先生の言い付けを破ってまで、あの人だかりの中に入り、様子を見に行く野次馬根性はない。ベンも同じようで「大丈夫かな」とそわそわしながらもその場で様子を窺っていた。
 だけど──。

「あぁっ、そんなまさか。ごめんなさい、ユリウス様っ……」

 ラグウェルが泣きながら吐き出した言葉に僕は反応した。
 ユリウス様……って、ユーリ?

 気付けば周囲の人を押し退けて、彼の元へと駆け出していた。
 いつもは一つに結んでいる癖のないサラサラとした銀色の髪がほどけて、地面に広がっている。目蓋は閉じられて、ぴくりとも動かない。
 仰向けで倒れていた見知った人物を確認して、血の気が引いた。

「ユーリ!」

 側にしゃがみ、地面に投げ出されたユーリの手を握る。
 呼吸はしているし、マナの流れも荒れてはいない。倒れた時にローブや髪が土で汚れただけで、目立った外傷も見当たらない。
 良かった、ただ気絶してるだけみたいだ。
 そもそも、実技の時に必ず身に付ける黒いローブは、事故が起きないようにダメージ軽減の付与がされている。だから大怪我をすることはないけれど、気が動転して慌ててしまった。

 でも、いったいどうして?
 ユーリならラグウェルに負ける筈ないのに。


 僕たち平民が通うシュベルグス魔法学園の中で、ユーリはずば抜けて強い。平民は魔力の低い者が多く基本的には一つの属性しか使えないが、魔力の高い彼は火・水・地・風の四属性を自由に操る。その実力は、国家魔術師に匹敵する程だと噂されている。貴族のみが通う王都の魔法学院にも、特別枠で勧誘されているとか。
 魔法だけではなく、S級冒険者のお父さんたちから剣術の腕を鍛えられて、六歳の時点でA級冒険者に苦戦もせずあっさりと倒したほど接近戦にも強い。ラグウェルもクラスの上位には入るが、ユーリと比べるとその差は歴然としている。なのに、なぜ彼が負けたのかが不思議だ。

 困惑しながらも、それでもユーリの無事な様子にほっと安堵したら、周囲の突き刺さるような視線が気になった。

 整った顔立ちと体格の良い姿に、魔法と剣の才能溢れるユーリがモテない筈もなく。彼に惚れ込んでいる取り巻きたちは、魔力も顔も平凡な僕が彼の側にいることを嫌う。
 本来は様づけしなければならない偉大なるユリウス様を「ユーリ」と気安くあだ名で呼び、倒れて意識のない所を狙って手を握り仲良しアピールをする、元仲良しの地味な幼馴染み。今の僕は、彼らにはそう見えているのかもしれない。

 僕とユーリは物心ついた頃からの幼馴染みで、小さい長閑な村で育った。
 結婚の約束もするほどの仲だったけれど、この学園に入って暫くして、ちょっとしたことから仲違いをした。僕はユーリに嫌われてしまったらしい。それ以降、ユーリからは避けられ、僕からも気まずくて話しかけられず、彼を避けるようにして疎遠になっていった。時々ユーリが僕にダメ出しをしに、突っかかってくることがあるから全く話さないという訳ではないけれど。
 嫌ってる癖に、幼馴染みだから世話を焼きたくなるのかな。気を遣ってくれるのは嬉しいけれど、無理して僕に関わらなくても良いのに。

 今朝も正面玄関口でちょっとした言い合いをしていたから、何人かの生徒は目撃していると思う。ユーリに「もう僕に関わらないで」とハッキリ告げたのを聞いていたかもしれない。

 あんなことを言っていたのに、本当はただユリウス様に構われたいだけだった?

 彼らの刺々しい視線と囁かれ始めた僕の悪口に居心地が悪くなる。
 無事なことも確認出来たし、ユーリの側を離れようとした瞬間、ぴくりと彼の手が動き、ゆるりと目蓋が開かれた。

 森の泉を思い出すような透き通る青色と、深みのある美しい緑の綺麗な瞳。角度によって見える色味が違い、小さい頃は目が合う度に見とれていた。僕は髪も目も地味な茶色で、つまらないから余計に。
 何年ぶりかにその瞳を間近で見られて、思わずうっとりと眺めてしまう。

「いーちゃん……?」
「っ!」

 寝起きで記憶がぼんやりしているのか、仲が良かった頃の呼ばれ方をされて驚いた。同時に、胸がぎゅっと苦しくなる。

 僕はユーリのことが好きだった。
 あの日「Nキャラの癖に」なんて吐き捨てられて、無視されるようになってもすぐには諦めきれない程に。言葉の意味は分からなかったけれど、彼の取り巻きに何度も言われ続けていた『分相応』という言葉と、多分同じような意味なんだろう。
 何もない僕は、ユーリには相応しくない人物だと、当人にハッキリ告げられたことで、嫌われたことを痛感した僕は、好きと言う気持ちを心の底へ押し込め、彼を諦めようと決意した。

 ユーリに嫌われてから五年が経ち、漸く彼の言葉や態度に心が痛まなくなり、諦められると思っていたのに……。
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