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──そうハッキリと笑顔で言っちゃったばかりなのに……!
どうしてユーリは今の方の記憶を失っちゃったんだろう。どうせなら逆が良かった。嫌いな僕のことなんか忘れて、残りの一年をルベルたちと楽しく過ごして卒業してくれたら、僕も心穏やかに過ごせたのに。
うぅっ、医務室から戻ってきたら、記憶も元通りになっていないかな……。
現実逃避しようにも、さっきからチクチク刺さる視線が痛い。
朝の出来事を思い出している内にやって来たのか、ユーリの取り巻きたちが少し離れた場所から僕を不満げに睨んでいた。
今日の魔法実技は午後の授業だったから、ヘレウス先生の話が終わってすぐに駆け付けたのだろう。
僕はこっそりと溜め息を吐いた。
うーん……二人の話はまだ終わらないのかなぁ。このままじゃルベルも来ちゃうよ。その前にユーリと合流して、寮にある自分の部屋へ帰りたい。いや、どうせルベルとはいつ会っても文句を言われるのだけれど。
「お前、ユリウス様に何をしたんだよ」
ああっ、もう来ちゃった……。
取り巻きが左右に捌け、ルベルが前に出てくる。不機嫌そうに薄桃色の髪を手で払いのけ、僕を睨み付けた。
「おい、そこの魔力も顔も冴えないお前。お前だよ、お前! ユリウス様に何をしたんだ。答えろ!」
返事がすぐに返ってこなくて腹を立てたルベルは、カツカツとヒールを鳴らして僕の左横に立つと、人差し指で差してきた。
何をしたって、どういう意味だろう。
ルベルもあの場にいたんだから、ユーリが記憶を失くした経緯は知っている筈なのに。まるで僕がユーリの記憶を意図的に奪ったみたいな言い方をされて、目をパチクリさせた。
「えっと……何をって言われても、意味が分からないんだけれど……」
「とぼけるな! 倒れたユリウス様に真っ先に近寄り、最初に目を合わせたのはお前だ。その時に何をしたのか聞いているんだ!」
「なっ、何もしてないよ」
「嘘を言うな! ならば何故ユリウス様は記憶を失っている? お前なんかに抱き着いて、自分の側にいるように仰った?!」
本気で僕が何かしたと思っているのか、すごい剣幕でまくし立ててくる。
僕は慌てて首を左右に振り、記憶喪失は事故の所為だと弁明した。
「僕は本当に何もしていないよ! 詳しいことは分からないけれど、マチュア先生が言ってたでしょ。記憶喪失になったのは魔力の余波を受けた所為かもしれないって。僕といるのは……多分、今ある記憶の中で知っている人が、幼馴染みの僕しかいなかったんだと思う……」
「ふんっ、どんな手を使ったのかは知らないが、そうなるようにお前が何か仕組んだんだろう!」
「そんなまさか! 僕にそんな特別な力がないことは、ルベルも知っているじゃないか。魔力が平凡だって君もさっき言って……」
「信じられるもんか! 朝にあんなことを言っておきながら、結局はユリウス様を諦める気なんてなかったんだな。私たちを油断させて、自分が恋人になる機会を窺っていたんだろう? 卑怯者め! 早くユリウス様を元に戻せっ!!」
「そんなことしてないってば!」
否定する僕の胸元を掴み、ルベルは「早く元に戻せ」と怒鳴りつけてくる。後ろの取り巻きたちも便乗して、僕を卑怯者だと責め立てた。
意味はないだろうけれど、否定しなれば事実をねじ曲げられそうだ。ひたすら「違う」「やっていない」と繰り返すしかなかった。
当たり前のことだけれど、僕とルベルの言い合いは医務室の中まで聞こえてしまったようだ。扉が開き、マチュア先生が顔を出す。
「こらこら、医務室の前で何を騒いでいるんですか? 迷惑ですよ」
注意するために珍しくキリッとした先生の顔は、僕たちを見た途端、困ったように眉が下がった。
ルベルは僕の胸元を掴んだまま、先生に向かい憤然と叫ぶ。
「こいつの所為でユリウス様の記憶が失われたんです! どういう手を使ったのか今問い詰めているので、邪魔しないで下さい!」
「ええっ? いやぁ、うーん……それは彼の所為じゃありませんから。責めるのはやめなさい」
「いいえ! 絶対、こいつが何かしたんです! 僕には分かります!」
「止めないで下さい、先生!」
「そうだそうだ! ルベルの言う通りだ!」
「卑怯な手を使ったのはあいつだぞ!」
「こいつの所為で、ユリウス様が……!」
「えー……困ったなぁ……」
僕が悪いとキッパリ告げるルベルと、それに同調する取り巻きの言動に、気の弱いマチュア先生は空を仰ぐ。どう対応したらいいのか困っているみたいだ。
「少し、どいてくれ」
奥からユーリが出てくると、ルベルの意識が僕から逸れて、手が離された。乱れたローブの胸元を整えながら、バレないように横に数歩。そっとルベルから距離を取る。
「えっ、ユリウスくん。まだお話が……」
「すみません先生。もういいでしょう? そう言う訳なので、よろしくお願いします」
「あぁ、もうまったく。君も困った人ですねぇ」
マチュア先生はほとほと参ったような顔をしながらも横にズレて、ユーリが通れるようなスペースを開けた。
ユーリはそのまま僕の前まで来ると、目を細める。久しぶりに笑いかけてくれたことに、嬉しさよりも戸惑いを覚えた。
「いーちゃん、待たせてごめんな」
「ユー……ユリウス様、お話はもう終わった
んですか?」
「さっきから気になってたが、どうしたんだその変な言葉遣いは。様をつけたこともなかったろ。いつも通りユーリって呼んでくれ」
「あの、ですが……」
「いつも通りにしろって、ほら」
「え、はい、うん……」
ユーリに言葉遣いを訂正されて、ぎこちなく頷く。
でも、本当にいいのかなぁ。
マチュア先生へ視線を移すと「そうしてあげて下さい」と頷かれた。先生がそう言うなら……。とはいっても、意識しながら話すとなると、なかなか難しい。
「じゃあ、行くか」
「どこにですか……あっ、えっと、どこに?」
「まずは荷物を取りに教室へ。その後は寮に向かおう」
「あ……そっか。道が分からないです……だよね……。うん、僕で良ければ案内します……じゃなくてするよ。うわっ」
時々、混ざる言葉を視線で指摘され、直しながら話す。すると、どんと左肩に勢いよく何かがぶつかり、右へとたたらを踏む。
ユーリの正面から僕を退かすように割り込んできたのは、キレイな笑顔を作ったルベルだった。細い身体をしているのに、なかなかに力強い。
「案内なら私がしますよ、ユリウス様」
「は? イネスにぶつかっておきながら、謝りもしないお前の案内なんか不要だ」
「ごっ、ごめんなさい。ですが、記憶を失くす前の貴方と一番仲が良かったのは、自分です。なので、案内は私にさせてください」
ユーリに睨まれて、悲しそうに目を潤ませる姿は、ルベルの性格を知っていてもなお庇護欲を掻き立てられる。その演技力に、僕は思わず感心していた。
だけど、ユーリはそんなルベルを冷めた目で見下ろす。
「……何を言ってる? お前と仲良くした覚えはない」
「いっ、今は初対面でしたね! 申し遅れました、私の名は」
「いや、自己紹介は不要だ。お前とは今後も仲良くするつもりはない」
取り付く島もなく、無表情で挨拶すら拒否されて固まるルベル。
取り巻きたちは「記憶を失ってからのユリウス様はおかしい」「ルベルにあんな態度を取るなんて」などと囁き合っている。
あんなにハッキリと拒否の姿勢を示されては、可哀想に思えてくる。今は知らない相手とは言え、もう少し優しい言い方をしてあげて、と言うべきか。でもルベルたちからすると、煽りにしか聞こえないだろうから今は黙っておく。後でユーリにこっそり言っておこう。
ユーリはルベルから視線を反らし、無表情から一転、心配そうに僕の顔を覗き込んできた。
「肩と足は平気か? 痛むなら言ってくれ、すぐ治してやる」
「ありがとうござ……ありがとう。でも大丈夫で……平気だよ」
「そうは言っても心配だ。先に寮に行こう。診てやる」
「ううん、本当に大丈夫だから!」
「本当か?」
「うん、信じて!」
「分かった……そこまで言うなら、いーちゃんを信じる」
ぶんぶんと首を左右に振ると、渋々ながらも引き下がってくれてホッとする。
「じゃあ、改めて。行こうか」
ぐいっと肩を抱かれて、僕の頭は真っ白になった。ユーリとの距離が近い、おかしい、なんで? 記憶を失くしたから?
僕たちの仲が良かった頃も、手を繋ぐくらいで、こんなにくっついたことなかったのに。どうして急にこんな大胆になってるの?
「イネスくん、頑張ってね」
ざわざわとした声に混じり、後ろからマチュア先生にエールを送られたけれど、いったい何を頑張れっていうんですか……?
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