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僕達が食堂に着いた頃には、既に賑わっていた。厨房から聞こえる忙しそうな作業音や、コツコツと木の食器が擦れる音に生徒達の談笑の声。朝の鐘が鳴った後、この時間はいつも混んでいる。
出来れば真ん中じゃなくて、静かに食べられそうな奥側に座れると良いんだけれど。
朝食を受け取る列に並びながら座る場所を探していると、ちょうど奥の端っこ側が空いていたのでユーリと並び合うように席へ座った。
「この時間は人が多いな……」
「運動部とか一般生徒の他に先生方もいるからだね。それと……ユーリと快適に食事出来るようにルベル達が人の整理をしていたから、前半と後半辺りは結構混むんだよ」
「……そうなのか。迷惑なことに、アレは勝手に話を付けるのが好きなようだな」
ユーリの眉間に皺が寄っているのを見て、僕は思わず苦笑いする。
うーん。でも彼らが最初にそういうルールを作ったおかげで、ユーリもゆっくりと食事を出来ていると思うんだよなぁ。現に今、周囲からの様子を窺うような視線とひそひそ話でご飯が食べづらかったりする。
『ユリウス様だ。記憶を失ったって話、本当かな?』
『魔法実技の模擬戦中だったっけ』
『えっ、対戦相手はどんな卑怯な手を使った訳?』
『許せねぇよな』
『今ユリウス様の隣に座ってる奴は誰だ? 見たことないな』
『あー、幼馴染だよ。初等部の頃はよく一緒にいたの見たことあるわ』
『へぇ、初めて知った。なんか地味だな~。強いんかな』
『知らん。ってことは、そういうことじゃね?』
『なぁ、あの茶髪の名前は?』
『なんだっけ。君は知ってる?』
『なんかルベルの奴、騒いでなかったか?』
『そりゃまぁ、自分のこと忘れて他の人といるんだから怒るだろ』
『今なら、自分にもチャンスあるかなぁ』
『確かにいつもの取り巻き達によるガードがなさそうだね。えー、話しかけに行っちゃう?』
『前よりお近付きになれるかもだしね』
『おい抜け駆けすんなよ』
席を立って言い争う生徒達を目にして、スープを飲もうとしていた手が止まる。
もしかして話し掛けに来るんだろうか。その場合、僕は隣にいても大丈夫かな。チラリと横を見るとユーリが舌打ちしていた。……うん、やっぱりこの環境だと食べづらいよね。
「はぁ、鬱陶しい」
ユーリが苛立った声で呟くと、周囲の視線と声がふっと消えた。
これは結界魔法を使ったのかな?
魔力を練り維持するのが難しいので、平民は滅多に使えないし、貴族でも感性が高くないとダメって聞いたことがある。ユーリはすごいなぁ、いつの間に結界魔法を使えるようになったんだろう。
「これで他の奴等に邪魔されず、イネスと二人きりでゆっくり食事が出来るな」
「えっと、ありがとう。実は僕も周囲が気になって食べづらかったから助かるよ。あっ、そういえば記憶を失っていても魔法は問題なく使えるみたいだね」
「…………ああ。言われてみれば……普通に使っていたな」
「うーん、魔法が得意だと知識として記憶されてるのではなく、身に染みついた習慣の一つとして処理されるのかな?」
「さぁ?」
「でも良かった、これなら実技の授業も問題なく出られるよ。自然に出来るようになるほど、ユーリが頑張っていた証拠だね。僕が記憶喪失になっていたらよく使う魔法以外忘れてそうだし……」
ふっと笑われたので不思議に思いユーリの顔を見ると、彼は目を細めて微笑んでいた。頬に手を添えられ、胸がドキドキする。昨日、キスをされた時も頬を触られてたような……。でも今は片手だけだから、違うよね?
「えっと……なに?」
「パン屑がついてた」
「っ! あ、ありがとう……」
「いーちゃんは可愛いな」
うぅっ。パン屑が付いていたのに気付かず、 喋っていたなんて子どもっぽくて恥ずかしい……。他の人にも見られてたかな? いやで も後半はみんなユーリしか見てなかったから気付かれなかった筈。……多分。
「そっ、そういえば結界魔法って防御として使うのが主だけれど、こういう使い方もあるんだね。音関係は風属性だから、風魔法を土台として構築したの?」
「風も使っているが、複合属性で構築している。まずは俺たちの姿が別人に見えるよう認識を歪ませ、かつ気配を薄くさせ、不必要な周囲の音を遮断した」
「うん?」
思っていたより複雑に魔法が重ねられていた。残念ながら僕には複合属性による専門的な知識はない。さらっと教本に書いてあるのを授業で確認したぐらいだ。
認識を歪ませる魔法はどうして必要なんだろう。僕が疑問に思っていると、気付いてくれたようで説明してくれた。
「俺たちがこの席で食事をしているのは既に周囲には認識されているだろ? その状態で気配を薄くしても、無効化されたら無意味だしな」
「えっと、無効化の魔法を使えるのはこの学園だと先生方だけだと思うよ」
「その先生を利用する奴もいるかもしれないだろ? 念には念をいれたくてな。やり過ぎる位が丁度いいと母も言っていた」
「う、うーん……流石……」
僕はユーリのお母さんを思い浮かべる。
ふわふわのミルクティの髪に澄んだ青い瞳をした可愛らしい外見とは裏腹に、豪快な性格をした人だった。
一度、社会科見学としてユーリと僕を冒険者ギルドのクエストに連れていってくれたけど、凄かった。とにかく凄かった。
数百のオークの群れを一斉に空高く吹き飛ばし、空上で爆発させて瞬間的に消滅させたんだよね。余裕そうに「きったねぇ花火だ!」と高笑いしながら。
その後、彼は瞬間転移を使って、氷漬けにした数体のキングオーガの首を浮かばせながら戻ってきた。後でユーリに聞いたけれど、オークの集落はさっぱり消えたんだって。近くの町の人達は助かったと喜んでいたみたいだけれど、僕はちょっとだけトラウマになって、暫く血生臭い悪夢に魘された。
ユーリの外見は三人いる父の内、一番目のお父さんに似ているけれど、高い魔力はお母さんから受け継いだんだろうってさ。そういうのを『遺伝』って言うらしい。村にいた時、内緒だよってユーリから教えてもらったんだ。
お母さんは男の人だけれど、王都で保護されている女の人と同じようにお腹を大きくしてユーリを産んだらしい。
僕たち平民は男しかおらず、女の人なんて見る機会は教科書以外、一生ない。女の人の数が少ないから貴族も男同士で結婚するし。
子供は『こーのとり様』に夫夫でお願いして授けてもらうのが普通で、親と似ていないのが当たり前。僕もそうして産まれてきた。
僕の父はリンゴの葉っぱみたいな深緑色をした髪と目で顔立ちは濃くて、母はリンゴが熟す前の黄緑色をした髪に蜂蜜色の目をしている。父よりは濃い顔立ちをしている訳ではないけれど、くっきりとした太い眉が特徴的かも。
だから両親に似たユーリは奇跡の子だってアトル村で大人達が話していた。
改めて僕とユーリは不釣り合いで、幼馴染みじゃなければ彼とは仲良くなることもなく、遠い存在だったというのが分かる。
「あっ、お母さんのことも記憶あるんだね。それとも思い出せた?」
「…………あー。勝手に出てきたみたいだ」
「もう、少しでも記憶が戻ったことを喜ぼうよ。記憶喪失になったことはお父さんとお母さんには言わなくて良いの? それとも先生からもう連絡がいってるかなぁ」
「いや。連絡するかと聞かれたが、しなくて良いと伝えている。それに……」
「それに?」
ユーリは眉をしかめて、顔を歪ませていた。不愉快そうな、悔しそうな……なんだかあまり見たことがない表情をしている。
「母に笑われるから絶対嫌だ」
「……そっか」
「ああ」
オークを討伐していた時のように高笑いでもされるんだろうか。
笑う姿を思い浮かべたついでに花火の件も思い出してしまい、食欲が一気になくなった。特におかずの一つであるウインナーは食べたくない。
僕は慰めもこめて、そっとウインナーをユーリへと差し出したのだった。
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