僕を嫌っていた幼馴染みが記憶喪失になったら溺愛してきた

無月陸兎

文字の大きさ
11 / 28

11


 ユーリが記憶喪失になってから早くも一週間が経とうとしていた。
 うやむやになっていたルームメイトの件が正式に受理されて、一時的に同室になることが決まったため、朝から晩までずっと彼の側にいたけれど。残念ながら最近のことはまだ全然思い出せていないそうだ。


 改めて僕達の一日を振り返ってみると。
 朝はいつもユーリの腕の中で目が覚めるので、抜け出す所から始まる。抱き込む力が強い上に悪戯を仕掛けてくるので、なかなか起きられない。朝食の時間が近付くと漸く解放され、魔法で制服へと着替えさせてくれる。
 食堂までは雑談しながら向かい、席に着くと結界魔法をかけてもらい二人でゆっくり朝食を摂る。
 その後は午前の授業だ。教室での座学は隣の席で、実技では各々の出番が来るまで隣でユーリに必要だと思う説明をした。ユーリも僕が授業で理解できない箇所は先生の説明に補足してくれて、僕の実力に合わせアドバイスをしてくれるのでとても助かっている。
 昼食も朝食と同じように食堂に行くか、いつの間にか用意してくれていたお弁当を学園にある庭のベンチで食べる。
 午後の授業も午前と同じく。夕食まではユーリの部屋にお邪魔して、一緒にお茶をしながら課題を片付けて。
 夕食を終えたら翌日の準備をして、シャワーを借りて浴びる。僕は共有のシャワールームに行くつもりだったけれど「わざわざ移動しなくても、部屋にあるんだから使ってくれ」とユーリに言われたので、我ながら図太いと思いつつも厚意に甘えて使わせてもらってたり。
 就寝時間まではホットミルクを頂きながら雑談して、そして今夜こそはソファで寝ると主張する僕をユーリに横抱きでベッドまで運ばれる。がっちり抱き込まれてる内に、人肌の暖かさと気持ちよさに朝までぐっすりと眠ってしまうのだ。


 ユーリが慣れるまで面倒を見るために側にいるつもりなので、当然と言えば当然だけれど一日中彼と過ごしている。

 おかげで僕を見るユーリの取り巻きたちの顔が凄いことになっている。特にルベルが怖い。美人を怒らせると怖いということがよく分かる。
 ルベルはユーリにキッパリと拒絶されてから近寄ることはなくなったけれど、じっと離れた場所でユーリを観察していた。

 幸い、あるかもしれないと覚悟していた嫌がらせは今のところない。ユーリが常にべったりと僕の側にいるから、やりづらいんだと思う。
 ひそひそと囁かれる悪口は増えたけれど、気付いたユーリが遮音してくれているし、物の紛失や破損がないので助かっている。


 そういえば、遠慮しているのかクラスメートや取り巻き達から直接話しかけられることもなかったので、他の人とはろくに話してもいないことに気付いた。

 やっぱり同じ人とばかりいるよりも、色々な人と話して刺激を受けないと記憶が戻らないのかもしれない。
 よし、そろそろ学校の環境に慣れてきた頃だと思うので、少しずつ別行動をしてユーリが他の人と喋る機会を作ろう。ちょうど午後の授業が外での実習だから、忘れ物を口実に先に行ってもらおうかな。


 そう思ってわざと忘れ物をした僕は、外へと向かう廊下を移動していた足を止めた。隣を歩いていたユーリも歩む足を止め、後ろを振り返り僕を見つめる。

「ん、どうした?」
「ごめん、ユーリ。教室に忘れ物をしちゃったみたいだから先に第一訓練所へ行ってもらえるかな?」
「何故? 一緒に瞬間移動で教室まで戻って、訓練所へ向かえば良くないか。そうしよう。ほら俺の手を握ってくれ」
「えっ!」

 まさかユーリが瞬間移動を使えるとは思わなくて、思考が停止した。
 一緒に行こうって、二人で? えっ、二人で瞬間移動って可能なの?
 ユーリの差し出された手を見て、どう断ったら納得してくれるだろうかと内心焦る。

「いや、その……えっと……」
「ほら遠慮するな。授業に遅れたら困るだろ?」
「あの、うーん……でも忘れ物をしたのは僕の落ち度だから、ユーリに頼るのは悪いよ。ぱぱっと走って取ってくるから。じゃあ後でね!」

 結局うまい言葉が出てこなかったので、勢いで乗りきろうとしてユーリへと背を向けた。右足を出した瞬間、身体が浮遊する感覚を覚えて悲鳴が出た。

「ひゃっ、なに? えっ?」

 狼狽える僕のお腹にはユーリの両腕が回っている。とん、と足が地面に着いてから、抱っこされていたことを理解した。
 ユーリは深い溜め息を吐きながら、僕の身体を反転させて向き合う。

「イネスは俺にお仕置きされたいのか?」
「えっ?」
「はあ。別にいいよ、俺も手加減するのやめる。いーちゃんが悪いんだからな」
「あの……手加減って?」

 笑顔なのに目が笑ってない。
 なんだか嫌な予感がして、後退りしようとしたけれど、肩を捕まれていたので動けなかった。

「えっと、そろそろ行かないと授業に遅れちゃうから離して。忘れ物は本当に僕一人だけで行けるし、ユーリも施設の場所はもう覚えてきているでしょう? 僕に構わず先に行って待っててくれる方が、お互い気を遣わずに済むのかなって……」
「無理だ。訓練所までの道を覚えていないからな」
「えっ? なんで、だってユーリは別に方向音痴じゃないよね。小さい頃、僕達が遊んでいたらアトル村の迷い森に入って出られなくなったことがあったじゃない? その時はユーリが先導して迷わずに村へ帰れたのに」
「不思議だな。人が多いと歩きにくいのかもしれないな」
「うーん……。えっと、もしかして事故の影響で他人の魔力に敏感になってるのかな。魔力酔いを避けるためにそれで方向音痴に? マチュア先生は大丈夫って言っていたけれど、念のために医者にも診てもらおう!」

 マチュア先生に事情を話して、医者を呼んでもらうために医務室に向かわないと。
 慌ててユーリの腕を引っ張ると、クスッと笑われてしまい僕は戸惑った。

「えっ……なんで笑うの?」
「ごめん。実はいーちゃんのことばかり見ていて、道を覚えてないだけなんだ。体調には問題ないから医者は必要ないよ」
「大丈夫なら良かったけれど……。もう、なにそれ。心配したのに、冗談言わないでよ!」
「イネスに見入っていたのは冗談じゃないぞ。どうせ傍で案内してもらえると思い、甘えていた。許してくれるか?」

 えっ、ユーリが僕に甘えて……?
 初めて彼から頼られたことが嬉しくて、胸が高鳴る。このままでも良いかもしれないと少しだけ悪いことを考えてしまい、振り払うようにふるふると首を横に振った。
 いけない。ユーリには早く記憶を戻してもらわないといけないんだから。

「もう! 今度はちゃんと真面目に覚えてよ?」
「ああ、善処する。もう暫くは離れずに傍で色々と教えてくれ。さて、いーちゃんの忘れ物を取りに早く教室へ戻ろうか」
「う、うん……。お願いします」



 残念ながら、僕の目論見は失敗に終わってしまった。今度はちゃんと覚えてくれるみたいだから、数日後にまた挑戦してみようかなぁ。でも同じことをしても怪しまれるだけだから違う方法にした方が良いかも。
 よし、夜にでもじっくり考えてみよう。

感想 7

あなたにおすすめの小説

国民的アイドルの元ライバルが、俺の底辺配信をなぜか認知している

逢 舞夏
BL
「高校に行っても、お前には負けないからな!」 「……もう、俺を追いかけるな」  中三の卒業式。幼馴染であり、唯一無二のライバルだった蓮田深月(はすだ みつき)にそう突き放されたあの日から、俺の時間は止まったままだ。  あれから15年。深月は国民的アイドルグループのセンターとして芸能界の頂点に立ち、俺、梅本陸(うめもと りく)は、アパートでコンビニのサラミを齧る、しがない30歳の社畜になった。  誰にも祝われない30歳の誕生日。孤独と酒に酔った勢いで、俺は『おでん』という名の猫耳アバターを被り、VTuberとして配信を始めた。  どうせ誰も来ない。チラ裏の愚痴配信だ。  そう思っていた俺の画面を、見たことのない金額の赤スパ(投げ銭)が埋め尽くした。 『K:¥50,000 誕生日おめでとう。いい声だ、もっと話して』  『K』と名乗る謎の太客。  【執着強めの国民的アイドル】×【酒飲みツンデレおじさんV】

姉が結婚式から逃げ出したので、身代わりにヤクザの嫁になりました

拓海のり
BL
芳原暖斗(はると)は学校の文化祭の都合で姉の結婚式に遅れた。会場に行ってみると姉も両親もいなくて相手の男が身代わりになれと言う。とても断れる雰囲気ではなくて結婚式を挙げた暖斗だったがそのまま男の家に引き摺られて──。 昔書いたお話です。殆んど直していません。やくざ、カップル続々がダメな方はブラウザバックお願いします。やおいファンタジーなので細かい事はお許しください。よろしくお願いします。 タイトルを変えてみました。

一度も話したことないイケメンのクラスメイトと二人組になったらめちゃくちゃ執着されてた

BL
「はい、じゃあ二人組作って」──あまり人付き合いが得意ではない夏稀(なつき)にとってそれは地獄の言葉。 けれど高校ではちがう。なぜなら新しくできた友達と『二人組』協定を結んだから。 もう二人組なんて怖くないと思っていた矢先、その友達が風邪で欠席。 ほかに組む相手が見つからず、先生と組むことも覚悟する夏稀だったが、そこで声をかけてきたのは美形の転校生──緒川聖夜(おがわ・きよや)だった。 「俺と二人組にならない?」 その一言をきっかけに聖夜は夏稀との距離を急速に縮めてきて──。 執着美形攻め×平凡受けのちょっと不穏な学園BL。 約九万字、全三十話+αの物語です。

処刑エンドの悪役公爵、隠居したいのに溺愛されてます

ひなた翠
BL
目が覚めたら、やり込んだBLゲームの悪役公爵になっていた。 しかも手には鞭。目の前には涙を浮かべた美少年。 ——このままじゃ、王太子に処刑される。 前世は冴えない社畜サラリーマン。今世は冷徹な美貌を持つ高位貴族のアルファ。 中身と外見の落差に戸惑う暇もなく、エリオットは処刑回避のための「隠居計画」を立てる。 囚われのオメガ・レオンを王太子カイルに引き渡し、爵位も領地も全部手放して、ひっそり消える——はずだった。 ところが動くほど状況は悪化していく。 レオンを自由にしようとすれば「傍にいたい」と縋りつかれ、 カイルに会えば「お前の匂いは甘い」と迫られ、 隠居を申し出れば「逃げるな」と退路を塞がれる。 しかもなぜか、子供の頃から飲んでいた「ビタミン剤」を忘れるたび、身体がおかしくなる。 周囲のアルファたちの視線が絡みつき、カイルの目の色が変わり—— 自分でも知らなかった秘密が暴かれたとき、逃げ場はもう、どこにもなかった。 誰にも愛されなかった男が、異世界で「本当の自分」を知り、運命の番と出会う—— ギャップ萌え×じれったさ×匂いフェチ全開の、オメガバース転生BL。

離したくない、離して欲しくない

mahiro
BL
自宅と家の往復を繰り返していた所に飲み会の誘いが入った。 久しぶりに友達や学生の頃の先輩方とも会いたかったが、その日も仕事が夜中まで入っていたため断った。 そんなある日、社内で女性社員が芸能人が来ると話しているのを耳にした。 テレビなんて観ていないからどうせ名前を聞いたところで誰か分からないだろ、と思いあまり気にしなかった。 翌日の夜、外での仕事を終えて社内に戻って来るといつものように誰もいなかった。 そんな所に『すみません』と言う声が聞こえた。

元執着ヤンデレ夫だったので警戒しています。

くまだった
BL
 新入生の歓迎会で壇上に立つアーサー アグレンを見た時に、記憶がざっと戻った。  金髪金目のこの才色兼備の男はおれの元執着ヤンデレ夫だ。絶対この男とは関わらない!とおれは決めた。 貴族金髪金目 元執着ヤンデレ夫 先輩攻め→→→茶髪黒目童顔平凡受け ムーンさんで先行投稿してます。 感想頂けたら嬉しいです!

当て馬的ライバル役がメインヒーローに喰われる話

屑籠
BL
 サルヴァラ王国の公爵家に生まれたギルバート・ロードウィーグ。  彼は、物語のそう、悪役というか、小悪党のような性格をしている。  そんな彼と、彼を溺愛する、物語のヒーローみたいにキラキラ輝いている平民、アルベルト・グラーツのお話。  さらっと読めるようなそんな感じの短編です。

平凡な僕が優しい彼氏と別れる方法

あと
BL
「よし!別れよう!」 元遊び人の現爽やか風受けには激重執着男×ちょっとネガティブな鈍感天然アホの子 昔チャラかった癖に手を出してくれない攻めに憤った受けが、もしかしたら他に好きな人がいる!?と思い込み、別れようとする……?みたいな話です。 攻めの女性関係匂わせや攻めフェラがあり、苦手な人はブラウザバックで。    ……これはメンヘラなのではないか?という説もあります。 pixivでも投稿しています。 攻め:九條隼人 受け:田辺光希 友人:石川優希 ひよったら消します。 誤字脱字はサイレント修正します。 また、内容もサイレント修正する時もあります。 定期的にタグ整理します。ご了承ください。 批判・中傷コメントはお控えください。 見つけ次第削除いたします。