私、悪役令嬢でしたっけ?……あら、茶柱が立ちましたわ

にとこん。

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5話

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「お嬢様、本日は神殿主催の“光と誓いの儀”でございます」

「ええ、分かっておりますわ。……ですから、こちらの茶葉を選びましたの」

シャルロットは静かに、籠に詰められたハーブの束からラベンダーとミントを取り出した。その手元には、可愛らしい小さな茶器が入った包み。

「光の儀式ですから、心を静めて、香りが広がるものがよろしいかと。ね、グレイ」

「ニャ」

グレイは彼女の足元で一鳴きし、セバスティアンのため息を誘う。

「……神殿で茶を淹れるのは前例がないかと存じますが」

「前例がないのなら、それは今日から“あってもいい”ということですわ」

そう言ってにっこりと笑うシャルロットに、セバスティアンは無言でマントを差し出した。

神殿の儀式殿――

広大な白亜の円形空間に、銀の祭壇と七本の光柱。中心には神託の象徴たる“誓石”が鎮座している。

そこに、王太子アルベリヒと聖女リリィの姿があった。リリィは薄桃色の衣を纏い、周囲の貴族たちの視線を一身に集めている。

その空気の中、ふわりと香りが差し込んだ。

「ごきげんよう、皆様。……あら、とても素敵な空間ですわね」

シャルロットが、まるで庭園を訪れるかのような穏やかさで入ってきた。

ざわめく場内。

彼女の腕には、花柄の布で包まれた茶器とポット。セバスティアンが背後で冷静に補佐する。

「このような荘厳な場で僭越ではございますが、空気が張り詰めておりますので……少し香りを広げさせていただいても?」

誰も応えられないまま、彼女は堂々と中央の円卓へ進み、静かに湯を注いだ。立ちのぼるラベンダーとミントの香。

その香に包まれながら、リリィと視線が交差する。

「……はじめまして、聖女様。シャルロット=ド=レーヴェンローと申します。……素敵な瞳をしておられますのね。まるで朝の光のよう」

「……っ」

リリィは、思わず身じろぎした。

敵意、皮肉、侮蔑――そのどれもを予期していた。だが、そこにあったのはただの、柔らかな敬意だった。

「どうか、少しでも心が和らぎますように」

その言葉に、リリィは何も返せなかった。

「……おまえ、本気か」

アルベリヒが低く唸った。だがその声すら、茶の香りに溶けていく。

神官長ミカエルが、一歩だけ前に出た。彼の深い視線が、静かにシャルロットを見つめる。

「お嬢様……見えているのですか」

「え?」

「いいえ、独り言です」

ミカエルはそれきり黙った。だが、彼の中で何かが決定的に傾いたのを、自覚していた。

“神託では見えないもの”を、彼女は無意識に動かしている。  
この女は、神にも読めない“流れ”を歩いている。

その日以降――リリィの心に生まれた感情は、信仰でも嫉妬でもない。  
名もない、答えのない“違和感”だった。
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