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6話
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「では、お出かけのご準備を――」
「ええ、今日はきっと辿り着けますわ」
シャルロットは淡い青色のドレスに身を包み、花飾りのついた帽子を手に取りながら微笑んだ。何度目かの王宮からの呼び出し状。その“丁寧かつ執拗な催促”ぶりに、さすがの彼女も出発を決意したのだった。
「本日は、道案内としてグレイも随行させております」
「まあ、心強いですわね。……グレイ、よろしくお願いいたします」
「ニャ」
黒猫は誇らしげに前足を舐めてから、門を出て真っ直ぐに歩き始めた。
王宮までは馬車で約十五分。だがシャルロットは今日、“空気を感じたい”という理由で徒歩を選んだ。
そして三十分後――
「……あら、こちらでしたかしら」
気がつけば、シャルロットは緑の生い茂る高壁の前に立っていた。そこには控えめな金の飾りがついた鉄門がある。
「グレイがあちらに行きましたの。なら、きっと間違いありませんわね」
門を開けて入ると、花の香りがぶわりと広がった。
広大な温室――
それは王族専用の癒しの空間で、植物療法の研究場でもある。だが、そんな場所に令嬢が勝手に入るなど、本来ならありえない。
「まぁ……なんて素敵な香りでしょう。今朝のベルガモットに似ていますわね」
シャルロットは感嘆の声をもらしながら、温室の奥へと歩いていった。すると、その中心にひとりの青年がいた。
銀の髪を持ち、読書灯の下で黙々と書を読んでいる青年――
その人物こそ、王太子の弟、第二王子であった。
「あら、ごきげんよう」
「……誰だ」
顔を上げた青年が、わずかに目を細める。明らかに不審者扱いだ。だがシャルロットは気にせず、持参していた茶器を取り出した。
「ご安心なさいませ。わたくし、ただの公爵令嬢ですわ。紅茶をお淹れしてもよろしいかしら?」
「……は?」
「こちら、今日のおすすめですの。温室の香りに合うブレンドを選んできましたのよ」
彼が戸惑う間に、湯は湧き、香りが立つ。ほんの数分後、二つのカップが並んだ。
「どうぞ。……お名前は、お聞きしても?」
「…………王族だ」
「まぁ、それは光栄ですわ」
彼女の言葉に、彼はふと黙り、紅茶を一口含む。静かに目を閉じて香りを感じ、やがて小さく呟いた。
「……これは、癒しの味だな」
「そう言っていただけて、うれしゅうございますわ」
「貴女……何者ですか?」
その問いに、シャルロットは笑顔で応えた。
「わたくし? シャルロット=ド=レーヴェンローと申します。ただの、公爵令嬢ですわよ」
青年は再び沈黙し、そしてひとつだけ息を吐いた。
「兄が……苛立つはずだ」
その言葉の意味を、彼女はまだ知らない。
温室の外では、侍従たちが慌ただしく走り回っていた。
「どこだ!? なぜまた姿を消された!」
「本日こそは殿下直々のお取り調べがあると……!」
「レーヴェンロー邸には“徒歩で向かった”と報告が……!」
その混乱の中、ひとりの騎士が報告に来た。
「第二王子殿下のおられる温室に、先ほど見知らぬ女性が――」
その瞬間、執務室の空気が凍った。
王太子アルベリヒの拳が机に叩きつけられる。
「また、あの女か……!」
だがその頃、シャルロットは温室の椅子に腰かけ、次のブレンドを考えていた。
「ねえ、グレイ。次は、少し花の香りを加えてみましょうか」
猫は誇らしげに、しっぽを揺らしていた。
「ええ、今日はきっと辿り着けますわ」
シャルロットは淡い青色のドレスに身を包み、花飾りのついた帽子を手に取りながら微笑んだ。何度目かの王宮からの呼び出し状。その“丁寧かつ執拗な催促”ぶりに、さすがの彼女も出発を決意したのだった。
「本日は、道案内としてグレイも随行させております」
「まあ、心強いですわね。……グレイ、よろしくお願いいたします」
「ニャ」
黒猫は誇らしげに前足を舐めてから、門を出て真っ直ぐに歩き始めた。
王宮までは馬車で約十五分。だがシャルロットは今日、“空気を感じたい”という理由で徒歩を選んだ。
そして三十分後――
「……あら、こちらでしたかしら」
気がつけば、シャルロットは緑の生い茂る高壁の前に立っていた。そこには控えめな金の飾りがついた鉄門がある。
「グレイがあちらに行きましたの。なら、きっと間違いありませんわね」
門を開けて入ると、花の香りがぶわりと広がった。
広大な温室――
それは王族専用の癒しの空間で、植物療法の研究場でもある。だが、そんな場所に令嬢が勝手に入るなど、本来ならありえない。
「まぁ……なんて素敵な香りでしょう。今朝のベルガモットに似ていますわね」
シャルロットは感嘆の声をもらしながら、温室の奥へと歩いていった。すると、その中心にひとりの青年がいた。
銀の髪を持ち、読書灯の下で黙々と書を読んでいる青年――
その人物こそ、王太子の弟、第二王子であった。
「あら、ごきげんよう」
「……誰だ」
顔を上げた青年が、わずかに目を細める。明らかに不審者扱いだ。だがシャルロットは気にせず、持参していた茶器を取り出した。
「ご安心なさいませ。わたくし、ただの公爵令嬢ですわ。紅茶をお淹れしてもよろしいかしら?」
「……は?」
「こちら、今日のおすすめですの。温室の香りに合うブレンドを選んできましたのよ」
彼が戸惑う間に、湯は湧き、香りが立つ。ほんの数分後、二つのカップが並んだ。
「どうぞ。……お名前は、お聞きしても?」
「…………王族だ」
「まぁ、それは光栄ですわ」
彼女の言葉に、彼はふと黙り、紅茶を一口含む。静かに目を閉じて香りを感じ、やがて小さく呟いた。
「……これは、癒しの味だな」
「そう言っていただけて、うれしゅうございますわ」
「貴女……何者ですか?」
その問いに、シャルロットは笑顔で応えた。
「わたくし? シャルロット=ド=レーヴェンローと申します。ただの、公爵令嬢ですわよ」
青年は再び沈黙し、そしてひとつだけ息を吐いた。
「兄が……苛立つはずだ」
その言葉の意味を、彼女はまだ知らない。
温室の外では、侍従たちが慌ただしく走り回っていた。
「どこだ!? なぜまた姿を消された!」
「本日こそは殿下直々のお取り調べがあると……!」
「レーヴェンロー邸には“徒歩で向かった”と報告が……!」
その混乱の中、ひとりの騎士が報告に来た。
「第二王子殿下のおられる温室に、先ほど見知らぬ女性が――」
その瞬間、執務室の空気が凍った。
王太子アルベリヒの拳が机に叩きつけられる。
「また、あの女か……!」
だがその頃、シャルロットは温室の椅子に腰かけ、次のブレンドを考えていた。
「ねえ、グレイ。次は、少し花の香りを加えてみましょうか」
猫は誇らしげに、しっぽを揺らしていた。
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