私、悪役令嬢でしたっけ?……あら、茶柱が立ちましたわ

にとこん。

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28話

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「――わたくし、レオナルド=フォン=ブレッセン。第三侯爵家嫡男として、この場を借りて正式に、レーヴェンロー令嬢シャルロット殿に婚儀を求め申し上げます」

その言葉が響いた瞬間、集まっていた貴族たちがざわめいた。

庭園の茶会席。  
シャルロットが静かに香を焚きながら茶を淹れていたその空間に、予想外の“求婚者”が現れたのだった。

レオナルドはまだ二十代半ばの青年貴族。  
鋭さと誠実さを兼ね備えた物腰で、各地に流れつつある“ふわふわ様信仰”を“癒しの文化”として庇護する声明を出していた人物だ。

「彼女は、この国にとって必要な“癒し”の象徴です。民は、断罪や恐怖ではなく、香りと安らぎによって秩序を求めています」

その堂々たる言葉に、思わず息を呑んだ者もいた。

だが、そこに鋭く割って入る声がひとつ。

「彼女は“悪女”だ! 神託を歪め、民を惑わす!」

叫んだのは、王太子アルベリヒ。  
急報を受けて慌てて駆けつけた彼は、憤怒をそのまま言葉に乗せていた。

「“癒し”? “民の象徴”? そんなものは幻だ! 彼女は――この国の秩序を乱す魔女だ!」

会場がざわつく中、レオナルドは静かに一歩前へ出る。

「……では王太子殿下。お尋ねします。彼女が“悪女”であるという、確たる証拠は?」

「証拠……?」

「“神託”ですか? それとも“風聞”? まさか噂を根拠に断罪なさるおつもりでは」

その一言に、アルベリヒの顔がわずかに引きつる。

「そ、それは……!」

「殿下は、彼女を守ると仰いました。ならば、“守る”とは何か。民に恐怖を植えつけることですか? それとも、言葉を封じることですか?」

その論調は冷静で、鋭かった。

傍らで成り行きを見守っていたロジーナは、口元を押さえて小さくうなった。

(すごい……この人、真正面から王太子を……)

そして、議論が頂点に達したその瞬間。

「おふたりとも、喉が渇いておられませんか?」

どこまでも穏やかな声が、ふっと風のように割って入った。

「本日はミントとカモミールのブレンドをご用意いたしましたの。冷静なお話には、清涼な香りがよろしゅうございますわよ」

シャルロットは何事もなかったように、ふたりにカップを差し出していた。

アルベリヒは一瞬言葉を失い、レオナルドは苦笑しながらそのカップを受け取る。

「……ありがとうございます。たしかに、これは香りで鎮められますね」

「香りでごまかしているだけだ!」

そう言って顔を背けたアルベリヒだったが、香りに一瞬だけ視線が落ちたのを、誰も見逃してはいなかった。

貴族たちは視線を交わし、ざわめきのなかに“何かが変わった”ことを確かに感じていた。

“守る”という言葉が、形だけのものに成り下がった瞬間だった。

その傍らで、グレイはシャルロットの足元にすり寄り、ひとつあくびをした。

香りは、誰のものでもない。

ただ静かに、人の心を溶かしていくのだった。
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