悪役令嬢まさかの『家出』

にとこん。

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10話

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「そこのお嬢さん、危ない!」

帝都の橋の上、馬車が暴走した。  
御者の手綱が切れ、荷馬が怯え、通行人たちが次々と避ける中――  
ルゥナ=フェリシェは、咄嗟に道端にいた少年を引き寄せて庇った。

「まあ、馬も驚いておられたのですね。……お怪我はありませんか?」

「は、はい……!?」

助けられたのは、帝都の青年団に所属する見習い兵士。  
彼は真っ赤になって立ち上がり、ルゥナを直視できずに震えていた。

その日の午後――

「お嬢様! お願いです、どうか僕とご結婚を!!」

「……まあ?」

その告白を皮切りに、目撃者だった商店の若旦那、さらに通りすがりだった文官までもが次々とプロポーズを申し込んできた。

「命を救ってくださった恩人です! 一生かけてお仕えいたします!」

「その笑顔に、心を撃ち抜かれました! どうか、わたしの家へ!」

「我が家の母も“あの方を逃がすな”と……!」

「……まあまあ。皆さま、ご丁寧にありがとうございますわ」

ルゥナは困ったように微笑んで、扇で口元を隠した。

「でも、お礼でしたら……お辞儀ひとつで充分ですのよ?」

そう言われた三人は、完璧に顔を真っ赤にして、同時に深々とお辞儀をした。  
だがその背中は、誓いを新たにした騎士のように決意に満ちていた。

「……だが、諦めないぞ」

「“お辞儀だけで充分”は、つまり……今はまだ、という意味……!」

「次は、お茶のお誘いに昇格を狙おう!」



その日の夜、帝都某所の酒場では、若き男たちが静かに集まり、共通の話題で盛り上がっていた。

“彼女にプロポーズした男たちの会”――後に「ルゥナ追従同盟」と呼ばれる団体の発足である。

「彼女の好みを調査中だ」

「まずは花。次に小動物。そして“落ち葉の香り”にも反応していたらしい」

「彼女の歩いた道にだけ、草花が咲く現象が……!」



一方、本人はというと。

「今日はたくさんの方に声をかけていただきましたわね。……皆さま、お元気そうで何よりですの」

本気で善意だけで受け取っており、全員の求婚に気づいていない。

「さて、そろそろ夕焼けが綺麗な方へ歩いてみましょうか」

こうして、令嬢のひとことが誰かの人生を狂わせ、恋の火種を撒き散らしていく。

無自覚に愛される令嬢と、暴走寸前の求婚者たち。  
逆ハーレムという名の戦火が、ゆっくりと燃え始めていた。
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