209 / 212
207話、ハリーポルターごっこ
「あっ。ねえ、ハル。あれが集会場じゃない?」
仄暗い闇夜に慣れてきた、視界の中。薄い夜の帳を着た、一際大きな建物が映り込み。屋根が灰色に見えるテントの下に、人工的な逆光を浴びた動く人影が、複数人伺えた。
「建物的に、たぶんそうっぽいね。おっ! テントの中に、会長さんが居るや」
「あら、本当だわ」
ハルの言葉を頼りに、テントの中を着目してみれば。鮮やかな花柄の刺繍を散りばめた、浴衣と思われる服を見事に着こなした会長さんが、うちわを優雅に仰ぎながら立っていた。
あの人。和の雰囲気が似合う面立ちも相まって、一挙一動が絵になるわね。あれは確か、大和撫子っていうんだっけ?
「それじゃあ、メリーさん。打ち合わせ通り、演じていきましょうぜ」
「そうね。ちょっと恥ずかしいけど、会長さんを驚かせてやりましょ」
どこかの幹部さながらな悪どい笑みを浮かべたハルの、握った拳に私の拳を合わせつつ、周りの人達に軽く会釈をつつ、テントへと向かっていく。
ハルとの打ち合わせは、約数分程度。花火大会が控えているので、悪役ではなく、主人公側のキャラを演じようと事前に決めている。
正直、ハキハキとした張りのある声を出すのは、あまり得意じゃないのよね。こういうのは、出だしが重要だし、今の内に喉を温めておかないと。
そう決めた私は、普段はしない咳払いを複数回行い、意識して喉の調子を上げていく。テントまでとの距離、数十mまで迫ると、会長さんが私達の存在に気付いたようで。
流してきた横目が合った後、横顔がほくそ笑み。体もしゃなりと向けてきて、礼儀正しく静かにお辞儀をしてきた。
……あそこまで丁寧に招き入れてもらった直後に、ハリーポルターごっこをかますのは、ちょっと気が引けるわね。いや、怖気付いてはダメよ。
完璧に演じて、会長さんの不意を突いて必ず驚かせてやるんだから。柄に無く緊張してきたのか、鼓動が徐々に速くなっていくのを感じる最中。会長さんの前に着き、頭を軽く下げた。
「こんばんは、春茜さん、メリーさん。約束の時間通りに来てくれましたね」
会長さんの声色は、普段と変わり無し。さあ、やってやろうじゃないの。一世一代の演技をね!
「こんばんは、マクナガルゴ先生!」
「んっ……!?」
私が渾身のハーマイメリーを演じるや否や。会長さんの目が大きく見開き、ピクリとも動かなくなった。
この、声を出さずに硬直した様よ。想定していなかった出来事に動揺し、思考が停止したって所ね。
死をちらつかせる恐怖や、これから狩られるという畏怖を与えない驚かせ方って、なんだか物足りなさを感じるわ。
「これはこれは、マクナガルゴ先生。こんな所で会うなんて奇遇ですな」
「んぶっ……!」
そして、ハルが演じるは『ダンブールドア校長』。相変わらず、特徴を捉えるのが上手いせいで、破壊力が凄まじいわ。
あの会長さんが、唇を歪めて笑いを必死に堪えている。しかし、これで終わりじゃない。更にトドメの───。
「マクナガルゴ先生。夜中に一人でうろくつのは、物騒ですぞ」
「スネイブッ……!」
『ダンブールドア校長』、『スネイブ先生』という怒涛の二役攻めに、流石の会長さんも撃沈したらしく。
噴き出した口を手で覆い隠し、まだ堪えようと肩が小刻みに震えている。
それにしても、本当に演じるのが上手いわね。ハル。表情もスネイブ先生に寄せているし、このまま続けられたら、私もニヤけてしまいそうだわ。
笑いを堪え始めてから数秒後。ようやく落ち着いてきたようで。口を覆い隠していた手を離し、何度も深呼吸した会長さんが、マクナガルゴ先生の顔を真似てみせた。
「ハーマイメリー、ダンブルハル校長、ハルイブ先生。おふざけが過ぎていますよ」
「ごめんなさい、マクナガルゴ先生!」
「ほっほっほっ。少々浮かれてしまいましたな、スネイブ先生」
「我輩は、特に何かしたつもりはありませんが」
「ふふっ……」
やはり、ハルの二役攻めは強いわね。思わず笑いを零した会長さんが、顔を右へ逸らしたわ。
「それで、話は変わりますが。ハーマイメリー。貴方は、どこまで視聴したのですか?」
「『アズバンカの囚人』まで観ました!」
「まあ、もうそこまで。ならば、ハーマイメリー。クッキーを用意しますから、後日、私の部屋へ来なさい。いいですね?」
これは、純粋な茶会の誘いと見ていいのよね? キャラを演じていると、真に受けていいのか分からなくなってくるわ。
「はい、ありがとうございます!」
「よろしい。もちろん、ダンブルハル校長とハルイブ先生もです」
「では、折角なので行かせてもらいましょうかな」
「マクナガルゴ先生のお誘いともならば」
どうしよう。たぶん、そろそろ流れ的にごっこ遊びは終わるだろうけれども。恥かしさに慣れてきたせいか、だんだん楽しくなってきちゃった。
仕方ない。会長さんが、再び茶会に誘ってくれたことだし。例の茶室で、ごっこ遊びをまたしちゃおうかしらね。
仄暗い闇夜に慣れてきた、視界の中。薄い夜の帳を着た、一際大きな建物が映り込み。屋根が灰色に見えるテントの下に、人工的な逆光を浴びた動く人影が、複数人伺えた。
「建物的に、たぶんそうっぽいね。おっ! テントの中に、会長さんが居るや」
「あら、本当だわ」
ハルの言葉を頼りに、テントの中を着目してみれば。鮮やかな花柄の刺繍を散りばめた、浴衣と思われる服を見事に着こなした会長さんが、うちわを優雅に仰ぎながら立っていた。
あの人。和の雰囲気が似合う面立ちも相まって、一挙一動が絵になるわね。あれは確か、大和撫子っていうんだっけ?
「それじゃあ、メリーさん。打ち合わせ通り、演じていきましょうぜ」
「そうね。ちょっと恥ずかしいけど、会長さんを驚かせてやりましょ」
どこかの幹部さながらな悪どい笑みを浮かべたハルの、握った拳に私の拳を合わせつつ、周りの人達に軽く会釈をつつ、テントへと向かっていく。
ハルとの打ち合わせは、約数分程度。花火大会が控えているので、悪役ではなく、主人公側のキャラを演じようと事前に決めている。
正直、ハキハキとした張りのある声を出すのは、あまり得意じゃないのよね。こういうのは、出だしが重要だし、今の内に喉を温めておかないと。
そう決めた私は、普段はしない咳払いを複数回行い、意識して喉の調子を上げていく。テントまでとの距離、数十mまで迫ると、会長さんが私達の存在に気付いたようで。
流してきた横目が合った後、横顔がほくそ笑み。体もしゃなりと向けてきて、礼儀正しく静かにお辞儀をしてきた。
……あそこまで丁寧に招き入れてもらった直後に、ハリーポルターごっこをかますのは、ちょっと気が引けるわね。いや、怖気付いてはダメよ。
完璧に演じて、会長さんの不意を突いて必ず驚かせてやるんだから。柄に無く緊張してきたのか、鼓動が徐々に速くなっていくのを感じる最中。会長さんの前に着き、頭を軽く下げた。
「こんばんは、春茜さん、メリーさん。約束の時間通りに来てくれましたね」
会長さんの声色は、普段と変わり無し。さあ、やってやろうじゃないの。一世一代の演技をね!
「こんばんは、マクナガルゴ先生!」
「んっ……!?」
私が渾身のハーマイメリーを演じるや否や。会長さんの目が大きく見開き、ピクリとも動かなくなった。
この、声を出さずに硬直した様よ。想定していなかった出来事に動揺し、思考が停止したって所ね。
死をちらつかせる恐怖や、これから狩られるという畏怖を与えない驚かせ方って、なんだか物足りなさを感じるわ。
「これはこれは、マクナガルゴ先生。こんな所で会うなんて奇遇ですな」
「んぶっ……!」
そして、ハルが演じるは『ダンブールドア校長』。相変わらず、特徴を捉えるのが上手いせいで、破壊力が凄まじいわ。
あの会長さんが、唇を歪めて笑いを必死に堪えている。しかし、これで終わりじゃない。更にトドメの───。
「マクナガルゴ先生。夜中に一人でうろくつのは、物騒ですぞ」
「スネイブッ……!」
『ダンブールドア校長』、『スネイブ先生』という怒涛の二役攻めに、流石の会長さんも撃沈したらしく。
噴き出した口を手で覆い隠し、まだ堪えようと肩が小刻みに震えている。
それにしても、本当に演じるのが上手いわね。ハル。表情もスネイブ先生に寄せているし、このまま続けられたら、私もニヤけてしまいそうだわ。
笑いを堪え始めてから数秒後。ようやく落ち着いてきたようで。口を覆い隠していた手を離し、何度も深呼吸した会長さんが、マクナガルゴ先生の顔を真似てみせた。
「ハーマイメリー、ダンブルハル校長、ハルイブ先生。おふざけが過ぎていますよ」
「ごめんなさい、マクナガルゴ先生!」
「ほっほっほっ。少々浮かれてしまいましたな、スネイブ先生」
「我輩は、特に何かしたつもりはありませんが」
「ふふっ……」
やはり、ハルの二役攻めは強いわね。思わず笑いを零した会長さんが、顔を右へ逸らしたわ。
「それで、話は変わりますが。ハーマイメリー。貴方は、どこまで視聴したのですか?」
「『アズバンカの囚人』まで観ました!」
「まあ、もうそこまで。ならば、ハーマイメリー。クッキーを用意しますから、後日、私の部屋へ来なさい。いいですね?」
これは、純粋な茶会の誘いと見ていいのよね? キャラを演じていると、真に受けていいのか分からなくなってくるわ。
「はい、ありがとうございます!」
「よろしい。もちろん、ダンブルハル校長とハルイブ先生もです」
「では、折角なので行かせてもらいましょうかな」
「マクナガルゴ先生のお誘いともならば」
どうしよう。たぶん、そろそろ流れ的にごっこ遊びは終わるだろうけれども。恥かしさに慣れてきたせいか、だんだん楽しくなってきちゃった。
仕方ない。会長さんが、再び茶会に誘ってくれたことだし。例の茶室で、ごっこ遊びをまたしちゃおうかしらね。
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。
ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。
真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。
引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。
偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。
ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。
優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。
大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。
俺をガチ推ししていた鬼姫と付き合うことになりました ~鬼ヶ島に行ったら巨乳で天然すぎる彼女ができた件~
月城琴晴
恋愛
おとぎの国で流行っているSNS
――「美女革命ランキング」。
そこには絶世の美女たちがランキング形式で掲載されている。
団子屋の青年・桃太郎は、ランキング三位の鬼姫が気になり、
友人たち(犬・猿・雉)と一緒に鬼ヶ島へ行くことにした。
「どうせ写真は盛ってるだろ?」
そう思っていたのだが――
実際に会った鬼姫は
想像以上の美人で、しかも巨乳。
さらに。
「桃太郎様、ずっとファンでした。」
まさかのガチ推しだった。
そのまま流れで――
付き合うことに。
しかも鬼姫の部屋には桃太郎のポスターが貼られ、
恋愛シミュレーションまで済んでいるらしい。
天然で可愛すぎる鬼姫と、
初彼女に戸惑う桃太郎。
これは――
俺を推していた鬼姫が彼女になったラブコメである。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】
田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。
俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。
「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」
そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。
「あの...相手の人の名前は?」
「...汐崎真凛様...という方ですね」
その名前には心当たりがあった。
天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。
こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。