私、メリーさん。今、あなたと色んな物を食べているの

桜乱捕り

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137話、大賢者おばちゃんによる助言

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「それじゃあ、おばちゃんの所に行ってくるわね」

「ふっふっふっ、無駄な足掻きをしおって。さっさと負けを認め、我が配下に堕ちた方が楽になるというのに」

「やっぱ、何回食ってもヤッタァメンってうまいよな」

「うん、もっといっぱい食べたいよね」

 仕切り直しとして、ハルは魔王に戻ったものの。コータロー君とカオリちゃんは、夢中になってヤッタァメンを食べている。
 悠々と仁王立ちしたハルの両隣で、駄菓子を食べ合っている子供達の構図よ。なんともシュールだわ。
 横目で三人の様子を眺めつつ、少し歩いてから視線を前にやり。おっとりした笑顔で正座をしている、おばちゃんの前まで向かった。

「おばちゃん。『もう一コ』が当たったから、ヤッタァメンを貰うわね」

 『もう一コ』と記された蓋を渡すと、おばちゃんはニコリと笑ってくれた。

「ええ、どうぞ。ついでになんですが、旅の御方よ。あなたに、お得な情報を教えてあげましょう」

 私を名前で呼ばず、旅の御方と言い換えた直後。おばちゃんから、何とも言い知れぬ雰囲気が漂い出した。
 この、重要なヒントをくれそうな言い回しで、強者感溢れる余裕の笑み。もしかして、おばちゃんもごっこ遊びを始めたというの?

「お、お得な情報?」

「はい。実はですね、あのヤッタァメン、さっき補充したばかりなんですよ」

「補充って、まさか!?」

 視野が大きく広まった中、視界の中心に居るおばちゃんが小さくうなずいた。

「その、まさかですよ。百円の当たりもしっかり入ってますので、頑張って下さいね」

「な、なんだとォ!?」

「ダメだよ、春茜はるあかねお姉さん。そういうのは、聞いてないフリしないと」

「あっ、そうっスね。すみません……」

 私がおばちゃんの助言に反応する前に、視界の外から、ハルの驚愕した声が聞こえてきたかと思えば。カオリちゃんに叱られて、緩く謝罪した。
 どうやらごっこ遊びって、そういう所に気を配らないといけないようね。ごっこ遊び初心者の私も、気を付けないと。

「……そう、ありがとう。その情報、絶対に活かしてみせるわ」

「無事、御二方を救出出来るよう、お祈りしてますね」

 そう私の勝利を願ってくれたおばちゃんに、頭を軽く下げ、ヤッタァメンがある棚へ向かう。おばちゃんの情報が正しければ、あの中に百円の当たりが確実に入っている。
 そして、五十円の当たりも追加されているので、引き分けになれる可能性も高まってきた。すごいわね、情報って。聞いただけなのに、なんだか勝てるような気がしてきたわ。
 しかし、魔王ハルから勝利を収めるには、私の引き運に懸かっている。五十円以上の当たりって、一体どれだけ入っているんだろう? たぶん、相当少ないわよね?

「さて、着いたはいいけど。意外と数があるわね」

 一回目の時は、あまり着目していなかったけれども。改めて見た感じ、総勢で七、八十個ぐらいのヤッタァメンがありそうだ。

「う~ん……。どれを見ても、当たりとハズレの違いは無さそうね」

 容器を軽く振り、音の違いを確かめてみるも、特に差異は無し。流石に、蓋の印刷って全部同じよね。
 もし違和感があったら、そのヤッタァメンに希望を抱いちゃいそうだわ。

「でも、この中に当たりが必ずあるのよね」

 当たりとハズレの違いが、特に無さそうだと分かった今。悩む必要はなくなり、時の運任せで引く道だけが残された。
 この中から、ヤッタァメンを一つだけ選べばいい、いいというのに……。なんだか、だんだん妙なプレッシャーを感じてきた。
 ヤッタァメンを引こうとしている右手も、心なしか小刻みに震えている。呼吸も意に反して、少しずつ荒くなってきた。
 私の引き次第で、コータロー君やカオリちゃん、全世界に居る子供達の遊び時間が、十五分短縮されてしまう。その重圧が、背中と心にのしかかってきているのね。

「……どれなの? 一体どれを引けば、ハルに勝てるというの?」

 重苦しいプレッシャーが、私の冷静さを着実に欠いていく。頬を伝う汗の量も増えてきている。体力と気力が削られて、意識まで朦朧としてきた。
 このままじゃ、ハルと再戦する前に、ヤッタァメンに打ちのめされてしまう。焦るな、冷静になれ。当たりを含んでいそうな、ヤッタァメンの鼓動を感じ取るのよ。

「───これっ!」

 数ある中で、上澄み部分に鎮座していた、一際強い鼓動音を発するヤッタァメンを鷲掴み、高々と掲げた。
 掴んでもなお失われぬ、私の手を弾かんとする力強い鼓動。このヤッタァメン、間違いなく『もう一コ』以上を有する強者と見た。

 あとは、みんなの元へ帰るだけ。……けど、先の戦いで体力を使い過ぎたようね。両足が重く、思うように前へ進んでくれない。
 今だけは持って、私の身よ。命が尽き果てるには、まだ早い。魔王ハルを打ち倒すまで、倒れる訳にはいかないのよ。
 足を引きずり、前へ進む事だけに専念する。突き当りを左に曲がると、腕を組んで仁王立ちしているハルが、視界に映り込んだ。

「ほう? どうやら、激闘を繰り広げてきたらしいな。見違えたぞ」

「……はぁ、はぁ。そうやって余裕をかましてられるのも、今のうちよ?」

「メリーお姉ちゃん、アカ姉なんかやっつけちまえー!」

「頑張って、メリーお姉さん!」

 まるで、回復魔法の如く活気が湧いてくる二人の声援に、頷きで応える。

「任せなさい、二人共」

「さあ、メリーさん。そろそろ決着をつけよう。そのヤッタァメン、引いてみせよ!」

「望むところよ。あんたも覚悟して───」

 ハルの言葉を合図に、今度は上手くヤッタァメンの蓋が取れて、チラリと蓋の裏を確認してみた瞬間。視界が大きく広がり、頭の中が一瞬で真っ白になった。

「……わ、わっ、わぁーーーーっ!!」

「ちょ、ちょっと待てェ! なんだ? 私も初めて見る、そのめちゃくちゃ嬉しそうにしてる顔は!? ま、まさかァ!?」

 駄目だ。気が動転して、演技をするどころの騒ぎじゃない。まさか、本当に引けるだなんて!

「み、みんなっ! 百円の当たり引いちゃった!」

「うそぉっ!? マジで!? 見せて見せて!」

「わぁーーっ、本当だ! すごーーいっ!!」

「そ、そんな……。この私が、負ける……、なんてぇ……」

 思わず叫んじゃったせいで、コータロー君とカオリちゃんが駆け寄って来ちゃったけど、私はどうすればいいの? もう何がなんだか分からないし、嬉し過ぎて心の収拾がつかないわ!

「んんっ~……! やったーー!」

「すっげぇーー!! メリーお姉ちゃんおめでとー!」

「春茜お姉さんに勝っちゃったっ! 本当にすごーいっ!」

 嬉しさが爆発して、つい両手を挙げながら喜んじゃった! 何度見ても、間違いじゃない。蓋の裏には、紛うことなき百円と記されている!

「どうよハル! これが私の実力よ!」

「さ、流石は、我が宿敵よ……。見事なり……、グフッ……」

 地面に片膝を突き、こうべを項垂れたハルが、演技で息絶えた。すごいじゃない、私。プロのハルに勝っちゃったわ!
 左胸が、いつまでもバクバクしている。当分の間、この興奮は冷めないかもしれない。まあ、いいや。今はコータロー君達と一緒になって、勝利を分かち合っちゃおっと!
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