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16話、初めての外出
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サニーの面倒を見に来たヴェルインに論され、花畑地帯に行く事を決めた翌日の朝。
何も知らないでいるサニーをよそに私は、忘れ物が無いかの確認を始める。昼食用の食べ物。地面に敷く大きな一枚布。サニーの画用紙と色棒。飲み水が入った容器。
それと、採取した物を入れる為の古ぼけた木のカゴ。確認を終えた私は、布袋に木のカゴ以外の物を詰め込み、左肩に置いてから、隣で棒立ちしているサニーに顔をやった。
「サニー、出掛けるぞ」
「でかける?」
初めて口にした単語なので、当然サニーは理解しておらず、青い瞳をぱちくりとさせる。
「私と一緒に外へ出る、という意味だ」
「えっ、さにーもおそとにでていいの?」
やや活気付いた表情をしつつ、念入りに問い掛けてくるサニー。やはり、この前の出来事で学んだのだろうか? 家の外は危険だという事を。
不安を振り払ってあげる為に、私はサニーの両肩に手を添え、小さく頷いてみせた。
「私と一緒に居る限り、許してやろう」
「ほんとっ? やったっ!」
許可を出せば、サニーは屈託のない笑顔になり、両手を挙げてはしゃぎ出した。という事は、外に興味があり、出てみたかったのだろう。
そうとなれば、定期的にサニーを外に連れて行ってやるとするか。危険にまみれている迫害の地にも、少なからず安全地帯はある。
とは言いつつも、不測の事態を度外視してはいけない。サニーを外に連れ回すのであれば、何かしらの対策を考えておかねば。
右手に木のカゴを持ちながら扉を開け、サニーを拾ってから三年目にして、初めて一緒に外へ出る。辺りを見渡してみると、今日の沼地帯は機嫌が良さそうでいた。
濃霧はおろか、霧さえ立ち込めていない。空模様だってそう。普段であれば分厚い暗雲が空を覆い隠しているが、雲には点々と切れ目が出来ていて、沼地帯では似合わない青空がチラチラと見えている。
「空が見えるなんて珍しいな」
左手に漆黒色の箒を召喚し、僅かな青が際立つ空を眺めながら言う私。
「うえに、しろいのとあおいのがある」
サニーも切れ切れな青空を見つつ、私の足にしがみつく。
「白いのが雲。青いのが空だ」
「へぇ~。そらって、ちっちゃいんだね」
「ここから出れば一気に広くなる。行くぞ」
「わっ!」
早く花畑地帯へ行きたいが為に、箒の先端に布袋と木のカゴをぶら下げ、サニーの体を『ふわふわ』と名付けられた風魔法で浮かす。
そのまま箒の中心部分まで持ってきて、魔法を解除しないままサニーを跨らせた。こうしておけば、サニーが箒から落ちる事はまずない。
普段の私は椅子に座る形で箒に乗るが、念には念を入れてサニーを覆う形で箒に跨り、ゆっくりと宙へ浮く。
「しっかり掴まってろ」
「つかまる?」
知らない単語ばかりのせいか、サニーは体を反らしながら私に顔を合わせ、質問を投げてきた。
「手でギュッとしてろと言う意味だ」
「しないとどうなるの?」
更なる質問に対し、私は視線をサニーの顔から前へと向ける。
「転んだ時、ぶつけた箇所が痛くなるだろう? それよりもずっと痛い思いをする事になる」
「うわっ、いたいのやだ! ちゃんとギュッてしてるっ!」
過去の体験を例えに出せば、サニーは瞬時に理解した。高高度から落ちるのだ。痛みを感じる前に死ぬだろうが、絶対にそんな事はさせないし、間違えてでもやらない。
注意を払いつつ高度を上げていくと、私達の家がだんだんと遠ざかっていく。そのみるみる内に小さくなっていく家を見ていたのか、サニーが明るく弾んだ声を上げた。
「たかいっ! いつもの『ふわふわ』より、ずっとたかいっ!」
「次は、段違いに速い『ぶうーん』だ。しつこく何回も言うが、しっかり掴まってろ」
「うんっ!」
元気よく返事をし、いつもより速い『ぶうーん』を今か今かと待つサニー。鼻をふんふんと鳴らしているサニーを焦らすように、私はもう一度だけ確認をし出す。
サニーはちゃんと箒を握っているか。布袋と木のカゴは落ちていないか。サニーにかけている魔法が解けていないか。入念に何度も目視をした。
そして全ての確認を終えると、乗っている箒の先端を山岳地帯へと向け、風を追い抜く速さで飛び始める。
「はやーいっ!」
私は、突風で金色の髪の毛を暴れさせているサニーに顔をやり、目をすぼめる程の風圧が襲ってくる前方に戻した。
「寒くないか?」
「うんっ、ちょうどいいよ!」
「そうか」
丁度いいという事は、今日は温かいようだ。なら、向かってくる突風を浴び続けても大丈夫だろう。
私が作った薬の副作用のせいで、暑さ、寒さを肌で感じ取れなくなってから数十年以上経つが、ここにきて弊害を及ぼすとは。
これから、サニーと共に行動する機会が増えるのだ。事あるごとに確認せねば。それを怠ると、極端な気温の変化により、サニーが体調を崩してしまう可能性もある。忘れないようにしよう。
今後の事を考えつつ、高速で後ろに流れていく山岳地帯を飛び進んでいく。その間にもサニーはひっきりなしに首を動かしては、嬉々とした声を上げていった。
灰色の岩肌を登っている獣達の頭上を抜け、彼方まで続く緑々しい山の波を追い越し、紅色と黄色が入り混じる山々を飛び抜けいく。
かなり速度を上げて飛んでいるから、もう三十分もすれば花畑地帯に着くだろう。山岳地帯は瞬く間に色や形を変えていくから、目に入ってくる情報にサニーは飽きないはず。
沼地帯から相当離れたので、空を狭くしていた暗雲が全て晴れ、澄み渡る青空と眩しい太陽が姿を現したが、サニーはそれらには気付いておらず、延々と下を眺めている。
目まぐるしく細かな変化を起こす下もいいが、大いに変貌を遂げた上にも注目してほしい。しかし、強要して邪魔をするのも野暮だろうし、このまま黙って花畑地帯を目指そう。
花畑地帯に着けば、サニーは一体どんな反応をするだろうか? 暇潰しにそんな予想を立てるのも、悪くない。
何も知らないでいるサニーをよそに私は、忘れ物が無いかの確認を始める。昼食用の食べ物。地面に敷く大きな一枚布。サニーの画用紙と色棒。飲み水が入った容器。
それと、採取した物を入れる為の古ぼけた木のカゴ。確認を終えた私は、布袋に木のカゴ以外の物を詰め込み、左肩に置いてから、隣で棒立ちしているサニーに顔をやった。
「サニー、出掛けるぞ」
「でかける?」
初めて口にした単語なので、当然サニーは理解しておらず、青い瞳をぱちくりとさせる。
「私と一緒に外へ出る、という意味だ」
「えっ、さにーもおそとにでていいの?」
やや活気付いた表情をしつつ、念入りに問い掛けてくるサニー。やはり、この前の出来事で学んだのだろうか? 家の外は危険だという事を。
不安を振り払ってあげる為に、私はサニーの両肩に手を添え、小さく頷いてみせた。
「私と一緒に居る限り、許してやろう」
「ほんとっ? やったっ!」
許可を出せば、サニーは屈託のない笑顔になり、両手を挙げてはしゃぎ出した。という事は、外に興味があり、出てみたかったのだろう。
そうとなれば、定期的にサニーを外に連れて行ってやるとするか。危険にまみれている迫害の地にも、少なからず安全地帯はある。
とは言いつつも、不測の事態を度外視してはいけない。サニーを外に連れ回すのであれば、何かしらの対策を考えておかねば。
右手に木のカゴを持ちながら扉を開け、サニーを拾ってから三年目にして、初めて一緒に外へ出る。辺りを見渡してみると、今日の沼地帯は機嫌が良さそうでいた。
濃霧はおろか、霧さえ立ち込めていない。空模様だってそう。普段であれば分厚い暗雲が空を覆い隠しているが、雲には点々と切れ目が出来ていて、沼地帯では似合わない青空がチラチラと見えている。
「空が見えるなんて珍しいな」
左手に漆黒色の箒を召喚し、僅かな青が際立つ空を眺めながら言う私。
「うえに、しろいのとあおいのがある」
サニーも切れ切れな青空を見つつ、私の足にしがみつく。
「白いのが雲。青いのが空だ」
「へぇ~。そらって、ちっちゃいんだね」
「ここから出れば一気に広くなる。行くぞ」
「わっ!」
早く花畑地帯へ行きたいが為に、箒の先端に布袋と木のカゴをぶら下げ、サニーの体を『ふわふわ』と名付けられた風魔法で浮かす。
そのまま箒の中心部分まで持ってきて、魔法を解除しないままサニーを跨らせた。こうしておけば、サニーが箒から落ちる事はまずない。
普段の私は椅子に座る形で箒に乗るが、念には念を入れてサニーを覆う形で箒に跨り、ゆっくりと宙へ浮く。
「しっかり掴まってろ」
「つかまる?」
知らない単語ばかりのせいか、サニーは体を反らしながら私に顔を合わせ、質問を投げてきた。
「手でギュッとしてろと言う意味だ」
「しないとどうなるの?」
更なる質問に対し、私は視線をサニーの顔から前へと向ける。
「転んだ時、ぶつけた箇所が痛くなるだろう? それよりもずっと痛い思いをする事になる」
「うわっ、いたいのやだ! ちゃんとギュッてしてるっ!」
過去の体験を例えに出せば、サニーは瞬時に理解した。高高度から落ちるのだ。痛みを感じる前に死ぬだろうが、絶対にそんな事はさせないし、間違えてでもやらない。
注意を払いつつ高度を上げていくと、私達の家がだんだんと遠ざかっていく。そのみるみる内に小さくなっていく家を見ていたのか、サニーが明るく弾んだ声を上げた。
「たかいっ! いつもの『ふわふわ』より、ずっとたかいっ!」
「次は、段違いに速い『ぶうーん』だ。しつこく何回も言うが、しっかり掴まってろ」
「うんっ!」
元気よく返事をし、いつもより速い『ぶうーん』を今か今かと待つサニー。鼻をふんふんと鳴らしているサニーを焦らすように、私はもう一度だけ確認をし出す。
サニーはちゃんと箒を握っているか。布袋と木のカゴは落ちていないか。サニーにかけている魔法が解けていないか。入念に何度も目視をした。
そして全ての確認を終えると、乗っている箒の先端を山岳地帯へと向け、風を追い抜く速さで飛び始める。
「はやーいっ!」
私は、突風で金色の髪の毛を暴れさせているサニーに顔をやり、目をすぼめる程の風圧が襲ってくる前方に戻した。
「寒くないか?」
「うんっ、ちょうどいいよ!」
「そうか」
丁度いいという事は、今日は温かいようだ。なら、向かってくる突風を浴び続けても大丈夫だろう。
私が作った薬の副作用のせいで、暑さ、寒さを肌で感じ取れなくなってから数十年以上経つが、ここにきて弊害を及ぼすとは。
これから、サニーと共に行動する機会が増えるのだ。事あるごとに確認せねば。それを怠ると、極端な気温の変化により、サニーが体調を崩してしまう可能性もある。忘れないようにしよう。
今後の事を考えつつ、高速で後ろに流れていく山岳地帯を飛び進んでいく。その間にもサニーはひっきりなしに首を動かしては、嬉々とした声を上げていった。
灰色の岩肌を登っている獣達の頭上を抜け、彼方まで続く緑々しい山の波を追い越し、紅色と黄色が入り混じる山々を飛び抜けいく。
かなり速度を上げて飛んでいるから、もう三十分もすれば花畑地帯に着くだろう。山岳地帯は瞬く間に色や形を変えていくから、目に入ってくる情報にサニーは飽きないはず。
沼地帯から相当離れたので、空を狭くしていた暗雲が全て晴れ、澄み渡る青空と眩しい太陽が姿を現したが、サニーはそれらには気付いておらず、延々と下を眺めている。
目まぐるしく細かな変化を起こす下もいいが、大いに変貌を遂げた上にも注目してほしい。しかし、強要して邪魔をするのも野暮だろうし、このまま黙って花畑地帯を目指そう。
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