ぶっきらぼう魔女は育てたい

桜乱捕り

文字の大きさ
86 / 343

85話、招かざる者

しおりを挟む
 なんとも腰が引けた威嚇を放ってたシルド、パスカ、オブラが、ようやくサニーちゃんと打ち解けて、軽い自己紹介をしたものの。
 サニーちゃんが危険じゃないと分かった途端、あいつらも子供の様にはしゃぎ出しちまった。サニーちゃんを高い高いしたり。スピディとシルドが、交代で肩車をしてあげたり。
 イージが自慢の腕っぷしでサニーちゃんの両手を掴み、その場でグルングルンぶん回したりと。ヒヤヒヤした場面もあったが、全員笑顔で楽しんでやがる。

 まあここ最近、刺激的な出来事が一切無かったしな。もうだいぶ昔の事だけども、全員でアルビスと戦ってた頃が懐かしいぜ。
 あれこそ文字通り、命を懸けた戦いだった。当たれば一瞬で骨まで蒸発しちまう、灼熱のブレス。どこから飛んで来るのか、何をされるのか分からない魔法の数々。
 腕を振り下ろせば山が裂け。足で大地を蹴れば波を打ち。翼をはためかせれば、森が飛び。咆哮を上げれば空が歪む。アルビスの行動一つ一つが、天地を破壊する攻撃に繋がってくんだ。
 今思うと……。よくあんな奴と戦って生き残ったよなあ、俺達。最終的に、二日目にして全員体力と気力の限界が来て、俺が左目に爪の斬撃を受けて降参。

 そのまま俺達の強さを買われ、アルビスを守護するべく山岳地帯の守護者になった。つっても、迫害の地に居る奴らは、アルビスの強さを充分に理解してる。
 なのでアルビスに立ち向かおうとする輩は、優劣を知らない新参者ぐらいしかいなかった。最後に来た奴と言えば、骨を探してる内に迷い込んで来たファートぐらいだ。
 だからこそ、頂上でアルビスが住んでるこの山にあるアジトは、比較的安全なんだ。あいつが居るってだけで、とんでもなく強力な抑止力になるからな。
 よし、あいつらも落ち着いてきた事だし。そろそろサニーちゃんに、俺達の絵をいっぱい描いてもらおうかな。










「ヴェルインさん、こことかどうですか?」

「ほーう、玉座か。いいねえ、ここにするか」

 サニーちゃんが提案してきたのは、アジトの奥にある、蒼白岩石の壁を荒く削って作った玉座。暇を極めてる時に作った物なので、ほとんど使用してない。
 が、見栄えはそれなりにいい。玉座の左右にある松明。その松明の上には、狼の影が描かれた旗を設置してあり。間に挟まれて、昔サニーちゃんに描いてもらった絵が飾られてる。

「じゃあ、じゃあ! ヴェルインさん。足を組みながら座って、右の肘を出っ張った部分に置いて、その手に顔を置いてくださいっ」

「ずいぶん細かい恰好の指示だな。こうかい?」

 言われた通りの恰好をすると、サニーちゃんは満足気にうなずいてくれた。

「はいっ! カッシェさんは、左の出っ張った部分に寄りかかって、腕を組んでこっちを見ててくださいっ」

「はいはーい」

「スピディさんも腕を組みながら、椅子の右側に立っててくださいっ」

「右は~、こっちっすね。了解っす」

 指を差して右側を確認したスピディが、俺のすぐそばに立つ。前にレディと、背中を預けながら描かれた時もそうだったが……。サニーちゃんってば、腕を組んでる構図が好きなんだな。
 残りの奴らも指示に従い、俺達の前に並んでく。玉座は階段の五段上にあるので、イージ、シルド、パスカ、オブラは立ったままで、やはり腕を組まされた。
 待てよ? 俺以外、全員腕を組んでるじゃねえか。なんだか俺も組みたくなってきたぞ。

「うわぁ~っ、思った通りだ! すごくカッコいいっ!」

「あっははは。サニーちゃん、嬉しそうっすねえ」

「うんっ! これならいい絵が描けそうです」

「楽しみにしてるぜえ。自分がやりたいようにゆっくりと描きな」

「はーいっ! ありがとう、ヴェルインさんっ」

 弾けた笑顔でお礼を言ってきたサニーちゃんが、一歩、二歩と下がってく。
 絵を描くのに絶好の場所を見つけたようで、その場にペタンと座り、持ってた布袋を漁り出した。

「親分。ここから何十分ぐらい掛かるんすかね?」

「あ~……。一人描くのに、大体三、四十分ぐらいだから~。二、三時間以上は見といた方がいいな」

「やっぱり、それなりに長いっすねえ。……ん?」

「どうしたスピディ?」

「ヴェルイン、入口」

「入口?」

 スピディに聞いたのに対し、やたらと不機嫌になってるカッシェが答えてきた。表情は見てないものの、殺気が混じった声色で分かる。カッシェめ、なんで臨戦態勢に入ってやがんだ?
 ずっとサニーちゃんを捉えてた視界を、左斜めに移す。入口手前に、違和感のある黒い点を見つけた。俺達がここへ来た時には無かったはずだ。
 なんだ、あの黒い点は? カサカサ動いてるようだが、どうやら生き物っぽいな。
 目をよく凝らし、正体を探ってみる。目を細めていく度に、黒い点の輪郭が浮かび上がっていた。側面に足がある。数にして八本。つーことは……。

「……魔物か。見た目からして蜘蛛っぽいな。ここら辺じゃ見ねえ奴だが、新参者か?」

「おそらくね。どうする? 向こうはアタシ達の存在に気付いてるみたいよ。それに、ちょっとずつ近づいて来てるわね」

「どうするも何も。サニーちゃんに悟られずに殺るしかねえだろ」

「なら、俺っちの出番っすね」

 『悟られずに』という先の言葉で、自分が適任だと言わんばかりに名乗り出るスピディ。こいつは察しも良くて助かるぜ。一言二言説明する手間が省けた。

「だな。もう少しであいつが、お前の瞬足が届く距離に入る。入った瞬間、一秒以内にあいつの前まで飛び、入口の外へ蹴り飛ばす事は出来るか?」

「俺っちも同じ事を考えたっす。タイミングは入った瞬間でいいっすよね?」

「ああ。今回はお前の名前を言わねえから、全部任せるぞ」

「了解っす」

 スピディの武器は、大岩をも粉砕する強靭な脚力。蹴る力だけなら、状況次第によっちゃあ俺の力に勝る時もある。
 力の強弱をつければ、鞭よりもしなやかで、深く刺された様な痛みを伴う打撃。逆に剣よりも鋭く、骨を真っ二つに裂く斬撃にもなりうる。
 過去にお願いして、スピディの本気の蹴りを背中に食らった事があるけども……。灼熱の炎に炙られた様な痛みが、三日三晩背中にこびり付いてたっけなあ。
 呼吸をする度に痛かったし、あの時は一睡も出来なかったな。もう二度と食らいたくねえ。

 魔物と俺達の距離、おおよそ二十五m。スピディの瞬足が一歩で届く距離は、大体十五m前後。魔物が距離を詰めてくる度に、隣に立ってるスピディの姿勢が、ゆっくりと沈んでいく。
 魔物が、中央にある焚き火まで忍び寄って来た。サニーちゃんとの距離も狭まってきたな。が、あいつがどう足掻こうとも、先にスピディの瞬足が届く。
 ……待てよ? その前に、サニーちゃんの魔法壁が発動しちまうんじゃねえか? まずい、発動したらレディが召喚されちまう! 何を言われるか分かんねえし、急いで作戦を変更―――。

「ん? また入口に何か……、ゲッ!? ヴェルイン、まずいわ!」

「あ? 今度はなんだ―――」

 カッシェの荒いだ声に、蜘蛛の魔物を捉え続けていた視界を、入口に持っていった直後。俺の視野が限界まで見開いていった。

「おいおい、嘘だろ……!?」

 視界の先には、入口からなだれ込んで来てる蠢いた黒の波。その波は全部、先に入ってきた蜘蛛と同じ奴らだった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

側妃に追放された王太子

基本二度寝
ファンタジー
「王が倒れた今、私が王の代理を務めます」 正妃は数年前になくなり、側妃の女が現在正妃の代わりを務めていた。 そして、国王が体調不良で倒れた今、側妃は貴族を集めて宣言した。 王の代理が側妃など異例の出来事だ。 「手始めに、正妃の息子、現王太子の婚約破棄と身分の剥奪を命じます」 王太子は息を吐いた。 「それが国のためなら」 貴族も大臣も側妃の手が及んでいる。 無駄に抵抗するよりも、王太子はそれに従うことにした。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。

BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。 辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん?? 私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?

処理中です...