ぶっきらぼう魔女は育てたい

桜乱捕り

文字の大きさ
111 / 343

108話、悩める贈り物

しおりを挟む
 アルビスに三つ目の夢を伝えてから、数ヶ月以上が経った。

 あの時は、ここ数年間を思い返してみても、特に内容が濃い二日間だった。もう、あれ以上の濃密な日は訪れないだろう。
 水を司る大精霊である、ウンディーネ様と出会い。なんて事はない会話をしていたと思えば、いきなり態度が急変。出しに使われて殺されそうになったアルビスを助け、そのまま戦闘に突入。
 そこで私は負けそうになったものの。奇跡的なタイミングで『奥の手』が発動してくれて、ウンディーネ様に逆転勝ち。
 元の場所へ戻って来たら、迷惑を掛けたお詫びとして、ウンディーネ様と契約を交わし。後日、アルビスに私の夢を伝え。心を開いてくれたあいつが、私の中で泣き続けて。

 そして、その日にあいつを、私達の家族に向かえ入れた。

 ウンディーネ様と戦闘が終わった後。三つ目の夢を伝えた途端、アルビスとの関係が崩れてしまうのではないかと危惧し、終始気が気ではなかったが……。結果的に、全てが丸く収まってくれて一安心している。

 そんなアルビスはというと。家族に向かえ入れてから、かなりの頻度で私の家に泊まるようになった。なんでも、私の家は本当に居心地が良く、一秒でも長く居たいかららしい。
 だったら、ここに住めばいいのにと提案したのだけれども。あいつは首を横に振り、「貴様とだけの時間が無くなってしまうだろう?」と言われ、断られてしまった。
 別に、もう家族になったのだから、気を使わなくてもいいのに。この際だから私の家に、あいつの個室を設けてしまおうか? とても良い案だから、今度考えておこう。

 そして愛娘であるサニーは、明日で八歳になる。成長は目まぐるしく、身長は百三十cmと一気に伸びてしまった。
 あの玉のように小さかったサニーが、私との身長差が三十cmと少しまで迫ってきている。早いものだなぁ。サニーの母親になると決心してから、ここまで来るのに、本当にあっという間だった。
 このままだと、すぐに私より大きくなってしまうかもしれない。だが、それも一つの楽しみである。子供は、いつまでも小さい訳ではない。常日頃から成長し続けている。
 だから、サニーがまだ子供の内に、もっと抱っこをしてやらなければ。それに頭を優しく撫でて、いっぱい褒めてやらないと。

 だがそれは、今の私では出来ない事である。とても大きな問題を抱えていて、それどころではない。明日はサニーの誕生日だというのに、贈り物がまだ決まっていないだなんて……。
 色棒? それはもう、幾度となく上げてきた。なんなら十五日に一回の頻度で、新しい色棒を上げている。
 服? これも駄目だ。サニーの成長速度が凄まじいので、何回も買い替えている。まったくもって目新しい贈り物ではない。
 絵本? 絵本なぞ、既に五百冊以上ある。目ぼしい物は大体買ってしまったので、今は新しい絵本が書物屋に並ぶのを待っている状態だ。

 後は……、思い付かない。今まで与えた事がなく、かつ、サニーがすごく喜ぶような物。これが決まるまでの間は、何も出来そうにないな。







「むう……」

「む? どうした、アカシック・ファーストレディよ。そんなに難しい顔をして」

 自分でもどこを見ているのか分からない状態で、腕を組みながら思考を張り巡らせている最中。対面の席に座り、読書をしていたアルビスが反応してきた。

「そんな顔をしてるのか、私は?」

「ああ。余だけではなく、サニーやヴェルインにも悟られそうなほど表情が変わってるぞ」

「そんなになのか……」

 前までは、必ず『無表情ながらも』と先に言われていたのに。今の私は、そこまで表情が変わる様になっているのか。アルビスに指摘されるまで、まったく気付かなかった。
 あと、アルビスがサニーの事を『小娘』とではなく、名前で呼ぶ様になってから数ヶ月が経ったものの。未だにちょっとした違和感がある。そろそろ慣れておかないと。
 しかし、アルビスの奴め。私も名前だけで呼んでも大丈夫だぞと言ったのに対し、『恥ずかしいから、それは無理だ』と真顔でキッパリと言ってくるとは。初心うぶにも程があるぞ。

「いやな、そろそろサニーの誕生日だろ?」

「明日だろう? いやあ、実に楽しみだ。余も貴様らの家族となったからには、盛大に祝うつもりでいる。で、それがどうしたんだ?」

「それで……。サニーに贈る物が、まだ決まってないんだ」

「贈り物、ねえ。なるほど?」

 私が悩んでいた理由を明かすと、アルビスは右手に持っていた小さい本を閉じ、テーブルに置く。そのまま腕を組み、背もたれに体を預けた。

「なら、余も一緒に考えてやらねばな。今まで何を上げてたんだ?」

「ありがとう。今までは、色棒とかちょっと高価な服ばかりだな」

「ふむ。それらを上げて、サニーは喜んでたのか?」

「もちろんだ。上げる度に、可愛らしい弾けた笑顔になってた」

 そう。あの澄み渡る青空の様に笑っているサニーを見るのが、この上なく好きなんだ。だからこそ、その笑顔が見たくて、贈り物の内容を必死になって考えている。

「ほう、それは是非見てみたいものだ。他には無いのか?」

「ない。サニーが欲しそうな物は大体上げてしまったから、そろそろ新しい物でも上げようとしてる。だからこうして悩んでるんだ」

「なるほど。確かサニーが好きな物は、シチュー、絵描き、読書、『ふわふわ』、『ぶうーん』……」

 ぶつぶつと言い出したアルビスが、握った拳を口に当て、龍眼を右に逸らした。口を閉ざして黙り込むと、龍眼は左側に移動しては、眉間にシワが寄り。
 再び右側に移動すれば、眉を深くひそめ。眼を強く閉じたかと思えば、私を睨みつけるように瞼を薄く開けた。

「ダメだ、まるで思い付かん。大体、サニーが好きな物は普段から上げてるじゃないか。ここから余らで考えた物を上げるとなると、賭け要素があまりにも強すぎる。一応、本人に聞いてみたらどうだ?」

「サニーに直接聞くのか?」

「そう。明日には、めでたく八歳となる。そろそろ、己のやりたい事も見えてくる年齢だろう。サニーは実に大人しい子だ。故に、やりたい事を我慢してる可能性がある。そこを、母親である貴様がひと押ししてやるのだ」

 どうやら、確信を得たのだろう。凛とした笑みを浮かべたアルビスが、右手で力強く握り拳を作った。サニーに直接聞いてみるか。悪くない案だ。
 今までの私は、サニーを喜ばせたいが為に、こっそりと隠れて贈り物を準備し、誕生日の当日に贈り物を渡していた。
 が、それは私の自己満足に過ぎない。サニーは、空気が読める本当にいい子だ。私に気を使って、喜んでいる演技をしている可能性すらある。
 やはりここは、サニーに聞いてみるべきだ。ビックリさせる事が出来なくなってしまうけども、そっちの方が断然にいい。よし、聞いてみよう。

 ようやく心に決めた私は、サニーに聞いてみるべく、体を後ろに向ける。視線の先には、大の字で寝そべっているヴェルインの上で、手足をパタパタとさせてはしゃいでいるサニーが居た。
 今日はファートも居て、両手で杖を抱きしめて、口をポカンとさせながらサニーの事を見ている。

「サニー、ちょっといいか?」

「なに?」

「何か欲しい物とか、やってみたい事とかないか?」

「ほしい、もの?」

 上げていた顔を、ヴェルインの胸元にコテンと落とすサニー。あいつの胸毛、かなり毛深いな。サニーの顔が半分ほど埋まってしまった。

「ほら、明日はお前の誕生日だろ? たまには、お前の意見を聞いてみようと思ってな」

「いいのっ!? え~っと、え~っと!」

 やっぱりやりたい事があったのか。上体を起こしたサニーが口元に指を添え、満点の星空の様に輝き出した青い瞳を、天井へ仰いだ。嬉しそうな顔をしている所を察するに、やりたい事はかなり多そうだ。
 なるほど。これからは、もっとサニーの意見を聞いてやらねばな。待っているだけでは駄目だ。私が率先して聞いて、極力叶えてあげないと。

「ん~っ……。あっ、そうだ! お母さん、よく買い出しに行ってるでしょ?」

「ああ、行ってるな」

「それについていきたいっ!」

「買い出しに? それでいいのか?」

 念を押して聞き返すと、サニーはヴェルインの胸に頭突きをする勢いでうなずいた。買い出しに付いて行きたい……。
 そういえば、なんでサニーを買い出しに連れて行くという発想が、今まで思い付かなかったんだ? ヴェルイン達が当たり前のように、毎日サニーのお守りをしてくれていたお陰だからだろうか?
 まあいい、サニーのやりたい事を聞けたんだ。嬉々と言ってきたから、今一番やりたい事に違いない。なら明日は、サニーと一緒に『タート』へ行こう。

「分かった。それじゃあ明日、一緒に行こう」

「やったー! ありがとう、お母さんっ!」
 
 満面の笑顔で手を限界まで挙げたサニーが、その状態を維持したままヴェルインの胸元に倒れ込み、「ぷはぁっ」と息をする。

「んふふっ、明日が楽しみだなぁ~」

「よかったな、サニーちゃん。明日は大いに楽しんできな」

「うんっ!」

 ヴェルインにも激励され、サニーの頭を撫でている光景を認めつつ、体を前に戻す。アルビスはというと、よかったなと言わんばかりに表情をほころばせていた。

「ほらな、あっただろう?」

「そうだな。まさか、買い出しに付いて行きたかっただなんて。予想すらしてなかった」

「聞いてみなければ、分からない事が多々とある。どんなに些細な事でも、サニーにとっては特別な事なのだろう」

「ああ。でも、これで決まった……」

 ―――待てよ? サニーは、迫害の地から一歩も外へ出た事がない。なので、ごく当たり前な生活を体験した事が無ければ、街や村、国といった、普通の人達が溢れ返っている光景すら目にした事がない。
 仮に知っていたとしても、それは絵本で得た知識。その物語染みた出来事を、実際に体験してしまうんだ。全てが初々しくあり、興奮して心の歯止めが効かなくなってしまうだろう。
 もしかしたら、サニーが『ここに住みたい』と言い出すかもしれない。しかも、誕生日当日にだ。適当にはぐらかす事も出来なくなってしまう。この願い、かなり危ない橋なのでは……?

「どうした? また難しい表情になって」

「いや……。もし、サニーがタートに住みたいって言い出したら、どうしようかと思ってな」

「いいじゃないか、住ませてやれば。最高の贈り物になるだろう?」

「なるけども……。その場合、お前と離れ離れになってしまうじゃないか。私はそれが嫌なんだ」

「ああ、なるほど……?」

 私が危惧していた事を伝えると、アルビスも名残惜しそうな返事をしてきた。が、すぐに何かを思い付いたのか、「なら」と続けた。

「すまんが、二つほど頼みたい事がある」

「頼み事? なんだ?」

「一つ目。この世から絶滅した種族が載ってる書物を買ってきてほしい」

「絶滅? たぶん、書物屋に売ってると思うけど……。なんでそんな物を?」

「それの結果次第では、余がタートへ付いて行ける事になる。理由はまだ言いたくないから、聞かないでくれ」

 なぜだろう。最後の言葉には、どこか悲し気な気持ちがこもっていた気がする。気になるけれども、聞かないでくれと言われてしまったから、追求するのはやめておこう。

「分かった。今日の買い出しついでに、書物屋を見てくる。それで、二つ目は?」

「二つ目は、明日の夕食は余が作るから、指定した食材を買ってきてほしいんだ」

「食材? お前、料理出来るのか?」

 驚いてしまい、何も考えずに失礼な質問をしてしまったものの。アルビスは得意げな表情をしつつ、悠々とうなずいた。

「無論だ。貴様、余が執事をしてた時期があったのを忘れてるだろ? むしろ得意だし、作るのは貴様より上手いぞ?」

「あっ。そういえば、そうだったな……」

 ここ最近バタバタしていたせいで、本当に忘れていた。確か貴婦人に匿われて、そこから五十年以上も執事をやっていたんだっけ。

「わ、分かった。明日の夕食は、お前に任せるよ。楽しみにしてる」

「ああ、任せておけ。貴様らの舌を、絶対に唸らせてやるからな。覚悟しておけよ?」

 絶対の自信が垣間見える宣言をして、ニヤニヤと不敵に笑い出すアルビス。こんなに怪しいアルビスの顔、初めて見たな……。
 しかし、執事の経験がある者の料理か。食べた事が無いので味の想像がつかないけども、アルビスが作る料理だ。私も食べてみたいから、良い食材を買ってこないと。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

側妃に追放された王太子

基本二度寝
ファンタジー
「王が倒れた今、私が王の代理を務めます」 正妃は数年前になくなり、側妃の女が現在正妃の代わりを務めていた。 そして、国王が体調不良で倒れた今、側妃は貴族を集めて宣言した。 王の代理が側妃など異例の出来事だ。 「手始めに、正妃の息子、現王太子の婚約破棄と身分の剥奪を命じます」 王太子は息を吐いた。 「それが国のためなら」 貴族も大臣も側妃の手が及んでいる。 無駄に抵抗するよりも、王太子はそれに従うことにした。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。

BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。 辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん?? 私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?

処理中です...