ぶっきらぼう魔女は育てたい

桜乱捕り

文字の大きさ
133 / 343

130話、涙が枯れるほどの優しさを

しおりを挟む
 遥か大昔に、時の流れを絶たれた仲間達から激励を贈られ。姿が見えない者達に願いを託されてから、五分ぐらいが経っただろうか。
 泣き続けているウィザレナに耐えかねたサニーは、自分の手拭いを差し出し。それに気付いたウィザレナが、『ありがとう、サニー殿』とほくそ笑みながら感謝をを述べ。
 止まりつつある感涙をぬぐい、『すまない、私の涙で汚してしまって。後で綺麗に洗って返す』と言い、サニーに許可を貰ってから内懐にしまい込んだ。

 ウィザレナの仲間達は、九百年以上も前に死んだのにも関わらず、魂となってこの里に残り、ウィザレナを見守り続けていた。
 ならば、もしかするとピースも、どこかで私を見守ってくれているのだろうか? もし傍に居るのであれば、たった一言でもいい。
 内容はなんだって構わない。一桁の数字だろうと、『あ』という短い一文字だっていい。ピース、お前の声が聞きたい……。

 けど、それは叶わぬ願いだろう。ウィザレナは、最後に仲間の声を聞けたんだ。なら、私も―――。そんな短絡的な考えで、無い希望を持ち、縋っては駄目だ。
 本来であれば、死者の声なんて聞ける訳がない。先の出来事は、あらゆることわりや範疇を超えた、エルフの固い絆が成し得た奇跡。そう割り切っておこう。
 だから私は、気持ちを切り替えて前に進まねば。いつか、生き返ったピースと再会が出来る、その日まで。









「うわぁ~っ……! お家が浮いてるーっ!」

「これが、空から見た森の景色か。辺り一面深々しい緑だな」

 現在私達は、ウィザレナの家を風魔法で宙に浮かばせて、魔物が居ない高高度に居る。最初は、カッコつけて意気揚々に言ってしまったものの……。
 家全体を水平にしつつ、一切揺らさずに前へ進めるとなると。かなり高度な技術が必要になってくるし、なおかつ高い集中力を保ち続けなければならない。
 おまけに限界速度で飛ぶと、中に居る全員と家具が後方へ吹っ飛んでしまうので、低速度の飛行を強いられている。

「とんでもなく広いだろ? 後ろもずっと続いてるぞ」

「本当だ、ここまで広いとはな。よくおさ様達は、迷わず里に帰って来れてたものだ」

「自然の大迷宮みたいなもんだからな。土地勘があっても、真っ直ぐ帰るのは難しいだろう」

 三百六十度、どこを見渡せど地平線にぶつかる広さである。方向感覚を一度でも失えば、里には一生帰れず、土に還る事になるかもしれない。
 ウィザレナは窓に映る景色に釘付けとなり、サニーは動物達の相手をし始めた。頭の上に、小鳥が三羽乗っていて、大人しく座っている一角獣の頭を撫でている。
 一角獣もお返しにと、顔をサニーに近づけて頬ずりし出した。なんとも微笑ましい光景だ。ウィザレナ同様、あの子達とも仲良くやっていけそうだ。
 そんなサニーが、一角獣の許可を得て背中に跨り、寝そべったまではいいのだが、どうやら心地よかったらしく。しばらくすると、一角獣達と共に眠ってしまった。

「珍しいな。あの子が人間を背中に乗せて、警戒しないまま寝るだなんて。すっかり心を開いてそうだ」

「そういえば、ウィザレナと一緒に暮らしてきたんだったな」

「ああ、そうだ。同じ惨劇を共に味わってきたから、あの子も人間を忌嫌ってる。けど、アカシック殿やサニー殿となら、うまくやってけそうだ」

 つまり、あの一角獣も九百年以上生きている事になる。タイミング的にもちょうどいいし、あの子がどんな動物なのか聞いてみるか。

「ウィザレナ。あの子は、一体どういう名前の動物なんだ?」

「なんだ、知らなかったのか? あの子は『ユニコーン』だ」

「……え? ゆ、ユニコーン?」

「そうだ。私達エルフ同様、あの子も盗賊達に狙われててな。存在を隠しながら必死に守ってたんだ」

「は、はあ……」

 またとんでもない名前が、サラリと出てきたな……。目撃件数は片手で数えるほどしかない、伝説上の生き物だぞ?
 その、生きている内に会えるかすら分からない生き物が、私のすぐ近くに居て。なんならサニーを背中に乗せながら寝ている。
 ユニコーンに許可を得てから乗ったけども……。本当に大丈夫かな、あれ? 一角獣の正体を知ってしまった以上、だんだん恐れ多い絵面になってきたぞ。
 そういえば、私もさっきひたいを撫でていたんだよな。どうしよう、勿体なくて手を洗いたくなくなってきた。
 しかし……。私の心が闇に堕ちている時に、エルフの里を見つけなくて本当によかった。間違いなく狩っていて、新薬の材料にしていただろう……。

「その様子だと、本当に知らなかったんだな」

「で、伝説上の生き物だからな……。会えて光栄にすら思える」

「ははっ、そう畏まらなくていい。どうせ今日から、毎日会えるようになるんだからな」

 腕を組みつつ、平和に満ちた笑顔を浮かべるウィザレナ。そうだ、これから毎日会える様になるんだ。なら、手はちゃんと洗っておこう。

「ユニコーンが居る日常か。慣れるまで、ちょっと時間が掛かりそうだ」

「そう構える事もない。あの子はアカシック殿にも心を開いてるんだ。仲良くしてやってくれ」

「そうだな。分かった、そうする」

 そうなってくると、ユニコーンも守る必要がある。家に帰ったら、ウィザレナとユニコーンの為に、サニーが身に付けている首飾りのような物を作っておかないと。
 ウィザレナには、そうだな。腕飾りなんかが似合いそうだ。ユニコーンは、邪魔にならない箇所に留められるような、小さい物がいい。
 けど、私だけで決めるのもよくはない。後でウィザレナの意見を聞いておこう。どんな装飾がいいか、大きさはどれほどの物がいいかとな。

「おお、これが花畑地帯という場所か!」

 突然、ウィザレナが弾けた声を上げたので、私も窓から外の様子を覗いてみた。窓の先には、一面緑の景色は終わっており、今度は全て純白に変わっていた。
 その中には、点々と茶色の物体が動いている。かなり遠いから点にしか見えないけども、あれはゴーレムだな。

「アカシック殿。白の中に茶色が混じってるけど、あれがゴーレムという奴か?」

「そうだ。みんな温厚で心優しい奴だから、会ったら挨拶でもしといてやってくれ」

「そうか、分かった。それでなんだが、アカシック殿」

 急に小声になったウィザレナが、左側に横目を送った後。そわそわとしながら私に詰め寄ってきた。

「ウンディーネ様は、この地帯に住んでるだろ? どこにいらっしゃるんだ?」

「ああ、えっと……」

 私もサニーが寝ている事を確認しつつ、精霊の森がある方面へ指を差す。

「今は遠くて見えないが。こっちから見て左側に、小さな森がある。そこに住んでるぞ」

「左側! ……むう、確かに見えない。ずっと花が続てるし、ここも広いな」

 よっぽど見たかったのか。窓にへばりついたウィザレナの長い耳が、しゅんと垂れ下がっていった。表情も分かりやすく、残念そうにしている。

「他の地帯に比べると、花畑地帯はまだ狭い方だ。けど、徒歩で横断するとなると、一日は掛かるかもな」

「一日……、それでも充分広いな。しかし、実にいい景色だ。ここのど真ん中で寝そべったら、さぞ気持ちが良さそうだ」

「心地よい花の柔らかな匂いもするし、居るだけで落ち着いてくるぞ。少ししたら、みんなでここに来るか?」

「いいのか!? アカシック殿達とここへ来たら、絶対に楽しいだろうな! それじゃあ頼む!」

 即答で快諾してくれて、嬉しそうに微笑むウィザレナ。しゅんとしていた長い耳もピコピコ動いているし、既に待ち切れなそうでいる。
 それにしても、あの耳って器用に動かせるんだな。たぶん怒るだろうけど、なんだか触りたくなってきた。
 慌てて首を横に振り、湧いてはいけない好奇心を振りほどいている中。花畑地帯が終わりを迎え、色鮮やかな木々が茂っている『山岳地帯』へ入った。
 ここでもウィザレナは、新たな景色に興奮していて、窓が割れんばかりに引っ付いている。山岳地帯を低速度で飛ぶのは初めてだし、私も景色を見るとしよう。

「見てみろアカシック殿! 黄色い葉っぱや赤い葉っぱがあるぞ! あそこのなんて紫色だ! なんて毒々しい色をしてるんだ! 食べたら間違いなく腹を下すな!」

 家の下へゆっくり流れていく、紅葉と警告色が入り乱れる木々達。視覚的に涼し気な水色や、錆びの色に近い赤茶もある。
 が、色なんてどうでもいい。興奮が止まないでいるウィザレナは、気になる発言をしていた。それは……。

「お前、葉っぱを食うのか?」

「食材をなかなか確保できなかったからな、嫌々食べてた。他にも新芽とか、渋い木の実とか食べてたぞ」

「あ……」

 そうだ。ウィザレナは今日という日まで、エルフの加護が効いている範囲内でしか、生活が出来なかったんだ。
 そしてその外は、凶悪な魔物と獣で溢れ返っているから、数分の探索でさえ命取りになる。なら当然、食材なんて満足に集められる訳がない。
 今のは失言だった。ウィザレナの心を傷付けてしまったかもしれない。本当は、向こうに着いてから言おうと思っていたのだが……。もういい、ここで言ってしまおう!

「ウィザレナ!」

「うおっ!? ど、どうしたアカシック殿? 急に声を荒げて」

「向こうへ着いたら、まずは美味い物をたらふく食わせてやる! 出払って昼は振る舞えない日があるけども、朝昼晩、基本毎日私の家へ来い! 出来立ての料理を腹いっぱいになるまで提供してやる!」

「り、料理を、毎日? いや、いくらなんでもそれは悪い。私は、探索が得意なんだ。そこら辺に成ってる実とかを探し―――」

 言っても聞かないウィザレナの両肩に、勢いよく両手を叩きつける私。

「いいか、ウィザレナ? 私に気を利かすな。とりあえず栄養がある物を沢山食べろ。なんなら、食べたい料理を私に言え。どんな料理でも必ず作ってやる。だから、もう二度と葉っぱなんて食うんじゃない。分かったな?」

「あ、アカシック殿……? 顔が、すごく怖いんだが……? い、いいのか? 私が飯時に邪魔をして」

「いい、むしろ当然の事だ。みんなで食べるご飯は、美味しいぞ?」

「皆で食べる、ご飯、か……」

 なりふり構わず説得すると、ウィザレナの物思いにふけているような真顔が、少しだけ地面に下がる。数秒すると顔を上げ、天色の潤んだ瞳を微笑ました。

「確かに。家族と一緒に食べてた物は、何もかもが美味しかった。また、そんな体験が出来るなんてなぁ。本当に優しいな、アカシック殿は。優しすぎて、また泣いてしまいそうだ」

「そんな事を言ったら、私は当分お前を泣かし続ける事になるぞ」

「おいおい、やめてくれ。そこまでされたら、嬉し涙が枯れてしまう。ほどほどで頼む」

「すまないが、そこら辺に関しては手加減が出来ない。覚悟しておけ」

「ははっ。体にある水分が、全部嬉し涙になってしまうかもな。分かった、飯時になったら邪魔させてもらう。けど、その時は水も一緒に出してくれ。私が泣き過ぎて死なないようにな」

「ああ、沢山用意しておく」

 冗談を交えたウィザレナの微笑ましている右目が、キラリと輝いた。よかった。もうウィザレナには、悲しい涙を流させたりはしない。
 ウィザレナは、笑っている顔がよく似合っている。だからこそ、悲痛で歪んだ顔にもさせたくない。待っていろよ、ウィザレナ。もう少しで、私の家がある『沼地帯』に着く。
 まずは先ほど言った通り、お前に腹いっぱい美味しい物を食べさせてやるからな。楽しみにしていてくれ。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

側妃に追放された王太子

基本二度寝
ファンタジー
「王が倒れた今、私が王の代理を務めます」 正妃は数年前になくなり、側妃の女が現在正妃の代わりを務めていた。 そして、国王が体調不良で倒れた今、側妃は貴族を集めて宣言した。 王の代理が側妃など異例の出来事だ。 「手始めに、正妃の息子、現王太子の婚約破棄と身分の剥奪を命じます」 王太子は息を吐いた。 「それが国のためなら」 貴族も大臣も側妃の手が及んでいる。 無駄に抵抗するよりも、王太子はそれに従うことにした。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。

BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。 辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん?? 私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?

処理中です...