ぶっきらぼう魔女は育てたい

桜乱捕り

文字の大きさ
239 / 343

234話、とりあえず、一旦帰ろう

しおりを挟む
「……よし、よし。纏まってきたぞ」

 時間にして、数分程度だろうか。寝ているアルビスの頭を撫でていたら、不意に視界外からシルフの声が聞こえてきたので、そちらに顔を向けた。
 頭を抱え、地面に突っ伏していたシルフはというと。あぐらをかいて座っていて、肩を落としながらため息を吐いている最中だった。

「つまりだ。アカシックは時の魔力を保持してて、父親がフォスグリア爺さん、母親がオーラねぇの可能性があるんだな?」

「ああ、それで合ってる」

「で? そのどっちかから産まれたお前は、人間と時の精霊の混血だと?」

「割合は、ほぼ人間らしいけどな。限りなくゼロに近い割合で、時の精霊の血が混じってるらしいぞ」

 私もさっき聞いたばかりの話だから、その事実をまだ完全に信じられていない。というよりも、実感が湧いていない状態だ。

「はぁ、なるほどなぁ……。ほぼゼロに近い血の濃度だから、俺達も気付けなかった訳か。今更だけどよ、オーラ姉まで知ってるって事は、シャドウにぃが大体暴露してそうだな」

 ここを同調してもいいのか分からず、一旦シャドウに視線を送ってみると、腕を組んで立っていたシャドウは、目を瞑りつつ小さくうなずいてきた。

「そうだな。時の穢れに侵される前のフォスグリアは、すごく温厚だったとか。私がレムさんに保護される一年前ぐらいに、『ヴェリーオーラ』がいきなり消息を絶っただとか、大雑把に教えてもらった」

「ま、マジか。オーラ姉が消息を絶ったのは、大精霊間だけで留めてる、外部漏洩厳禁の秘匿情報だってのによお。……まあ、お前が時の大精霊の娘だって分かった今なら、知ってても大丈夫───」

「あ、あの……、シルフ様。すみません……」

「ん? ……あっ」

 視界の左側から、なんともばつが悪そうなアルビスの声が聞こえてきたので、恐る恐る視線を左に持っていく。
 見下ろした、視線の先。強張った顔が青ざめ切っていて、滝のような大汗をかいたアルビスが、口元をヒクつかせながら私達の顔を見返していた。

「……あ、アルビス? お前、いつから起きてたんだ?」

「す、少し前からです……。アカシックに頭を撫でられているのが、あまりにも心地よくて……。寝たフリをして、身を委ねていました……」

「プッ。く、クフフフフ……!」
 
 やや遠くから流れてきた、シャドウの吹き出し笑い。
 流し目であいつの様子を確かめてみると、シャドウは顔を後ろに逸らし、肩を小刻みに震わせていた。たぶんあれ、素で笑っていそうだな。

「シルフ。アルビスは、私の大事な家族なんだ。咎めるのはよしてくれよ?」

「別に、どうこうするつもりは、これっぽっちもねえけど……。ああ~……。まあ、アルビスは信用出来る奴だ。せっかくだし、最後まで付いてきてくれ」

「わ、分かりました! このアルビス、命を懸けてアカシックを護る所存でございます。なので、まず」

 急激に声色を低くしたアルビスに、強烈な敵意と殺意が宿り、未だ笑っているシャドウに凍てついた龍眼が移っていく。

「アカシックの命を狙う狼藉者は、等しく排除せねばなりません。シルフ様、あいつの抹殺許可を余に下さい」

「阿呆、与える訳ねえだろ。それにシャドウ兄の実力は、俺達の中でも随一だ。まともに戦ったら、俺はシャドウ兄の足元にも及ばねえ。もしシャドウ兄が本気で暴れたら、俺達でも助けられねえからな。お前が怒り狂う理由は充分分かってるけど、頼むから今は抑えてくれ」

「そんなッ!? ……いえ。承知致し、ました」

 アルビス、まったく腑に落ちていないんだろうな。まるで拗ねた子供のように口を尖らせて、私に抱きついてきてしまった。
 「……悔しい。余らの敵が、目の前に居るのに……」と、悔恨に満ちたか細い呟きが、耳に届いてくる。意識があるままシャドウに操られて、私を痛めつけた挙句、間接的に殺してしまったんだ。
 あんな目に遭わされたばかりだし、ここまでシャドウを恨むのも無理はない。無論、私だってシャドウを許すつもりは毛頭無いぞ。
 だから、この瞬間だけは、アルビスの味方に付いてやらないと。そう決めた私は、アルビスを抱き返し、あいつの肩に顎を置いた。

「辛かったよな、お前も。いつか必ず共闘して、シャドウを倒すぞ」

「……当たり前だ。あいつだけは、何があっても絶対に許さん───」

 言葉を溜めたアルビスが、急に私からガバッと離れ。なんだか嫌な予感がする希望を見出した龍眼を、私に合わせてきた。

「アカシック、『天照らす極楽鳥』だ。そいつを召喚すれば、憎きあいつを抹殺する事が出来るんじゃないか?」

「あ、確かに」

「おーい、てめえら。聞こえてんぞ? 世界が半壊しちまうから、変な気は起こすなよ?」

 呆れ返ったシルフの制止に、やや暴走気味のアルビスが「なら」と続ける。

「余らとあいつを、『風の瞑想場』へ連れて行って下さい。そこで『天照らす極楽鳥』を召喚すれば、世界に被害は及ばないはずです」

「世界に配慮した提案を出しても、じゃあとはならねえよ。アルビス、一旦落ち着け。とりあえず先に、沼地帯に帰るぞ。話の続きは、明日の夜が更けてから再開する」

「沼地帯……? あっ、サニー!」

「そうだ!」

 私の治療には、約十日間以上掛かっている。それに、アルビスの話によれば、サニーは水と食料をロクに摂取しておらず、体調が著しくないらしい。
 まずい、まずいぞ。一刻も早く沼地帯に帰って、サニーを安心させてやらないと!

「し、シルフ! サニーの目の前に、『水鏡みずかがみの扉』的な物を召喚してくれ!」

「ちょっと待ってくれ。シャドウ兄、ノーム爺さんは生きてんのか?」

「致命傷は与えていないから、その内にでも起きると思うよ」

「そうか。なら、『風の瞑想場』に送っとくか」

 どこか気だるそうに立ち上がったシルフが、ノームに構えた指を向けて『パチン』と鳴らす。
 すると、尻を突き出して倒れているノームの地面に、緑色の魔法陣が出現し。淡く光り出したかと思えば、ノームの体が徐々に、地面へ沈んでいった。

「で? フローガンズは寝てるだけか?」

「そうだね。彼女は、もうそろそろ起きると思うよ」

「じゃあ、とりあえず一緒に連れて帰るか。次は、ボロボロで血まみれのお前らだ」

 どんどん話を進めていくシルフが、今度は私達に構えた指を差し、有無を言わさず再び鳴らす。どうやら、私達に使用したのは、変身魔法のようで。
 視界が、煌めく緑色の粒子で満たされていき。数秒して薄れていくと、『ふわふわ』を掛けたフローガンズを隣に付けて、帰る準備を終えたシルフが見えてきた。

「うっし、ここには暫く用は無え。さっさと帰るぞ」

「しばらくって、またここに来る時が来るのか?」

「フォスグリア爺さんと戦う日が来たらな。ほれ、お前らも立て」

 大雑把に急かすシルフの指示に従い、抱えているプネラを起こさないよう立ち上がる。夢の中で、少し進展があったのか。涙は止まっていて、表情が少しほころんでいた。

「アカシック。プネラを抱っこするから、余に渡してくれ」

 微笑むプネラの顔を見て、一安心している中。視線を前にやると、両手を私に差し出しているアルビスが居た。

「お前が?」

「そうだ。両手が塞がってたら、サニーを抱きしめてやる事が出来ないだろう? 沼地帯に帰ったら、サニーを強く抱きしめてやってくれ」

「……ああ、そうだな。ありがとう」

 アルビスの配慮に甘え、抱えていたプネラを、アルビスの両手にそっと降ろす。アルビスもアルビスで、プネラを優しく抱きかかえてくれた。

「シャドウ兄。罠の解除が済んだら、俺に『伝心でんしん』してくれな。んじゃ、あばよ」

「クフフフフ。これが最後の別れになるかもしれないのに、冷たいねぇ」

「必ず帰って来るって信じてるからだよ。わざわざ言わせんな」

「そうかい。なら、一年後ぐらいにまた会おう」

 曖昧な再会時期を決めたシャドウが、私達に背を向けた。これ以上、語る事は無いと。出会ってから半日も経っていないだろうけど、なんだかあいつらしさを感じる別れ方だ。

『導きの光風こうふう

 不意を突くシルフの詠唱らしき声に、ほぼ無意識に振り返ってみると、移り変わった視界の先に、見上げるほど高く、幾重にも波紋を立たせた薄緑色の水面らしき物があり。
 その水面を隔てた、更に先。両目を限界まで見開き、驚いた様子で口に手を添えているディーネの姿。
 そのディーネの横。両膝を抱え、顔を膝にうずめて座っているサニーが───。

「……おい、嘘だろ?」

 ……サニー。お前、どれだけ食事や水を取らなかったんだ? 腕と足が、ちょっと細くなっているじゃないか。

「俺達やゴブリンが、いくら説得しても微動だにしなくてよ。サニーちゃんが寝てる間、ウンディねぇが治癒魔法を夜通ししててくれたんだ。頼む、アカシック。早く行ってやってくれ」

 シルフの掠れた声を合図に、震え始めた視界が前へ動き出し、『導きの光風こうふう』を通り抜けていき。視界を覆っていた薄緑色が、一気に晴れていった。

「サニーさん、サニーさんっ! アカシックさんが帰って来ましたよ!」

 ディーネが声を嬉々と弾ませて、サニーの背中をポンポンと叩くも、サニーは顔を上げようともしない。サニーは、本当に生きているんだろうな?
 再生したばかりの心臓が、暴れんばかりに鼓動を早めていく。もしかしたらという、最悪の結末が頭に過り、呼吸も乱れてきた。

「……サニー」

 絞り出した私の声が、サニーの耳に届いてくれたのか。ディーネの言葉に、まったく反応しなかったサニーの体が、ピクンと波打ち。
 塞ぎ込んでいた顔が、ゆっくり上がり始め。隠れていたサニーの顔が、あらわになる。
 ようやく見せてくれたサニーの青い瞳には、分厚い暗雲が掛かっているがの如く曇っていて、生気という光が全て失われていた。

「……おかあ、さん」

 私を認めてくれようとも、サニーの色褪せた表情は、真顔を保ったまま。
 ……ああ、そんな。ディーネの治癒魔法のお陰で、多少はマシになっているのだろうけど。頬も、見るからにこけている。
 潤んできた視界が、急激にサニーの元へ近づいていき。気が付けば私は、サニーを強く抱きしめていた。

「ごめん。待たせてしまってごめんよ、サニー……!」

「……お母さん。……う、うっ、うわぁぁぁああーーーーんっ!!」

 これだけ強く抱きしめているというのに、サニーの体温がほとんど感じ取れない。逆に、サニーの涙で湿っていく右肩が、酷く凍てついたように感じる。
 ……十日間以上も離れ離れになっていたんだ。寂しかったよな、怖かったよな。ごめん。本当にごめんよ、サニー。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

側妃に追放された王太子

基本二度寝
ファンタジー
「王が倒れた今、私が王の代理を務めます」 正妃は数年前になくなり、側妃の女が現在正妃の代わりを務めていた。 そして、国王が体調不良で倒れた今、側妃は貴族を集めて宣言した。 王の代理が側妃など異例の出来事だ。 「手始めに、正妃の息子、現王太子の婚約破棄と身分の剥奪を命じます」 王太子は息を吐いた。 「それが国のためなら」 貴族も大臣も側妃の手が及んでいる。 無駄に抵抗するよりも、王太子はそれに従うことにした。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。

BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。 辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん?? 私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?

処理中です...