ぶっきらぼう魔女は育てたい

桜乱捕り

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275話、一度欲という火が灯れば、燻らせるのは難しい

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 火の大精霊として、天敵であるウンディーネによる厳しい監視のもと。無難な姿でサニーに絵を描かれているイフリート様を、ゆったり眺めている中。
 アルビスとベルラザさんが、家から出てきたかと思えば。どこか和やかな雰囲気でいるアルビスが、「今からベルラザと共に、花畑地帯へ行ってくる」と言い残し、水鏡みずかがみの扉を通り抜けていき。
 二人が帰って来ないまま、昼が過ぎ。夕刻時、「実は、私にも戦闘形態なる姿があるのですが」と、ウンディーネがサニーに悪魔の囁きをするも、シルフの鉄拳制裁を食らって諦めても、二人は帰って来ず。
 夜ご飯を作っている途中。気を利かせてくれたシルフが、「あいつら、今日は帰って来ねえってよ」と確認をしてくれて。結局、あの二人が帰って来たのは、朝起きて朝食を作り始めた時だった。

 だらしない寝ぼけ眼で、大きなあくびまでついた二人いわく。花畑地帯に行ってから、真夜中になるまでの間。ずっと黄昏ていて、気が付いたら寝落ちしていたとのこと。
 その日、更に二人から聞いた話なのだが。なんでもベルラザさんは、広大な草原の景色や空を眺めているのが大好きらしい。
 それで、二人が家で何かを話し合った後。アルビスがベルラザさんに、花畑地帯の存在を教え。現地に着いたら、二人で元の姿に戻り黄昏ていたと。
 いつもより健やかな表情でいたアルビスは、「アカシック、貴様もやってみたらどうだ? クセになるぞ」と、嬉々に語っていた。

 ただひたすらに黄昏て、丸一日中、景色や空を眺めているだけの時間か。私も最後に長時間黄昏たのは、覚えている限り……。初めてサニーと、“迫害の地”にある海へ行った時かな。
 つまり私は、もう四、五年ほど黄昏ていないことになる。この事実が、良いのか悪いのか判断がつかないけれども。
 アルビスに軽い気持ちで明かした所、あいつは「じゃあ明日、花畑地帯に行くか?」と提案され。私が言葉を返す前に、ベルラザさんが「いいな! なら、皆で行こうぜ!」と付け入る隙もなく話を纏めてしまい。
 雲一つ無い、黄昏日和になった次の日。大人数が居ても、持て余すであろうほどの昼食と飲み水を用意した私達は、早速黄昏るべく、花畑地帯へと向かっていった。











「……ふぅ。星も綺麗だなぁ」

 午前中は、颯爽と吹く風に遊ばれて、右往左往流れていく純白の花々を眺め続け。夕刻時は、夕陽色が乗った雲海のように景色が様変わりして。
 夜になれば、ふわりとした青白い月光を浴びて、純白が淡い青色に発光し。『ふわふわ』を掛けた一枚布に、大の字で寝っ転がれば、目先に広がるは星々の海。
 朝から晩まで、何もしないで景色だけを眺めていたけれども。飽きがまったく来ず、頭の中が自然と空っぽになり、今の今までゆっくり黄昏ていた。

「こういう時間の使い方をするのも、悪くないなぁ」

 一日中、景色だけをぼーっと見ているだけの時間。全ての何かから解放されたような気がして、気持ちが羽のように軽くなり、これ以上に無い最高の贅沢をした気分になってくる。
 今の私は、残された時間が後一年もなく、一日一日がかなり貴重だというのに───。いや。自ら心を焦らせて追い込む考えは、あまりしない方がいい。
 心身共に、心地良く気分転換が出来たんだ。明日の朝を迎えるまでは、何事にも縛られず、心に余裕を持って黄昏ていよう。

「ねえ、お母さん」

 全身の力を抜き、星の海に吸い込まれていきそうな感覚を覚え始めた頃。隣に居たサニーが、まどろみを含んだ声で呼んできた。

「ん、どうした? サニー」

「今日一日、本当に何もしなかったね。なんだか、一日がすごく長く感じたや」

「確かにそうだな」

 サニーの言う通り。時間の流れが遅く感じて、一分が数十分にも間延びした感覚を覚え。体感的に、三日間ほど花畑地帯に居たような錯覚に陥っている。

「みんなすごいよねぇ……。どうして、ずっと何もしないでいられんのぉ……? あたしは暇過ぎて、死んじゃうかと思ったよぉ……」

 私達の会話が耳に届いていたらしく。そよ風に負けて霧散してしまいそうなほど、弱々しいフローガンズの文句が流れてきた。

「体を休ませるのも、修業の一環だと言っただろう?」

 黒龍の姿に戻り、同じく不死鳥姿に戻っていたベルラザさんの横に居たアルビスが、穏やかな龍眼をこちらへ合わせて言ってきた。

「そういうのも、大事なんだろうけどさぁ……。相性ってのがあるじゃ~ん……? たぶんあたし、火より暇の方が弱点かもしんな~ぃ……」

「はっはっはっ、そりゃ大変だ。致命的な弱点が分かったからには、一刻も早く克服しねえとだな」

 視界外から、シルフの意地悪そうな提案が遠くから聞こえてきては、フローガンズの「ふぇぇ~……」というトドメを刺されたような、か細い声が続く。

「氷の嬢ちゃん……。あんたが言ってること、俺様はよ~く分かるぜえ……。たぶん俺様も、暇が弱点なんだろうなあ……」

 今の覇気がまったく無かった声は、ノームか? あんなに萎れたノームの声、初めて聞いたから、最初誰かと思ったぞ。

「アタシも流石に、ちょっと休み疲れちゃったわ」
「俺らも、あんまジッとしてられねえからな。んで、ノームとは違って、あんたらは平気そうだな」

 私とサニーの会話から始まり、みんながだんだん触発され出したのか。カッシェさんとヴェルインも、会話をし始め。話を振られたであろうイフリート様達も、加わっていく。
 そして更に、ウィザレナとレナも口を開き、静かに笑い合っている。先ほどまで、風に煽られた花々が擦れ合う音ぐらいしか、聞こえなかったというのに。
 こうなると、もう収拾はつかないだろうな。活気に溢れてきた空気が、体を脱力させることを忘れさせていく。私も話に混ざりたいと、安らいでいた心が疼いてきた。

 一度、欲という火が灯ってしまえば、燻らせるのは難しい。無理に水を掛けず、私も会話に参加してしまおうかな。
 そう決めた私は、重く感じる上体を起こし、眠気を覚ますべくグイッと伸ばす。
 そして、深呼吸しながら肩を落とし、どの組の会話に入ろうかと見やった視界の先。いつの間にか、不死鳥から人間の姿に戻っていたベルラザさんが居て、口角をニヤリと上げていた。
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