ぶっきらぼう魔女は育てたい

桜乱捕り

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289話、度を越え過ぎた自己紹介

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「へぇ~、ここが城壁内部か」

 衛兵さんに導かれ、木製の扉を潜り抜け。外の明るさに慣れていた視界が、薄暗さにだんだん適応してきた頃。予想以上の広さに、興味が湧いてきた視界を、ひっきりなしに動かしていく。
 城壁内部は、タートの街側と繋がっているらしく。数十m先にある突き当りの壁にも、私達が潜り抜けた物と同じ扉が伺える。
 松明が等間隔に設置された、左側。上の方から光が差しているので、たぶん、あそこから城壁の上に出られるのだろう。右側は、街へ通ずる通路があるので、石レンガの壁しかない。
 それにしても、待機中の衛兵さんの人数が多いな。見える範囲内に十人以上は居そうだし、全員が全員、私達に注目している。

「わぁ~、思ってたよりすごく広いやっ! あの、兵士さん! 絵を描いてもいいですか!?」

「ごめんね、サニーちゃん。絵を描くのは、控えて欲しいな」

 瞬く間に興奮し出したサニーが、そのままの勢いで衛兵さんにお願いするも。苦笑いをした衛兵さんが、やんわりと断った。

「ええ~、ダメなんですか?」

「特別な理由がない限り、一般人の入室は出来ない場所だか、らぁ……」

 引き下がらなそうなサニーへ、絵を描けない理由を説明している最中。何かに気を取られた衛兵さんが、いきなり呆然とし出し、両腕をダランと垂らした。

「えぇ~……。反応、しちゃうんだぁ……」

 と思いきや。今度はとんでもなくバツが悪そうな声を発し、顔から血の気が引いていき、その顔から汗が噴き出した。
 見ている方向からして、私の左側になるけれども。衛兵さんは一体何を見て、そこまで驚愕しているのだろう───。

「え?」

 私も気になったので、顔ごと左側へ向けてみれば。全身に淡い白色の光を纏っている、レナが見えた。

「れ、レナ? なんか、お前の体が光ってるぞ?」

「ふぇ? ……えっ? な、なにこれ!?」

「そ、それは、ですねぇ……。変身魔法の使用を感知すると、現れる光で、ございます……」

「な、なんだと……?」

 タートの控室に、そんな仕掛けが施されていただなんて……。しかし、私、サニー、ウィザレナ、ヴェルイン一味以外の全員が、変身魔法を使用しているというのに対し。
 アルビス、ベルラザさん、ファート、フローガンズ、大精霊達の体は、依然として発光していない。なぜ、レナの変身魔法だけ感知されたんだ?
 アルビスとベルラザさんは、自身で。ファート、フローガンズは大精霊から。レナは、私が教えた変身魔法を使用している。
 だとすると、精度の差によるものだろうか? レナに変身魔法を教えてから、まだ日が浅い。たぶん、そのせいで感知されたのかもしれない。

「……あの、衛兵さん? この場合、どうなってしまうんでしょうか?」

「ほ、法律に則り、正体を改めさせて頂く必要が、ございます」

「なぜ、その必要が?」

「指名手配犯や前科者の侵入を、未然に防ぐ為です」

 これは、想像に容易い余計な質問だった。そうだ、そうだよな。タートは、厳重な法律や守りのもと、絶対的な平和が保たれている。
 となると、通路側にも、変身魔法を感知する仕掛けが施されているかもしれない。この仕掛けの感知精度が、それほど高くなくてよかった。
 もし、レナだけじゃなくて全員感知されていた時。場が更に混乱を極め、収拾がつかない事態に陥っていただろう。

「ならば、拒否した場合は?」

「お連れの方々諸共、入国拒否の処置を取らせて頂きます」

 まあ、普通そうなるか。しかし、これ以上の質問は危うい。私達の立場が悪くなる一方だし、レナも気まずくなってしまうだろう。

「まぁ~、アカシックさんやアルビスさんのお連れの方でしたら、問題無いと思うんですけどね~。しかし、そこで忖度してしまうと、我々の立場が無くなってしまいますので、是非ご協力をお願いします」

 申し訳なさそうに事情を説明した衛兵さんが、両手を合わせて頭をペコリと下げてきた。私とアルビスって、そこまで信用されているんだ。

「アカシック様、私は大丈夫です」

「……レナ」

 あまりにも優しいレナの声量に、思わず視界を移してみれば。私と顔が合うと、レナは柔らかくほくそ笑んだ。

「本当に、大丈夫か?」

「はい! アカシック様や皆様方が付いていますので、まったく怖くありません」

「……そうか。すまない、レナ。ありがとう」

 改めてレナの覚悟を受け取った私は、ウィザレナが居る方へ顔を向けた。

「私はレナの意志を尊重する」

「分かった」

 ウィザレナも察してくれて、私が何かを言う前に即答してくれたけれども。そうすんなりと、レナの正体を明かさせる訳にもいかない。
 衛兵さんは、法律に則って行動しているだけ。そして、私達を深く信用してくれている。ならば、一つぐらい条件を付け加えても、問題無いだろう。

「衛兵さん。一つだけ約束して欲しいことがあります。いや、絶対に誓って下さい」

「約束ですか?」

「はい。レナの正体を知っても、国絡みで危害を加えるような真似だけは───」

「アカシック。法律を重んじる国相手に、その交渉は悪手だし無駄なだけだぞ」

 レナの正体を知った上で、手を出すなと私の談判に重なる、ベルラザさんの呆れ声。

「なんでですか?」

「私達はレナの正体を知ってても、衛兵は知らない状態だ。あっち目線で見ると、これから何が出てくるのかまったく分からないんだぞ? その状態で交渉しても、お前やレナに対する警戒心が強まるだけだ」

「あちらの方の、言う通りでございます。ですので、まだ確約は出来ません」

「な、なるほど……」

 言われてみれば、そうだ。レナの正体が分からない以上、いくら私が一方的に交渉しようとも、全てがただのワガママと化す。
 更に、警戒心とやらも悪い方へ動くだろう。もしかしたら、犯罪者をタートに忍び込ませようと、手助けしているのかもしれないと邪推されかねない。

「私は、すごく嬉しくなりましたよ。アカシック様」

「私もだ、アカシック殿。元々大好きだったが、より好きになったぞ」

「二人共……」

 ニコリと無垢な笑みを送るレナに、嬉しそうに凛と微笑むウィザレナ。とにかく、レナを守ろうする姿勢は、二人に伝わってくれたらしい。

「す、すみません。大それたことをしてしまいまして……」

 ただの一般庶民がやり過ぎたと反省し、熱くなる前に大事を回避させてくれたベルラザさんに、感謝の意を込めつつ、衛兵さんに頭を深々と下げる私。

「いえいえ、お気持ちは分かります。それに、悪い意味で隠している訳ではないと、我々にも十分伝わりました」

「そう、ですか。本当によかったです……。以後、気を付けます」

 衛兵さんの、揉め事に対する宥め方よ。あまりにも手慣れた感があるせいで、この人は普段から、相当苦労しているんだなと察してしまった。

「……では。レナ、お願いしてもいいか?」

「分かりました。それでは、変身魔法を解きますね」

 そう、レナが快諾してくれるや否や。レナの足元から魔法陣が現れ、儚い虹色の光が、薄暗い部屋内を満たしていく。
 数秒すると変身が終わり。光の壁を昇らせていた魔法陣が、収まってきた虹色の光と共に消滅していき。
 光が薄れた中から、美しい純白の毛並みを纏う、額に立派な黄色い角を生やしたユニコーンが現れた。……レナのユニコーン姿、久々に拝んだな。

「……あ、へっ? ええっ!? ……あ、アカシック、さん? こちらの一角獣さんは、もしかして……?」

 レナの正体を視認した矢先。衛兵さんは口をパクパクとさせ、点になった目を合わせつつ、ブルッブルに震えた手をレナにかざした。

「御覧の通り、ユニコーンです」

「ですよねぇッ!? ……感知もちゃんと切れてるし、本物で間違いないんでしょうけど……。わぁ……、ほ、本当に、実在するんだ……」

 伝説の存在を前に、衛兵さんはただただ圧倒され、高速で瞬きを繰り返すばかり。あれは完全に、思考が停止していそうだな。

「なあ、衛兵さん。さっき言った希少な種族が優遇される法律ってのは、不死鳥フェニックスにも適用されるのか?」

 ベルラザさん? まさか、このタイミングで自分の正体を明かすつもりなのか? 周りの衛兵さん達も、ユニコーンの出現によって、目を疑い頭が真っ白になっている最中だぞ?

「……へっ? ふぇ、ふぇにっくす、ですか? 希少種族なので、ウィザレナさん、レナさん同様、居れば適用されるかと思います」

 流石は、国の出入り口を任された衛兵さんと言った所か。ユニコーンを前にして、なんとかギリギリ説明出来ている。

「よっし! それだけ分かればいい! んじゃ───」

 途端に意気揚々とし出したベルラザさんが、口角をニヤリと上げた瞬間。ベルラザさんの周囲に、やや控えめ気味な炎の旋風が突如として出現し、姿を覆い隠した。
 あの旋風、風量を調整出来るんだ。熱さはまったく感じないけど、何事かと把握出来ていない衛兵さん達は皆、片腕で顔を塞いでいる。

「な、なん、なんっ!?」

「あの馬鹿、突拍子もなくやり過ぎだぜ。下手すりゃ、なんかの罪で捕まっちまうかもしんねえぞ?」

 突然のことに混乱を極め、衛兵さんの騒ぎ声が飛び交う中。悠々と腕を組んでいるシルフが、物騒でありそうな未来をボソッと呟いた直後。
 ベルラザさんの姿を隠した炎の旋風が弾け飛び。その中から、不死鳥フェニックスの姿に戻ったベルラザさんが現れ、聖火を彷彿とさせる両翼を小さめに開いた。

 ───私、こういうもんだから、よろしくな!

 自ら『伝心でんしん』を使い、豪快かつ破天荒に自己紹介するも。衛兵さん達は、間髪を容れぬ生きた伝説の出現に腰を抜かし、全員が地面にへたり込んでいる。
 私達を控室に案内した衛兵さんも、とうとう脳が処理し切れず、放心状態に陥ったらしく。不死鳥を目にしても、「わあー……、きれー……」と語彙力を無くした感想しか出てきていない。
 大丈夫かな? この状況。かなりの騒ぎを起こしてしまったし、異変に気付いた別の衛兵さんが、救援に来なければいいのだが。
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