ぶっきらぼう魔女は育てたい

桜乱捕り

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303話、特別な思いが籠った物

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「やっぱタートと言ったら、この焼き魚だよな。う~ん、美味いっ」

 アカシックが、再度『アンブラッシュ・アンカー』の虚像に囚われぬよう、場を持たせる意味も込めて、近辺にある露天巡りを始めてから、体感的に三時間ほど経過しただろうか。
 一つの露店へ行っては、適当な軽食と飲み物を購入し。小一時間程度、会話を絶やさず話し込みを三、四回繰り返し行い。
 程よく小腹が満たされた頃。露天巡りの締めをしたいと言ったアカシックが、どこか既視感を覚える焼き魚を選び。嬉しそうに微笑みながら噛り付き、控え気味な唸り声を上げた。
 アカシックが夢中になって食べている、あの焼き魚よ。余も食べた記憶がある気がする。はて? いつだったか───。

「あ、思い出した」

「んあっ? 何がだ?」

 思わず漏れ出した、余の言葉にアカシックが反応してしまったので、あいつがいる方へ顔を移してみれば。
 アカシックが手に持っていたはずの焼き魚は、既に綺麗サッパリ無くなっていた。……まさか、当時の場面まで再現してくれるとは。相変わらず、食べるのが早いな。

「貴様がすぐに食べ終えた、その焼き魚についてだ」

「この焼き魚?」

「ああ。どこかで見た覚えがあると思い、記憶を辿っていたんだ。それで、余が初めてタートに来た時、貴様と一緒に食べた物だと思い出してな」

「アルビスが、初めてここに来た時……。ああ~、街中で買った焼き魚か。そうだな、それと同じ焼き魚で合ってるぞ」

「やはりな」

 アカシックの答え合わせにより、何故、余の記憶があやふやだったのかも、同時に理解出来た。
 当時の余は、半年以上先に控えたアカシックの誕生日に、あいつが喜ぶ贈り物をしてやりたいと、必死になって探っていたんだ。
 それで、落ち着いて話せる時間を作ろうと目論み。その目的を遂行すべく選んだのが、あの焼き魚だった。それも、もう一、二年ぐらい前の出来事になるのか。懐かしいな。

「それはそうと。他の飲食物は、そうでもなかったが。その焼き魚だけは、やたらと嬉しそうに食べていたじゃないか。何か特別な思いでもあるのか?」

「え? 私、そんな嬉しそうに食べてたのか?」

「それはもう。一回目の時は、まだ貴様の感情が戻ってなかったから、それほどでもなかったが。今は、屈託の無い笑顔で食べてたぞ」

「そ、そんな顔をしながら食べてたんだな、私……」

 噓偽りなく明かしてみると、アカシックの口角が途端に引き攣り出した。二年前に比べると、アカシックの感情や表情は、見間違えるほど豊かになった。いや、そう戻ったのだと言った方が正しい。
 アカシックの口角が、ピクピクと小刻みに震え始めてから数秒後。鼻から小さくため息をつき、アカシックの眼差しが柔らかくほくそ笑んだ。

「特別な思い、かぁ。そういえば、これはまだ話してなかったな」

「ほう。となると、あるんだな?」

「ああ、ある。この焼き魚に沢山詰まった、特別な思いがな」

 滑らかに語り始めた反面。淡い夕陽色に彩られたアカシックの表情には、一抹の侘しさが含まれている。これは、興味本位に委ねたせいで早まったかもしれん。
 現在、余らが居る場所は『タート』という街だ。そして、アカシックの言い様や表情から察するに、きっと『ピース』殿と関連しているだろう。

「……それは、貴様にとって話しても問題の無い内容か?」

「お前って、ほんと私をよく見てくれるよな。また、それっぽい顔をしてたのか?」

「ああ。かなり遠い過去の景色を見てるような顔をしてた」

「それは……、どういう顔なんだ? ま、まあいい。話しても大丈夫な内容だよ。特別な思いと関係してるのは、ピースだからな」

「な、なるほど」

 やはり、予想が当たってしまった。しかし、アカシックの声色は、普段となんら変わりない。動揺はしておらず、非常に落ち着いている。

「なら、是非とも聞かせてくれ」

「もちろんだ。この焼き魚な? 私とピースが教会から『タート』に引っ越した日、人生で初めてお店で購入して、一緒に食べた物なんだ」

「ほうっ、人生で初めて」

「ああ。色んな手続きを終わらせて、お昼ご飯はどうしようかと二人で悩んでてな。それで、街中を歩き回ってみた結果。選んで決めたのが、この焼き魚という訳だ」

 焼き魚に刺さっていた木の棒を、余にズイッと寄せたアカシックが、弾んだ笑顔を浮かべた。アカシックとピース殿は、『レム』殿に匿われた元孤児だ。
 その二人が大人になり、教会から『タート』に移住し。人生で初めて店で購入した食べ物。それが、あの焼き魚だと。
 だからアカシックは、余が初めて『タート』へ来た時。あの焼き魚を、無表情ながらも嬉しそうに食べていたのか。
 それにしても、詰まっていた特別な思いの内容よ。二人にとって、何もかもが新鮮でかけがえのない、決して忘れられない思い出になっただろう。

「なるほどなぁ。それは、さぞ美味かっただろう?」

「ものすごくな。齧った瞬間、口の中に焼き魚の美味しさが爆発したんだ。パリッパリの皮。ふっくらした身。塩気と旨味が強く、トロトロした脂身。全部が全部衝撃的な味で……、え?」

 初めて口にした焼き魚の感想を、細かに説明していた最中。突然、空気の抜けたような声を漏らしたかと思えば。
 アカシックの目が限界まで見開き、余に合わせていた顔をバッと逸らし、真逆に移った後。アカシックは微動だにしなくなった。
 ……なんだ? たった今、アカシックの中で何が起きた? 目に映る範囲内で、これといった異変は見受けられない───。

「……ピース?」
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