ぶっきらぼう魔女は育てたい

桜乱捕り

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317話、一人だけ先に行った未来は、約百年分

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「私だけ何年先に、か。お前らしくない、不思議な言い回しじゃないか」

「僕はあの時から、自分の時が止まってしまったからね。今は、同じ時間を共有しているように感じるけど、君だけが遠い未来へ行ってしまった気がするんだ」

 片や、肉体を失った魂。片や、無限に近い時間を手に入れた不老不死。その二人が、同じ空間に居て、同じ時間を過ごしているように見えるけど、実はそうじゃないと。言い得て妙だな。
 死は、時が止まったと同義。この考えは、私も昔からしていた。しかも実際、ピースは『アンブラッシュ・アンカー』に殺された後。
 『フォスグリア』か『ヴェリーオーラ』の手により、魔法を掛けられて時を止められていた。約九十四、五年。百年近くもの間。

 どう説明すれば、ピースの精神的負担を最小限に抑えられるだろうか。……いや。どう足掻いても、百年という衝撃が大き過ぎる。
 それに、いきなり答えを言ったとしても、更なる疑問を生むだけだ。まずは、私がどうしてこの見た目を保っているのか、先にそれを言わないと。

「……そうか。ちなみに、ピース。お前は、あれから何年経ってると思う?」

「そうだなぁ……。四、五年前後って所かな?」

 四、五年。きっと、私の容姿を参考にして導き出したのだろう。それはそれで鋭い。私が“迫害の地”へ行ったのは、二十歳の時だ。
 そして、その四年後。私は『不死鳥のくちばし』と『女王の包帯』を調合した薬を飲み、不老不死になっている。つまりピースは、私の肉体年齢を二十四歳だと見事言い当てた。

「じゃあ私は、二十四歳になるのか。お前とは同じ年齢だったのに、少しお姉ちゃんになっちゃったな」

 正解と冗談を交えるも、ピースは沈黙を貫く。数秒の間を置き、覚悟を決めた私は、鼻からため息を漏らし。正面にある、まどろんだ大海を見やった。

「二十四歳になった時。私が“迫害の地”へ行ってから、四年後ぐらい。その年に、私はとある調合薬を飲んで、不老不死になったんだ」

「え? 不老、不死?」

 妙に歯切れが悪いピースの声色から察するに。予想だにしていなかった返答に、動揺し出したって所かな。
 まあ、無理もない。私が不老不死になっていると言ったのは、これが初めてなのだから。

「不老不死になった後、そこから約三十年後。“迫害の地”に行って三十四年後辺り、そこで初めてアルビスと出会った」

「さ、三十四年後……?」

 三十四年という、ここまで来るのに半分にも満たない年月が、ピースの声を震わせた。次の新たな出会いで、ようやく半分に達する。

「ヴェルイン達と出会ったのは、更にそこから約二十年後。“迫害の地”に行ってから、五十四年ぐらい経った頃になる」

「ご……、五十、四……」

 もう、ピースの声には力が籠っていない。さざ波にさらわれてしまいそうなほど、弱々しい声量まで落ちている。
 ファートと出会った時期は、ヴェルインとさほど離れていないので、ここから一気に時を飛ばしてしまおう。

「それで、更にそこから三十年後。私が“迫害の地”に行ってから、約八十四年の年月が経過した頃。針葉樹林しんようじゅりん地帯で、生まれて間もないサニーを発見して、そのまま保護した」

 最早、ピースからの反応は無し。顔色をうかがっていないけれども、呆然としているに違いない。

「サニーは、今年で十歳になった。その十年の間に、残りのみんなと出会ったんだ」

 “迫害の地”へ行ってから、五十四年間という途方にもない年月を要したのにも関わらず、何も成果を得られないでいた中。アルビスやヴェルイン達、ファートとしか出会えていないのに対し。
 サニーの出会いを切っ掛けに、闇に堕ちていた私の心が、だんだん晴れていき。忘れていた様々な物を、徐々に思い出していき。それに伴い、十年の間に環境が目まぐるしく変化していった。

「私が“迫害の地”へ行った日を、ゼロとしよう。アルビスと出会うまでに三十四年。ヴェルイン達は二十年。サニーを保護するまでに三十年。サニーを育てた十年。三十四足す二十足す三十足す十で……」

 みんなと出会うまでに掛かった年月を数字に直し、簡単な足し算の問題を出しつつ、ピースが居る方へ顔を移していく。
 薄っすらと明るみを帯びてきた海が見えなくなった、視界の先。小刻みに震える口を噤み、眉間に浅いシワを寄せ、どの感情で目を見張っているのか分からないピースの顔が見えた。
 怒る寸前のように見え、泣くのを必死に我慢しているような印象がある、複雑な感情が入り乱れたピースの表情よ。私の記憶が正しければ、今日初めて見た。

「ピース。お前の時が止まってしまってから、約九十四、五年。あれから、もう百年近く経ってる」

 ピースが知りたがっていた答えを、同時に突き付けるや否や。見張っていたピースの目が、より大きく見開いた。震えも、そう。口だけには留まらず、顔全体まで移っている。
 そりゃそうだ。一人で四年先の未来へ行っていたのかと思いきや、実は不老不死になっていて。四年後ではなく、その約二十五倍。百年後の未来まで行っていたんだからな。
 不老不死化という、常軌を逸した現実。並大抵の考えでは、予測が不可能な年月。あまりにもかけ離れた、時間の流れの体感速度。その絶望感といったら、計り知れない物になるだろう。
 さざ波の無常な音が、息苦しい静寂を破り続ける最中。どこを見ているのか想像が付かないピースの視線が、やや左側へ逸れた。

「……あ、アルビス、さん? あ、アカシックが言った、ことは……、本当、なんですか……?」

「ええ、全て真実です。余とアカシックは、今から六十年近く前に出会いました」

「そ、そんな……」

 私が突き付けた現実を受け入れられず、助けを求めてアルビスに確認してみるも。返ってきた確たる絶望に、ピースの口が半開きになった。
 隠していた明かしたくない情報を一つ伝えただけで、ピースは放心状態に陥ってしまった。……私はあと、何回これを繰り返せばいいんだ?
 胸を締め付けられるような思いをして、攻撃紛いな現実を突き付けて、ピースの心や精神に負担を掛け続けるんだ?
 ピースには教えたくない内容が、あまりにも多過ぎる。九十四、五年の内、約八十年以上もの間、私は間違ったことを仕出かし続けていたのだから。
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