322 / 343
317話、一人だけ先に行った未来は、約百年分
しおりを挟む
「私だけ何年先に、か。お前らしくない、不思議な言い回しじゃないか」
「僕はあの時から、自分の時が止まってしまったからね。今は、同じ時間を共有しているように感じるけど、君だけが遠い未来へ行ってしまった気がするんだ」
片や、肉体を失った魂。片や、無限に近い時間を手に入れた不老不死。その二人が、同じ空間に居て、同じ時間を過ごしているように見えるけど、実はそうじゃないと。言い得て妙だな。
死は、時が止まったと同義。この考えは、私も昔からしていた。しかも実際、ピースは『アンブラッシュ・アンカー』に殺された後。
『フォスグリア』か『ヴェリーオーラ』の手により、魔法を掛けられて時を止められていた。約九十四、五年。百年近くもの間。
どう説明すれば、ピースの精神的負担を最小限に抑えられるだろうか。……いや。どう足掻いても、百年という衝撃が大き過ぎる。
それに、いきなり答えを言ったとしても、更なる疑問を生むだけだ。まずは、私がどうしてこの見た目を保っているのか、先にそれを言わないと。
「……そうか。ちなみに、ピース。お前は、あれから何年経ってると思う?」
「そうだなぁ……。四、五年前後って所かな?」
四、五年。きっと、私の容姿を参考にして導き出したのだろう。それはそれで鋭い。私が“迫害の地”へ行ったのは、二十歳の時だ。
そして、その四年後。私は『不死鳥のくちばし』と『女王の包帯』を調合した薬を飲み、不老不死になっている。つまりピースは、私の肉体年齢を二十四歳だと見事言い当てた。
「じゃあ私は、二十四歳になるのか。お前とは同じ年齢だったのに、少しお姉ちゃんになっちゃったな」
正解と冗談を交えるも、ピースは沈黙を貫く。数秒の間を置き、覚悟を決めた私は、鼻からため息を漏らし。正面にある、まどろんだ大海を見やった。
「二十四歳になった時。私が“迫害の地”へ行ってから、四年後ぐらい。その年に、私はとある調合薬を飲んで、不老不死になったんだ」
「え? 不老、不死?」
妙に歯切れが悪いピースの声色から察するに。予想だにしていなかった返答に、動揺し出したって所かな。
まあ、無理もない。私が不老不死になっていると言ったのは、これが初めてなのだから。
「不老不死になった後、そこから約三十年後。“迫害の地”に行って三十四年後辺り、そこで初めてアルビスと出会った」
「さ、三十四年後……?」
三十四年という、ここまで来るのに半分にも満たない年月が、ピースの声を震わせた。次の新たな出会いで、ようやく半分に達する。
「ヴェルイン達と出会ったのは、更にそこから約二十年後。“迫害の地”に行ってから、五十四年ぐらい経った頃になる」
「ご……、五十、四……」
もう、ピースの声には力が籠っていない。さざ波にさらわれてしまいそうなほど、弱々しい声量まで落ちている。
ファートと出会った時期は、ヴェルインとさほど離れていないので、ここから一気に時を飛ばしてしまおう。
「それで、更にそこから三十年後。私が“迫害の地”に行ってから、約八十四年の年月が経過した頃。針葉樹林地帯で、生まれて間もないサニーを発見して、そのまま保護した」
最早、ピースからの反応は無し。顔色を窺っていないけれども、呆然としているに違いない。
「サニーは、今年で十歳になった。その十年の間に、残りのみんなと出会ったんだ」
“迫害の地”へ行ってから、五十四年間という途方にもない年月を要したのにも関わらず、何も成果を得られないでいた中。アルビスやヴェルイン達、ファートとしか出会えていないのに対し。
サニーの出会いを切っ掛けに、闇に堕ちていた私の心が、だんだん晴れていき。忘れていた様々な物を、徐々に思い出していき。それに伴い、十年の間に環境が目まぐるしく変化していった。
「私が“迫害の地”へ行った日を、ゼロとしよう。アルビスと出会うまでに三十四年。ヴェルイン達は二十年。サニーを保護するまでに三十年。サニーを育てた十年。三十四足す二十足す三十足す十で……」
みんなと出会うまでに掛かった年月を数字に直し、簡単な足し算の問題を出しつつ、ピースが居る方へ顔を移していく。
薄っすらと明るみを帯びてきた海が見えなくなった、視界の先。小刻みに震える口を噤み、眉間に浅いシワを寄せ、どの感情で目を見張っているのか分からないピースの顔が見えた。
怒る寸前のように見え、泣くのを必死に我慢しているような印象がある、複雑な感情が入り乱れたピースの表情よ。私の記憶が正しければ、今日初めて見た。
「ピース。お前の時が止まってしまってから、約九十四、五年。あれから、もう百年近く経ってる」
ピースが知りたがっていた答えを、同時に突き付けるや否や。見張っていたピースの目が、より大きく見開いた。震えも、そう。口だけには留まらず、顔全体まで移っている。
そりゃそうだ。一人で四年先の未来へ行っていたのかと思いきや、実は不老不死になっていて。四年後ではなく、その約二十五倍。百年後の未来まで行っていたんだからな。
不老不死化という、常軌を逸した現実。並大抵の考えでは、予測が不可能な年月。あまりにもかけ離れた、時間の流れの体感速度。その絶望感といったら、計り知れない物になるだろう。
さざ波の無常な音が、息苦しい静寂を破り続ける最中。どこを見ているのか想像が付かないピースの視線が、やや左側へ逸れた。
「……あ、アルビス、さん? あ、アカシックが言った、ことは……、本当、なんですか……?」
「ええ、全て真実です。余とアカシックは、今から六十年近く前に出会いました」
「そ、そんな……」
私が突き付けた現実を受け入れられず、助けを求めてアルビスに確認してみるも。返ってきた確たる絶望に、ピースの口が半開きになった。
隠していた明かしたくない情報を一つ伝えただけで、ピースは放心状態に陥ってしまった。……私はあと、何回これを繰り返せばいいんだ?
胸を締め付けられるような思いをして、攻撃紛いな現実を突き付けて、ピースの心や精神に負担を掛け続けるんだ?
ピースには教えたくない内容が、あまりにも多過ぎる。九十四、五年の内、約八十年以上もの間、私は間違ったことを仕出かし続けていたのだから。
「僕はあの時から、自分の時が止まってしまったからね。今は、同じ時間を共有しているように感じるけど、君だけが遠い未来へ行ってしまった気がするんだ」
片や、肉体を失った魂。片や、無限に近い時間を手に入れた不老不死。その二人が、同じ空間に居て、同じ時間を過ごしているように見えるけど、実はそうじゃないと。言い得て妙だな。
死は、時が止まったと同義。この考えは、私も昔からしていた。しかも実際、ピースは『アンブラッシュ・アンカー』に殺された後。
『フォスグリア』か『ヴェリーオーラ』の手により、魔法を掛けられて時を止められていた。約九十四、五年。百年近くもの間。
どう説明すれば、ピースの精神的負担を最小限に抑えられるだろうか。……いや。どう足掻いても、百年という衝撃が大き過ぎる。
それに、いきなり答えを言ったとしても、更なる疑問を生むだけだ。まずは、私がどうしてこの見た目を保っているのか、先にそれを言わないと。
「……そうか。ちなみに、ピース。お前は、あれから何年経ってると思う?」
「そうだなぁ……。四、五年前後って所かな?」
四、五年。きっと、私の容姿を参考にして導き出したのだろう。それはそれで鋭い。私が“迫害の地”へ行ったのは、二十歳の時だ。
そして、その四年後。私は『不死鳥のくちばし』と『女王の包帯』を調合した薬を飲み、不老不死になっている。つまりピースは、私の肉体年齢を二十四歳だと見事言い当てた。
「じゃあ私は、二十四歳になるのか。お前とは同じ年齢だったのに、少しお姉ちゃんになっちゃったな」
正解と冗談を交えるも、ピースは沈黙を貫く。数秒の間を置き、覚悟を決めた私は、鼻からため息を漏らし。正面にある、まどろんだ大海を見やった。
「二十四歳になった時。私が“迫害の地”へ行ってから、四年後ぐらい。その年に、私はとある調合薬を飲んで、不老不死になったんだ」
「え? 不老、不死?」
妙に歯切れが悪いピースの声色から察するに。予想だにしていなかった返答に、動揺し出したって所かな。
まあ、無理もない。私が不老不死になっていると言ったのは、これが初めてなのだから。
「不老不死になった後、そこから約三十年後。“迫害の地”に行って三十四年後辺り、そこで初めてアルビスと出会った」
「さ、三十四年後……?」
三十四年という、ここまで来るのに半分にも満たない年月が、ピースの声を震わせた。次の新たな出会いで、ようやく半分に達する。
「ヴェルイン達と出会ったのは、更にそこから約二十年後。“迫害の地”に行ってから、五十四年ぐらい経った頃になる」
「ご……、五十、四……」
もう、ピースの声には力が籠っていない。さざ波にさらわれてしまいそうなほど、弱々しい声量まで落ちている。
ファートと出会った時期は、ヴェルインとさほど離れていないので、ここから一気に時を飛ばしてしまおう。
「それで、更にそこから三十年後。私が“迫害の地”に行ってから、約八十四年の年月が経過した頃。針葉樹林地帯で、生まれて間もないサニーを発見して、そのまま保護した」
最早、ピースからの反応は無し。顔色を窺っていないけれども、呆然としているに違いない。
「サニーは、今年で十歳になった。その十年の間に、残りのみんなと出会ったんだ」
“迫害の地”へ行ってから、五十四年間という途方にもない年月を要したのにも関わらず、何も成果を得られないでいた中。アルビスやヴェルイン達、ファートとしか出会えていないのに対し。
サニーの出会いを切っ掛けに、闇に堕ちていた私の心が、だんだん晴れていき。忘れていた様々な物を、徐々に思い出していき。それに伴い、十年の間に環境が目まぐるしく変化していった。
「私が“迫害の地”へ行った日を、ゼロとしよう。アルビスと出会うまでに三十四年。ヴェルイン達は二十年。サニーを保護するまでに三十年。サニーを育てた十年。三十四足す二十足す三十足す十で……」
みんなと出会うまでに掛かった年月を数字に直し、簡単な足し算の問題を出しつつ、ピースが居る方へ顔を移していく。
薄っすらと明るみを帯びてきた海が見えなくなった、視界の先。小刻みに震える口を噤み、眉間に浅いシワを寄せ、どの感情で目を見張っているのか分からないピースの顔が見えた。
怒る寸前のように見え、泣くのを必死に我慢しているような印象がある、複雑な感情が入り乱れたピースの表情よ。私の記憶が正しければ、今日初めて見た。
「ピース。お前の時が止まってしまってから、約九十四、五年。あれから、もう百年近く経ってる」
ピースが知りたがっていた答えを、同時に突き付けるや否や。見張っていたピースの目が、より大きく見開いた。震えも、そう。口だけには留まらず、顔全体まで移っている。
そりゃそうだ。一人で四年先の未来へ行っていたのかと思いきや、実は不老不死になっていて。四年後ではなく、その約二十五倍。百年後の未来まで行っていたんだからな。
不老不死化という、常軌を逸した現実。並大抵の考えでは、予測が不可能な年月。あまりにもかけ離れた、時間の流れの体感速度。その絶望感といったら、計り知れない物になるだろう。
さざ波の無常な音が、息苦しい静寂を破り続ける最中。どこを見ているのか想像が付かないピースの視線が、やや左側へ逸れた。
「……あ、アルビス、さん? あ、アカシックが言った、ことは……、本当、なんですか……?」
「ええ、全て真実です。余とアカシックは、今から六十年近く前に出会いました」
「そ、そんな……」
私が突き付けた現実を受け入れられず、助けを求めてアルビスに確認してみるも。返ってきた確たる絶望に、ピースの口が半開きになった。
隠していた明かしたくない情報を一つ伝えただけで、ピースは放心状態に陥ってしまった。……私はあと、何回これを繰り返せばいいんだ?
胸を締め付けられるような思いをして、攻撃紛いな現実を突き付けて、ピースの心や精神に負担を掛け続けるんだ?
ピースには教えたくない内容が、あまりにも多過ぎる。九十四、五年の内、約八十年以上もの間、私は間違ったことを仕出かし続けていたのだから。
0
あなたにおすすめの小説
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
側妃に追放された王太子
基本二度寝
ファンタジー
「王が倒れた今、私が王の代理を務めます」
正妃は数年前になくなり、側妃の女が現在正妃の代わりを務めていた。
そして、国王が体調不良で倒れた今、側妃は貴族を集めて宣言した。
王の代理が側妃など異例の出来事だ。
「手始めに、正妃の息子、現王太子の婚約破棄と身分の剥奪を命じます」
王太子は息を吐いた。
「それが国のためなら」
貴族も大臣も側妃の手が及んでいる。
無駄に抵抗するよりも、王太子はそれに従うことにした。
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します
白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。
あなたは【真実の愛】を信じますか?
そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。
だって・・・そうでしょ?
ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!?
それだけではない。
何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!!
私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。
それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。
しかも!
ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!!
マジかーーーっ!!!
前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!!
思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。
世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。
BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。
辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん??
私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる