小さな町の不思議・怖い話

みつか

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秋が深まる頃、遠くの方から鳥が渡ってくる。

「ピックィー……ピックィー……」

渡り鳥の鳴き声。

本当はそう鳴いているのだが……

「ヒュッツルー……ヒュッツルー……」

とある漁師にはその様に聴こえるらしい。

「『ヒュ(魚の名前)を釣れ』っち鳴いている!さぁっ!時期が来たがっ!釣りに行かんばっ!」

意気揚々と海の方を眺める。

秋になると、海が時化てくるが天気が良く波が荒くない時を見計らって朝早くに船で海に出かける。

沖に出ると普通の釣り竿とは違い、長く大きな竿を船に縛り、仕掛け(釣り)を流しながら船を走らせる。

潮の流れより少し速いスピードで魚が喰らいつける位の速さで走る。

海にはエンジン音が響き、バシャンバシャンと船から波しぶきが飛び散る。

海鳥が群れて、子魚を狙っている場所や流木等の浮き物がある近くを狙って走り抜ける。

『浮き物や小魚の近くに魚がいる』

漁師の師匠の教えだった。

ギシッ!ビイィーン!!

竿がしなり、太い糸が引っ張られる。

「ウーレッ!!しゃっかぁーっ!(やったーっ!)」

歓喜の声を上げる漁師は後ろを振り返り、周りに船が居ないことを確認しながら少しスピードを緩める。

舵を取りながら紐をたぐり寄せる。

パシャッ……バシャッ……

魚は船の後方で海の上に跳ね上がる。最後の抵抗を見せる。

針が外れないように注意しながら船はゆっくり走らせ、舵を気にしながら魚との力比べを楽しむ。
魚との命のやり取りだ。

勝ったのは漁師。勢い良く魚を船の上に投げ上げると

「ウラッ!!暴れるなッ!!」

ビッタン……バッタン……ビチビチ

船の上に釣り上げられた魚は長い体をしならせバッタバッタと大暴れする。

釣り糸がグチャグチャになり、船の上は色んな物が魚によって散らされる。

「ウレサッッ!!」

漁師は棒を手に、魚の後頭部へ一撃。

「ゴッ!!」

魚はビクビクと痙攣し静かになる。

光に当たって黄色や金に光る背中に青や緑色も入った綺麗な色の魚。お腹は銀色に光る。大きな魚の割に鱗(うろこ)はとても小さい。

お日様色の綺麗な魚の名前は『シイラ』

ハワイでは『マヒマヒ』
島では『ヒヌユ』や『マンビキ』と言う魚

時期になると漁師達が狙う魚だ。

当たりを引くと沢山釣れる。
技量にもよるが……

この漁師、今日は異常な程に大漁を引き当てた。

その中で一匹だけ不思議な魚がいた。

生きてはいる。

ビタビタと動いてはいるのだがとどめを刺した後、魚の体にハリがなくフニャフニャ、触るとぷにぷにした身をしている事に気づく

「……生きてはいるんじゃが……ムン(ケンムン)にいたずらされた魚か?」

初めての経験に漁師は頭をかしげていると船が急に大きく揺れ海に落ちそうになるがそこは経験値の高い漁師。

足を踏ん張り海への転落を阻止する。

「波もなかったんじゃが……何かがぶつかった訳でも無い……気味悪いッ!」

異様な雰囲気に味わった事のない感覚……

「沢山釣れたし帰るか……」

欲張らずにそろそろ帰ろうと考え帰宅する為に舵をきる。

ぷにぷにの変な魚だけは売りに出さない様に大きな袋に包んで冷凍し、家族や親族で消費する分を確保すると市場に沢山の魚を出荷する。

帰宅すると、親族や地元の人に頼まれた分の魚を捌く。

不思議な柔らかい魚の身は他の魚より柔らかい。氷に入れていたのに身が締まっていないのである。

目に見えて寄生虫がいる訳でもないのだが、水風船の様にフニフニしているのだ。

「……刺身でいけるか?少し食べてみるか?」

少し身を切るとパクリと一口。

普通の魚の身より柔らかくはあるが、味は変わらない。少しザラっとした舌触りがあるだけだった。

「大丈夫じゃ!」

と、確認すると3枚におろし、お刺身用に少し切る。残りの骨と食べられる内臓は味噌汁に

身が付いた骨とぶつ切りにした身を数個味噌汁にすると不思議なことが起こる。

「!!あなたッ!!魚が骨だけになったッ!!身が消えてなくなった!食べて大丈夫なのコレ?!」

嫁の驚いた声にお刺身の食べ比べをしていた漁師がのそりとやってくる。

「……本当じゃや。わんも初めて見たが……ミズユ(水の様な魚の意味)じゃコレ!昔に師匠から聴いたことはあったが本当にいるんじゃやっ!溶ける魚っ!珍しい!漁師して20年以上なるが初めて見たっ!」

驚きと感動を表現する。

「食べるのは問題ないが……骨だけじゃ食べる所無いやっ!ハハハッ!」

漁師は笑うが嫁は気味悪がって食べるのをためらう。

「ミズユっちば溶けて無くなるっち、水になる魚っち師匠が言ってたが、ムン(ケンムン)が食べたんだろう?ユ(魚)の味だけはするが普通のとすれば味がまっくねん(美味しくない)匂いだけじゃや……」

溶けた魚は美味しくなく、食べるところもないので結局破棄する事に。

鍋の中には骨だけ……ドロリと溶けた頭に不気味さを感じた嫁は急いで破棄すると

「食べないでごめんなさい……恨まないでね」

ポツリと拝みながら捨てる。
どろりと目玉が落ちギロリと睨まれた気分になり謝らずにはいられなかった。

ゾクリと鳥肌が立ち袋に仕舞うとすぐにゴミ箱へと放り投げる。

嫁とは裏腹に漁師はお刺身にした身の食べ比べを始めている。

「まっくねんや……(美味しくない)」

美味しくないと言いつつも全てを食べる。少しザラザラとした食感に歯ごたえも釣りたてと思えない食感だった……

嫁は気味悪がってお刺身も味噌汁も食べなかった。

体調に問題も無く食べる事は出来たが味は美味しくなかった。

水の様な魚……

「ムンがイタズラした魚かもしれんや……次当たる時は海に帰そうや……」

漁師は美味しくない魚を何とか食べると嫁と約束する。

半身の身だけ残っていたが畑に埋めて埋葬した。

その後、特に水の様な魚には当たることはなかった。


釣りたての魚の身がふにゃふにゃしていたらそれは「ケンムン」がいたずらした魚かも?しれませんよ……



そんな魚が釣れる日はケンムンに海に落とされない様に気をつけてくださいね。






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