喫茶 レイン

mito

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喫茶 レイン

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商談を終えると、既に時刻は21時を過ぎていた。
今日は朝から雲行きが怪しかったが僕の嫌な予感は見事に的中し、外は土砂降りの雨だった。
胸ポケットから煙草を取り出すと、おもむろに火をつけ、ゆっくりと煙を吸い込んだ。
嫌煙家で溢れる今の世の中は僕等喫煙者には全く住み難い世の中になってしまったものだ。
溜息と共に煙を吐き出した途端、煙草の先端にどこからか落ちて来た雨粒がぶつかり、火種は消えてしまった。

「ちくしょう」

つい言葉に出てしまった。
こんな日は無性に寄り道したくなるのが僕の性格だ。
僕はタクシー乗り場へと向かった。

タクシーへ乗り込むと、とりあえず最寄りの駅までと告げ、運転手は頷き、車を走らせた。

「お客さん、今日は酷い雨ですなぁ」

ふと、運転手が唐突に話しかけてきた。

「お客さん、知ってますか?この辺に面白い喫茶店があるんですよ。なんでも、雨の日にしか開かないって話です。」

「名前はねぇ…確か喫茶レインとかって名前だったと思います。」

僕は帰る前にそこに寄る事にした。

土砂降りの雨の中、薄暗い看板に柔らかな灯りが点いていて、ドアの前に立つと香ばしい珈琲の香りが漂ってきた。

ゆっくりと戸を開けると、店主のしゃがれた声が響いた。

「いらっしゃい」

奥行きのあるカウンターが伸び、店内は全体的に落ち着いた雰囲気を醸し出していた。
僕は入ってすぐのカウンター席へ座り、改めて店主と顔を合わせた。
落ち着いた声の割に店主は意外にも若く見えた。
歳は三十前半程か。
短い黒髪を七三に分け、満面の笑みでこちらを伺っている。

「今日はまだ貴方が最初のお客様ですよ。注文が決まりましたらお呼び下さい。」

そう言い残すと店主は椅子に腰掛け、煙草を取り出した。

「ブレンドと、僕も灰皿を1つ」

一声掛けると、また沈黙が続いた。

灰皿が届くと、僕も煙草を取り出し、火をつけた。

ふと、店主が語り始めた。

「最近じゃあ、どこも禁煙ですね。ここではゆっくり吸って下さいね。」

「お言葉に甘えて、ふふっ」

いい店を見つけたと自分でも思った。

その後届いたブレンドは非常にバランスの取れた味わいで、砂糖とミルクを入れても香りは損なわれず、最後まで非常に美味だった。

「また来ますよ。雨の日に」

そうして僕はここに通い始めるのだった。


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