寄せ集めの英雄と、涙を隠した君の笑顔。この世界の結末は俺たちが決める!

Gaku

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第三章:信じること、見つめる先

第25話:世界の理と、お菓子の袋

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龍之介という、規格外の剣豪(で、どうしようもなく酒癖の悪い中年)が仲間に加わったことで、駿一行の旅は、良くも悪も、その混沌の度合いを一層深めていた。

「おい源! てめぇ、また俺の酒を飲みやがったな!」
「うるせぇ! 酒は万人のもんだろうが! 大体、筋肉のためには適度なアルコールによる血行促進が必要なんだよ!」
「筋肉バカが知ったような口を利きやがって! 俺の酒は俺のもんだ!」

夜の野営地。焚き火を挟んで、酒瓶を片手に怒鳴り合う源と龍之介。もはや日常と化した光景に、駿はこめかみを押さえながら、深いため息をついた。

「やかましいぞ、貴様ら。獣が逃げる」
木の幹に寄りかかり、瞑想でもするかのように静かに座っていた桔梗が、片目だけを薄く開けて、低い声で二人を牽制する。その静かな一言に含まれた殺気に、二人の元・最強(自称含む)は、ぴたりと動きを止めた。

「あらあら、皆様お元気ですこと」
彩葉が、ふんわりと微笑みながら、熱い茶の入った湯呑みをそれぞれの前に置いていく。彼女が通った後には、なぜか穏やかな空気が流れる。
駿は、その光景を眺めながら、改めて思う。
(俺のパーティ、武闘派とツッコミ役しかいねえのか……)
いや、いる。栞と小夜という二人の天才が。しかし、彼女たちは今、焚き火の光を頼りに、何やら怪しげな実験に没頭していた。

「この鉱石の結晶構造は、実に興味深い。既知のどの元素とも異なるパターンを示していますわ」
「この文字……見たことないけど、何故か、読める……」
少女二人が、ぶつぶつと専門用語の独り言を呟きながら、薄気味悪く笑っている。

「……前言撤回だ。このパーティ、武闘派とツッコミ役と、ヤバい奴しかいねえ」

千夏がいた頃の、太陽のような明るさが中心にあった食卓が、今はまるで、危険物処理施設のような緊張感と、動物園のような騒がしさに満ちている。駿は、頼むから一日でいいから、平和に過ごさせてくれ、と心の中で天を仰いだ。



そんなカオスな旅の道中、龍之介が「龍の巣」で掴んだ情報が、一行の次の針路を少しだけ明確にした。

「『天つ鏡』、ねえ。奴らは、筋金入りのヤバい連中だぜ」
龍之介は、酒を呷りながら、苦々しげに語った。
「『紅い刃』みてえに、分かりやすく悪事を働くわけじゃねえ。奴らの目的は、もっとでかくて、もっとたちが悪い。『創造主の歪めた世界の理を、一度無に帰し、本来あるべき清浄な姿へと再生させる』。それが、奴らの掲げる大義名分だ」

「世界の理……創造主……?」
駿は、その壮大すぎる言葉に、眉をひそめた。まるで、自分が愛読していたラノベの設定のような、現実味のない響きだった。

「選民思想、というやつですわね」
栞が、眼鏡を押し上げながら冷静に分析する。「自分たちだけが世界の真理を理解しており、その真理のためなら、既存の世界を破壊することも厭わない。歴史上、多くの悲劇を生み出してきた、最も危険な思想の一つです」

「つまり、『紅い刃』とも、王国や幕府とも敵対する、完全な第三勢力ってことか」
桔梗の言葉に、龍之介は頷く。
「ああ。奴らにとっちゃ、この世の全てが『歪んだ病巣』で、それを治すためには、患者ごと一度殺すしかねえって考えてる、イカれた医者の集団だ。そして、その『天つ鏡』の現場指揮官が、組合の受付にいた氷みてえな女、静。そんで、その上に、組織の指導者がいるらしいが、そいつの名は誰も知らねえ。ただ、『ウツロ様』って呼ばれてる、それだけだ」

(ウツロ……)
その名前に、駿はなぜか、胸の奥がざわつくような、奇妙な既視感を覚えた。しかし、それが何なのか、今はまだ思い出せない。



一行が、鬱蒼とした森の中を進んでいた、その時だった。
空気を切り裂くような甲高い鳴き声と共に、空が巨大な影で覆われた。見上げると、鷲の上半身とライオンの下半身を持つ、伝説の魔獣「グリフォン」の群れが、こちらを狙って急降下してくるところだった。その数、十体以上。

「総員、戦闘準備!」
桔梗の鋭い声が飛ぶ。
即座に、一行は完璧な陣形を組んだ。前衛に、源と龍之介。中衛に、駿、彩葉、桔梗。そして後衛に、小夜と栞。これまでの旅と戦いが、彼らに言葉なくして連携する術を叩き込んでいた。

グリフォンの鋭い爪が、源の筋肉に覆われた腕に深々と食い込む。しかし、源は怯むことなく、その腕を力任せに振り回し、グリフォンごと地面に叩きつけた。龍之介の木刀は、風を切る音もなく、滑るようにしてグリフォンの翼の付け根を打ち、その飛行能力を奪っていく。

しかし、敵の数が多すぎる。
一羽のグリフォンが、防御の薄い後衛へと回り込み、術の詠唱に集中していた小夜と栞に狙いを定めた。

「「しまっ――!」」

グリフォンの大きく開かれた嘴の中に、灼熱の炎が渦を巻く。全てを焼き尽くすであろう、高熱のブレスが、無防備な二人の少女に放たれようとしていた。

誰もが、間に合わない、と死を覚悟した、その瞬間。

(――間に合えッ!)

駿は、無我夢中だった。理屈も、制御も、何もかもをかなぐり捨て、ただ仲間を守りたいという一心だけで、空間歪曲の力を最大まで解放した。

バキィィィィンッ!

彼の目の前の空間が、まるで巨大なハンマーで叩き割られた鏡のように、甲高い音を立てて砕け散った。空間に、黒い亀裂が走る。それは、ただの歪みではない。向こう側の、何もない虚無の空間が覗く、完全な「穴」だった。

グリフォンが放った灼熱のブレスは、その空間の裂け目に、まるで掃除機に吸い込まれるかのように、轟音と共に吸い込まれていく。そして、遥か上空に、まるで出口のように開いた別の裂け目から、空しく吐き出され、雲を焦がした。

それは、二つの空間を、無理やり繋ぎ合わせる「ワームホール」とでも言うべき現象だった。

「な……」
駿は、自分の掌を見つめ、愕然とした。ただ歪ませるだけだったはずの、地味で役-立たずだと思っていた力が、仲間を守りたいという一心で、世界の法則そのものに干渉する、とんでもない力へと「変化」したのだ。彼は、その計り知れない可能性と、一歩間違えば世界そのものを破壊しかねない危険性に、初めて恐怖を覚えた。

彩葉は、その光景の一部始終を見ていた。彼女の瞳には、驚きと、そしてそれ以上の、熱を帯びた感情が浮かんでいた。(この御方は、誰かのために、世界の理すらも変えてしまう)。彼女の中で、駿という存在が、また一つ、大きなものになっていくのを感じていた。



その夜の野営地は、いつもより静かだった。
グリフォンとの激闘と、駿が見せた未知の力。その余韻が、仲間たちの間に緊張と、ある種の畏怖をもたらしていた。
駿は一人、焚き火から少し離れた場所で、自分の掌をじっと見つめていた。この力は、一体何なんだ。俺は、何者なんだ。答えの出ない問いが、彼の心を重く支配していた。

そんな彼の元に、静かな足音と共に、栞がやってきた。彼女は、いつものドジっ子な雰囲気ではなく、学者としての真剣な顔つきをしていた。

「駿さん。少し、よろしいでしょうか」
彼女の手には、数枚の羊皮紙が握られていた。それは、彼女が時間を見つけては分析を続けていた、あの『チョコだぬき』の包み紙に関するレポートだった。

「例の包み紙の分析が、ようやく終わりましたわ。結果は……驚くべきものです」
栞は、深刻な顔で、一枚の羊皮紙を駿に見せた。そこには、複雑な化学式と、グラフのようなものがびっしりと書き込まれていた。

「結論から言いますと、この包み紙に使われているインクの化学組成、そして紙の繊維を構成するセルロースの分子構造、その全てが、この世界の物質組成の法則から、僅かに、しかし決定的に逸脱しています」

「……どういう、ことだ?」

「平たく言えば、この包み紙は、この世界にあるどの木からも、どの鉱物からも、絶対に作り出すことができない『異物』だということですわ。そして、これは仮説ですが……」

栞は、一度言葉を区切り、分厚い眼鏡の奥から、まっすぐに駿の瞳を見つめた。

「貴方の存在もまた、この包み紙と同じく、この世界の理(ことわり)の外から来たものである可能性が、極めて高いのです」

その言葉に、駿は息を呑んだ。自分が異世界から来たことは知っている。だが、それが、世界の法則レベルで「異物」であると突きつけられたのは、初めてだった。

そして、栞は最後の、そして最も衝撃的な事実を告げる。その声は、僅かに震えていた。

「そして、もう一つ。龍之介さんの情報から、『天つ鏡』の指導者の名を、古文書の記述と照合してみました。その名は**『ウツロ』**。それは……」

「それは、貴方がこの世界に来る前に読んでいたという物語、『終焉の勇者と七つの災厄』に登場する、最後の敵(ラスボス)の名前と、完全に一致します」

栞の言葉に、駿は、血の気が引いていくのを感じた。
頭の中で、錆びついた歯車が、ギシリと音を立てて噛み合う。
『ウツロ』。
そうだ、聞いたことがある。忘れるはずがない。自分が何度も読み返し、その孤独と狂気に、ある種の共感すら覚えていた、あの物語の、絶対的な最後の敵。

ただの偶然か?
それとも。
自分の読んでいた物語と、この現実の世界が、ありえない形で、そして最悪の形で、リンクし始めている。

駿は、自分の足元が、ガラガラと音を立てて崩れていくような、巨大な眩暈に襲われた。物語は、世界の根幹を揺るがす、最大の謎を突きつけて、静かにその口を開けた。
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