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番外編 綾音視点 『空気読み検定一級の「正義」』
第2話 周波数の違うノイズ
しおりを挟む一一月の文化祭前日。
教室の空気は、今までで一番最悪だった。
**静(しずか)**が倒れて休んで、**翔(かける)**が落ち込んでて、**理子(りこ)**がイライラしてて。
その原因は全部、あの静が「ロミオとジュリエット」のヒロインなんか引き受けたせいだ。無理なら最初から断ればいいのに、いい顔して引き受けて、結局パンクして周りに迷惑かけるとか、マジでありえない。
私たちが愚痴を言ってたら、いきなりガタッて音がした。
あの根暗な**蓮(れん)が立ち上がって、黒板になんか書き殴った。
さらに、今まで空気だった湊(みなと)**が前に出てきて、演説を始めた。
「……静は、自分の網膜を焼きながら笑っていたんです」
は?
網膜? 焼く?
何それ、ホラー映画の話?
湊の声は、真剣だった。
でも、だからこそ怖かった。
彼が言ってる言葉の意味が、一ミリも理解できない。日本語なのに、知らない国の言葉を聞かされてるみたい。
「君たちの発する信号が強すぎて~」とか言ってるけど、要するに何?
私たちが悪いって言いたいの?
私たちが普通に笑って、普通に盛り上がってたのが、「暴力」だったって言いたいの?
ふざけんな。
そんなの、言いがかりじゃん。
だって、私たちは普通にしてただけだよ?
世の中の九割の人間がやってる「普通のコミュニケーション」をしてただけなのに、勝手に傷ついて、勝手に倒れて、その上「お前らが悪い」みたいに責められるなんて、理不尽すぎる。
(……怖い)
怒りよりも先に、寒気がした。
こいつら、何なの?
湊も、蓮も、静も。
私たちが大切にしてる「常識」とか「空気」とかが、全く通じない。
宇宙人みたいだ。
言葉が通じない相手に、一方的に断罪されてる恐怖。
私は助けを求めた。
**大樹(だいき)**だ。
彼なら、いつもみたいに上手く通訳してくれるはず。
「あー、湊が言いたいのはさ、もっと静ちゃんを労(いた)わってやろうぜってことだよ!」って、明るくまとめてくれるはず。
「……ねえ、大樹」
私はすがるように声をかけた。
「湊の言ってること、どういう意味? いつもの翻訳、してくれよ」
お願い。
この訳のわからない不気味な空気を、いつもの「笑える空気」に戻して。
大樹がこっちを見た。
でも、その目は冷たかった。
いつもの「いい奴」の目じゃない。
私たちを、汚いものでも見るような、見下した目。
彼は何も言わなかった。
ポケットに手を突っ込んで、ふん、と鼻で笑って、黙り込んだ。
(……あ)
見捨てられた、と思った。
私たちの味方だと思ってた大樹すら、あっち側(宇宙人側)に行っちゃったんだ。
「自分たちで考えろ」って言われた気がした。
でも、考えたって分かるわけないじゃん。
「網膜を焼く」なんて感覚、私たちにはないんだから。
教室が静まり返る。
私の大好きな「楽しい空気」が、完全に死んだ瞬間だった。
残ったのは、得体の知れない「周波数の違うノイズ」だけ。
私は自分の席で、小さく震えるしかなかった。
私たちが信じてた「普通」って、そんなに脆(もろ)くて、悪いことだったの?
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