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関東編
第九話 0と1の鎮魂歌(レクイエム)
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絶望には、質量がある。
それは、俺が何百年という、終わりのない時間を生きてきて、唯一、確信を持って言えることだった。物理法則や科学的根拠などどうでもいい。これは、俺の魂が、俺の全存在が、骨の髄まで染み込ませてきた、揺るぎようのない真実だ。愛する者の死も、友との別離も、時代の奔流に取り残される孤独も、すべてが物理的な重みを伴って、俺の心に沈殿し、蓄積されてきた。それは、決して消えることのない、高密度の澱(おり)だった。
そして今、俺の身体に濁流のように流れ込んでくる、この電子霊の核――その正体は、ネットというデジタルの荒野で行われた集団リンチの果てに、自らの部屋で、たった一人で、その短い生涯に幕を閉じた、名もなきアイドルの少女の悲しみ。それは、確かに重かった。まるで絶対零度の鉛を流し込まれるような、冷たく、鋭く、魂の最も柔らかい部分を的確に抉り、引き裂いていく、おそろしく純度の高い絶望だ。
全身の細胞という細胞が、そのひとつひとつが、内側から悲鳴を上げ、分子レベルで引き裂かれていくような、凄まじい苦痛が全身を駆け巡る。これは単なる精神攻撃ではない。俺という存在の、概念そのものを消し去ろうとする、純粋な破壊衝動の塊だった。
「ぐっ……! ああ、あああああああ!」
見えない万力に全身を締め上げられるような感覚に、俺は抗うこともできず、その場に膝をついた。錆びた鉄の匂いが立ち込める廃倉庫。その内部のすべての電力が、まるで巨大なブラックホールに引き寄せられる銀河のように、俺の体へと凄まじい勢いで吸い込まれていく。天井の照明が明滅を繰り返し、やがて甲高い音を立てて破裂する。壁の配電盤からは青白い火花が滝のように流れ落ち、空間そのものが悲鳴を上げているかのようだ。電子霊が、俺という生身の器を乗っ取り、この物理世界に、その怨嗟のすべてをぶちまけるための肉体として、顕現しようとしているのだ。
だが。
俺の心は、その程度では折れなかった。いや、もはや「折れる」という概念すら、とうの昔に失くしてしまっていた。
脳裏に、まるで壊れた映写機が暴走するように、俺がこれまでに見送り、喰らい、そして乗り越えてきた、無数の絶望の記憶が駆け巡る。それは、この哀れな少女が経験した絶望とは、比較にすらならない、時間という名の暴力によって熟成された、深淵そのものだった。
江戸の空が、燃えるような茜色に染まっていた、あの日。腕の中で、愛した女が、皺くちゃの老婆になって、俺の名を呼びながら、安らかに息を引き取った。若く美しいままの俺の頬を、枯れ木のような指で優しく撫で、満足そうに微笑んで逝った彼女の顔。永遠の時を生きる俺と、有限の時を生きる彼女との、決して埋められない断絶。あの、世界から色が消え失せたかのような、静かで、穏やかで、そして底なしの絶望。
明治の世、西洋の文化が雪崩れ込んできた、あの冬の日。唯一の親友と呼べる男が、肺の病で血を吐きながら、俺だけを残して、この世を去った。文明開化の喧騒の中、たった一人、彼の冷たくなっていく手を握りしめ続けた。もう二度と、誰とも深い絆を結ぶまいと心に誓った、あの日の、骨身に凍みるような絶望。
昭和、平成、そして令和。時代が移り、景色が変わり、価値観が反転し、俺が知っている顔は誰一人としていなくなった。歴史の教科書の中にしか、俺の記憶を共有できる者は存在しない。完全に、文字通り、世界で独りぼっちになった、あの日の、虚無に包まれた絶望。
そして、死にたいと、心の底から消えてなくなりたいと願っても、この呪われた肉体は、傷一つ負うことなく再生を繰り返す。どんな高さから身を投げても、どんな刃で心臓を貫いても、翌朝には何事もなかったかのように目覚めてしまう。その、決して死ぬことができないという絶対的な事実を悟った、あの日の、永遠に続くかと思われた、出口のないトンネルのような絶望。
それら一つ一つが、一個の銀河系にも匹敵するほどの質量を持った、巨大な絶望の塊だった。俺の心は、そうした銀河がひしめき合う、超銀河団のようなものだ。
俺は、心の中で、俺の身体を内側から食い破ろうとしている、そのか細くも鋭い悲しみに、語りかけた。それは憐憫でも同情でもない。あまりにも永い時を生きてしまった、古き者から新しき者への、ある種の宣告だった。
(お前の悲しみは、分かる。痛いほどにな。辛かっただろう。苦しかっただろう。信じていたファンに裏切られ、匿名性の皮を被った無数の悪意に人格を否定され、世界中が自分を嘲笑う敵に見えたんだろう。その小さな肩で、あまりにも多くの石礫を、たった一人で受け止め続けたんだ。立派だったよ)
血反吐を吐き、意識が朦朧とするほどの激痛の中で、俺は確かに、不敵に、そして獰猛に、笑っていた。その笑みは、絶望の深淵を覗き込みすぎた者だけが浮かべられる、狂気と紙一重の笑みだった。
(だがな、嬢ちゃん。俺が積み重ねてきた絶望に比べりゃ、お前のその鋭く尖った悲しみなんざ、夜空に瞬く星屑……いや、道端に転がる鼻クソみたいなもんだ。悪いが、俺のこの身体と心は、お前みてえな、ひよっこの絶望に乗っ取られるほど、安くはできてねえんだよ)
それは、虚勢でもなければ、単なる強がりでもなかった。
何百年もの孤独が、決して終わることのない時間が、皮肉にも、俺の精神を、この世のどんな物理法則をも超越した、何者にも壊すことのできない、一種の概念そのものへと、変えてしまっていたのだ。
俺の中にある、あまりに巨大で、深淵で、そして静謐な絶望の海が、逆に少女の絶望という名の嵐を、力ずくで飲み込み、跳ね返していく。巨大な恒星が、小さな惑星の引力をものともしないように。
その瞬間、俺の絶望に気圧された電子霊のシステムに、ほんの一瞬、コンマ数秒にも満たない、だが、致命的ともいえるほどの隙が生まれた。
◇
「……来た! 今だ!」
倉庫の隅に設営された、無数のケーブルとモニターが要塞のように組まれた一角。仮想空間という、もう一つの戦場で、莉奈はその一瞬を決して見逃さなかった。
モニターに表示された電子霊の防御システムの構造解析グラフに、ほんの一瞬、ありえないほどの巨大なエネルギーの逆流が観測され、その衝撃でシステム全体に僅かなラグが生じたのだ。それは、常人ならば、あるいは並のハッカーならば見過ごしてしまう、瞬きほどの時間。
悠人が、その身を盾にして、自力でこじ開けた、千載一遇のチャンス。
彼女の指が、まるで独立した生命体のように、キーボードの上を舞った。カタカタカタ、という常軌を逸したタイピング音が、緊張した空気に響き渡る。それはもはや技術ではない。神がかった芸術、あるいは鬼気迫る戦闘だった。
電子霊の、幾重にも張り巡らされた悪意と憎悪で固められた防御壁を、まるで熱したナイフがバターを切り裂くように、あるいは乾いた紙を破るように、いとも容易く突破していく。
そしてついに、憎悪の嵐の中心で、嵐に吹き消されまいと必死に、か細く、しかし健気に輝き続ける、たった一つのデータコアに、彼女はアクセスすることに成功した。
莉奈は、そこに記録されていた情報を見て、息を呑んだ。予想していたものとは、全く違う。憎悪でも、悲しみでも、怨念でもない。あまりにも温かく、あまりにも純粋な、一つの記憶。
「巫女さん!聞こえるか!?」
莉奈は、現実世界で祝詞を唱え続けている栞に向かって、ヘッドセットのマイクに、自分の持てるすべての声を張り上げた。その声は、焦りと、そして真実を発見した者だけが持つ確信に満ちていた。
「そいつの核は、憎しみじゃない! ネットリンチの記憶でも、悲しみの記憶でもない! たった一つの、ファンレターに書かれていた『ありがとう』の一言だ! 脳の病気で、ずっと入院していたファンの女の子からの、たどたどしい文字で書かれた、たった一通のファンレター! そいつは、その記憶を守るためだけに、自分を傷つけた世界への悪意で、必死に鎧を着込んでいただけなんだ!」
その言葉の意味を、栞は、理屈ではなく、魂で理解した。
彼女の瞳から、すっと力が抜ける。これまで彼女が紡いできた祝詞は、悪しきものを祓い、滅するための、力強く、鋭利な言霊だった。だが、今、目の前にいるのは、祓うべき悪霊ではない。ただ、傷つき、迷い、たった一つの宝物を守るために、牙を剥くことしかできなくなってしまった、哀れな魂だ。
彼女は、深く息を吸い込み、全く別の、新しい言霊を紡ぎ始めた。それは、神に捧げるものでも、悪霊を討つものでもない。たった一人の、孤独な魂を慰め、その存在そのものに、心からの感謝を伝えるための、温かく、そして優しい響きを持つ言葉だった。母親が、怯える我が子に歌いかける、子守唄のように。
「――よくぞ、耐えられました。よくぞ、たった一人で、そのか細く、小さな宝物を、守り抜かれました。あなたの、そのたった一つの温かい記憶は、この世に存在する、どんな高価な宝石よりも、尊く、美しいものです。ありがとう。その気持ちを、その温かさを、私たちに教えてくれて、本当に、本当に、ありがとう」
栞の祈りが、言霊となって、物理法則を超えた振動として、倉庫の空気を震わせる。それは、悠人の身体を媒体として、直接、電子霊の核へと届いていく。
それと完全にシンクロするように、仮想空間では、莉奈が最後のプログラムを起動させた。モニターには、美しい五線譜を模したインターフェースが表示される。
それは、電子霊という存在そのものを破壊する、攻撃的なコード(アタックコード)ではない。彼女が、この哀れな少女の真実を知ってから、わずか数十秒で即席に組み上げた、まったく新しい概念のプログラム。
周囲に、ヘドロのようにこびりついた、おびただしい数の悪意のゴミデータだけを、その大切な核から、まるで付着した泥を洗い流すかのように、優しく、丁寧に、一枚一枚、剥がしていく、浄化と解放のプログラム。
莉奈は、そのプログラムを、こう名付けた。
――『鎮魂歌(レクイエム)』。
物理世界の、巫女の祈り。
仮想世界の、天才ハッカーの技術。
アナログとデジタル。霊性と科学。水と油のように、決して交わるはずのなかった二つの力が、今、この瞬間、たった一つの魂を救うという奇跡を起こすために、完璧に、そして美しく、重なり合った。
◇
仮想空間において、壮絶で、しかし、どこまでも美しい光景が繰り広げられていた。
莉奈のモニターの中、電子霊の、あの苦悶と憎悪に歪んだ顔を構成していた、無数の、黒く、濁った悪意のコードが、まるで春の柔らかな日差しを浴びた、冬の汚れた雪のように、はらはらと、音もなく、剥がれ落ちていく。
「死ね」という文字の羅列が、光の粒子に溶けていく。「消えろ」という呪いの言葉が、優しい風に吹かれて消えていく。「ブス」「才能ない」「枕営業」……そんな、人の心を殺すために吐き出された無数の侮辱が、意味を失い、ただのデジタルな塵に還っていく。
それは、あたかも巨大な氷の彫像が、内側から発する光によって、ゆっくりと溶けていく様にも見えた。
何重にも、何万重にも、アスファルトのように固くこびりついていた、悪意の呪縛から解放された中心の核は、徐々に、徐々に、その本来の、清らかな姿を取り戻していく。
それは、生前の、まだあどけない笑顔を浮かべた、フリルのついたステージ衣装姿の、一人の少女の魂だった。その瞳には、もう憎悪の色はない。ただ、すべてを終えた安堵と、ほんの少しの寂しさが浮かんでいるだけだった。
ついさっきまで仮想空間を吹き荒れていた、誹謗中傷の嵐は、完全に止んでいた。ノイズも、エラーメッセージも、歪んだアスキーアートも、すべてが消え去った。
そこには、ただ、穏やかに黄金色の光を放つ少女の魂と、そんな彼女を静かに見つめる、黒猫のアバターの莉奈だけが、静謐なデータの海に、二人きりで浮かんでいた。
少女の魂は、最後に莉奈に向かって、声なく、しかし、はっきりと微笑んだ。それは、アイドルとしてファンに向けていた営業用の笑顔ではない。心の底からの、感謝に満ちた、一人の女の子としての、はにかんだような笑みだった。
その唇が、ゆっくりと、こう動いた。
『ありがとう』
そして、満足したように、自ら光の粒子となって、穏やかに、静かに、データの世界へと、還っていった。彼女は、自分が本当に守りたかったものが何だったのか、誰かに傷つけられることのない、安全な場所で、永遠にそれを抱きしめていられることを、最後に気づくことができたのだ。
現実世界では、すべてのポルターガイスト現象が、まるで悪夢から覚めたかのように、嘘のように止んでいた。床に散乱していた工具類は静止し、明滅していた照明は完全に消え、壁の配電盤から迸っていた火花も、今はもうない。倉庫には、まるで激しい夕立が過ぎ去った後のような、清浄で、澄み切った空気が流れていた。オゾンの匂いが、ほんのりと鼻をくすぐる。
「……終わった」
莉奈は、ヘッドセットを乱暴に、しかしどこか名残惜しそうに外すと、全身の力が抜けたように、椅子から崩れ落ちた。アドレナリンが切れ、極度の疲労と安堵感が、一気に彼女の身体を襲ったのだ。
その、あまりにも華奢な体を、背後で、いつ倒壊してもおかしくないサーバーラックを、その丸太のような腕で支え続けていた猛が、まるで壊れ物を扱うかのように、そっと、しかし、がっしりと、その熊のような腕で抱きとめた。
「お疲れ様、莉奈ちゃん。すげえ、カッコよかったぜ。何やってたか、俺にはさっぱり分かんなかったけどな」
猛の、朴訥だが心からの賞賛の言葉に、莉奈は、何も言い返さなかった。ただ、その巨大で、汗と土の匂いがする胸の中で、まるで疲れて眠ってしまった子供のように、静かに、穏やかな息を整えているだけだった。
◇
事件解決の翌朝。
夜通し降り続いていた、まるで世界の涙のような雨はすっかり上がり、東京の街は、あたかも浄化されたかのように、すっきりと晴れ渡っていた。高層ビルの窓ガラスが、夏の強い日差しを反射して、ダイヤモンドのように輝いている。アスファルトに残った水たまりが、都会の喧騒を逆さまに映し出しながら、キラキラと揺れていた。
俺たちが、この街を離れるべく、旅立ちの準備をしていると、莉奈が、目の下に昨夜の戦闘の激しさを物語る濃いクマを作りながらも、これまでにないほど爛々と、狂的なまでに輝く瞳で、俺に詰め寄ってきた。その小さな体からは、とてつもない圧力が放たれている。
「あんた、一体、何者?」
その手には、昨日、俺の生体データを表示していたタブレットが、まるで聖書か何かのように、固く握られている。画面には、常人には理解不能な数式とグラフが、びっしりと表示されていた。
「昨日、あんたの身体から検出された生体エネルギー、あれ、物理法則を完全に無視してる! 光速で自己修復を続ける細胞、熱力学第二法則、エントロピー増大の法則を完全に無視したエネルギー循環! 観測された霊的干渉を、物理的な質量を持つ精神エネルギーで相殺するなんて、ありえない! あたしの常識が、量子力学が、宇宙の法則が、根底から、全部、ひっくり返されたの! 観測したい。分析したい。理解したい! あんたという存在のソースコードを、あたしに見せなさい!」
その姿は、もはや天才ハッカーというよりも、人類の進化の特異点を発見してしまった、マッドサイエンティストそのものだった。知的好奇心という名の暴走列車が、彼女を突き動かしているのが手に取るように分かった。
「やめとけ。知ったところで、ろくなもんじゃないぞ。ただ、ちょっと長く生きてるだけの、ただのジジイだ」
俺は、いつものように、気だるげに、タバコの煙を吐き出しながらあしらう。
だが、莉奈は、全く引かなかった。むしろ、その言葉に火に油を注がれたように、さらに一歩、俺ににじり寄る。
「神様を見つける旅? 上等じゃない。それってつまり、この世界の究極のバグ、全ての始まりの、根源的なソースコードを突き止めるってことでしょ? 世界という名のOSを創造した、伝説のプログラマーを探すってことよね? それ、あたしが、物心ついた時から、人生の全てを賭けてやってることと、全く同じだ」
彼女は、ニィ、と、小悪魔的な、あるいは獲物を見つけた猫のように、不敵な笑みを浮かべた。その笑顔は、昨日の戦闘で垣間見せた少女らしさとは全く違う、知性の獣の顔だった。
「あたしも、連れてけ。この世界で一番面白そうなクエスト、見逃すわけにはいかないでしょ? あんたっていう、最高の研究対象のそばでね」
こうして、天才ハッカー少女・鈴木莉奈が、おびただしい量のハイテク機材を満載した、黒いハイエースのワゴン車ごと、俺たちの仲間に加わることが、半ば強制的に、決定した。拒否権など、最初から存在しないかのようだった。
雨上がりの、光に満ちた東京。
高速道路の入り口で、俺たちの、いつ壊れてもおかしくない、あちこち錆びだらけのボロボロのバンが、エンジンを唸らせている。
そして、その後ろに、まるで護衛するかのように、莉奈の、屋根には衛星アンテナまで搭載した、最新鋭の黒いワゴン車がぴったりと続く。
アナログとデジタル。筋肉と頭脳。霊性と科学。どう考えても不釣り合いで、ちぐはぐな二台の車が、これから始まるであろう、波乱に満ちた旅を暗示するかのように、奇妙なキャラバンを組んで、次の目的地である中部地方へと、滑るように走り出す。
走り出して間もなく、俺たちのバンの、埃をかぶった無線機が、ガガッと音を立てて起動した。
『聞こえる? とりあえず、そっちのバンにハッキングして、通信回線、勝手に繋がせてもらったから。手始めに、そこの筋肉ダルマの脳波と、巫女さんの霊的波動をデータ化したいんだけど、許可する? あと、悠人。あんたの細胞サンプル、今すぐ採取させてくんない? 毛髪一本でもいいから。あ、できれば毛根付きでお願い!』
俺は、耳元でけたたましく響く、好奇心の塊のような声に向かって、深く、そして、とてつもなく長い、心からのため息をついた。
うるさくて、面倒くさくて、そして、昨日の戦いで証明されたように、とてつもなく頼もしい仲間が、また一人、増えてしまった。
この旅は、これから一体、どうなってしまうのだろうか。
何百年も孤独だった俺の周りに、いつの間にか、奇妙で、得体の知れない人間たちが集まってくる。
不思議と、嫌な気はしなかった。むしろ、この騒がしさが、空っぽだった俺の心に、何か温かいものを少しずつ満たしていくような、そんな奇妙な感覚さえあった。
俺は、バックミラーに映る、黒いワゴン車をちらりと見て、ほんの少しだけ、口の端を緩めた。
それは、俺が何百年という、終わりのない時間を生きてきて、唯一、確信を持って言えることだった。物理法則や科学的根拠などどうでもいい。これは、俺の魂が、俺の全存在が、骨の髄まで染み込ませてきた、揺るぎようのない真実だ。愛する者の死も、友との別離も、時代の奔流に取り残される孤独も、すべてが物理的な重みを伴って、俺の心に沈殿し、蓄積されてきた。それは、決して消えることのない、高密度の澱(おり)だった。
そして今、俺の身体に濁流のように流れ込んでくる、この電子霊の核――その正体は、ネットというデジタルの荒野で行われた集団リンチの果てに、自らの部屋で、たった一人で、その短い生涯に幕を閉じた、名もなきアイドルの少女の悲しみ。それは、確かに重かった。まるで絶対零度の鉛を流し込まれるような、冷たく、鋭く、魂の最も柔らかい部分を的確に抉り、引き裂いていく、おそろしく純度の高い絶望だ。
全身の細胞という細胞が、そのひとつひとつが、内側から悲鳴を上げ、分子レベルで引き裂かれていくような、凄まじい苦痛が全身を駆け巡る。これは単なる精神攻撃ではない。俺という存在の、概念そのものを消し去ろうとする、純粋な破壊衝動の塊だった。
「ぐっ……! ああ、あああああああ!」
見えない万力に全身を締め上げられるような感覚に、俺は抗うこともできず、その場に膝をついた。錆びた鉄の匂いが立ち込める廃倉庫。その内部のすべての電力が、まるで巨大なブラックホールに引き寄せられる銀河のように、俺の体へと凄まじい勢いで吸い込まれていく。天井の照明が明滅を繰り返し、やがて甲高い音を立てて破裂する。壁の配電盤からは青白い火花が滝のように流れ落ち、空間そのものが悲鳴を上げているかのようだ。電子霊が、俺という生身の器を乗っ取り、この物理世界に、その怨嗟のすべてをぶちまけるための肉体として、顕現しようとしているのだ。
だが。
俺の心は、その程度では折れなかった。いや、もはや「折れる」という概念すら、とうの昔に失くしてしまっていた。
脳裏に、まるで壊れた映写機が暴走するように、俺がこれまでに見送り、喰らい、そして乗り越えてきた、無数の絶望の記憶が駆け巡る。それは、この哀れな少女が経験した絶望とは、比較にすらならない、時間という名の暴力によって熟成された、深淵そのものだった。
江戸の空が、燃えるような茜色に染まっていた、あの日。腕の中で、愛した女が、皺くちゃの老婆になって、俺の名を呼びながら、安らかに息を引き取った。若く美しいままの俺の頬を、枯れ木のような指で優しく撫で、満足そうに微笑んで逝った彼女の顔。永遠の時を生きる俺と、有限の時を生きる彼女との、決して埋められない断絶。あの、世界から色が消え失せたかのような、静かで、穏やかで、そして底なしの絶望。
明治の世、西洋の文化が雪崩れ込んできた、あの冬の日。唯一の親友と呼べる男が、肺の病で血を吐きながら、俺だけを残して、この世を去った。文明開化の喧騒の中、たった一人、彼の冷たくなっていく手を握りしめ続けた。もう二度と、誰とも深い絆を結ぶまいと心に誓った、あの日の、骨身に凍みるような絶望。
昭和、平成、そして令和。時代が移り、景色が変わり、価値観が反転し、俺が知っている顔は誰一人としていなくなった。歴史の教科書の中にしか、俺の記憶を共有できる者は存在しない。完全に、文字通り、世界で独りぼっちになった、あの日の、虚無に包まれた絶望。
そして、死にたいと、心の底から消えてなくなりたいと願っても、この呪われた肉体は、傷一つ負うことなく再生を繰り返す。どんな高さから身を投げても、どんな刃で心臓を貫いても、翌朝には何事もなかったかのように目覚めてしまう。その、決して死ぬことができないという絶対的な事実を悟った、あの日の、永遠に続くかと思われた、出口のないトンネルのような絶望。
それら一つ一つが、一個の銀河系にも匹敵するほどの質量を持った、巨大な絶望の塊だった。俺の心は、そうした銀河がひしめき合う、超銀河団のようなものだ。
俺は、心の中で、俺の身体を内側から食い破ろうとしている、そのか細くも鋭い悲しみに、語りかけた。それは憐憫でも同情でもない。あまりにも永い時を生きてしまった、古き者から新しき者への、ある種の宣告だった。
(お前の悲しみは、分かる。痛いほどにな。辛かっただろう。苦しかっただろう。信じていたファンに裏切られ、匿名性の皮を被った無数の悪意に人格を否定され、世界中が自分を嘲笑う敵に見えたんだろう。その小さな肩で、あまりにも多くの石礫を、たった一人で受け止め続けたんだ。立派だったよ)
血反吐を吐き、意識が朦朧とするほどの激痛の中で、俺は確かに、不敵に、そして獰猛に、笑っていた。その笑みは、絶望の深淵を覗き込みすぎた者だけが浮かべられる、狂気と紙一重の笑みだった。
(だがな、嬢ちゃん。俺が積み重ねてきた絶望に比べりゃ、お前のその鋭く尖った悲しみなんざ、夜空に瞬く星屑……いや、道端に転がる鼻クソみたいなもんだ。悪いが、俺のこの身体と心は、お前みてえな、ひよっこの絶望に乗っ取られるほど、安くはできてねえんだよ)
それは、虚勢でもなければ、単なる強がりでもなかった。
何百年もの孤独が、決して終わることのない時間が、皮肉にも、俺の精神を、この世のどんな物理法則をも超越した、何者にも壊すことのできない、一種の概念そのものへと、変えてしまっていたのだ。
俺の中にある、あまりに巨大で、深淵で、そして静謐な絶望の海が、逆に少女の絶望という名の嵐を、力ずくで飲み込み、跳ね返していく。巨大な恒星が、小さな惑星の引力をものともしないように。
その瞬間、俺の絶望に気圧された電子霊のシステムに、ほんの一瞬、コンマ数秒にも満たない、だが、致命的ともいえるほどの隙が生まれた。
◇
「……来た! 今だ!」
倉庫の隅に設営された、無数のケーブルとモニターが要塞のように組まれた一角。仮想空間という、もう一つの戦場で、莉奈はその一瞬を決して見逃さなかった。
モニターに表示された電子霊の防御システムの構造解析グラフに、ほんの一瞬、ありえないほどの巨大なエネルギーの逆流が観測され、その衝撃でシステム全体に僅かなラグが生じたのだ。それは、常人ならば、あるいは並のハッカーならば見過ごしてしまう、瞬きほどの時間。
悠人が、その身を盾にして、自力でこじ開けた、千載一遇のチャンス。
彼女の指が、まるで独立した生命体のように、キーボードの上を舞った。カタカタカタ、という常軌を逸したタイピング音が、緊張した空気に響き渡る。それはもはや技術ではない。神がかった芸術、あるいは鬼気迫る戦闘だった。
電子霊の、幾重にも張り巡らされた悪意と憎悪で固められた防御壁を、まるで熱したナイフがバターを切り裂くように、あるいは乾いた紙を破るように、いとも容易く突破していく。
そしてついに、憎悪の嵐の中心で、嵐に吹き消されまいと必死に、か細く、しかし健気に輝き続ける、たった一つのデータコアに、彼女はアクセスすることに成功した。
莉奈は、そこに記録されていた情報を見て、息を呑んだ。予想していたものとは、全く違う。憎悪でも、悲しみでも、怨念でもない。あまりにも温かく、あまりにも純粋な、一つの記憶。
「巫女さん!聞こえるか!?」
莉奈は、現実世界で祝詞を唱え続けている栞に向かって、ヘッドセットのマイクに、自分の持てるすべての声を張り上げた。その声は、焦りと、そして真実を発見した者だけが持つ確信に満ちていた。
「そいつの核は、憎しみじゃない! ネットリンチの記憶でも、悲しみの記憶でもない! たった一つの、ファンレターに書かれていた『ありがとう』の一言だ! 脳の病気で、ずっと入院していたファンの女の子からの、たどたどしい文字で書かれた、たった一通のファンレター! そいつは、その記憶を守るためだけに、自分を傷つけた世界への悪意で、必死に鎧を着込んでいただけなんだ!」
その言葉の意味を、栞は、理屈ではなく、魂で理解した。
彼女の瞳から、すっと力が抜ける。これまで彼女が紡いできた祝詞は、悪しきものを祓い、滅するための、力強く、鋭利な言霊だった。だが、今、目の前にいるのは、祓うべき悪霊ではない。ただ、傷つき、迷い、たった一つの宝物を守るために、牙を剥くことしかできなくなってしまった、哀れな魂だ。
彼女は、深く息を吸い込み、全く別の、新しい言霊を紡ぎ始めた。それは、神に捧げるものでも、悪霊を討つものでもない。たった一人の、孤独な魂を慰め、その存在そのものに、心からの感謝を伝えるための、温かく、そして優しい響きを持つ言葉だった。母親が、怯える我が子に歌いかける、子守唄のように。
「――よくぞ、耐えられました。よくぞ、たった一人で、そのか細く、小さな宝物を、守り抜かれました。あなたの、そのたった一つの温かい記憶は、この世に存在する、どんな高価な宝石よりも、尊く、美しいものです。ありがとう。その気持ちを、その温かさを、私たちに教えてくれて、本当に、本当に、ありがとう」
栞の祈りが、言霊となって、物理法則を超えた振動として、倉庫の空気を震わせる。それは、悠人の身体を媒体として、直接、電子霊の核へと届いていく。
それと完全にシンクロするように、仮想空間では、莉奈が最後のプログラムを起動させた。モニターには、美しい五線譜を模したインターフェースが表示される。
それは、電子霊という存在そのものを破壊する、攻撃的なコード(アタックコード)ではない。彼女が、この哀れな少女の真実を知ってから、わずか数十秒で即席に組み上げた、まったく新しい概念のプログラム。
周囲に、ヘドロのようにこびりついた、おびただしい数の悪意のゴミデータだけを、その大切な核から、まるで付着した泥を洗い流すかのように、優しく、丁寧に、一枚一枚、剥がしていく、浄化と解放のプログラム。
莉奈は、そのプログラムを、こう名付けた。
――『鎮魂歌(レクイエム)』。
物理世界の、巫女の祈り。
仮想世界の、天才ハッカーの技術。
アナログとデジタル。霊性と科学。水と油のように、決して交わるはずのなかった二つの力が、今、この瞬間、たった一つの魂を救うという奇跡を起こすために、完璧に、そして美しく、重なり合った。
◇
仮想空間において、壮絶で、しかし、どこまでも美しい光景が繰り広げられていた。
莉奈のモニターの中、電子霊の、あの苦悶と憎悪に歪んだ顔を構成していた、無数の、黒く、濁った悪意のコードが、まるで春の柔らかな日差しを浴びた、冬の汚れた雪のように、はらはらと、音もなく、剥がれ落ちていく。
「死ね」という文字の羅列が、光の粒子に溶けていく。「消えろ」という呪いの言葉が、優しい風に吹かれて消えていく。「ブス」「才能ない」「枕営業」……そんな、人の心を殺すために吐き出された無数の侮辱が、意味を失い、ただのデジタルな塵に還っていく。
それは、あたかも巨大な氷の彫像が、内側から発する光によって、ゆっくりと溶けていく様にも見えた。
何重にも、何万重にも、アスファルトのように固くこびりついていた、悪意の呪縛から解放された中心の核は、徐々に、徐々に、その本来の、清らかな姿を取り戻していく。
それは、生前の、まだあどけない笑顔を浮かべた、フリルのついたステージ衣装姿の、一人の少女の魂だった。その瞳には、もう憎悪の色はない。ただ、すべてを終えた安堵と、ほんの少しの寂しさが浮かんでいるだけだった。
ついさっきまで仮想空間を吹き荒れていた、誹謗中傷の嵐は、完全に止んでいた。ノイズも、エラーメッセージも、歪んだアスキーアートも、すべてが消え去った。
そこには、ただ、穏やかに黄金色の光を放つ少女の魂と、そんな彼女を静かに見つめる、黒猫のアバターの莉奈だけが、静謐なデータの海に、二人きりで浮かんでいた。
少女の魂は、最後に莉奈に向かって、声なく、しかし、はっきりと微笑んだ。それは、アイドルとしてファンに向けていた営業用の笑顔ではない。心の底からの、感謝に満ちた、一人の女の子としての、はにかんだような笑みだった。
その唇が、ゆっくりと、こう動いた。
『ありがとう』
そして、満足したように、自ら光の粒子となって、穏やかに、静かに、データの世界へと、還っていった。彼女は、自分が本当に守りたかったものが何だったのか、誰かに傷つけられることのない、安全な場所で、永遠にそれを抱きしめていられることを、最後に気づくことができたのだ。
現実世界では、すべてのポルターガイスト現象が、まるで悪夢から覚めたかのように、嘘のように止んでいた。床に散乱していた工具類は静止し、明滅していた照明は完全に消え、壁の配電盤から迸っていた火花も、今はもうない。倉庫には、まるで激しい夕立が過ぎ去った後のような、清浄で、澄み切った空気が流れていた。オゾンの匂いが、ほんのりと鼻をくすぐる。
「……終わった」
莉奈は、ヘッドセットを乱暴に、しかしどこか名残惜しそうに外すと、全身の力が抜けたように、椅子から崩れ落ちた。アドレナリンが切れ、極度の疲労と安堵感が、一気に彼女の身体を襲ったのだ。
その、あまりにも華奢な体を、背後で、いつ倒壊してもおかしくないサーバーラックを、その丸太のような腕で支え続けていた猛が、まるで壊れ物を扱うかのように、そっと、しかし、がっしりと、その熊のような腕で抱きとめた。
「お疲れ様、莉奈ちゃん。すげえ、カッコよかったぜ。何やってたか、俺にはさっぱり分かんなかったけどな」
猛の、朴訥だが心からの賞賛の言葉に、莉奈は、何も言い返さなかった。ただ、その巨大で、汗と土の匂いがする胸の中で、まるで疲れて眠ってしまった子供のように、静かに、穏やかな息を整えているだけだった。
◇
事件解決の翌朝。
夜通し降り続いていた、まるで世界の涙のような雨はすっかり上がり、東京の街は、あたかも浄化されたかのように、すっきりと晴れ渡っていた。高層ビルの窓ガラスが、夏の強い日差しを反射して、ダイヤモンドのように輝いている。アスファルトに残った水たまりが、都会の喧騒を逆さまに映し出しながら、キラキラと揺れていた。
俺たちが、この街を離れるべく、旅立ちの準備をしていると、莉奈が、目の下に昨夜の戦闘の激しさを物語る濃いクマを作りながらも、これまでにないほど爛々と、狂的なまでに輝く瞳で、俺に詰め寄ってきた。その小さな体からは、とてつもない圧力が放たれている。
「あんた、一体、何者?」
その手には、昨日、俺の生体データを表示していたタブレットが、まるで聖書か何かのように、固く握られている。画面には、常人には理解不能な数式とグラフが、びっしりと表示されていた。
「昨日、あんたの身体から検出された生体エネルギー、あれ、物理法則を完全に無視してる! 光速で自己修復を続ける細胞、熱力学第二法則、エントロピー増大の法則を完全に無視したエネルギー循環! 観測された霊的干渉を、物理的な質量を持つ精神エネルギーで相殺するなんて、ありえない! あたしの常識が、量子力学が、宇宙の法則が、根底から、全部、ひっくり返されたの! 観測したい。分析したい。理解したい! あんたという存在のソースコードを、あたしに見せなさい!」
その姿は、もはや天才ハッカーというよりも、人類の進化の特異点を発見してしまった、マッドサイエンティストそのものだった。知的好奇心という名の暴走列車が、彼女を突き動かしているのが手に取るように分かった。
「やめとけ。知ったところで、ろくなもんじゃないぞ。ただ、ちょっと長く生きてるだけの、ただのジジイだ」
俺は、いつものように、気だるげに、タバコの煙を吐き出しながらあしらう。
だが、莉奈は、全く引かなかった。むしろ、その言葉に火に油を注がれたように、さらに一歩、俺ににじり寄る。
「神様を見つける旅? 上等じゃない。それってつまり、この世界の究極のバグ、全ての始まりの、根源的なソースコードを突き止めるってことでしょ? 世界という名のOSを創造した、伝説のプログラマーを探すってことよね? それ、あたしが、物心ついた時から、人生の全てを賭けてやってることと、全く同じだ」
彼女は、ニィ、と、小悪魔的な、あるいは獲物を見つけた猫のように、不敵な笑みを浮かべた。その笑顔は、昨日の戦闘で垣間見せた少女らしさとは全く違う、知性の獣の顔だった。
「あたしも、連れてけ。この世界で一番面白そうなクエスト、見逃すわけにはいかないでしょ? あんたっていう、最高の研究対象のそばでね」
こうして、天才ハッカー少女・鈴木莉奈が、おびただしい量のハイテク機材を満載した、黒いハイエースのワゴン車ごと、俺たちの仲間に加わることが、半ば強制的に、決定した。拒否権など、最初から存在しないかのようだった。
雨上がりの、光に満ちた東京。
高速道路の入り口で、俺たちの、いつ壊れてもおかしくない、あちこち錆びだらけのボロボロのバンが、エンジンを唸らせている。
そして、その後ろに、まるで護衛するかのように、莉奈の、屋根には衛星アンテナまで搭載した、最新鋭の黒いワゴン車がぴったりと続く。
アナログとデジタル。筋肉と頭脳。霊性と科学。どう考えても不釣り合いで、ちぐはぐな二台の車が、これから始まるであろう、波乱に満ちた旅を暗示するかのように、奇妙なキャラバンを組んで、次の目的地である中部地方へと、滑るように走り出す。
走り出して間もなく、俺たちのバンの、埃をかぶった無線機が、ガガッと音を立てて起動した。
『聞こえる? とりあえず、そっちのバンにハッキングして、通信回線、勝手に繋がせてもらったから。手始めに、そこの筋肉ダルマの脳波と、巫女さんの霊的波動をデータ化したいんだけど、許可する? あと、悠人。あんたの細胞サンプル、今すぐ採取させてくんない? 毛髪一本でもいいから。あ、できれば毛根付きでお願い!』
俺は、耳元でけたたましく響く、好奇心の塊のような声に向かって、深く、そして、とてつもなく長い、心からのため息をついた。
うるさくて、面倒くさくて、そして、昨日の戦いで証明されたように、とてつもなく頼もしい仲間が、また一人、増えてしまった。
この旅は、これから一体、どうなってしまうのだろうか。
何百年も孤独だった俺の周りに、いつの間にか、奇妙で、得体の知れない人間たちが集まってくる。
不思議と、嫌な気はしなかった。むしろ、この騒がしさが、空っぽだった俺の心に、何か温かいものを少しずつ満たしていくような、そんな奇妙な感覚さえあった。
俺は、バックミラーに映る、黒いワゴン車をちらりと見て、ほんの少しだけ、口の端を緩めた。
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