無詠唱? キャンピングカーで大冒険。虐げられた少女を拾った俺は、規格外の力と文明の利器で彼女を全力で救う件

Gaku

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第8章:孤独な悪役令嬢

第38話:雨の夜の襲撃者 〜一滴は大海である〜

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 夜の帳が下りると同時に、空が裂けたような豪雨が王都を襲った。
 バケツをひっくり返したような雨粒が、ローゼンバーグ家の広大な庭園を叩きつける。美しく手入れされたバラ園は泥にまみれ、白亜の大理石は冷たく濡れそぼり、屋敷全体が巨大な水の檻に閉じ込められたようだった。

 宝物庫の前。
 屋根のある回廊の下で、ゼイクが厳しい表情で闇を睨んでいた。

「視界不良。足元は最悪だ。……襲撃者にとっては、これ以上ない好条件だな」

 彼は新調した鎧(今回もピカピカだ)に雨がかかるのを少し気にしながらも、剣の柄に手をかけていた。
 その横で、エリーゼが杖を構え、周囲に探知結界を張り巡らせている。
 メイは、瞬の背中に隠れるようにして、不安そうに暗闇を見つめていた。

「来るかな、瞬」
「来るよ。メイ……あの令嬢が『予告状が届いた』って言ってたしな」

 瞬は柱に寄りかかり、雨音に耳を澄ませていた。
 彼の中には、昼間のアリスとの会話が棘のように刺さったまま残っていた。
 『NPC』。
 彼女はこの世界をゲームだと言い、住人をデータだと断じた。
 これから来る盗賊たちも、彼女にとってはただの「経験値稼ぎのモブ」に過ぎないのだろう。

(ふざけんなよ……)

 瞬は拳を握りしめた。
 生きてるんだ。どいつもこいつも、必死に。
 それを証明してやる。

 その時だった。
 ピクリ、とエリーゼの眉が動いた。

「……来ますわ。結界に反応あり。数は四。正面突破ではなく、庭園の木々を伝って屋根から侵入しています」

「上か!」

 ゼイクが叫ぶと同時に、頭上の回廊の屋根瓦が砕け散った。
 ガシャーン!
 雨音と瓦礫の音に紛れて、四つの影が舞い降りてきた。

 黒ずくめの衣装。顔を布で隠した集団。
 盗賊団「黒猫(ブラックキャット)」。

「おやおや、こんな嵐の夜に、熱烈な歓迎どうも」

 先頭に立った男が、軽薄そうな声で言った。
 リーダー格らしき、痩せ型の男だ。ボロボロのマントを羽織り、両手には使い込まれた双剣を持っている。
 その後ろには、丸太のような腕をした大男、ナイフを持った小柄な男、そして――サイズの合わないダボダボの服を着た、小柄な少女がいた。

「警告する」
 ゼイクが一歩前に出て、剣を突きつけた。
「ここはローゼンバーグ侯爵家の私有地だ。即刻立ち去れ。さもなくば、王都の法に基づき鎮圧する」

「へえ、堅苦しい騎士様のお出ましだ。でも悪いな、俺たちにも引けない事情があるんでね」

 リーダーが合図を送る。
 瞬間、四人が散開した。

「やれ!」

 戦闘が始まった。

 ***

 雨の中、金属音と火花が散る。

「フンッ!」
 ゼイクが大男のハンマーを受け止める。
 重い。だが、ゼイクの体幹は微動だにしない。
「力任せな攻撃だ。美しくない」
「うるせぇ! こちとら生きるのに必死なんだよ!」
 大男が吠える。だが、その攻撃は大振りで、ゼイクの急所を外しているようにも見えた。

 一方、エリーゼは小柄な男と対峙していた。
 男は素早い動きで魔法の射線から逃れ、懐に入り込もうとする。
「ちょこまかと……! 氷結!」
 エリーゼが杖を振るうと、地面が凍りつき、男の足を滑らせる。
「うおっと! 危ねぇな姉ちゃん!」

 そして、瞬の前にはリーダーの男が立っていた。
 二本の剣が、蛇のように瞬の首を狙う。
 瞬はそれを、あくびが出るような動きで軽々とかわした。

「お前らさ、やる気あんの?」
 瞬が問う。
「さっきから見てると、衛兵を気絶させるだけで、誰も殺してないじゃん。盗賊にしちゃ優しすぎないか?」

 リーダーの動きが一瞬止まった。
 覆面の下から、苦しげな息遣いが聞こえる。

「……殺しはしねぇ。それが俺たちの流儀だ」
「へえ。義賊気取りか?」
「そんな立派なもんじゃねぇよ。ただ……」

 リーダーが踏み込んでくる。
 だが、その剣先には迷いがあった。
 瞬はその剣を指先で弾き、逆に男の懐に飛び込んで襟首を掴んだ。

「ただ、何だよ?」

「……ただ、妹には……あいつには、人殺しの業を背負わせたくねぇんだよ!」

 リーダーの視線が、一瞬だけ後方へ向いた。
 そこでは、紅一点の少女が、メイの制止を振り切って宝物庫の扉へ向かっていた。
 彼女の手には武器がない。代わりに、何かを必死に握りしめている。

「どいて! お願い、どいて!」
 少女が叫ぶ。その声は悲痛だった。
「お金なんていらない! 宝石もいらない! ただ、あれがないと……あの子が死んじゃうの!」

 少女は、宝物庫の扉に取り付き、震える手で解錠を試みていた。
 金目のものではない。
 彼女が求めているのは、もっと別の――命に関わる何か。

(……なんだ、この違和感は)

 瞬は手を緩めた。
 こいつらは、ただの悪党じゃない。
 金欲しさの襲撃じゃない。もっと切羽詰まった、悲しい理由がある目だ。

 その時。
 頭上から、場違いなほど明るい声が降ってきた。

「あはははは! やってるやってる! 良いイベント戦じゃん!」

 全員が上を見上げる。
 屋敷の二階、雨に濡れないバルコニーに、アリスが立っていた。
 彼女はワイングラスを片手に、手すりから身を乗り出して戦場を見下ろしていた。
 まるで、闘技場の観客席から見世物を楽しむ貴族のように。

「ねえ瞬くん! なに遊んでるの? さっさとやっちゃってよ!」

 アリスの声が、雨音に混じって響く。

「そいつら、ただの雑魚キャラだよ? 経験値にもならないゴミ掃除なんだから、サクッと殲滅(クリア)しちゃって!」

 殲滅。
 その言葉に、盗賊たちの動きが凍りついた。
 リーダーが歯を食いしばり、悔しそうにアリスを睨み上げる。

「……雑魚、だと……? 俺たちが、ゴミだと……?」

「そうだよ? だってあなたたち、名前もないし、背景ストーリーもペラペラだし」
 アリスは冷酷に言い放った。
「私のシナリオにとって、あなたたちは『倒されるために出てきた障害物』でしかないの。だから、大人しく倒されてよね。それが役割でしょ?」

 彼女の瞳には、人間に対する情など欠片もなかった。
 ただのデータ処理。バグの排除。
 その傲慢な視線が、雨に濡れた盗賊たちのプライドを、そして尊厳を踏みにじっていく。

「ふざけるな……!」
 少女が叫んだ。
 彼女は扉から離れ、バルコニーのアリスに向かって小石を投げた。
 もちろん届かない。石は虚しく地面に落ちる。

「私たちは生きてる! ゴミなんかじゃない! 必死に生きてるんだ!」

「はいはい、負け惜しみ乙。……瞬くん、やって」

 アリスが無慈悲に命令を下す。
 
「トドメを刺して。それが、今回のクエストのクリア条件だよ」

 雨が激しさを増す。
 雷光が閃き、瞬の顔を白く照らし出した。
 彼はうつむいていた。前髪が目に影を落とし、表情が見えない。

 リーダーの男が、覚悟を決めたように剣を構え直した。
 大男も、小柄な男も、少女を守るように集まってくる。
 彼らは震えていた。恐怖で。寒さで。そして、理不尽な扱いに対する怒りで。

「……来るなら来いよ、英雄サマ」
 リーダーが血を吐くように言った。
「俺たちは諦めねぇ。泥水をすすってでも、這いつくばってでも……守りたいもんがあるんだよ!」

 その叫びは、瞬の胸の奥にある導火線に、火をつけた。

 瞬はゆっくりと顔を上げた。
 その瞳には、アリスに向けられた静かな、しかし煮えたぎるような怒りの炎が宿っていた。

「……クリア条件、だァ?」

 瞬の一歩が、水たまりを踏み砕いた。
 バシャッ、という音が、開戦の合図のように響く。
 だが、彼が向かった先は、盗賊たちではなかった。

 彼はくるりと踵を返し、バルコニーのアリスを指差した。

「おい、高みの見物決め込んでるお姫様よ。……降りてこい」

 地を這うような低い声。

「お前がこいつらをNPC扱いするなら……俺がその『設定』ごと、ぶち壊してやるよ」

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