無詠唱? キャンピングカーで大冒険。虐げられた少女を拾った俺は、規格外の力と文明の利器で彼女を全力で救う件

Gaku

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第11章:最強の拠点、始動

第54話:疫病神の歴史と、塗り替えられる価値観 〜歴史とは、もう存在しない国の地図である〜

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「で? これがなんなの?」

 リビングに響いたのは、アリスのあっけらかんとした声だった。
 彼女はメイの顔をまじまじと見つめながら、首を傾げている。

「こんなに綺麗なら、むしろ隠さずに堂々と見せて歩けばいいじゃない。絶対にモテるわよ? 私が保証する」

 アリスは本気で不思議そうだった。
 彼女の感覚(センス)では、この紫色は「レア」で「クール」で「美しい」ものだ。隠す理由が微塵も見当たらない。

 瞬が、苦笑いしながらコーヒーを啜った。
「だろ? 俺もそう思うんだけどさ。……この世界だと、どうやら事情が違うらしいんだよ」

「事情?」

 アリスが視線を巡らせると、エリーゼが静かにティーカップを置いた。
 カチャリ、という陶器の触れ合う音が、やけに冷たく響く。

「……歴史の話ですわ」

 エリーゼは、メイを気遣うように一瞥してから、淡々と語り始めた。

「数百年前、この大陸の西側に栄えていた小国が、一夜にして滅びたという記録があります。原因は謎の疫病と、大規模な魔力暴走。そして、その中心にいたとされるのが……『紫の瞳』を持った魔女だったと伝えられています」

「魔女……」

「ええ。それ以来、紫の瞳は『災厄の予兆』『疫病神の刻印』として、人々の恐怖の対象になりました。根拠のない伝承ですが、恐怖という感情は、真実よりも深く人の心に根付くものです」

 エリーゼの説明に、ゼイクも重々しく頷いた。
 彼はメイの方を見ず、自身の組んだ手を見つめながら言った。

「正直に言えば……私もかつては、そう信じていた」

 ゼイクの言葉に、メイの体がビクリと震える。

「騎士団の教本にも、『変異種への警戒』として記述がある。紫の瞳を持つ者は、精神構造が不安定で、周囲に不幸を撒き散らすとな。……瞬と出会い、メイの内面を知るまでは、私もこの瞳を見るだけで剣を抜いていたかもしれない」

 それは、この世界の「常識」だった。
 教育や伝承によって刷り込まれた、抗いがたい偏見。
 メイがこれまで受けてきた石礫や罵声は、単なる悪意ではなく、人々が自分たちの世界を守ろうとする「正義感」の裏返しでもあったのだ。

「うぅ……」

 メイは、再びうつむいて体を小さくした。
 せっかくアリスに褒められて浮上した心が、また冷たい重石を乗せられたように沈んでいく。
 やっぱり、私はダメなんだ。
 歴史が、世界が、私を否定している。
 アリスさんが優しいのは、彼女が「異世界の人」だからで、この世界に生きる限り、私は一生この呪いから逃れられないんだ。

 重苦しい沈黙が、リビングを支配した。
 キースたちも、かける言葉が見つからずに俯いている。

 その時だった。

 **「はぁ~~~~~~~~~~っ」**

 肺の中の空気を全て吐き出すような、とてつもなく深くて、長い溜息が響いた。
 全員が驚いて顔を上げる。
 アリスだった。
 彼女はソファの背もたれにダラリと寄りかかり、天井を仰いでいた。そして、心底うんざりしたような顔で、吐き捨てるように言った。

「なーにそれ、くっだらない」

 その一言は、鋭利なナイフのように、重苦しい空気を切り裂いた。

「え……?」
 メイが目を見開く。

 アリスは体を起こし、呆れたように肩をすくめた。

「数百年前の話でしょ? 化石かよ。そんな大昔の、本当かどうかも怪しい伝説のせいで、今生きてる女の子がいじめられる? ……ナンセンスにも程があるわ」

 彼女はメイの方を向き、人差し指を立てた。

「いい? それって『血液型占いで性格決めつけられる』よりタチが悪いのよ。『あなたB型だから自己中でしょ?』って言われるくらい理不尽。関係ないじゃん、そんなの」

「けつえき……がた……?」
 メイはまたしても謎の単語に首を傾げるが、アリスの言いたいことのニュアンスは伝わってきた。
 彼女は、怒っているのだ。
 メイに対してではなく、メイを縛り付ける「下らない常識」に対して。

「そんなカビの生えた迷信のために、この可愛い顔を隠すなんて、世界の損失よ。資源の無駄遣い」

 アリスは立ち上がり、メイの隣に座り直した。
 そして、メイの細い肩を、ぎゅっと抱き寄せた。
 甘い香水の匂いと、温かい体温。

「メイちゃん。あなたの価値を決めるのは、昔の伝説じゃないわ。教科書でもない」

 アリスは、メイの紫の瞳を真っ直ぐに見つめた。

「今、ここにいる、あなた自身よ。あなたが笑って、ご飯を食べて、誰かを大切に思っている。……その事実だけが、あなたの正体なの」

 メイの瞳が潤む。
 その言葉は、メイがずっと欲しかった「許し」だった。
 過去の誰かのせいではなく、今の私を見てくれる。
 呪いではなく、一人の人間として扱ってくれる。

「……でも」
 メイは、まだ少しだけ不安そうに、チラリと横を見た。
 そこには、にこやかにクッキーをかじり続けている瞬がいる。

 アリスは、メイの視線を追って、ニヤリと笑った。

「まあ、そうね。世の中には頭の固い連中がいっぱいいるから、不安になる気持ちもわかるわ」

 アリスは、瞬を指差した。

「でも、瞬と一緒なら、もう安心ね」

「え?」

「だってあいつ、常識なんかデコピン一発で吹き飛ばす男だし」

 アリスの言葉に、瞬が「ひどい言われようだな」と苦笑する。
 だが、アリスは真剣な顔で続けた。

「伝説? 呪い? 歴史? ……瞬の前じゃ、そんなの全部『誤差』よ。世界中があなたを敵に回しても、あいつなら『うるせぇ!』って世界ごとひっくり返すわよ」

 アリスはメイの背中をバンと叩いた。

「絶対守ってくれるでしょ? あの石頭の騎士さんも、ひねくれ者の魔女さんも、みんなあなたの味方なんだから」

 ゼイクが「石頭は余計だ」と咳払いし、エリーゼが「ひねくれ者じゃありませんわ」とふくれっ面をする。
 でも、その表情は二人とも優しかった。
 キースたちも、うんうんと力強く頷いている。

 メイは、ゆっくりと全員の顔を見渡した。
 みんな、笑っている。
 誰も、私の瞳を怖がっていない。
 ここは、もう「隠れ家」じゃない。私の「居場所」なんだ。

 胸の奥から、熱いものがこみ上げてくる。
 それは悲しみの涙ではなく、喜びのマグマだった。

「……はいっ!」

 メイは、涙をいっぱいに溜めた紫の瞳を細め、満面の笑顔で答えた。
 アイガードは、もうテーブルの上に置かれたままだ。
 彼女はもう、それを手に取ることはなかった。

 窓の外から、初夏の風が吹き込んでくる。
 それは、古い迷信を吹き飛ばし、新しい季節を告げる、爽やかな風だった。
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