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第15章:旅路の温もり
第74話:雪解けの予感と、過去からの刺客(の幻影)
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祭りの熱狂が去った翌朝。 商業都市ベル・マルシェは、深い眠りについたように静まり返っていた。
空はどんよりとした鉛色で、名残の雪がちらちらと舞い落ちている。 昨夜の喧騒が嘘のように、街の通りには人っ子一人いない。冷たい風だけが、祭りの残骸である紙吹雪をカサカサと転がしていく。
街外れの広場に停泊している魔導キャンピングカー「クイーン・アリス号」。 その一室で、アリアは冷たい汗をかいて目を覚ました。
「……はぁ、はぁ……」
悪夢を見ていた。 かつての故郷、「エルフの森」の夢だ。
夢の中で、彼女は深い森の奥に立っていた。 周囲を取り囲むのは、同胞であるエルフたち。彼らは皆、彫像のように美しい顔立ちをしているが、その表情は能面のように動かない。 彼らの翠玉の瞳が、冷ややかにアリアを見下ろしている。
『人間に混じって、猿真似か?』 『赤いリボン? 踊り? ……愚かしい』
彼らの声が、冷たい風のようにアリアの心を打ち据える。
『我々は高潔なる森の守護者だ。汚らわしい人間(下等生物)に情を移すなど、種族の恥さらしだ』 『あのような短命で野蛮な生き物と馴れ合うなど、吐き気がする』 『戻ってこい。お前に似合うのは、永遠の孤独と静寂だけだ』
彼らの言葉は、矢のように鋭く、アリアの心の奥底にある「自己嫌悪」という的を正確に射抜いた。
そうだ。 私は化け物だ。 かつて、人間たちを「害獣」と呼び、見下していた差別主義者だ。 今のこの楽しい生活は、全部「ごっこ遊び」に過ぎない。 瞬たちと一緒に笑っている自分は、偽物だ。赤いリボンで着飾っただけの、空っぽの人形だ。
いつか彼らは気づくだろう。私の本性が、彼らを蔑んでいた冷酷な石像であることを。 そして軽蔑し、離れていくに違いない。 その時の絶望を想像すると、肺が凍りつくような恐怖に襲われる。
(……嫌だ。嫌われたくない)
アリアは毛布を握りしめた。 傷つく前に、自分から離れよう。 この温かい場所を、私の冷たさで汚してしまう前に、消えてしまおう。
彼女は音もなくベッドから起き上がった。 震える手で、一枚の紙に走り書きをする。 『さようなら。探さないでください』 月並みな言葉。でも、論理的に考えれば、それが最適解だと思えた。
必要最低限の荷物をまとめ、逃げるように自分の部屋を出る。 まだ誰も起きていない早朝。 車内はひっそりと静まり返っている。 リビングを通る時、ソファでいびきをかいている瞬の寝顔が目に入った。 胸がズキリと痛む。 (さようなら、瞬。……楽しかったわ)
アリアは唇を噛み締め、出口の扉に手をかけた。 ゆっくりと開ける。 冷たい外気が顔に当たり、頬を刺す。
タラップを降り、雪の積もった地面に足をつける。 ザクッ、という音が、別れの合図のように響いた。
これでいい。 私は一人で生きていくのがお似合いなのだ。 そう自分に言い聞かせて、歩き出そうとした時だった。
「お、アリアじゃん。早起きだな!」
不意に、頭上から明るい声が降ってきた。 アリアの心臓が止まりそうになる。
驚いて振り返ると、クイーン・アリス号の屋根の上に、瞬が座っていた。 彼は雪かき用のスコップを持ったまま、白い息を吐きながら、いつもの能天気な笑顔でこちらを見下ろしていた。
「……し、瞬……?」 「屋根に雪が積もりすぎててさ。ほっとくと潰れるかと思って、雪下ろししてたんだよ」
瞬は軽やかに屋根から飛び降り、雪の上にスタッと着地した。 そして、アリアの背中の荷物と、こわばった表情をじっと見た。 彼がそれに気づかないはずがない。 だが、彼はあえてそれを指摘しなかった。
「奇遇だな。俺も朝飯前の運動が終わったところだ」
彼はニカっと笑うと、アリアの手首をガシッと掴んだ。
「ちょうどいいや! 競争しようぜ!」 「は?」 「あそこの丘の上まで! 街が一望できるんだ。負けたほうが朝飯のベーコンを一きれ譲る! よーい、ドン!」
「ちょ、待っ……! 私は……!」
アリアの抗議も虚しく、瞬は走り出した。 強引だった。 アリアの「深刻な決意」なんて、春風に舞う綿毛のように軽く吹き飛ばされてしまった。
雪の積もった道を、手を引かれて走る。 冷たい空気が肺に入り込み、息が切れる。足がもつれる。 「放して!」と叫びたいのに、なぜか声が出ない。 手袋越しに伝わる彼の手の温もりが、冷え切ったアリアの体を芯から温めていくようで、振りほどくことができなかった。
たどり着いたのは、ベル・マルシェの街を見下ろす小高い丘の上だった。 ちょうど、厚い雲の切れ間から朝日が差し込んできたところだった。 雪化粧をした街並みが、朝焼けを受けて淡いピンク色に輝き始める。 空気中の水分が凍り、ダイヤモンドダストとなって舞い、世界全体がキラキラと祝福されているように光っていた。
「……はぁ、はぁ……」
アリアは雪の上に膝をついて、肩で息をした。 肺が痛い。喉が焼けるようだ。 でも、目の前の景色があまりにも美しくて、言葉を失った。
「綺麗だろ?」
瞬が、何食わぬ顔で隣に立った。 彼は懐をごそごそと探り、湯気の立つ包みを取り出した。
「ほら、肉まん。昨日の祭りの残りを温めといたんだ」 「……なんで、肉まん……」 「寒い日の散歩のお供は肉まんって、俺の故郷じゃ決まってんだよ。半分こな」
瞬は肉まんを割り、大きい方をアリアに差し出した。 アリアはそれを受け取り、呆然と見つめた。 温かい。ふかふかしている。美味しそうな匂いがする。
「……悩み事か?」
瞬が、自分の分の肉まんをかじりながら、唐突に切り出した。 彼はアリアの方を見ずに、眼下の街を眺めている。
「まあ、俺には難しいことはわかんねぇけどさ」
彼は、独り言のように続けた。
「アリアさ、お前が昔どんな奴だったか、俺は知らねぇよ。エルフの森で何があったのかも、お前がどんなことを考えて生きてきたのかもな」
アリアの手が震える。 見透かされている。 彼は知っているのだ。私が逃げようとしていたことを。そして、その理由が私の過去にあることを。
「でもさ」
瞬は、アリアの方を向いて、ニカっと笑った。 その笑顔には、一点の曇りもなかった。
「あの大道芸を見て笑った時も、騒がしい鍋をつついて怒った時も……」
瞬は少しだけ照れくさそうに鼻をこすった。
「今の俺たちと一緒にいるお前は、結構いい顔してるぜ。……俺は、好きだ」
ドキン。 アリアの胸の奥で、何かが音を立てて砕けた気がした。 それは、自分自身を縛り付けていた「過去」という名の分厚い氷の鎖だった。
彼はちゃんと見ていてくれた。 私が無防備に笑った瞬間も、呆れて怒った瞬間も。 飾らない私のすべてを、否定せずに「いい顔だ」と言ってくれた。
「……私は、冷たい生き物なのよ」
アリアは、涙声で絞り出した。 認めてしまえば、彼に嫌われるかもしれない。でも、言わずにはいられなかった。
「感情なんてないの。他人の不幸を見て楽しむような、最低な観察者なの。……今は無理して笑ってるけど、本当の私は、あなたたちが思うような『いい子』じゃない」
言ってしまった。 これで終わりだ。彼は軽蔑するだろう。 アリアはうつむき、拒絶の言葉を待った。
だが、返ってきたのは、あっけらかんとした声だった。
「今はあったかいじゃん」
瞬は、アリアの頬を指でつついた。
「肉まん持ってるし、顔も赤いし。……涙だって出てる」
アリアは、ハッとして自分の頬に触れた。 濡れていた。 冷たいはずの生き物が、熱い涙を流している。
「人間だってエルフだって、関係ねぇよ。大事なのは『過去』じゃなくて『今』だろ?」
瞬は言った。
「『私はこういう奴だ』なんて、自分で決めつける必要ねぇよ。人間なんて、会う相手や場所でコロコロ変わるもんだ。俺の前で笑ってるお前が、今の本当のお前だろ?」
それは、この世の理(ことわり)だった。 「私」という固定された存在などない。 冷酷なエルフというレッテルも、過去の罪悪感も、実体のない幻影に過ぎない。 関わる相手によって、環境によって、私はいくらでも変わっていける。 瞬たちと一緒にいる時の私は、笑えるし、泣けるし、温かい。 なら、それが「今の私」でいいじゃないか。
アリアの中で、悪夢の中の冷たいエルフたちが、朝日の光に溶けて消えていく。 自分が勝手に作り出した影に怯えていただけだったのだ。
「……バカね、本当に」
アリアは、泣き笑いのような顔をした。 涙を拭い、瞬を見上げる。 そこにはもう、迷いはなかった。
「……肉まん、冷めちゃうわね」 「おう、早く食えよ」
アリアは肉まんをかじった。 肉汁と涙の味が混じって、少ししょっぱかったけれど、世界で一番優しい味がした。 胃の中に温かいものが落ちていく。 私は、生きている。冷たい石像じゃない。温かい血の通った、ただの「アリア」として。
「帰ろうぜ。アリスたちが起きたら、朝飯の奪い合いになるぞ」 瞬が立ち上がり、手を差し伸べた。
「ええ。……負けないわよ」
アリアはその手を強く握り返し、立ち上がった。 荷物はもういらない。 彼女が帰る場所は、あの冷たい森ではなく、騒がしくて温かい、走る家(クイーン・アリス号)なのだから。
二人の足跡が、雪の上に並んで残っていく。 雪の下では、春を待つ球根が、静かに芽吹きの準備を始めていた。
空はどんよりとした鉛色で、名残の雪がちらちらと舞い落ちている。 昨夜の喧騒が嘘のように、街の通りには人っ子一人いない。冷たい風だけが、祭りの残骸である紙吹雪をカサカサと転がしていく。
街外れの広場に停泊している魔導キャンピングカー「クイーン・アリス号」。 その一室で、アリアは冷たい汗をかいて目を覚ました。
「……はぁ、はぁ……」
悪夢を見ていた。 かつての故郷、「エルフの森」の夢だ。
夢の中で、彼女は深い森の奥に立っていた。 周囲を取り囲むのは、同胞であるエルフたち。彼らは皆、彫像のように美しい顔立ちをしているが、その表情は能面のように動かない。 彼らの翠玉の瞳が、冷ややかにアリアを見下ろしている。
『人間に混じって、猿真似か?』 『赤いリボン? 踊り? ……愚かしい』
彼らの声が、冷たい風のようにアリアの心を打ち据える。
『我々は高潔なる森の守護者だ。汚らわしい人間(下等生物)に情を移すなど、種族の恥さらしだ』 『あのような短命で野蛮な生き物と馴れ合うなど、吐き気がする』 『戻ってこい。お前に似合うのは、永遠の孤独と静寂だけだ』
彼らの言葉は、矢のように鋭く、アリアの心の奥底にある「自己嫌悪」という的を正確に射抜いた。
そうだ。 私は化け物だ。 かつて、人間たちを「害獣」と呼び、見下していた差別主義者だ。 今のこの楽しい生活は、全部「ごっこ遊び」に過ぎない。 瞬たちと一緒に笑っている自分は、偽物だ。赤いリボンで着飾っただけの、空っぽの人形だ。
いつか彼らは気づくだろう。私の本性が、彼らを蔑んでいた冷酷な石像であることを。 そして軽蔑し、離れていくに違いない。 その時の絶望を想像すると、肺が凍りつくような恐怖に襲われる。
(……嫌だ。嫌われたくない)
アリアは毛布を握りしめた。 傷つく前に、自分から離れよう。 この温かい場所を、私の冷たさで汚してしまう前に、消えてしまおう。
彼女は音もなくベッドから起き上がった。 震える手で、一枚の紙に走り書きをする。 『さようなら。探さないでください』 月並みな言葉。でも、論理的に考えれば、それが最適解だと思えた。
必要最低限の荷物をまとめ、逃げるように自分の部屋を出る。 まだ誰も起きていない早朝。 車内はひっそりと静まり返っている。 リビングを通る時、ソファでいびきをかいている瞬の寝顔が目に入った。 胸がズキリと痛む。 (さようなら、瞬。……楽しかったわ)
アリアは唇を噛み締め、出口の扉に手をかけた。 ゆっくりと開ける。 冷たい外気が顔に当たり、頬を刺す。
タラップを降り、雪の積もった地面に足をつける。 ザクッ、という音が、別れの合図のように響いた。
これでいい。 私は一人で生きていくのがお似合いなのだ。 そう自分に言い聞かせて、歩き出そうとした時だった。
「お、アリアじゃん。早起きだな!」
不意に、頭上から明るい声が降ってきた。 アリアの心臓が止まりそうになる。
驚いて振り返ると、クイーン・アリス号の屋根の上に、瞬が座っていた。 彼は雪かき用のスコップを持ったまま、白い息を吐きながら、いつもの能天気な笑顔でこちらを見下ろしていた。
「……し、瞬……?」 「屋根に雪が積もりすぎててさ。ほっとくと潰れるかと思って、雪下ろししてたんだよ」
瞬は軽やかに屋根から飛び降り、雪の上にスタッと着地した。 そして、アリアの背中の荷物と、こわばった表情をじっと見た。 彼がそれに気づかないはずがない。 だが、彼はあえてそれを指摘しなかった。
「奇遇だな。俺も朝飯前の運動が終わったところだ」
彼はニカっと笑うと、アリアの手首をガシッと掴んだ。
「ちょうどいいや! 競争しようぜ!」 「は?」 「あそこの丘の上まで! 街が一望できるんだ。負けたほうが朝飯のベーコンを一きれ譲る! よーい、ドン!」
「ちょ、待っ……! 私は……!」
アリアの抗議も虚しく、瞬は走り出した。 強引だった。 アリアの「深刻な決意」なんて、春風に舞う綿毛のように軽く吹き飛ばされてしまった。
雪の積もった道を、手を引かれて走る。 冷たい空気が肺に入り込み、息が切れる。足がもつれる。 「放して!」と叫びたいのに、なぜか声が出ない。 手袋越しに伝わる彼の手の温もりが、冷え切ったアリアの体を芯から温めていくようで、振りほどくことができなかった。
たどり着いたのは、ベル・マルシェの街を見下ろす小高い丘の上だった。 ちょうど、厚い雲の切れ間から朝日が差し込んできたところだった。 雪化粧をした街並みが、朝焼けを受けて淡いピンク色に輝き始める。 空気中の水分が凍り、ダイヤモンドダストとなって舞い、世界全体がキラキラと祝福されているように光っていた。
「……はぁ、はぁ……」
アリアは雪の上に膝をついて、肩で息をした。 肺が痛い。喉が焼けるようだ。 でも、目の前の景色があまりにも美しくて、言葉を失った。
「綺麗だろ?」
瞬が、何食わぬ顔で隣に立った。 彼は懐をごそごそと探り、湯気の立つ包みを取り出した。
「ほら、肉まん。昨日の祭りの残りを温めといたんだ」 「……なんで、肉まん……」 「寒い日の散歩のお供は肉まんって、俺の故郷じゃ決まってんだよ。半分こな」
瞬は肉まんを割り、大きい方をアリアに差し出した。 アリアはそれを受け取り、呆然と見つめた。 温かい。ふかふかしている。美味しそうな匂いがする。
「……悩み事か?」
瞬が、自分の分の肉まんをかじりながら、唐突に切り出した。 彼はアリアの方を見ずに、眼下の街を眺めている。
「まあ、俺には難しいことはわかんねぇけどさ」
彼は、独り言のように続けた。
「アリアさ、お前が昔どんな奴だったか、俺は知らねぇよ。エルフの森で何があったのかも、お前がどんなことを考えて生きてきたのかもな」
アリアの手が震える。 見透かされている。 彼は知っているのだ。私が逃げようとしていたことを。そして、その理由が私の過去にあることを。
「でもさ」
瞬は、アリアの方を向いて、ニカっと笑った。 その笑顔には、一点の曇りもなかった。
「あの大道芸を見て笑った時も、騒がしい鍋をつついて怒った時も……」
瞬は少しだけ照れくさそうに鼻をこすった。
「今の俺たちと一緒にいるお前は、結構いい顔してるぜ。……俺は、好きだ」
ドキン。 アリアの胸の奥で、何かが音を立てて砕けた気がした。 それは、自分自身を縛り付けていた「過去」という名の分厚い氷の鎖だった。
彼はちゃんと見ていてくれた。 私が無防備に笑った瞬間も、呆れて怒った瞬間も。 飾らない私のすべてを、否定せずに「いい顔だ」と言ってくれた。
「……私は、冷たい生き物なのよ」
アリアは、涙声で絞り出した。 認めてしまえば、彼に嫌われるかもしれない。でも、言わずにはいられなかった。
「感情なんてないの。他人の不幸を見て楽しむような、最低な観察者なの。……今は無理して笑ってるけど、本当の私は、あなたたちが思うような『いい子』じゃない」
言ってしまった。 これで終わりだ。彼は軽蔑するだろう。 アリアはうつむき、拒絶の言葉を待った。
だが、返ってきたのは、あっけらかんとした声だった。
「今はあったかいじゃん」
瞬は、アリアの頬を指でつついた。
「肉まん持ってるし、顔も赤いし。……涙だって出てる」
アリアは、ハッとして自分の頬に触れた。 濡れていた。 冷たいはずの生き物が、熱い涙を流している。
「人間だってエルフだって、関係ねぇよ。大事なのは『過去』じゃなくて『今』だろ?」
瞬は言った。
「『私はこういう奴だ』なんて、自分で決めつける必要ねぇよ。人間なんて、会う相手や場所でコロコロ変わるもんだ。俺の前で笑ってるお前が、今の本当のお前だろ?」
それは、この世の理(ことわり)だった。 「私」という固定された存在などない。 冷酷なエルフというレッテルも、過去の罪悪感も、実体のない幻影に過ぎない。 関わる相手によって、環境によって、私はいくらでも変わっていける。 瞬たちと一緒にいる時の私は、笑えるし、泣けるし、温かい。 なら、それが「今の私」でいいじゃないか。
アリアの中で、悪夢の中の冷たいエルフたちが、朝日の光に溶けて消えていく。 自分が勝手に作り出した影に怯えていただけだったのだ。
「……バカね、本当に」
アリアは、泣き笑いのような顔をした。 涙を拭い、瞬を見上げる。 そこにはもう、迷いはなかった。
「……肉まん、冷めちゃうわね」 「おう、早く食えよ」
アリアは肉まんをかじった。 肉汁と涙の味が混じって、少ししょっぱかったけれど、世界で一番優しい味がした。 胃の中に温かいものが落ちていく。 私は、生きている。冷たい石像じゃない。温かい血の通った、ただの「アリア」として。
「帰ろうぜ。アリスたちが起きたら、朝飯の奪い合いになるぞ」 瞬が立ち上がり、手を差し伸べた。
「ええ。……負けないわよ」
アリアはその手を強く握り返し、立ち上がった。 荷物はもういらない。 彼女が帰る場所は、あの冷たい森ではなく、騒がしくて温かい、走る家(クイーン・アリス号)なのだから。
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