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第九章:魔界の盟主と対天使兵器
第42話:魔王謁見
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魔族の衛兵に案内され、俺たちは魔界の中心都市を歩いていた。
道端では、様々な姿形の魔族たちが、穏やかに談笑したり、市場で買い物をしたりしている。そこには、人間たちの伝承にあるような、邪悪さや、混沌の欠片もなかった。ただ、俺たちの世界とは違う法則で営まれる、一つの文化的な生活があるだけだった。
やがて、目の前に、ひときわ巨大な城が姿を現した。
磨き上げられた黒曜石でできた、壮麗な城。それが、魔王城らしい。
「ひえ…!きっと、中には角が十本くらいあって、口から火を噴くような、恐ろしい魔王が待ち構えているに違いないわ…!」
ルーナが、ゴクリと喉を鳴らす。
「ええい、魔王ごときに気圧される私ではないわ!堂々と行きましょう!」
アリーシアは虚勢を張っているが、その膝は少しだけ笑っていた。
城の内部は、俺たちの想像を、またしても完璧に裏切るものだった。
そこは、静かで、荘厳な、巨大な図書館のようだったのだ。
壁という壁には、天井まで届くほどの巨大な本棚が並び、びっしりと詰め込まれた革張りの古書が、静かにその出番を待っている。所々に配置された、水晶や鉱石でできた魔道具が、ロウソクの炎のように、柔らかく、そして暖かい光を放っていた。漂ってくるのは、古い紙とインクの、どこか落ち着く匂い。
(本当にここが魔王城か…?)
俺たちが困惑していると、衛兵が最も大きな扉の前で立ち止まり、深々と頭を下げた。
「魔王ザグラム様が、玉座の間にてお待ちです」
扉の先。
だだっ広い玉座の間の中央に、ポツンと、一つの椅子が置かれていた。豪華な装飾などない、シンプルだが、上質な木で作られた椅子だ。
そして、そこに、一人の男が座って、静かに本を読んでいた。
筋骨隆々でもなければ、恐ろしい形相でもない。
腰まで届くほどの、艶やかな黒髪。細身で長身。その顔立ちは、驚くほどに整っており、鋭いが、深い知性と理性に満ちた瞳をしている。まるで、どこかの大学で教鞭をとっている、若き学者のような雰囲気の男だった。
彼が、魔王…?
男は、俺たちに気づくと、読んでいた本をそっと閉じ、静かに立ち上がった。そして、穏やかな笑みを浮かべた。
「ようこそ、魔界へ。長旅、ご苦労だった。席を用意させてある、まずは疲れを癒すがいい」
その声は、低く、落ち着いていて、不思議な包容力があった。
彼――魔王ザグラムは、俺たちが腰を下ろすのを確認すると、静かに語り始めた。
「君たちの旅は、おおよそ、この魔界から観測させてもらっていたよ」
彼は、玉座の横にある巨大な水晶玉を指差す。
「ドクター・ヴェルギリウスの狂気も、聖王国サンクトゥスでの悲劇も、全て把握している。そして、君たちの誰よりも長く、奴ら…『調律者』の再来を、私は警戒してきた」
その口から、当たり前のように飛び出したキーワードに、俺たちは息をのむ。
ザグラムは、遠い目をして、歴史を語り始めた。
かつて、魔族も、人間やエルフたちと同じように、地上で暮らす種族の一つだったこと。
しかし、世界の理を書き換えるほどの力を持った古代文明に対し、その力を「バグ」とみなした天使――調律者が、無差別の浄化を開始したこと。
そして、魔族は、その理不尽な天の意思に、唯一、最後まで抗った種族であったこと。
「我々は戦い、そして、敗れた。生き残った者たちは、邪悪の汚名を着せられ、この地の底へと追いやられた。君たちの世界で、我々が『悪』として伝わっているのは、それが理由だ。歴史とは、常に勝者が記すものだからな」
その声に、怒りや憎しみはなかった。ただ、深い、深い諦観と、そして、消えることのない誇りが宿っていた。
「我々は悪ではない。ただ、理不-尽な『天』の意思に、最後まで屈しなかっただけの、敗者に過ぎんのだよ」
ザグラムの言葉に、俺たちは、この世界の本当の構造を、そして、自分たちが戦うべき相手の正体を、改めて認識させられることになった。
俺たちがこれまで「常識」だと思っていた世界が、ガラガラと、足元から崩れていくような感覚だった。
道端では、様々な姿形の魔族たちが、穏やかに談笑したり、市場で買い物をしたりしている。そこには、人間たちの伝承にあるような、邪悪さや、混沌の欠片もなかった。ただ、俺たちの世界とは違う法則で営まれる、一つの文化的な生活があるだけだった。
やがて、目の前に、ひときわ巨大な城が姿を現した。
磨き上げられた黒曜石でできた、壮麗な城。それが、魔王城らしい。
「ひえ…!きっと、中には角が十本くらいあって、口から火を噴くような、恐ろしい魔王が待ち構えているに違いないわ…!」
ルーナが、ゴクリと喉を鳴らす。
「ええい、魔王ごときに気圧される私ではないわ!堂々と行きましょう!」
アリーシアは虚勢を張っているが、その膝は少しだけ笑っていた。
城の内部は、俺たちの想像を、またしても完璧に裏切るものだった。
そこは、静かで、荘厳な、巨大な図書館のようだったのだ。
壁という壁には、天井まで届くほどの巨大な本棚が並び、びっしりと詰め込まれた革張りの古書が、静かにその出番を待っている。所々に配置された、水晶や鉱石でできた魔道具が、ロウソクの炎のように、柔らかく、そして暖かい光を放っていた。漂ってくるのは、古い紙とインクの、どこか落ち着く匂い。
(本当にここが魔王城か…?)
俺たちが困惑していると、衛兵が最も大きな扉の前で立ち止まり、深々と頭を下げた。
「魔王ザグラム様が、玉座の間にてお待ちです」
扉の先。
だだっ広い玉座の間の中央に、ポツンと、一つの椅子が置かれていた。豪華な装飾などない、シンプルだが、上質な木で作られた椅子だ。
そして、そこに、一人の男が座って、静かに本を読んでいた。
筋骨隆々でもなければ、恐ろしい形相でもない。
腰まで届くほどの、艶やかな黒髪。細身で長身。その顔立ちは、驚くほどに整っており、鋭いが、深い知性と理性に満ちた瞳をしている。まるで、どこかの大学で教鞭をとっている、若き学者のような雰囲気の男だった。
彼が、魔王…?
男は、俺たちに気づくと、読んでいた本をそっと閉じ、静かに立ち上がった。そして、穏やかな笑みを浮かべた。
「ようこそ、魔界へ。長旅、ご苦労だった。席を用意させてある、まずは疲れを癒すがいい」
その声は、低く、落ち着いていて、不思議な包容力があった。
彼――魔王ザグラムは、俺たちが腰を下ろすのを確認すると、静かに語り始めた。
「君たちの旅は、おおよそ、この魔界から観測させてもらっていたよ」
彼は、玉座の横にある巨大な水晶玉を指差す。
「ドクター・ヴェルギリウスの狂気も、聖王国サンクトゥスでの悲劇も、全て把握している。そして、君たちの誰よりも長く、奴ら…『調律者』の再来を、私は警戒してきた」
その口から、当たり前のように飛び出したキーワードに、俺たちは息をのむ。
ザグラムは、遠い目をして、歴史を語り始めた。
かつて、魔族も、人間やエルフたちと同じように、地上で暮らす種族の一つだったこと。
しかし、世界の理を書き換えるほどの力を持った古代文明に対し、その力を「バグ」とみなした天使――調律者が、無差別の浄化を開始したこと。
そして、魔族は、その理不尽な天の意思に、唯一、最後まで抗った種族であったこと。
「我々は戦い、そして、敗れた。生き残った者たちは、邪悪の汚名を着せられ、この地の底へと追いやられた。君たちの世界で、我々が『悪』として伝わっているのは、それが理由だ。歴史とは、常に勝者が記すものだからな」
その声に、怒りや憎しみはなかった。ただ、深い、深い諦観と、そして、消えることのない誇りが宿っていた。
「我々は悪ではない。ただ、理不-尽な『天』の意思に、最後まで屈しなかっただけの、敗者に過ぎんのだよ」
ザグラムの言葉に、俺たちは、この世界の本当の構造を、そして、自分たちが戦うべき相手の正体を、改めて認識させられることになった。
俺たちがこれまで「常識」だと思っていた世界が、ガラガラと、足元から崩れていくような感覚だった。
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