無敵だけど平穏希望！勘違いから始まる美女だらけドタバタ異世界無双

第十章：最終決戦、神を創りし者

第46話：終末の鐘と反撃の狼煙

　その日、世界は、終わりを告げる鐘の音を聞いた。
　澄み渡っていた秋の空が、前触れもなく、血を流すようにじわじわと赤黒く染まっていく。そして、どこからともなく、ゴーン…ゴーン…と、心臓を直接掴むような、不気味な鐘の音が、世界中に鳴り響いた。

　次の瞬間、世界各地の空が、ガラスのようにひび割れた。
　空間の裂け目――異空間ゲートから、感情のない、ただ命令のままに動く無数の量産型天使と、ドクター・ヴェルギリウスが生み出した、これまで以上に凶悪なキメラ軍団が、まるで汚物のように溢れ出してくる。

　収穫を待つ金色の麦畑が、踏み荒らされ、燃やされていく。
　美しく紅葉した森が、無慈悲な光によって、薙ぎ払われていく。
　人々の平和な街が、次々と破壊され、悲鳴と絶望に包まれていく。
　それは、世界の終末。あまりに唐突で、あまりに理不尽な、暴力の嵐だった。

　だが、世界は、ただ黙って滅びを受け入れたわけではなかった。

　魔界。
　魔王城のバルコニーに立った魔王ザグラムが、眼下に集う、魔族全軍に向けて、その雷のような声を響かせた。
「聞け、我が同胞たちよ！我らが虐げられた歴史は、今日この日で終わりだ！かつて我らの祖先が抗い、そして敗れた偽りの天に、再び牙を剥く時が来たのだ！地の底の民の誇りを、天の奴らに見せつけてやれ！」
「「「オオオオオオオオオッ！！」」」
　魔族たちの雄叫びが、大地を揺るがした。

　人間界、グランフェル王国。
　アリーシアが、魔界から送られた通信魔道具を使い、その凛とした声を、大陸中の王侯貴族、そしてギルドマスターたちへと届けた。
「人間も、魔族も、エルフも、ドワーフも、今は関係ありません！私たちの敵は一つ！この世界に生きる全ての命を脅かす、理不尽な悪意です！どうか、今この時だけは、種族も、国境も、過去の遺恨も全て忘れ、共に戦ってください！」
　その、魂の叫びに、世界が応えた。
　かつて敵対していた帝国の将軍が、各地のギルドマスターが、エルフの里の長老が、ドワーフの王が、次々と立ち上がり、種族を超えた「世界連合軍」が、ここに結成された。

　地上では、魔族軍と人間たちの連合軍が、溢れ出す怪物たちに必死の抵抗を続けている。その中には、忍者衆「黒風」の姿も、そして、「あたしたちに任せなさい！」と元気に最前線に飛び出していく、リリアたち3人組パーティの姿もあった。

　そして、俺たちは。
　そんな地上の総力戦を眼下に、魔界の技術とギデオンの天才によって最終改造が施された、黒鋼の飛空挺「ラグナロク号」に乗り込んでいた。

「行ってこい、若いの！」
　操縦席のギデオンが、にやりと笑う。
「わしの生涯の最高傑作が、お前さんらを勝利に導くわい！」

　地上で見送る連合軍の兵士たちの、「頼んだぞ！」「必ず戻ってこい！」という声援を背に受けて、ラグナロク号は、全ての元凶が待つ、空の果て――「天空の揺り籠」へと、その機首を向けた。

　決戦の火蓋は、今、切って落とされた。
　俺たちの、長くて、そしてひたすらドタバタだった旅が、いよいよ、最後の戦いを迎えようとしていた。