無敵だけど平穏希望!勘違いから始まる美女だらけドタバタ異世界無双

Gaku

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第十章:最終決戦、神を創りし者

第47話:天空の迷宮と六つの絆

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 どこまでも広がる紺碧の空と、どこまでも続く純白の雲海。その境界線を切り裂くように、一隻の飛空艇「ラグナロク号」が、巨大な浮遊要塞へと突き進んでいた。

「うおおおお! 見えてきたぜ、ドクター・ヴェルギリウスのキノコ頭が拝める空中庭園がよぉ!」
 操舵輪を握るアルスが、少年漫画の主人公ばりの大声で叫ぶ。その言葉とは裏腹に、眼前に迫る「天空の揺り籠(アーク・クレイドル)」は、庭園などという生易しいものではなかった。古代遺跡の荘厳な石造りを土台としながら、そこかしこに生体組織めいた脈打つ肉塊が絡みつき、不気味な紫色の光を放つパイプラインが縦横無尽に駆け巡っている。空気が薄いせいか、太陽の光は地上よりも遥かに鋭く、磨かれた金属の壁面に反射して目を焼いた。新鮮な空気はなく、代わりに鼻につくのは、オゾンの匂いと、錆びた鉄の匂い、そして、生命を冒涜するような甘ったるい薬品の香りだった。

「アルスさん! 着陸地点、本当にここでいいんですの!? どう見ても敵のど真ん中ですわよ!」
 アリーシアが鉄扇を片手に、アルスの操縦に悲鳴に近い声を上げる。
「いいんだよ! こういうのは派手に行った方が、相手もビビってくれるって相場が決まってんだ!」
「その相場、どこの市場のものですの!?」

 アルスの宣言通り、ラグナロク号は要塞の防御網を紙一重で潜り抜け、ガッシャンバリィィン!!と盛大な音を立てて、要塞中央の広場らしき場所へ強行着陸した。衝撃で全員が床を転げまわる。

「…アルス。次からは私が操縦する」
 床にめり込んだ顔を上げながら、ソフィアが静かに告げた。

 一行がよろよろと甲板に出ると、そこは既に戦場だった。歪んだ生命の樹の根が、金属の床を突き破って迷宮のような壁を形成し、その影から、様々な生物を無理やり繋ぎ合わせたかのようなキメラたちが、涎を垂らしながら次々と姿を現す。さらに上空からは、感情のない瞳を持つ量産型天使が、光の槍を手に降下してくる。

「まったく、趣味の悪い内装ね! こんなところでディナーに誘われたら、前菜の段階で叩き出してやるわ!」
 アリーシアが悪態をつきながらも、その瞳は冷静に敵の配置と数を分析していた。バッと鉄扇「天網」を開くと、敵の布陣が彼女の頭の中に流れ込み、即座に仲間たちと思考が共有される。

『ソフィア、あなたのルートは7時方向! そこにいる粘液まみれの指揮官タイプ、見た目が不愉快だから3秒でお願い!』
『承知。…理由はそれでいいのか』

 アリーシアの無茶な、しかし的確な指示に、ソフィアは影と見紛う速さで駆け出した。双剣「無月」がきらめき、粘液を撒き散らしていたキメラの首が、悲鳴を上げる間もなく宙を舞う。仕事はきっちりこなすが、その理由には若干納得がいかないソフィアだった。

「こっちの天使どもは俺が引き受ける! てめえら、量産型だろうがなんだろうが、神の使いっつーなら、俺の腹の足しになりやがれ!」
 ジンが刀「魔喰」を担ぎ、野生の熊よろしく天使の群れに突っ込む。彼の刀は、天使の防御障壁をまるでバターのように切り裂き、いとも簡単に突破口を開いた。

「ルーナ、今だ! あのデカブツに一発お見舞いしてやれ!」
『任せて! って、ジン! ちょっとこっちに破片飛ばさないでくれる!? 今日の朝、念入りにセットした髪が崩れるでしょ!』

 ルーナは「星詠みの杖」を振りかざし、ジンのすぐ後ろで文句を言いながらも、完璧なタイミングで魔法を詠唱する。ジンの開いた穴に向かって、色とりどりの星屑が渦を巻く極大魔法が放たれ、天使の一団が光の塵となって消滅した。その爆風で、ジンの逆立った髪がさらに逆立つ。

「お二人とも、お怪我はありませんか!? 大丈夫ですか!?」
 仲間がかすり傷を負ったのを見るや、セレスが「破邪の聖印」を天に掲げ、大げさなくらいに治癒の光を降り注がせる。
「セレス、大丈夫だ! ちょっと爪が欠けただけだ!」
「まあ大変! すぐに指ごと再生させますね!」
「そこまでしなくていいから!」

 その横では、ティアナが古代魔法で詠唱し、地面を隆起させて巨大な壁を作り出し、後続のキメラたちの進路を塞いでいた。
「これでよし…っと、あら?」
 ティアナが作り出した壁は、見事に敵を分断したが、ついでに味方であるジンの進路も塞いでしまった。
「おいティアナ! 俺が通れねえだろうが!」
「ご、ごめんなさいジンさん! ちょっと高さを間違えちゃって…えいっ!」
 ティアナが慌てて壁を下げると、今度は勢い余って床が陥没し、ジンが足を取られて派手にすっ転んだ。

 アリーシアの完璧な指示。ソフィアの無駄のない暗殺。ジンとルーナの阿吽の呼吸。セレスとティアナの(ちょっと危なっかしい)サポート。
 その戦いぶりは、もはや個々の力の寄せ集めではなかった。ちぐはぐで、ドタバタで、思わず吹き出してしまうようなやり取りを繰り返しながらも、彼らは一つの生命体のように完璧に連動し、絶望的なはずの戦場を支配していた。

 最初の喧嘩ばかりだった旅路が、いつの間にか彼らを、誰にも止められない最強のパーティへと変えていたのだ。

 …ただ一人、ラグナロク号の陰で、その光景を呆然と眺めている主人公を除いて。

「なあ…俺、さっきから応援しかしてなくない?」

 アルスのその呟きは、キメラの断末魔と、ルーナの魔法の轟音にかき消された。彼の最終決戦は、まだ始まってもいないようだった。
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