無能と蔑まれた僕だけが知る世界の嘘。敵であるはずの怪物の少女に恋したので、人類を裏切り世界を滅ぼす。

Gaku

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第1部:養成所編

第十四話:天才たちの進撃

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深く、昏い、生命の息吹すら拒絶するかのようなジャングルの底で、僕、宮沢譲たちが、文明の光も、希望という名の微かな灯りすらも見失い、絶望という名の分厚い闇にその身を飲み込まれようとしていた、ちょうどその頃。永劫とも思える時間が、僕らの心をじわじわと蝕んでいた、まさにその瞬間。

運命の女神は、残酷なほどに気まぐれな笑みを浮かべていた。

島の正反対、遥か彼方に位置する、切り立った崖の上の高台。そこでは、僕たちの苦悩などまるで存在しないかのように、全く別の物語が、天穹から降り注ぐ太陽の祝福を一身に浴びながら、どこまでも華麗に、そして鮮烈に繰り広げられていた。

眼下に広がるのは、見渡す限りの広大な森林地帯。それはまるで、神が気まぐれに広げた緑色の絨毯のように、水平線の彼方までどこまでも、どこまでも続いていた。生命力に満ち溢れた木々が、風に揺れるたびにざわめき、その葉擦れの音は、まるで大地の呼吸そのもののようだった。遙か下方の海から、絶え間なく吹き上げてくる心地よい潮風が、湿り気を帯びた塩の香りを運び、激しい運動で火照った肌を優しく、そして慈しむように撫でていく。

見上げた空は、一点のシミすら許さない、突き抜けるようなコバルトブルーに染め上げられていた。その無限の蒼穹を、巨大な綿菓子をちぎって浮かべたかのような純白の雲が、まるで時が止まったかのように、ゆっくりと、そして悠然と流れていく。降り注ぐ陽光は、大気に含まれる微細な水蒸気に乱反射し、キラキラと輝く光のカーテンを作り出していた。その全てが、そこに立つ者たちの輝かしい未来を、高らかに、そして力強く祝福しているかのようだった。圧倒的な肯定感に満ちたその光景は、いかなる不安や迷いも、その存在を許さない。

「よし、次のターゲットは、南西へ三キロ進んだ地点にある渓谷エリアだ。そこに、中型の擬似怪物が五体、群れを形成しているはずだ。事前にインプットされたデータ通りなら、動きは俊敏だが、その分、装甲は比較的薄いタイプ。短期決戦で一気に片付けるぞ」

朝倉颯太は、その言葉を紡ぎながら、最新鋭のゴーグル型ディスプレイにホログラムとして投影される戦術マップを指でなぞった。彼の声は、自信に満ち溢れ、涼やかで、それでいて聞く者の心を奮い立たせる不思議な熱を帯びていた。マップ上の赤いマーカーが点滅し、彼の網膜に敵の予測位置と地形データを詳細に映し出す。

彼がその身にまとう漆黒の装備は、養成所に所属する幾多の生徒の中でも、トップクラスの実力を持つ者にしか支給が許されない、特別仕様の軽量強化アーマーだった。カーボンナノチューブと特殊合金を編み込んだそのボディは、あらゆる衝撃を吸収・分散させながらも、着用者の動きを一切阻害しない。太陽の光を浴びて、その表面がぬらりとした鈍い輝きを放ち、鍛え上げられた彼の肉体のシルエットを、まるで神話に登場する英雄のように、より一層際立たせていた。

カチャリ、とアーマーの関節部が微かな音を立てる。その音さえもが、彼の揺るぎない自信の表れのように聞こえた。

「了解! 颯太! それじゃあ陽葵、先行して上空から索敵と地形スキャンを行うね! みんなの位置、リアルタイムでフィードバックするから!」

橘陽葵が、屈託のない、澄んだ鈴が鳴るような快活な声で応えた。彼女はそう言うと、背中に背負っていた純白の小型飛行ユニットの起動スイッチに、しなやかな指を滑らせる。

キュイイイイン!

鼓膜を震わせる甲高い起動音と共に、ユニットの両翼から蒼炎のようなプラズマ粒子が噴射された。周囲の空気が一瞬にして電離し、オゾンの匂いが鼻腔をくすぐる。次の瞬間、彼女の華奢な身体は、まるで重力という物理法則から解き放たれたかのように、ふわりと宙に浮き上がった。舞い上がった土埃が、彼女の周りで渦を巻く。そして、あっという間に高度を上げ、青空へと吸い込まれるように舞い上がっていった。金色の長い髪が太陽の光を浴びて煌めきながら、風に美しくたなびく。その姿は、戦場という殺伐とした舞台に舞い降りた、戦乙女か天女そのものだった。

彼ら、颯太と陽葵が率いる精鋭部隊「チームA」。そのほかのメンバーもまた、全国各地の養成所から厳しい選抜試験を潜り抜けてきた、まさにエリート中のエリートアースばかりだった。ある者は重火器の扱いに長け、ある者は電子戦に特化し、またある者は近接格闘術の達人。それぞれが己の分野において、他の追随を許さない圧倒的な才能を持っていた。

彼らの表情に、僕たちが常に感じていたような、死と隣り合わせの極限状況における緊張や、先の見えない未来に対する不安の色は、まるで見当たらなかった。それどころか、その瞳は好奇心と高揚感に爛々と輝いている。これから始まるのは、生きるか死ぬかの絶望的なサバイバルではないのだ。彼らにとって、これはあくまで「試験」であり、そして何より、自分たちの圧倒的な才能と実力を誇示するための、最高の舞台での「狩り」に過ぎなかった。

「よし、行こうぜ! 試験開始からまだ半日だ。今のうちに、他の奴らが逆転する気力すら失くすくらいのトップスコア、叩き出してやる!」

颯太が、太陽のように眩しい笑顔を仲間たちに向け、その力強い号令が崖の上に響き渡った。その声に呼応するように、チームAのメンバーたちから「オウ!」という雄叫びが上がる。彼らは、まるで風のように軽やかに、光のように鋭く、崖の上から眼下の鬱蒼とした森へと、一斉に駆け下りていった。急峻な斜面をものともせず、木の根や岩を巧みなステップでかわしながら、その速度は一切衰えることがない。彼らが通過した跡には、わずかに揺れる草木と、舞い上がった土の匂いだけが残されていた。

***

渓谷エリアは、彼らの到着を、まるで待ち構えていたかのように不気味な静寂で包んでいた。天を突くような巨大な岩壁が両側から迫り、空を狭く切り取っている。陽光は上空で遮られ、谷底には常に薄暗い影が淀んでいた。苔むした岩肌からは、絶えず冷たい水が滴り落ち、パチャン、パチャン、という雫の音が、静寂の中で不規則なリズムを刻んでいる。足元には清らかな小川が流れ、サラサラという心地よいせせらぎの音が聞こえるが、その音さえもが、この閉鎖的な空間においては、どこか緊張感を煽る響きを持っていた。湿った土と、腐葉土、そして冷たい石の匂いが混じり合った、独特の空気が肺を満たす。

その静寂を最初に破ったのは、擬似怪物たちの咆哮だった。

グギャアアアアアッ!

耳をつんざくような、金属を無理やり引き裂くような甲高い叫び声が、渓谷の岩壁に反響し、幾重にもなって彼らに襲いかかった。声の主は、岩陰や茂みの中から、その巨大な姿を次々と現した。全長は三メートルを超え、まるで巨大なカマキリのような形状をした、俊敏な擬似怪物たち。その全身は、鈍い緑色に輝く金属質の外骨格で覆われ、複眼のように見える赤いセンサーが、不気味な光を明滅させている。そして何より目を引くのは、両腕に備わった巨大で鋭利な鎌。それは陽光の名残を反射して妖しくきらめき、岩をも容易く切り裂くほどの威力を秘めていることを、無言のうちに物語っていた。五体の擬似怪物が、彼らを包囲するようにじりじりと距離を詰めてくる。カシャ、カシャ、という関節の駆動音が、不気味に響いた。

しかし、チームAのメンバーは、誰一人として臆する様子を見せない。彼らの表情には、ただ冷静な分析と、狩りを前にしたハンターの獰猛な光が宿るだけだった。

『任せて! 全員のゴーグルに、敵の位置情報、リアルタイムで送信するね! 一番右の個体、関節部に過去の戦闘によるものと思われる微細なクラックを確認。そこがウィークポイント!』

上空を優雅に旋回する陽葵の、まるで天使の声のようなクリアなナビゲートが、全員のインカムに直接響き渡る。その声と同時に、颯太たちの視界には、岩陰に潜む敵の位置、移動予測ルート、そして弱点が、赤いマーカーと詳細なテキストデータで正確に表示された。陽葵の瞳は、鷹のように鋭く戦場全体を俯瞰し、その脳はスーパーコンピュータのように瞬時に情報を処理し、最適な解を導き出していく。

「よし、作戦通り、俺が前に出て引きつける! お前たちは左右から大きく回り込んで、陽葵の指示通りに各個撃破だ! 呼吸を合わせろよ!」

颯太は、腰のホルスターに収められた二丁のエネルギーハンドガンを、流れるような動作で抜き放った。その銃身は彼のアーマーと同じく漆黒で、無駄な装飾を一切排した、機能美の塊だった。彼は、単身、敵の群れの真っ只中へと、まるで舞台に躍り出る主役俳優のように、大胆不敵かつ華麗に突っ込んでいった。ザッ、ザッ、ザッと小川の浅瀬を蹴立て、水飛沫がキラキラと舞う。

そこから先は、もはや戦闘という名の無粋な言葉で表現することすら躊躇われる、完璧に振り付けられた、アクロバティックなダンスパフォーマンスのようだった。

ヒュオッ!

擬似怪物の一体が、凄まじい速度で巨大な鎌を振り下ろす。空気そのものを切り裂くような鋭い風切り音が響き、その軌道上にあった岩が、バターのように真っ二つに断ち切られた。しかし、その鎌が振り下ろされる寸前、颯太の身体は、まるで未来を予知していたかのように、最小限の動きでその攻撃を回避していた。彼の身体は、敵の攻撃範囲に完全に入っているはずなのに、なぜか一撃たりともその身に受けることはない。鎌の先端が、彼のアーマーの表面を、数ミリの距離で掠めていく。その度に、ゾクゾクするようなスリルが、彼の全身を駆け巡った。

彼は、人間離れした、ほとんど予測不能な体捌きで、次々と繰り出される敵の鋭い鎌による猛攻を、まるで戯れるかのように紙一重でかわしていく。右にスウェーし、左にダッキングし、時にはその場で身をかがめて敵の薙ぎ払いをやり過ごす。その全ての動きに一切の無駄がなく、まるで流れる水のようにしなやかだった。そして、敵が攻撃の後の僅かな硬直を見せた瞬間を逃さない。

ゼロ距離まで肉薄したかと思えば、まるでバレエダンサーのように華麗にスピンしながら、敵の関節部や、装甲の隙間に剥き出しになった動力パイプといった、最も脆い部分を、二丁のハンドガンで次々と、寸分の狂いもなく撃ち抜いていく。

シュン! シュン!

圧縮されたエネルギー弾が、青白い閃光を放ちながら銃口から射出される。ジュッ!という肉の焼けるような音と共に、擬似怪物の関節部が溶解し、動力パイプからは火花と黒煙が噴き出した。動きの自由を奪われた怪物が、苦悶の叫びを上げる。

彼の、あまりにも常軌を逸した神業のような動きに、残りの四体の敵の注意が完全に引きつけられている間に、左右に展開していた仲間たちが動く。

『右翼、目標まであと五メートル! 岩壁を蹴って三次元的な動きで攪乱して! 左翼は、その射線軸に合わせて、五秒後に十字砲火を形成!』

陽葵の完璧なナビゲートのもと、仲間たちは、擬似怪物のセンサーの死角から、まるで一つの生き物であるかのように、息の合った連携攻撃を叩き込んでいく。一人はライフルから高出力のビームを放ち、もう一人はグレネードランチャーで敵の足元を爆砕する。エネルギー弾の閃光が、薄暗い渓谷の岩肌を何度も激しく照らし出し、甲高い金属の破壊音が、まるで美しい協和音のように、谷底に響き渡った。

それは、あまりにも完璧な、そして残酷なまでの「蹂躙」だった。擬似怪物は、何一つ有効な反撃ができないまま、その自慢の鋭利な鎌を一度も有効に振るうことができないまま、戦闘開始から数分も経たずに、ただの鉄屑の山へと変わっていった。ギャリギャリという断末魔のノイズを残して機能を停止し、巨体がガシャアン!という轟音と共に崩れ落ちる。オイルの焦げ付く嫌な匂いが、硝煙の匂いと混じり合って、渓谷に立ち込めた。

「ふぅ、楽勝だな」

最後の敵が沈黙したのを確認すると、颯太は、銃口からゆらりと立ち上る硝煙を、悪戯っぽくふっと吹き消した。そして、いつもの太陽のような、人懐っこい笑顔で仲間たちを振り返った。彼の額には、玉のような汗が光っていた。

「すげぇよ、颯太!」「あんたの動き、またキレが増したんじゃないか!?」「まさに神業だ!」

仲間たちから、割れんばかりの歓声と、心からの賞賛の声が上がる。彼らは、他のチームが、たった一体の擬似怪物を相手に命からがら苦戦を強いられているであろう間に、既に数十体の敵を狩り、ポイントランキングのトップを、他の追随を全く許さない、ぶっちぎりのスコアで独走していた。

「お疲れ様、颯太。相変わらず、無茶ばっかりするんだから。見てるこっちがヒヤヒヤするよ」

サァッ、と風を切る音と共に、陽葵が颯太の隣に、鳥の羽のようにふわりと舞い降りてきた。飛行ユニットの噴射光が収まり、静寂が戻る。彼女は、腰のポーチから取り出したペットボトルの水を颯太に手渡しながら、その額に浮かんだ汗を、自分の袖で拭うのではなく、優しく、ためらいがちに、その白魚のような指で拭ってやる。その光景は、まるで凱旋した英雄と、その傍らに寄り添い、労う女神のようだった。

「これくらい、どうってことないさ。陽葵の完璧なサポートがあったからな。お前がいなきゃ、こうはいかない」
颯太は、少し照れくさそうに、しかし素直に感謝の言葉を口にしながら、ペットボトルの水を一気に煽った。冷たい水が喉を通り、火照った身体に染み渡っていくのが心地よかった。

その時だった。陽葵が、ふと、眼下の森の、そのさらに向こう、自分たちがやってきたのとは反対の方角に視線を向け、遠い目をして呟いた。

「譲たち、大丈夫かなぁ」

その、何気ない一言。仲間たちとの戦勝の喜びに満ちていた空気が、その一言で、ほんのわずかに、しかし確実に揺らいだ。

その言葉に、颯太は水を飲む手をぴたりと止め、一瞬だけ、その快活な表情を曇らせた。ペットボトルを持つ手に、無意識に力がこもる。

「ん?」

「だって、あのチーム、メンバー構成がひどいじゃない。剛くんは確かに強いけど、すぐにカッとなって周りが見えなくなるし、玲奈さんって、なんだかいつも一人でいて、冷たそうだし。小林くんなんて、見てるこっちが心配になっちゃうくらいオドオドしてるよ。それに、譲は……その、ねぇ?」

陽葵の言葉には、悪意など一欠片もなかった。ただ純粋な、共に育ってきた幼馴染たちへの心配。しかし、その言葉の最後に含まれた「譲は、戦えない」という、誰もが知る動かしようのない事実が、颯太の胸の奥に、小さな、しかし鋭い棘のように、チクリと深く刺さった。

「……大丈夫だろ」

一瞬の沈黙の後、颯太は、努めて明るい声を作り、そう言って笑い飛ばした。しかし、その笑顔は、いつもの太陽のような輝きを、わずかに失っていた。

「あいつには、俺たちにはないモンがある。戦闘はダメダメだけど、頭だけは、昔から、やけにキレたからな。きっと、うまくやってるさ。あいつなりのやり方でな」

そう口にしながらも、彼の脳裏には、数時間前、輸送機の中で見た、譲のどこか寂しげな、そして無理に作ったような、諦めにも似た笑顔が、焼き付いて離れなかった。

自分は、ずっと譲の一番近くにいたはずだった。誰よりも、彼が夜遅くまで、独り図書室にこもって戦術理論を学び、ボロボロになるまでシミュレーターでの訓練を繰り返していたことを知っている。血の滲むような、常人には到底真似のできない努力を続けていたことを知っている。

そして、誰よりも。

彼の才能の、どうしようもない限界を知っていた。

自分が、アースとしての力に目覚め、周囲の期待を一身に背負い、どんどん先へ、前へと進んでいく中で、譲がどれほどの劣等感と焦りを抱えていたか。本当は、ずっと前から気づいていた。だが、気づかないふりをしていただけなのかもしれない。その事実に触れることは、彼を傷つけるだけでなく、順風満帆な自分自身にも、気まずい影を落とすから。

自分がこうして、英雄のように華々しく活躍すればするほど、その光が強ければ強いほど、譲との間に存在する見えない溝は、どんどん深く、そして広くなっていってしまうのではないか。

彼にとって、この朝倉颯太という存在は、焦がれるような憧れの対象であると同時に、決して乗り越えることのできない絶望的な壁として、彼の心を深く、静かに、そして確実に、苦しめているのではないか。

そんな、今まで感じたことのない、微かな寂しさと、そして焦りに似た、名前のつけようのない感情が、初めて、英雄・朝倉颯太の胸を、ギリリと締め付けた。

***

その夜。
チームAは、昼間のうちに陽葵が発見していた、風雨を完全にしのげる安全な洞窟の中で、日中に手に入れた豊富な食料を調理し、和やかな雰囲気で夕食をとっていた。火で炙られた携帯食糧の香ばしい匂いが、洞窟内に満ちている。

「今日の颯太の突撃、マジで神がかってたな!」
「陽葵の索敵も完璧だった。あの情報がなきゃ、もっと手こずってたぜ」

仲間たちが、今日の圧倒的な戦果を興奮気味に語り合い、明日以降の作戦を楽観的に練っている。その輪の中心には、いつも通り、颯太がいた。誰もが、彼の言葉に耳を傾け、彼の笑顔に元気づけられていた。彼はリーダーとして、仲間たちの士気を高める言葉をかけ、軽口を叩き、笑顔を振りまいていた。

しかし、颯太の心は、どこかその場にないかのように、上の空だった。

彼は、パチパチと心地よい音を立てて燃える焚き火の炎を、ただじっと見つめていた。オレンジ色の炎が、仲間たちの楽しげな顔を照らし出し、洞窟の壁に大きな影を揺らめかせている。その暖かく、平和な光景とは裏腹に、彼の心は冷たい闇の中に沈んでいた。

この広大な島の、どこか名も知らぬ場所で、今頃、譲は、冷たい闇と、飢えと、そして決定的な仲間との不和に、必死に耐えているのではないだろうか。あの頼りない背中を丸めて、孤独に震えているのではないだろうか。たった一人の親友の姿が、脳裏に浮かんで離れない。

(譲……お前、ちゃんと、やってるか?)

いつも、自分の後ろを、少し猫背気味に、黙ってついてくるだけだと思っていた、あの親友。自分が光の当たる道を、ただ前だけを見て突っ走っている間に、彼は、自分の背中を、どんな思いで見つめていたのだろう。

だが、本当に、そうだっただろうか。ただ黙ってついてきていただけだっただろうか。

違うかもしれない。

自分が、光の当たる華やかな道を、ただがむしゃらに前だけを見て突っ走っている間に、彼は、自分が全く見ていなかった、たくさんの景色を。光が強ければ強いほど濃くなる、影の中に存在するたくさんの法則を。その、俺にはない特別な頭脳の中に、静かに、そして着実に、蓄えていたのではないか。俺が力でねじ伏せてきた数々の問題を、あいつなら、全く違う、俺には思いもつかないような方法で解き明かすのかもしれない。

遠い空の下、二つのチームは、残酷なまでに違う夜を迎えていた。
生まれ持った才能という、努力だけではどうにもならない、あまりにも分厚く、そして冷徹な壁が、二人の親友の運命を、今はっきりと、そして無慈悲に隔てていた。

颯太は、仲間たちの賑やかな声から逃れるように、そっと洞窟の入り口へと歩を進めた。ひんやりとした夜気が、彼の火照った頬を撫でる。見上げると、冷たく澄み渡った夜空に、鋭い三日月が、まるで刃のように浮かんでいた。満天の星が、手の届きそうなほど近くで、しかし絶対的な隔たりを持って瞬いている。

その、どこまでも美しく、そしてどこまでも孤独な夜空を見上げ、颯太は、ただ、親友の無事を、心の底から祈ることしかできなかった。その祈りが、この残酷な世界で、どれほど無力なものであるかを知りながら。
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