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第1部:養成所編
第25話 届かない声
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深く、どこまでも深い静寂が、その空間を支配していた。
夜明け前のデータ管理室は、まるで深海に沈んだ巨大なクジラの体内を思わせる、冷たく有機的な静けさに満ちていた。絶え間なく稼働を続けるサーバーラックの群れが、規則的で低い唸りを上げ、それがまるで巨大な生物のかすかな心音のように室内に響き渡る。天井に張り巡らされた無数のケーブルは、複雑に絡み合った血管や神経のようだ。空調システムが吐き出す人工的な冷気は、肌を刺すように冷たく、部屋の隅に溜まった空気は淀み、わずかにオゾンの匂いが混じっていた。
その静寂の中で、宮沢譲は、一睡もせずに研ぎ澄まし続けた思考の最後の欠片を、キーボードに叩きつけていた。カチリ、という乾いた打鍵音が、静寂に鋭い楔を打ち込む。レポートの最後を締めくくる句点。その一点を打ち込んだ瞬間、張り詰めていた意識の糸がぷつりと切れ、彼は全身から力が抜けるのを感じた。
「……ふぅ……っ」
椅子に深く体を預け、譲は肺の底から全ての空気を絞り出すように、長く、震える息を吐いた。吐き出した息は、すぐそばにあった強化ガラスの窓に触れ、夜明けの冷気の中でみるみるうちに白い靄(もや)となって広がり、そして儚く消えていった。窓の外は、まだ深い藍色に支配されていたが、地平線の縁がわずかに白み始め、夜の終わりと新しい一日の始まりを告げていた。
彼はゆっくりと顔を上げた。窓ガラスに映った自分の姿に、思わず息を呑む。そこにいたのは、幽鬼のように生気を失った男だった。目の下には、洞窟の闇を彷徨ったかのように、病的で深い隈がどす黒く刻まれていた。絶えずモニターの光を浴び続けた瞳は、毛細血管が破れたように赤く充血し、その奥では、使命感を帯びた狂気と、魂を削り尽くした極度の疲労とが入り混じった、異様でギラギラとした光が揺らめいていた。
手元にあるのは、プリントアウトしたばかりの数十枚のレポートだ。まだプリンターの熱をかすかに帯びたその紙の束は、単なる分析結果の無味乾燥な羅列ではない。その一行一行に、彼の魂が、警告が、仲間への想いが込められていた。
表題は、こうだ。
『怪物の学習・進化能力に関する危険性の指摘と、現行訓練プログラムの即時見直し要求』
それは、戦慄の仮説だった。シミュレーターに残された膨大なログデータ、過去数年間にわたる実戦での戦闘記録、そして禁書に近い扱いを受ける特殊個体の生態に関するあらゆる文献。それらすべてを統合し、自身の知識と分析能力のすべてを注ぎ込んで導き出した、あまりにもおぞましい結論だった。そして、その未曾有の脅威に対抗するための、極めて具体的かつ抜本的な提言まで踏み込んだ、渾身のレポートだった。
ギシリ、と悲鳴のような音を立てて椅子が軋む。譲は、コンクリートで固められたかのように凝り固まった体を、無理やり引き剥がすようにして立ち上がった。首を回せばゴキリと鈍い音が鳴り、肩から背中にかけて激痛が走る。長時間同じ姿勢でいたせいで、全身の関節が錆びついてしまったかのようだ。
彼は、ゆっくりと窓辺へ歩み寄った。窓の外では、藍色の空を割り、荘厳な朝日がその黄金色の光を放ち始めていた。光の筋が、まだ眠り続ける施設の建物を照らし出し、長い影を地面に落としていく。その神々しいまでの光景を浴びながら、譲は後方支援科の教官室へと向かう決意を固めた。
彼の心には、一点の曇りもない、純粋な確信があった。
真実を伝えれば、きっと理解してもらえるはずだ。
データを示し、論理的に説明すれば、必ず分かってもらえるはずだ。
このままでは、颯太が、陽葵が、大切な仲間たちが、想像を絶する危険に晒されることになる。その明白な事実を前にして、動かない人間などいるはずがない、と。
それは、若く、青く、あまりにも脆い理想論に過ぎなかった。組織という巨大で複雑怪奇な生き物の、冷たく光の届かない内臓の奥深さに、彼がまだ触れたことのなかった証左である。
早朝の廊下は、しんと静まり返っていた。人の気配はなく、響くのは譲自身の、硬い床を打つ規則的な足音だけだ。高く設計された窓から差し込む朝日は、床に長い光の帯を描き、空気中に舞う微細な埃をキラキラと金色に照らし出している。その光景は静謐で美しく、しかし、これから起こるであろう対決を前にした譲の心には、嵐の前の静けさのように映っていた。
教官室のドアの前に立ち、譲は一度、深く呼吸を整えた。レポートを握る手に、じっとりと汗が滲む。心臓が、まるで警鐘のようにドクドクと大きく脈打っている。意を決して、彼は重厚なドアを三度、ノックした。コン、コン、コン。乾いた音が、静かな廊下に吸い込まれていく。
一拍置いて、中からくぐもった声が聞こえた。
「……入れ」
それは、何日も続く残業と終わりのない事務作業によって、すっかり潤いを失い、疲労の色が深く滲んだ声だった。
ドアノブに手をかけ、ゆっくりと扉を開ける。室内には、紙とインクの匂い、そして冷めきって酸味だけが残ったコーヒーの香りが混じり合った、独特の空気が澱んでいた。部屋の主である初老の教官は、デスクに築かれた書類の山の陰に埋もれるようにして座り、手にしたマグカップの中身を、もはや味わうでもなく、ただ義務のように啜っていた。彼の顔は、慢性的な睡眠不足と心労によって血の気が失せ、まるで精巧に作られた蝋細工のように生気がなかった。窓から差し込む朝日が彼の横顔を照らしていたが、その光さえも彼の疲労を際立たせるだけだった。
「宮沢か。朝早くからどうした?」
教官は、書類から目を離さずに、気だるげに問いかけた。
「教官、緊急でお伝えしたいことがあります」
譲の声は、緊張と使命感でわずかに上ずっていた。彼は、教官の許可を得ると、足早に部屋の隅にある大型モニターへと向かい、手にした自前の端末を慣れた手つきで接続した。背後で教官が、億劫そうに椅子を回転させる気配がする。
モニターに、譲が夜を徹してまとめたデータが映し出される。複雑なグラフ、ソースコードの断片、そして戦闘シミュレーションのリプレイ映像。彼は、レーザーポインターを手に、淀みなく説明を始めた。
「――つまり、教官。先日、第三訓練室のシミュレーターで発生した『バグ』と報告された事象は、単なるシステムエラーなどという生易しいものではありません」
譲は、グラフの一つを指し示した。それは、シミュレーター内の仮想敵がとった行動パターンと、ある特定の戦闘記録とを比較したものだった。
「これは、3ヶ月前に我々の部隊が多大な犠牲を払って討伐した、特殊進化個体『コードネメシス』の戦闘パターンを、シミュレーターのAIが自己学習し、ほぼ完璧に再現したものです。各行動シーケンスの一致率は97.8%。統計的に見て、これが偶然ではありえないことは、ご理解いただけるはずです」
譲は、これ以上ないほど論理的かつ情熱的に、自らの仮説を力説した。彼の声は、静かな教官室に熱を帯びて響き渡る。
彼は、ソースコードの中に潜んでいた、開発者が意図しない自己進化の痕跡を解説し、その学習速度が指数関数的に増大している危険性を訴えた。
「我々が今、仮想敵として戦っている相手は、もはや単なる訓練用のプログラム、予め設定された動きを繰り返すだけの『的』ではありません。それは、過去の戦闘データから学び、未来に現れるであろう脅威の形を自ら予測し、シミュレートする『早期警戒システム』として機能している可能性があります。この警告を、このAIが発している無言の叫びを無視すれば、いずれ実戦で、我々の想定を遥かに、遥かに超えた能力を持つ怪物と遭遇することになります。そしてその時、我々は、あまりにも多大な犠牲を払うことになるでしょう。どうか、このレポートを上に上げていただけないでしょうか!」
彼の言葉は、切実な祈りだった。ほとばしる情熱の全てを注ぎ込んだ、魂からの訴えだった。
しかし、彼の言葉を聞き終えた教官の反応は、その熱い情熱に冷水を浴びせ、嘲笑うかのように、絶望的なまでに冷ややかだった。
「…………宮沢、君の分析能力と、その熱意は認めよう」
沈黙の後、教官はゆっくりと口を開いた。彼は、譲が差し出した分厚いレポートを手に取ると、パラパラと、まるで興味などないと言わんばかりに億劫そうにページをめくった。そして、まるで心の底からうんざりしたかのように、深く、長いため息をついた。
「だがな、いささか想像力が豊かすぎるようだ。これは、そもそもシミュレーターの開発部が管轄する問題だ。我々現場の人間が口を出すべきことではない。縦割りというものを、君もそろそろ理解したまえ」
一つ、また一つと、教官の紡ぐ言葉が、鈍器のように譲の心を殴りつけた。
「それに、君のその壮大な仮説には、決定的な物証というものがない。あるのは、状況証拠と、君の『憶測』だけだ。こんなものを上に上げても、どうなると思う? 鼻で笑われ、一笑に付されるだけだよ。妄想癖のある学生の戯言として処理されて、終わりだ」
組織の縦割り主義。前例主義。そして、何よりも聞きたくなかった、決定的な一言が、彼の心を完全にへし折った。
「第一……」
教官は、心底面倒くさそうに、そしてわずかな侮蔑をその目に滲ませて、譲を見据えた。
「一学生、それも――失礼だが――一般枠の君が提言したところで、この巨大な組織が動くと、本気で思っているのかね?」
その言葉は、雷鳴のように譲の頭の中で轟いた。
彼の夜を徹した努力も、緻密な分析能力も、仲間を救いたいという純粋な熱意も、その全てを「一般枠」という、生まれ持った出自の前に無価値なものとして断じ、冷たく地面に叩きつける、残酷で、あまりにも重い響きを持っていた。
世界から、音が消えたような気がした。
譲の渾身のレポートは、正式な議題として受理されることすらなかった。
「個人的な参考意見として、預かってはおこう」
その気のない言葉と共に、レポートはデスクの隅にうず高く積まれた、他の無数の未決裁書類の山へと、まるでゴミ屑のように無造作に置かれた。その光景は、譲にとって、完全で、絶対的な敗北を意味していた。
彼の訴えは、誰にも届かなかった。いや、聞こうとさえ、されなかったのだ。
その日の授業は、全く頭に入ってこなかった。
教官の声が、まるで厚いガラスを一枚隔てた向こう側から聞こえるように、遠く、意味をなさない音の羅列として鼓膜を滑っていく。黒板に書かれる文字は、ただの記号の羅列にしか見えず、その意味を脳が理解することを拒否していた。
自分の声が、あれほど必死に絞り出した警告が、全く届かない。
壁に話しかけているのと同じだった。いや、壁の方がまだ反響を返してくれるだけマシかもしれない。あの教官の目は、絶望的なまでに何も映していなかった。
どうしようもない無力感が、冷たい鉛となって胃の腑に沈み、全身にのしかかっていた。手足が重く、思考は鈍く、世界全体が色褪せたモノクロームに見える。
このままでは、颯太が、陽葵が、何も知らずに、あの進化した怪物と対峙することになるかもしれない。
自分が無力なばかりに、仲間たちが死ぬかもしれない。
その考えが頭をよぎるたびに、焦燥感が、まるで黒い炎のように彼の心を内側からじりじりと焼き尽くすようであった。胸が苦しくなり、呼吸が浅くなる。教室の空気が、やけに薄く感じられた。
いつの間にか、最後の授業が終わるチャイムが鳴っていた。生徒たちが一斉に立ち上がり、解放感に満ちた喧騒が教室を包む。そのざわめきの中で、譲だけが、まるで時が止まったかのように、椅子に縫い付けられたまま動けなかった。
どれくらいの時間が経っただろうか。
気づけば、教室には誰もいなくなっていた。
譲は、まるで抜け殻のようにふらふらと立ち上がると、無意識のうちに人気のない廊下へと足を運んでいた。そして、そこにあったベンチに、崩れ落ちるように座り込んだ。
窓から差し込む西日が、廊下を鮮やかなオレンジ色に染め上げていた。その光が、彼の孤独な影を床に長く、長く、まるで墓標のように伸ばしている。何もできない自分。誰にも届かない声。その現実が、伸びきった影となって、彼の足元にまとわりついていた。
その時だった。
ふと、足元に落ちていた自分の影に、もう一つ、静かな影がすっと重なった。
誰かの気配に、譲はゆっくりと、錆びついたブリキ人形のようにぎこちなく顔を上げた。
そこに立っていたのは、神楽院玲奈だった。
彼女は、まるで熟練の職人が氷から削り出した彫像のように、微動だにせず、静かにそこに佇んでいた。夕陽の赤い光が彼女の銀色の髪を照らし、幻想的な光輪を描いている。しかし、その表情は氷のように冷たく、何を考えているのか全く読み取ることができない。
そして、彼女の手には、見覚えのある紙の束があった。自分が今朝、教官に叩きつけた、あのレポートのコピーだった。
「……どうして、それを……?」
譲の声は、自分でも驚くほどにかすれて、弱々しく響いた。
玲奈は、譲から視線を外すことなく、淡々と、感情の読めない声で無慈悲な事実を告げた。
「教官室のシュレッダー脇のゴミ箱に、丸めて捨ててあったから、拾っただけよ」
議論の価値すらない。ただのゴミ。それが、組織が出した結論だった。
その言葉は、鋭利なガラスの破片となって譲の鼓膜を突き破り、脳髄に突き刺さった。
自分の必死の訴えは、議論のテーブルに載せられるまでもなく、文字通り「ゴミ」として処理されたのだ。
譲は、唇を強く、強く噛み締めた。あまりの力に内側がぷつりと切れ、じわりと滲み出た血の鉄の味が、口の中いっぱいに広がった。内臓が、まるで液体窒素を流し込まれたかのように、急速に凍りついていく感覚。怒りも、悲しみも通り越して、ただただ、冷たい虚無が心を支配した。
「馬鹿げてる、と思ったわ」
玲奈は、静かに言葉を続けた。彼女の視線は、一切の揺らぎなく譲の目を射抜いている。
「あまりに突飛で、荒唐無稽な仮説。SF小説の読み過ぎじゃないかと、最初は思った。正直に言って、今でも半信半疑よ。でも」
彼女はそこで一瞬、言葉を切った。夕陽が差し込む窓の外に視線を移し、何かを思い出すように、わずかに目を細める。
「あの時の、シミュレーターの中の怪物の目を思い出したの。あれは、ただのプログラムが描画したグラフィックではなかった。獲物を見定め、分析し、最も効率的に殺すためだけの、冷たい知性がそこにはあった。あの目を、私は知っている。実戦で、何度も見てきた目よ。だから……」
彼女は再び譲に視線を戻した。その氷の瞳の奥に、それまで見たこともないような、確かな光が宿っていた。
「だから、あなたのその『馬鹿げた仮説』を、私は信じることにした」
その言葉に、絶望の底に俯いていた譲が、はっと顔を上げた。
凍りついていた心に、小さな火が灯るのを感じた。
その瞬間、二人の後ろから、もう一つ、大きな影が加わった。
「チッ。あの時の妙な動きは、そういうカラクリだったのかよ。どうりで気味が悪ぃと思ったぜ」
ぶっきらぼうで、不機嫌そうな声。赤城剛だった。彼は、玲奈の隣に立つと、譲の隣に、ベンチが悲鳴を上げるほどの音を立ててドカッと腰を下ろした。その重みでベンチが大きく傾ぎ、譲の体が揺れる。
剛は、玲奈が持っていたレポートを一瞥すると、忌々しげに舌打ちした。
「俺は、お前みてぇな頭でっかちの言うことは、今でも気に食わねぇ。理屈ばっかで、いけ好かねぇしな。虫唾が走る」
彼は、相変わらずの口の悪さで、真っ直ぐに前を向いたまま言った。その視線の先には、夕焼けに染まる訓練場のシルエットが広がっている。
「だが」
一度、言葉を切ったその沈黙に、彼の葛藤と誠実さが滲んでいた。
「あの無人島で、お前のその頭脳に、俺たちが命を救われたのも、揺るぎねぇ事実だ」
それは、剛なりの最大の賛辞であり、絶対的な信頼の表明だった。
玲奈が、静かな、しかし鋼のように決然とした口調で言った。
「上層部は、自分たちの理解や想定を超える現実は、見ないふりをするのが得意な人たちよ。彼らは、あなたの声を信じないでしょう。自分たちの作り上げた完璧なシステムに、欠陥があるとは決して認めたくないから。プライドが邪魔をするの」
そして、彼女は譲に、そして隣に座る剛に、ゆっくりと視線を移した。
「でも、私たちは信じる。私たちは、あなたの『目』になる。前線で戦う私たち自身が、あなたの警告が真実かどうか、この目で見極めてあげるわ」
剛も、腕を組みながら無言で、しかし力強く頷いた。それは、どんな雄弁な言葉よりも重く、力強い、肯定の証だった。
その瞬間、譲の目に、熱いものがじわりと滲み上がってきた。
堪えようとしても、堪えきれなかった。視界が滲み、目の前の二人の姿がぼやけて揺れる。
組織という巨大で分厚い壁には、決して届かなかった声。
ゴミとして無造作に捨てられた、必死の叫び。
しかし、前線で命を張って戦う、最も信頼できる二人の仲間には、確かに届いたのだ。
絶望という名の暗く冷たい淵の底で、もがき続けていた彼に、一条の、温かい光が差し込んだ瞬間だった。
それは、組織に抗うための秘密の連携。正式な命令系統には存在しないが、誰よりも強い絆で結ばれていた。巨大な欺瞞と官僚主義に満ちたこの世界に、小さな、しかし確かな風穴を開ける、最初の一石となる可能性を秘めていた。
譲は、滲む視界の中で、二人の顔を交互に見つめながら、固く、固く拳を握りしめた。爪が手のひらに食い込む痛みも、今は心地よかった。自分の戦いは、まだ終わっていない。教官室で敗北したと思ったあの瞬間は、終わりではなかった。
むしろ、今、この瞬間から、本当の意味で始まったばかりなのだと、彼は確信していた。
夕日は沈み、世界は夜の闇に包まれようとしていた。だが、譲の心には、夜明けよりも確かな光が、力強く灯っていた。
夜明け前のデータ管理室は、まるで深海に沈んだ巨大なクジラの体内を思わせる、冷たく有機的な静けさに満ちていた。絶え間なく稼働を続けるサーバーラックの群れが、規則的で低い唸りを上げ、それがまるで巨大な生物のかすかな心音のように室内に響き渡る。天井に張り巡らされた無数のケーブルは、複雑に絡み合った血管や神経のようだ。空調システムが吐き出す人工的な冷気は、肌を刺すように冷たく、部屋の隅に溜まった空気は淀み、わずかにオゾンの匂いが混じっていた。
その静寂の中で、宮沢譲は、一睡もせずに研ぎ澄まし続けた思考の最後の欠片を、キーボードに叩きつけていた。カチリ、という乾いた打鍵音が、静寂に鋭い楔を打ち込む。レポートの最後を締めくくる句点。その一点を打ち込んだ瞬間、張り詰めていた意識の糸がぷつりと切れ、彼は全身から力が抜けるのを感じた。
「……ふぅ……っ」
椅子に深く体を預け、譲は肺の底から全ての空気を絞り出すように、長く、震える息を吐いた。吐き出した息は、すぐそばにあった強化ガラスの窓に触れ、夜明けの冷気の中でみるみるうちに白い靄(もや)となって広がり、そして儚く消えていった。窓の外は、まだ深い藍色に支配されていたが、地平線の縁がわずかに白み始め、夜の終わりと新しい一日の始まりを告げていた。
彼はゆっくりと顔を上げた。窓ガラスに映った自分の姿に、思わず息を呑む。そこにいたのは、幽鬼のように生気を失った男だった。目の下には、洞窟の闇を彷徨ったかのように、病的で深い隈がどす黒く刻まれていた。絶えずモニターの光を浴び続けた瞳は、毛細血管が破れたように赤く充血し、その奥では、使命感を帯びた狂気と、魂を削り尽くした極度の疲労とが入り混じった、異様でギラギラとした光が揺らめいていた。
手元にあるのは、プリントアウトしたばかりの数十枚のレポートだ。まだプリンターの熱をかすかに帯びたその紙の束は、単なる分析結果の無味乾燥な羅列ではない。その一行一行に、彼の魂が、警告が、仲間への想いが込められていた。
表題は、こうだ。
『怪物の学習・進化能力に関する危険性の指摘と、現行訓練プログラムの即時見直し要求』
それは、戦慄の仮説だった。シミュレーターに残された膨大なログデータ、過去数年間にわたる実戦での戦闘記録、そして禁書に近い扱いを受ける特殊個体の生態に関するあらゆる文献。それらすべてを統合し、自身の知識と分析能力のすべてを注ぎ込んで導き出した、あまりにもおぞましい結論だった。そして、その未曾有の脅威に対抗するための、極めて具体的かつ抜本的な提言まで踏み込んだ、渾身のレポートだった。
ギシリ、と悲鳴のような音を立てて椅子が軋む。譲は、コンクリートで固められたかのように凝り固まった体を、無理やり引き剥がすようにして立ち上がった。首を回せばゴキリと鈍い音が鳴り、肩から背中にかけて激痛が走る。長時間同じ姿勢でいたせいで、全身の関節が錆びついてしまったかのようだ。
彼は、ゆっくりと窓辺へ歩み寄った。窓の外では、藍色の空を割り、荘厳な朝日がその黄金色の光を放ち始めていた。光の筋が、まだ眠り続ける施設の建物を照らし出し、長い影を地面に落としていく。その神々しいまでの光景を浴びながら、譲は後方支援科の教官室へと向かう決意を固めた。
彼の心には、一点の曇りもない、純粋な確信があった。
真実を伝えれば、きっと理解してもらえるはずだ。
データを示し、論理的に説明すれば、必ず分かってもらえるはずだ。
このままでは、颯太が、陽葵が、大切な仲間たちが、想像を絶する危険に晒されることになる。その明白な事実を前にして、動かない人間などいるはずがない、と。
それは、若く、青く、あまりにも脆い理想論に過ぎなかった。組織という巨大で複雑怪奇な生き物の、冷たく光の届かない内臓の奥深さに、彼がまだ触れたことのなかった証左である。
早朝の廊下は、しんと静まり返っていた。人の気配はなく、響くのは譲自身の、硬い床を打つ規則的な足音だけだ。高く設計された窓から差し込む朝日は、床に長い光の帯を描き、空気中に舞う微細な埃をキラキラと金色に照らし出している。その光景は静謐で美しく、しかし、これから起こるであろう対決を前にした譲の心には、嵐の前の静けさのように映っていた。
教官室のドアの前に立ち、譲は一度、深く呼吸を整えた。レポートを握る手に、じっとりと汗が滲む。心臓が、まるで警鐘のようにドクドクと大きく脈打っている。意を決して、彼は重厚なドアを三度、ノックした。コン、コン、コン。乾いた音が、静かな廊下に吸い込まれていく。
一拍置いて、中からくぐもった声が聞こえた。
「……入れ」
それは、何日も続く残業と終わりのない事務作業によって、すっかり潤いを失い、疲労の色が深く滲んだ声だった。
ドアノブに手をかけ、ゆっくりと扉を開ける。室内には、紙とインクの匂い、そして冷めきって酸味だけが残ったコーヒーの香りが混じり合った、独特の空気が澱んでいた。部屋の主である初老の教官は、デスクに築かれた書類の山の陰に埋もれるようにして座り、手にしたマグカップの中身を、もはや味わうでもなく、ただ義務のように啜っていた。彼の顔は、慢性的な睡眠不足と心労によって血の気が失せ、まるで精巧に作られた蝋細工のように生気がなかった。窓から差し込む朝日が彼の横顔を照らしていたが、その光さえも彼の疲労を際立たせるだけだった。
「宮沢か。朝早くからどうした?」
教官は、書類から目を離さずに、気だるげに問いかけた。
「教官、緊急でお伝えしたいことがあります」
譲の声は、緊張と使命感でわずかに上ずっていた。彼は、教官の許可を得ると、足早に部屋の隅にある大型モニターへと向かい、手にした自前の端末を慣れた手つきで接続した。背後で教官が、億劫そうに椅子を回転させる気配がする。
モニターに、譲が夜を徹してまとめたデータが映し出される。複雑なグラフ、ソースコードの断片、そして戦闘シミュレーションのリプレイ映像。彼は、レーザーポインターを手に、淀みなく説明を始めた。
「――つまり、教官。先日、第三訓練室のシミュレーターで発生した『バグ』と報告された事象は、単なるシステムエラーなどという生易しいものではありません」
譲は、グラフの一つを指し示した。それは、シミュレーター内の仮想敵がとった行動パターンと、ある特定の戦闘記録とを比較したものだった。
「これは、3ヶ月前に我々の部隊が多大な犠牲を払って討伐した、特殊進化個体『コードネメシス』の戦闘パターンを、シミュレーターのAIが自己学習し、ほぼ完璧に再現したものです。各行動シーケンスの一致率は97.8%。統計的に見て、これが偶然ではありえないことは、ご理解いただけるはずです」
譲は、これ以上ないほど論理的かつ情熱的に、自らの仮説を力説した。彼の声は、静かな教官室に熱を帯びて響き渡る。
彼は、ソースコードの中に潜んでいた、開発者が意図しない自己進化の痕跡を解説し、その学習速度が指数関数的に増大している危険性を訴えた。
「我々が今、仮想敵として戦っている相手は、もはや単なる訓練用のプログラム、予め設定された動きを繰り返すだけの『的』ではありません。それは、過去の戦闘データから学び、未来に現れるであろう脅威の形を自ら予測し、シミュレートする『早期警戒システム』として機能している可能性があります。この警告を、このAIが発している無言の叫びを無視すれば、いずれ実戦で、我々の想定を遥かに、遥かに超えた能力を持つ怪物と遭遇することになります。そしてその時、我々は、あまりにも多大な犠牲を払うことになるでしょう。どうか、このレポートを上に上げていただけないでしょうか!」
彼の言葉は、切実な祈りだった。ほとばしる情熱の全てを注ぎ込んだ、魂からの訴えだった。
しかし、彼の言葉を聞き終えた教官の反応は、その熱い情熱に冷水を浴びせ、嘲笑うかのように、絶望的なまでに冷ややかだった。
「…………宮沢、君の分析能力と、その熱意は認めよう」
沈黙の後、教官はゆっくりと口を開いた。彼は、譲が差し出した分厚いレポートを手に取ると、パラパラと、まるで興味などないと言わんばかりに億劫そうにページをめくった。そして、まるで心の底からうんざりしたかのように、深く、長いため息をついた。
「だがな、いささか想像力が豊かすぎるようだ。これは、そもそもシミュレーターの開発部が管轄する問題だ。我々現場の人間が口を出すべきことではない。縦割りというものを、君もそろそろ理解したまえ」
一つ、また一つと、教官の紡ぐ言葉が、鈍器のように譲の心を殴りつけた。
「それに、君のその壮大な仮説には、決定的な物証というものがない。あるのは、状況証拠と、君の『憶測』だけだ。こんなものを上に上げても、どうなると思う? 鼻で笑われ、一笑に付されるだけだよ。妄想癖のある学生の戯言として処理されて、終わりだ」
組織の縦割り主義。前例主義。そして、何よりも聞きたくなかった、決定的な一言が、彼の心を完全にへし折った。
「第一……」
教官は、心底面倒くさそうに、そしてわずかな侮蔑をその目に滲ませて、譲を見据えた。
「一学生、それも――失礼だが――一般枠の君が提言したところで、この巨大な組織が動くと、本気で思っているのかね?」
その言葉は、雷鳴のように譲の頭の中で轟いた。
彼の夜を徹した努力も、緻密な分析能力も、仲間を救いたいという純粋な熱意も、その全てを「一般枠」という、生まれ持った出自の前に無価値なものとして断じ、冷たく地面に叩きつける、残酷で、あまりにも重い響きを持っていた。
世界から、音が消えたような気がした。
譲の渾身のレポートは、正式な議題として受理されることすらなかった。
「個人的な参考意見として、預かってはおこう」
その気のない言葉と共に、レポートはデスクの隅にうず高く積まれた、他の無数の未決裁書類の山へと、まるでゴミ屑のように無造作に置かれた。その光景は、譲にとって、完全で、絶対的な敗北を意味していた。
彼の訴えは、誰にも届かなかった。いや、聞こうとさえ、されなかったのだ。
その日の授業は、全く頭に入ってこなかった。
教官の声が、まるで厚いガラスを一枚隔てた向こう側から聞こえるように、遠く、意味をなさない音の羅列として鼓膜を滑っていく。黒板に書かれる文字は、ただの記号の羅列にしか見えず、その意味を脳が理解することを拒否していた。
自分の声が、あれほど必死に絞り出した警告が、全く届かない。
壁に話しかけているのと同じだった。いや、壁の方がまだ反響を返してくれるだけマシかもしれない。あの教官の目は、絶望的なまでに何も映していなかった。
どうしようもない無力感が、冷たい鉛となって胃の腑に沈み、全身にのしかかっていた。手足が重く、思考は鈍く、世界全体が色褪せたモノクロームに見える。
このままでは、颯太が、陽葵が、何も知らずに、あの進化した怪物と対峙することになるかもしれない。
自分が無力なばかりに、仲間たちが死ぬかもしれない。
その考えが頭をよぎるたびに、焦燥感が、まるで黒い炎のように彼の心を内側からじりじりと焼き尽くすようであった。胸が苦しくなり、呼吸が浅くなる。教室の空気が、やけに薄く感じられた。
いつの間にか、最後の授業が終わるチャイムが鳴っていた。生徒たちが一斉に立ち上がり、解放感に満ちた喧騒が教室を包む。そのざわめきの中で、譲だけが、まるで時が止まったかのように、椅子に縫い付けられたまま動けなかった。
どれくらいの時間が経っただろうか。
気づけば、教室には誰もいなくなっていた。
譲は、まるで抜け殻のようにふらふらと立ち上がると、無意識のうちに人気のない廊下へと足を運んでいた。そして、そこにあったベンチに、崩れ落ちるように座り込んだ。
窓から差し込む西日が、廊下を鮮やかなオレンジ色に染め上げていた。その光が、彼の孤独な影を床に長く、長く、まるで墓標のように伸ばしている。何もできない自分。誰にも届かない声。その現実が、伸びきった影となって、彼の足元にまとわりついていた。
その時だった。
ふと、足元に落ちていた自分の影に、もう一つ、静かな影がすっと重なった。
誰かの気配に、譲はゆっくりと、錆びついたブリキ人形のようにぎこちなく顔を上げた。
そこに立っていたのは、神楽院玲奈だった。
彼女は、まるで熟練の職人が氷から削り出した彫像のように、微動だにせず、静かにそこに佇んでいた。夕陽の赤い光が彼女の銀色の髪を照らし、幻想的な光輪を描いている。しかし、その表情は氷のように冷たく、何を考えているのか全く読み取ることができない。
そして、彼女の手には、見覚えのある紙の束があった。自分が今朝、教官に叩きつけた、あのレポートのコピーだった。
「……どうして、それを……?」
譲の声は、自分でも驚くほどにかすれて、弱々しく響いた。
玲奈は、譲から視線を外すことなく、淡々と、感情の読めない声で無慈悲な事実を告げた。
「教官室のシュレッダー脇のゴミ箱に、丸めて捨ててあったから、拾っただけよ」
議論の価値すらない。ただのゴミ。それが、組織が出した結論だった。
その言葉は、鋭利なガラスの破片となって譲の鼓膜を突き破り、脳髄に突き刺さった。
自分の必死の訴えは、議論のテーブルに載せられるまでもなく、文字通り「ゴミ」として処理されたのだ。
譲は、唇を強く、強く噛み締めた。あまりの力に内側がぷつりと切れ、じわりと滲み出た血の鉄の味が、口の中いっぱいに広がった。内臓が、まるで液体窒素を流し込まれたかのように、急速に凍りついていく感覚。怒りも、悲しみも通り越して、ただただ、冷たい虚無が心を支配した。
「馬鹿げてる、と思ったわ」
玲奈は、静かに言葉を続けた。彼女の視線は、一切の揺らぎなく譲の目を射抜いている。
「あまりに突飛で、荒唐無稽な仮説。SF小説の読み過ぎじゃないかと、最初は思った。正直に言って、今でも半信半疑よ。でも」
彼女はそこで一瞬、言葉を切った。夕陽が差し込む窓の外に視線を移し、何かを思い出すように、わずかに目を細める。
「あの時の、シミュレーターの中の怪物の目を思い出したの。あれは、ただのプログラムが描画したグラフィックではなかった。獲物を見定め、分析し、最も効率的に殺すためだけの、冷たい知性がそこにはあった。あの目を、私は知っている。実戦で、何度も見てきた目よ。だから……」
彼女は再び譲に視線を戻した。その氷の瞳の奥に、それまで見たこともないような、確かな光が宿っていた。
「だから、あなたのその『馬鹿げた仮説』を、私は信じることにした」
その言葉に、絶望の底に俯いていた譲が、はっと顔を上げた。
凍りついていた心に、小さな火が灯るのを感じた。
その瞬間、二人の後ろから、もう一つ、大きな影が加わった。
「チッ。あの時の妙な動きは、そういうカラクリだったのかよ。どうりで気味が悪ぃと思ったぜ」
ぶっきらぼうで、不機嫌そうな声。赤城剛だった。彼は、玲奈の隣に立つと、譲の隣に、ベンチが悲鳴を上げるほどの音を立ててドカッと腰を下ろした。その重みでベンチが大きく傾ぎ、譲の体が揺れる。
剛は、玲奈が持っていたレポートを一瞥すると、忌々しげに舌打ちした。
「俺は、お前みてぇな頭でっかちの言うことは、今でも気に食わねぇ。理屈ばっかで、いけ好かねぇしな。虫唾が走る」
彼は、相変わらずの口の悪さで、真っ直ぐに前を向いたまま言った。その視線の先には、夕焼けに染まる訓練場のシルエットが広がっている。
「だが」
一度、言葉を切ったその沈黙に、彼の葛藤と誠実さが滲んでいた。
「あの無人島で、お前のその頭脳に、俺たちが命を救われたのも、揺るぎねぇ事実だ」
それは、剛なりの最大の賛辞であり、絶対的な信頼の表明だった。
玲奈が、静かな、しかし鋼のように決然とした口調で言った。
「上層部は、自分たちの理解や想定を超える現実は、見ないふりをするのが得意な人たちよ。彼らは、あなたの声を信じないでしょう。自分たちの作り上げた完璧なシステムに、欠陥があるとは決して認めたくないから。プライドが邪魔をするの」
そして、彼女は譲に、そして隣に座る剛に、ゆっくりと視線を移した。
「でも、私たちは信じる。私たちは、あなたの『目』になる。前線で戦う私たち自身が、あなたの警告が真実かどうか、この目で見極めてあげるわ」
剛も、腕を組みながら無言で、しかし力強く頷いた。それは、どんな雄弁な言葉よりも重く、力強い、肯定の証だった。
その瞬間、譲の目に、熱いものがじわりと滲み上がってきた。
堪えようとしても、堪えきれなかった。視界が滲み、目の前の二人の姿がぼやけて揺れる。
組織という巨大で分厚い壁には、決して届かなかった声。
ゴミとして無造作に捨てられた、必死の叫び。
しかし、前線で命を張って戦う、最も信頼できる二人の仲間には、確かに届いたのだ。
絶望という名の暗く冷たい淵の底で、もがき続けていた彼に、一条の、温かい光が差し込んだ瞬間だった。
それは、組織に抗うための秘密の連携。正式な命令系統には存在しないが、誰よりも強い絆で結ばれていた。巨大な欺瞞と官僚主義に満ちたこの世界に、小さな、しかし確かな風穴を開ける、最初の一石となる可能性を秘めていた。
譲は、滲む視界の中で、二人の顔を交互に見つめながら、固く、固く拳を握りしめた。爪が手のひらに食い込む痛みも、今は心地よかった。自分の戦いは、まだ終わっていない。教官室で敗北したと思ったあの瞬間は、終わりではなかった。
むしろ、今、この瞬間から、本当の意味で始まったばかりなのだと、彼は確信していた。
夕日は沈み、世界は夜の闇に包まれようとしていた。だが、譲の心には、夜明けよりも確かな光が、力強く灯っていた。
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