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第十話 私の店へようこそ!『夢の始まりのウエディングケーキ』
しおりを挟む四月。
世界が、一斉に、産声を上げたかのような、そんな季節がやってきた。
長かった冬の、モノクロームの景色は、すっかりと姿を消し、街は、柔らかな、パステルカラーに、染め上げられている。固く、凍てついていた土からは、生命力に満ち溢れた、若草色の新芽が、顔をのぞかせ、桜の木々は、その枝いっぱいに、淡い、ピンク色の花を、惜しげもなく、咲き誇らせていた。
風は、もう、冷たくない。肌を、優しく、撫でていく、その風は、土の匂いと、花の蜜の、甘い香りを、運んでくる。陽の光は、力強く、そして、温かい。その光が、世界中の、あらゆるものに、平等に降り注ぎ、「大丈夫、新しい季節が来たよ」と、語りかけているかのようだった。
私の、新しい季節もまた、始まろうとしていた。
会社を、円満に退職し、私は今、一つの、夢の城を、築き上げている、真っ最中だった。
場所は、地元商店街の、一番、端っこ。昔は、小さな、八百屋だったという、十坪にも満たない、小さな、小さな、店舗。そこが、私の、城の、敷地だった。
『こむぎの米粉菓子店』。週末だけ、ひっそりと開く、グルテンフリーの、小さな、カフェ。
開店は、一週間後。
今の店内は、まだ、戦場のようだった。ペンキの、ツンとした匂いと、新しい木材の、清々しい香りが、混じり合っている。床には、工具や、段ボールが散らばり、壁は、まだ、塗りかけの、むき出しのボードが、のぞいていた。
「花巻さん、この棚、ここでいいか?」
低い、落ち着いた声に、振り返る。そこにいたのは、Tシャツに、デニムという、ラフな姿の、田中部長――いや、もう、私の上司ではない、田中さんだった。彼は、額に汗を滲ませながら、私がネットで買った、本棚を、組み立ててくれていた。
「はい! そこで、大丈夫です。ありがとうございます!」
「気にすんな。こういうのは、得意なんだ」
そう言って、彼は、少し照れたように笑った。会社の時とは違う、リラックスした、その笑顔に、私の心臓は、相変わらず、簡単に、跳ね上がる。
会社を辞めると、報告した時、彼は、驚きながらも、ただ一言、「応援してる」と、言ってくれた。そして、こうして、休日返上で、私の店の、準備を、手伝ってくれているのだ。
その時だった。私の、エプロンのポケットに入れていた、スマートフォンが、ぶる、と震えた。SNSの、ダイレクトメッセージ。また、コンテストの時のような、橘さんからだろうか。そう思いながら、画面を開いた私の目は、その、メッセージの、最初の、一文に、釘付けになった。
『はじめまして。突然のご連絡、失礼いたします。あなたの、作るお菓子に、私の、人生の、希望を、託せないかと思い、メッセージを、送らせていただきました』
送り主は、私が、全く知らない、一人の、若い女性だった。
私は、そのメッセージを、一字一句、食い入るように、読んだ。
彼女は、私と、同じように、数年前に、重度の、小麦アレルギーが、発覚したこと。
そして、来月、結婚式を、控えていること。
式の、準備は、順調に進んでいるが、たった一つだけ、諦めなければならないことが、あったこと。
それが、ウエディングケーキだった。
『披露宴で、夫婦で、ケーキに入刀し、ファーストバイトをするのが、子供の頃からの、夢でした。でも、私が、食べられるケーキは、どこにもなくて。アレルギー対応のケーキを、探しても、味気ない、スポンジだけだったり、デザインが、限られていたり。もう、諦めるしかない、と、思っていました。そんな時、偶然、こむぎさんのSNSを、見つけたんです。あなたの作る、美しくて、温かくて、そして、美味しそうなお菓子たち。それを見て、涙が出ました。もしかしたら、私の夢も、叶うかもしれない、と。どうか、お願いできませんでしょうか。私のために、世界でたった一つの、ウエディングケーキを、作っていただけませんか』
メッセージを、読み終えた時、私の手は、わずかに、震えていた。
嬉しい。私の、お菓子が、見知らぬ誰かの、希望になっている。その事実は、胸が、張り裂けそうなくらい、嬉しかった。
だが、同時に、とてつもない、恐怖が、私に、襲いかかった。
ウエディングケーキ。
それは、ただの、お菓子ではない。二人の、人生の、門出を祝う、神聖な、シンボル。たくさんの、ゲストの、注目を、一身に集める、晴れの舞台の、主役。
そんな、大役を、私なんかが、本当に、務められるのだろうか。
失敗は、許されない。
その、あまりの、重圧に、私は、その場で、立ち尽くしてしまった。
「よろしい。それこそが、汝が、プロの、パティシエとして、歩む、最初の試練にして、最高の、祝福ですわ」
その夜。女王陛下は、私の、震える告白を、静かに、聞き終えると、きっぱりと、そう、言った。
今日の彼女は、春の夜空に、輝く、満月のような、クリーム色のドレスを、身にまとっている。
「彼女は、汝に、ただ、ケーキを、頼んだのではない。汝の、その手から、生まれる、『希望』を、求めているのです。恐れることは、ありません。汝が、彼女の、希望となるのです」
彼女の、その、力強い言葉に、私の心は、決まった。
「やります」
私は、顔を上げて、女王陛下を、見つめた。
「私が、彼女の、夢を、この手で、形にしてみせます」
女王陛下は、その言葉を、待っていたかのように、深く、優しく、微笑んだ。
それから、一ヶ月。
私の、人生で、最も、長く、そして、濃密な、戦いが、始まった。
まずは、設計図作りから。花嫁さんと、何度も、メッセージの、やり取りを重ねた。彼女の、好きな色、好きな花、そして、ケーキに込める、想い。
その結果、私達が、たどり着いたのは、三段重ねの、『ネイキッドケーキ』だった。
あえて、側面を、クリームで、完全に覆わず、スポンジの、層を、見せる、素朴で、ナチュラルな、スタイル。それは、完璧ではないけれど、温かい、手作りの、愛情を、表現したい、という、彼女の想いと、私の、作りたいお菓子の、方向性が、ぴったりと、重なった、瞬間だった。
設計図が、完成すると、いよいよ、建築が、始まる。
人生最大の、挑戦。
まずは、土台となる、スポンジ。直径が、21cm、15cm、9cmの、三つの、大きさの違う、米粉のスポンジを、それぞれ、二枚ずつ、焼かなければならない。
女王陛下から、授かった、すべての知識と、経験を、総動員する。
メレンゲを、完璧に、立てる。卵黄生地と、合わせる。オーブンの、温度と、時間を、見極める。
キッチンには、卵と砂糖の、甘い香りが、何日も、途切れることなく、漂っていた。
焼きあがったスポンジを、同じ厚さに、スライスしていく。その、一つ一つの、作業に、全神経を、集中させた。
次に、クリーム。
花嫁さんの、リクエストは、「甘すぎず、軽くて、フルーツの味を、引き立てるもの」。
私が、選んだのは、豆腐クリームと、マスカルポーネチーズを、合わせた、ハイブリッドな、クリームだった。豆腐の、爽やかな、軽やかさと、マスカルポーネの、リッチな、コク。その、二つが、手を取り合うことで、ウェディングケーキという、晴れの舞台に、ふさわしい、極上のクリームが、生まれるのだ。
何リットルもの、豆乳を、温め、何丁もの、豆腐の、水切りをし、何パックもの、マスカルポーネを、裏ごしした。
私の、両腕は、もはや、棒のようだった。
そして、いよいよ、組み立て。モンタージュ。
まず、一番下の、21cmの段から。
スライスした、スポンジに、自家製の、レモンシロップを、刷毛で、丁寧に、打つ。
その上に、クリームを、薄く、塗り広げ、旬の、ベリーを、惜しげもなく、散りばめる。
もう一枚の、スポンジを、重ねる。
「ここですわ」
女王陛下が、鋭い声を、上げた。
彼女が、差し出したのは、数本の、太い、ストローのようなものだった。
「『ダボ』。上の段の、重みを、支えるための、柱ですわ。これを、打ち込まずして、三段重ねの城は、建ちませぬ。プロの、知恵です」
私は、教えられた通り、数本のダボを、ケーキの中心に、垂直に、打ち込んだ。
同じように、15cm、9cmの段も、作り上げていく。
そして、いよいよ、その三つの城を、一つに、重ねる時が来た。
息を、のむ。心臓が、早鐘を打つ。
一番下の段の上に、そっと、15cmの段を、乗せる。大丈夫だ。
最後に、一番上の、9cmの段を。
私の手は、わずかに、震えていた。
だが、そのケーキは、倒れなかった。三つの段が、完璧な、バランスで、一つの、塔となって、そこに、凛と、そびえ立っていたのだ。
最後の、デコレーション。
ネイキッドケーキの、側面から、覗く、スポンジの層に、クリームを、パレットナイフで、無造作に、擦り付けるように、塗っていく。
そして、新鮮な、ベリー、ローズマリーの、緑の枝、そして、食べられる、エディブルフラワーを、飾っていく。
ピンク、赤、紫、白、緑。
色とりどりの、花と、果実が、ケーキの上で、まるで、春の、野原のように、咲き誇っていく。
派手な、飾りはない。
でも、そこには、生命力と、祝福の、気持ちが、満ち溢れていた。
完成した、そのケーキを前に、私は、ただ、立ち尽くしていた。
それは、私が、今まで、創り上げてきた、どんなお菓子よりも、大きく、複雑で、そして、美しかった。
私の、持てる、技術と、愛情と、そして、魂の、すべてが、そこにあった。
そして、ついに、約束の、土曜日が、やってきた。
私の、小さな店の、プレオープンの日。
店の、中央に、しつらえた、テーブルの上に、あの、ウエディングケーキが、鎮座している。その周りには、私が、心を込めて焼いた、スコーンや、クッキー、そして、ガトーショコラが、並べられていた。
やがて、店の、小さなドアが、開いた。
最初に、入ってきたのは、ウエディングドレスに、身を包んだ、花嫁さんと、その、パートナーの、男性だった。
彼女は、ケーキを見るなり、その、美しい目に、みるみるうちに、涙を、浮かべた。
「すごい」
彼女は、震える声で、そう、言った。
「夢、みたいです。私の、夢が、ここに、あります」
その言葉に、私の、この一ヶ月の、苦労は、すべて、報われた。
次々と、人が、集まってくる。
会社の、元同僚たち。いつも、応援してくれた、SNSの、フォロワーさん。
そして、橘圭一さん。彼は、プロの目で、私のケーキを、じっと見つめ、そして、一言、「君にしか、作れないケーキだ」と、静かに、言ってくれた。
田中さんも、来てくれた。「おめでとう、花巻さん」と、少し照れたように、花束を、差し出してくれた。
そして、最後に、女王陛下。
今日の彼女は、ティアラを、着けていなかった。ただ、シンプルな、しかし、気品に満ちた、白い、ドレスを、身にまとっているだけ。
彼女は、私の肩を、そっと、抱いた。
「見事ですわ、こむぎさん。あなたの、城が、完成した」
「ありがとうございます、女王陛下。あなたがいなければ、私は、ここにいませんでした」
「いいえ」
彼女は、首を、横に振った。
「扉を、開いたのは、あなた自身の、力ですわ」
その時だった。
カラン、コロン、と、ドアベルが、鳴った。
新しい、お客さんが、入ってくる。
私は、涙を、さっと、拭うと、最高の、笑顔で、前に出た。
そして、私の、魂からの、声を、響かせた。
「いらっしゃいませ! こむぎの米粉菓子店へ、ようこそ!」
私の、新しい人生の扉が、春の、柔らかな光の中で、静かに、しかし、確かに、開いた、瞬間だった。
甘くて、優しくて、そして、ちょっぴり、ほろ苦い、私の冒険は、まだ、始まったばかりだ。
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### **女王陛下直伝『夢の始まりのウエディングケーキ(ネイキッド風)』**
**【材料】(直径15cm丸型1台分の、家庭用レシピ)**
* **米粉のスポンジ生地**
* 第十話のレシピを参考に、直径15cmの丸型で2枚焼く。
* **豆腐マスカルポーネクリーム**
* 木綿豆腐 1丁 (300g)
* マスカルポーネチーズ 100g
* 粉糖 60g
* レモン汁 小さじ2
* **シロップ**
* 水 50ml
* 砂糖 20g
* お好みのリキュール(キルシュなど) 小さじ1
* **デコレーション**
* イチゴ、ラズベリー、ブルーベリーなどのお好みのベリー類
* ローズマリー、ミントなどのハーブ
* エディブルフラワー(食用花)
**【作り方】**
1. **準備**:豆腐は、一晩、しっかりと水切りをしておく。スポンジは、完全に冷めたら、それぞれ厚さを半分にスライスし、計4枚にする。
2. **クリーム作り**:水切りした豆腐、マスカルポーネチーズ、粉糖、レモン汁を、フードプロセッサーに入れ、完璧に滑らかになるまで、撹拌する。
3. **シロップ作り**:水と砂糖を鍋で煮溶かし、冷めたらリキュールを加える。
4. **組み立て(モンタージュ)**:
* 回転台に、スポンジを一枚乗せ、刷毛で、シロップを打つ。
* クリームを、薄く塗り、ベリー類を散らす。
* これを、4段、繰り返す。
5. **デコレーション(ネイキッド仕上げ)**:
* 全体を重ね終えたら、残りのクリームを、パレットナイフで、側面に、ラフに塗りつける。スポンジが、所々、透けて見えるように、薄く、擦り付けるのが、ポイント。
* 上面にも、クリームを塗り、ベリーや、ハーブ、エディブルフラワーを、まるで、野原に、花を摘んできたかのように、ナチュラルに、飾り付ける。
6. 冷蔵庫で、数時間、冷やし固めて、完成。
**【女王陛下からの、最後の、そして、最初の言葉】**
* 「レシピは、もう、必要ありませんわね。汝は、もはや、教わる者ではない。生み出す者。与える者。さあ、行きなさい。汝の、その手で、世界を、甘く、優しい、魔法で、満たすのです。汝の、輝かしい、未来に、祝福を!」
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