チートスキルより女神様に告白したら、僕のステータスは最弱Fランクだけど、女神様の無限の祝福で最強になりました

Gaku

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シーズン2 退屈な観測者と、論理を砕くバグ

第十話:女神の罪、人間の愛

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レイが嘲笑と共に時空の彼方へと消え去った後、俺たちを支配していた、あの青白いグリッド線に覆われたデジタル空間は、まるで砂の城が崩れるかのように、音もなく、その姿を消した。世界は、再び、元の、古代と未来が混在した静寂な研究所の姿を取り戻す。

 窓の外からは、いつの間にか傾き始めた太陽の、血のように赤い光が差し込んでいる。その夕陽は、床に落ちる俺たちの影を、まるで罪人のように、長く、長く、伸ばしていた。  誰も、一言も、発することができなかった。レイが残していった言葉は、彼の圧倒的な力そのものよりも、ずっと重く、深く、俺たちの心に突き刺さっていた。それは、俺たちが信じてきた、愛や、友情や、絆といった、全ての価値を根底から否定する、冷たい、絶対的な絶望だった。

 そして、その絶望の、全ての中心にいたのは、ソフィアだった。  彼女は、レイが消えた空間を、ただ、虚ろな目で見つめていた。その深い青色の瞳からは、神格を帯びた、あの気高い光が、今にも消え入りそうに弱々しくなっていた。  やがて、彼女の体から、ふっと、力が抜けた。糸が切れた操り人形のように、その完璧なバランスを保っていた体が、ゆっくりと、前のめりに傾いでいく。そして、ガクン、と。小さな、しかし、この静寂の中では、心臓が止まるほど大きく聞こえる音を立てて、彼女は、その場に、両膝から、崩れ落ちた。

「……わたしの、せいです」

 嗚咽が、漏れた。それは、俺が今まで聞いた、どんな悲鳴よりも、痛ましく、魂を抉るような響きを持っていた。 「私が、彼に、過ぎた力を、与えてしまったから。私が、あの時、彼の魂の奥に潜む、虚無の影に、気づいてさえいれば。私が、あんな、恐ろしい、怪物を……」  女神としての、気高さも、威厳も、全てが剥がれ落ちていた。そこにはただ、自らの、取り返しのつかない過ちの重さに、押し潰されそうになっている、一人の、か弱く、小さな女性の姿だけがあった。  彼女の背中は、夕陽の赤い光を浴びて、あまりにも小さく、そして、あまりにも、孤独に見えた。

 俺たちは、そんな彼女の姿を、ただ、見ていることしかできなかった。どんな言葉をかければいいのか、誰にも、分からなかった。これまで、俺たちは、いつも彼女に導かれ、守られてきた。絶対的な存在。揺るぎない、俺たちの心の支柱。その彼女が、今、俺たちの目の前で、音を立てて、崩れていこうとしている。その現実を、どう受け止めたらいいのか。

 ふらつきながら、ソフィアは、ゆっくりと立ち上がった。その瞳には、もう涙はなかった。その代わり、そこには、自分の全てを投げ打ってでも、罪を償おうとする者の、悲壮で、静かな、決意の光だけが宿っていた。 「私が、終わらせなければ。この過ちは、この世界の理を歪めた、私一人が、背負うべき、罪なのです」  彼女は、俺たちに背を向け、一人で、レイの消えた空間に向かって、歩き出そうとした。仲間たちの、制止の声も、耳には届いていないようだった。自らの命と、魂と、その存在のすべてと引き換えにしても、レイを、自らの手で、止める。その、あまりにも悲しく、孤独な贖罪の道へと、彼女は、一人で、旅立とうとしていた。

 その、凍り付いたような、重苦しい空気を、最初に、そして、最も盛大に、ぶち壊したのは、やはり、このパーティで最も敬虔で、最も純粋で、そして、最もズレている、あの聖騎士だった。

「お待ちください、ソフィア様あああああああああっ!」

 アンジェラが、この世の終わりとばかりに絶叫しながら、ソフィアの前に、文字通り、滑り込むようにして立ちはだかった。その瞳からは、滝のような涙が溢れ、その手には、どこから取り出したのか、いつもの、あの、真っ黒に焦げ付いた、聖なるパンが、恭しく、しかし力強く、握りしめられていた。

「女神様が! そのような、この世の全てを憂いたような、悲しいお顔をなさらないでください!」  アンジェラの、あまりにも場違いで、あまりにも真剣な叫びに、俺たちはハッとする。 「たとえ、女神様が過去にどのような過ちを犯したとしても! 私たちが受けた慈悲と、貴女様への敬愛が消えることなどありません! だから、お願いです……!」  アンジェラは、その黒焦げのパンを、まるで自身の命そのものであるかのように、震えるソフィアに向かって、そっと差し出した。 「元気をお出しください! これを食べれば、きっと力が湧いてくるはずです! なぜなら、これは、私が持てる全ての祈りと感謝を込めた、魂のパンなのですから!」

 理屈も何もない。ただ、目の前の主君を励ましたいという、不器用で、100パーセント純粋な善意だけがあった。  あまりにシュールで、あまりに突拍子もなくて、けれど、どうしようもなく温かいその光景が、凍り付いていたこの場の空気に、ほんの僅かな、しかし決定的な風穴を開けた。

「……柄じゃねえがよ」  ジンが、照れ臭そうに、ガシガシと、頭を掻きながら、一歩、前に出た。 「あんた一人の罪だなんて、そんなこと聞いちまったら、こっちの寝覚めが悪くて、かなわねえ。俺たちは、もう、あれだ。蓮根……じゃねえや、連帯責任ってやつだろ。なあ?」 「ええ、その通りですわ」セレスティアも、涙を堪えながら、強く、頷いた。「貴女が師匠のパートナーで、そして、私たちの、大切な仲間であることに、変わりはありません。貴女の罪は、私たちの罪でもあります」  サラも、リナも、マリアも、言葉には出さないが、その瞳に、同じ、強い決意の色を宿して、静かに、頷いていた。

 そして、最後に。俺が、ソフィアの前に立った。  俺は、自責の念に震える、彼女の、細く、冷たい両肩を、強く、掴んだ。彼女の、涙で濡れた、絶望の色の瞳を、真正面から、見つめて、俺は、叫んだ。  俺の、魂の、全てを込めて。

「昔のあんたが、女神として、何をしたかなんて、俺は知らない! 知る必要も、ねえよ!」  俺の脳裏に、これまでの、彼女との旅の日々が、鮮やかに、駆け巡る。 「俺が、知ってるのは! 俺がこの世界に来てから、ずっと、俺の隣で! いつも完璧なフリして、澄まして笑ってるくせに! 俺が、他の女の子と、ちょっと話しただけで、すぐに、分かりやすく嫉妬したり!」  脳裏に浮かぶのは、拗ねて、俺からタオルを取り上げた、あの時の彼女の顔。 「たまに、とんでもないドジを踏んで、顔を真っ赤にして、慌てたり!」  脳裏に浮かぶのは、俺の言葉に動揺して、水しぶきを上げた、あの時の彼女の顔。 「そして、俺が、本当に、どうしようもなくなった時には、自分のことなんて、全部、後回しにして、俺のことばっかり、心配して、泣いたりする! 完璧なんかじゃ、全然ない! 不完全で、ちょっと面倒くさくて、それでも、どうしようもなく、愛おしい、『ソフィアさん』だけだ!」

 俺は、一度、息を吸い込んだ。そして、彼女の、その魂に、直接、届けるように、もう一度、叫んだ。 「あんたが、一人で、罪を背負うって言うなら、俺も、背負う! ジンも、サラも、セレスティアも、アンジェラも、ここにいる、全員で、背負ってやる! あんたの過去は、もう、俺たちの、現在(いま)なんだよ! だから!」

「お願いだから、一人で、泣かないでください!」

 俺は、声を上げて、泣きじゃくるソフィアの、その小さな体を、全ての想いを込めて、力強く、そして、優しく、抱きしめた。  俺の、温かい背中に、仲間たちが、次々と、自分の手を、重ねていく。一人、また、一人と。  ジンの、ごつごつとした、剣士の手。  サラの、力強く、真面目な手。  セレスティアの、少しだけ震えている、優しい手。  アンジェラの、祈るように、固く組まれた手。  マリアの、慈愛に満ちた、柔らかな手。  リナの、小さな、温かい手。  俺たちの、不完全で、バラバラで、どうしようもない、ポンコツな仲間たちの、全ての温もりが、ソフィアの、孤独だった背中に、集まっていく。

 ソフィアは、その温もりに包まれながら、まるで、子供のように、声を上げて、泣いた。  それは、孤独な神が流す、絶望の涙ではなかった。  不完全な、人間の、温もりに救われた、感謝と、そして、再生の、涙だった。
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