チートスキルより女神様に告白したら、僕のステータスは最弱Fランクだけど、女神様の無限の祝福で最強になりました

Gaku

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シーズン3 天界の執行者と、偽りの聖勇者

第6話:揺らぐ信仰と魔法都市の噂

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武術都市ケンブレイブの重厚な石門をくぐり抜けた時、一行を包んだのは、初夏へと向かう湿り気を帯びた風だった。

数日前までの、ジンの心を覆っていた鉛色の雲のような鬱屈とした空気は消え去り、パーティには安堵の空気が流れていた。 だが、それは決して手放しの快晴ではない。嵐が去り、次の嵐が来るまでの、張り詰めた静寂に近かった。

「……随分と、身体が軽いな」

御者台に座るジンは、空になったスキットルを懐にしまいながら、独りごちた。 隣に座るサラが、厳しい眼差しを向けることなく、ただ前を見据えて頷く。 過去の亡霊と決着をつけた剣士の顔には、かつてのような虚勢の明るさではなく、静かな覚悟が宿っていた。

馬車は緑の絨毯のような草原を貫く街道を進む。 一見平和な風景だが、油断はできない。道端の草花は時折、ガラス細工のように硬質化していたり、空の色が瞬間的に反転したりする。 世界の「歪み」は、確実に進行していた。

その車内で、アンジェラ・アークライトは、膝の上で固く握りしめた小さな女神像と、もう一つ――先日の戦いで拾った、執行官の残骸である「水晶の欠片」を、交互に見つめていた。

彼女の表情からは、かつてのような盲目的な熱意が消え失せていた。 あるのは、底知れない困惑と、恐怖。

(この水晶から感じる波動は……間違いなく、私が日々祈りを捧げている『天界の光』そのもの。私たちを殺そうとしたあの冷酷な殺戮機械と、私たちが信じる正義の源流が、同じだというのですか……?)

彼女の中で、「天界(組織)」と「ソフィア(信仰対象)」の対立構造が、軋みを上げていた。 もし天界が「秩序」のために世界を管理する冷徹なシステムなのだとしたら、それに抗うソフィア様こそが「悪」なのか? いや、あの慈愛に満ちたソフィア様が悪であるはずがない。 ならば、天界が間違っているのか? だが、教義を否定することは、自分という存在の全否定に等しい。

思考の迷宮に迷い込むアンジェラを見て、ユウキは小さく溜息をついた。

「アンジェラ。……顔色が悪いぞ。少し休むか?」

「……いえ。問題ありません、ユウキ様」

アンジェラは、張り付いたような笑みを浮かべた。

「私は聖職者です。迷いなど……あってはなりません。ただ、少し世界の『歪み』に酔っただけです」

その言葉は、誰よりも彼女自身に言い聞かせているようだった。

休憩のために馬車を止め、一行が草原に降り立った時、その「歪み」は牙を剥いた。

空が、にわかにかき曇る。 雷鳴のような音が響いたかと思うと、頭上からパラパラと、硬質な音が降り注いできた。 雨ではない。

「――防御結界! 全員、馬車の下へ!」

ソフィアの鋭い警告と同時に、地面に突き刺さったのは、鋭利な「結晶」だった。 空から降ってきたのは、水滴ではなく、大気中の水分が瞬時に凍結・結晶化した、無数の氷の刃。

「うおおおっ! なんだこりゃ!」

ジンが剣で結晶を弾き飛ばし、サラが仲間たちを馬車の陰へ押し込む。 美しいが、致死性の高い凶器の雨。 リナやセレスティアが悲鳴を上げる中、アンジェラだけが、その光景を呆然と見上げていた。

「……美しい」

彼女の瞳には、仲間を襲う凶器が、天からの啓示のように映っていた。 整然とした結晶の形。無駄のない軌道。 それは、あの執行官が見せた「完璧な秩序」と同質のものだった。

「アンジェラ! 何をしてる、早くこっちへ!」

ユウキが腕を掴んで引き寄せるまで、彼女はその場から動こうとしなかった。 彼女の信仰心は今、危険な領域へと傾き始めていた。 「混沌とした温かさ」よりも、「冷徹だが完璧な秩序」に、救いを求めそうになるほどに。



その夜。 焚き火を囲みながら、ユウキはソフィアに懸念を伝えた。

「アンジェラのやつ、限界かもしれない。……天界がお前を狙っていること、そして執行官との戦い。あいつの信じてきたものが、根底から揺らいでる」

ソフィアは、揺らめく炎を見つめながら静かに頷いた。

「ええ。彼女にとって、天界の秩序は世界の『正解』そのものだった。でも、今の私はその秩序を乱す『異物』。彼女は今、二つの正義の間で引き裂かれているわ」

「どうすればいい? 俺たちに何ができる?」

「……彼女自身が、答えを選ぶしかないの。信仰とは、誰かに与えられるものではなく、自ら掴み取るものだから」

ソフィアの言葉は厳しく聞こえたが、その瞳にはアンジェラへの深い慈しみが宿っていた。



数日後、一行は次なる目的地について話し合っていた。 天界からの追跡を逃れつつ、マリアの故郷「狭間の聖地」へ向かう必要がある。

「なあマリア。故郷への道順は分かるか?」

ユウキが地図を広げながら尋ねると、マリアは困ったように首を横に振った。

「申し訳ありません、ユウキ様。……以前なら案内できたのですが、今の世界は空間が歪み、聖地の入口の『座標』自体がズレてしまっているようなのです。私の記憶にある道を行っても、たどり着ける保証がありません」

「なるほどな。空間ごとズレているとなると、闇雲に探しても見つからないか……」

正確な座標を知る手掛かりが必要だ。全員が頭を抱えかけたその時、セレスティアが少し不安げに提案した。

「聖地に関する古代の文献や、座標計算のための資料……。それなら、私の故郷に寄っていくのはどうでしょう」

「セレスティアの故郷?」

「はい。魔法学園都市マギステル。大陸中のあらゆる知識が集まる『大図書館』があります。そこなら、世界の理の外側にある場所の手掛かりも見つかるかもしれません」

「それに……」と言いかけて、セレスティアは口ごもった。 「私の身体の不調についても、師匠である学園長なら、何か分かるかもしれません」

ケンブレイブへの道中で彼女を襲った「魔力酔い」。 それは回復するどころか、日々深刻さを増していた。彼女の魔力が、世界の歪みに共鳴し、暴走寸前で波打っているのだ。

こうして、一行の進路は北、魔法学園都市マギステルへと定まった。



マギステルは、霧深い盆地にひっそりと佇む学術都市だった。 空には数え切れないほどの防衛結界が幾何学模様を描き、外部からの物理的・魔術的干渉を遮断している。 街の中心には、象牙色の巨大な塔がそびえ立ち、そこから放たれる光が都市全体の魔力供給を管理していた。

「ようこそ。……私の故郷へ」

セレスティアの声には、帰郷の喜びよりも、緊張の色が濃かった。 厳重な検問を抜け、一行は都市の中枢である魔法学園の最上階、学園長室へと通された。

そこに待っていたのは、長い白髭を蓄えた、賢者アルバス。 彼はセレスティアの顔を見るなり、険しい表情で眉間の皺を深くした。

「……やはりか。恐れていたことが起きてしまったようじゃな」

アルバスは、ユウキたちを下がらせ、セレスティアと二人きりで向き合った。 そして、彼女の血に隠された、重い真実を告げる。

「セレスティアよ。お前の魔法が時折制御を失い、予測不能な現象を引き起こす理由。……それは、お前が未熟だからではない」

「え……?」

「お前の血筋は、神々がこの世界に『秩序』を敷く以前……世界がまだ混沌としていた時代の、古き魔術師の末裔。『始原の混沌(プリミティブ・カオス)』を宿す者なんじゃ」

セレスティアは息を呑んだ。 自分の力が、単なる才能や失敗ではなく、世界の根源に関わる異質なものだという宣告。

「今の世界は、女神ソフィア様によって理が書き換えられ、不安定になっておる。その環境がお前の血を目覚めさせた。……今の魔法学園(アカデミー)にとって、お前の存在は、秩序を乱す『危険因子』そのものと判断されるじゃろう」

世界の歪みと共に目覚めた、制御不能な力。 彼女自身が、この世界をさらに混沌へと導くトリガーになり得るという事実。 セレスティアは言葉を失い、ただ震える手を見つめるしかなかった。



その頃、アンジェラは一人、マギステルの大聖堂を訪れていた。 ステンドグラスから差し込む光の下、彼女は祭壇に跪く。 だが、祈りの言葉が出てこない。

「おお、神よ……。秩序こそが正義ならば、なぜ世界はこんなにも冷たいのですか……」

彼女の問いかけに答える声はない。 ただ、静寂だけが、重く彼女にのしかかっていた。

セレスティアに突きつけられた自身の存在への恐怖。 アンジェラが迷い込んだ、出口のない信仰の迷路。 そして、その二人の迷いをあざ笑うかのように、マギステルの空が、不自然なほどの「完全な晴天」へと固定され始めていた。

それは、次なる来訪者が近づいている予兆だった。 混沌とした世界を、強制的に「整列」させるための、冷徹な論理の使い手が。
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