空っぽの魔王様に「好き」を教える方法(物理)~無敵の俺と仲間たちの、世界で一番不毛な布教活動~

Gaku

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第四章:『盗賊女帝の亡霊と、盗めない未来』

第三十九話:盗賊団の終わり

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帝国軍との激しい戦いから、二度目の夜が来た。

一行とレイヴンの民が、一時的な避難場所として身を寄せている古い遺跡は、月明かりの下、巨大な獣の骸のように、静かに横たわっていた。苔むした石柱が落とす影は、現実よりもずっと濃く、深く、まるで大地に刻まれた癒えぬ傷跡のようだ。

あちこちで、傷ついた者たちの、苦痛に満ちたうめき声が、夜の静寂に微かに響いている。戦いには、辛うじて勝った。生き延びることもできた。しかし、根城としていたアジトを失い、多くの仲間が傷つき、あるいは永遠に帰らぬ人となった現実は、勝利の高揚感など微塵も感じさせない、重い、重い敗北感となって、生き残った者全ての肩にのしかかっていた。

誰もが、口を閉ざしていた。言葉を発する気力さえも、あの戦場で使い果たしてしまったかのように。ただ、拭い去ることのできない疲労と、これからどうなるのかという先の見えない未来への不安だけが、冷たい夜霧のように、遺跡全体を重く、湿っぽく支配していた。

レイヴンは、一人、最も高い石柱の上から、眠る民たちの姿を、静かに見下ろしていた。
その横顔を照らす月光は、彼女の肌の白さを際立たせ、まるで精巧な石像のように見せた。しかし、その固く結ばれた唇と、遠い闇の先を見つめる瞳には、血の通った、あまりにも生々しい苦悩と、そして、リーダーとして下さなければならない、あまりにも重い決断の色が、深く、深く刻まれていた。

夜が明け、遺跡に朝日が差し込み始めた頃。
その光は、まるで審判の時を告げるかのように、眠っていた人々を優しく、しかし容赦なく起こしていった。

レイヴンは、生き残った民全員と、仲間たちを、遺跡の中央広場に集めた。
彼女の顔には、もう迷いも、悲しみもなかった。ただ、嵐が過ぎ去った後の海のように、全てを受け入れた、静かで、揺るぎない覚悟だけがあった。

彼女は、集まった全員の顔を、一人一人、ゆっくりと見渡した。そして、静かに、しかし、その場にいる全ての者の魂に直接届くような、はっきりとした声で、宣言した。

「本日をもって、盗賊団『亡国の鴉』を、解散します」

その言葉に、民たちが、どよめいた。不安と、混乱と、そしてかすかな怒りを含んだ声が、あちこちから上がる。
「頭領!そりゃあ、どういうことですかい!」
「俺たちァ、これからどうすりゃいいんだ!アジトもねぇ、食いもんもねぇ!このままじゃ、野垂れ死ぬだけだ!」

その、魂からの叫びともいえる声に、レイヴンは、穏やかに、しかしきっぱりと首を横に振った。

「私たちは、間違っていた。いいや」

彼女は、一度言葉を切り、自分自身に言い聞かせるように、続けた。

「私が、間違っていた」

彼女は、自分の胸の内にあった、醜く、そして愚かな過去の過ちを、初めて、正直に、民の前で語り始めた。

「私は、復讐という、私個人の憎しみのために、お前たちを戦わせてきた。帝国から奪い、その力を蓄えることで、いつか故郷を取り戻せると、そう信じていた。だが、それはただの幻想だった。奪うという行為は、さらなる憎しみと、終わりのない戦いを生むだけだった。そして、その結果が、これだ。私は、私の独りよがりな願いのために、お前たちを、こんな危険な目に遭わせてしまった」

彼女は、民の一人一人と、目を合わせた。その瞳には、深い悔恨と、そして、それを超えた、新しい未来への強い意志が宿っていた。

「もう、奪うのは終わりだ。これからは、作るために生きよう。私たちは、もう盗賊ではない。故郷を失い、新たな故郷を探す、ただの旅の民だ。誇りを失った無法者ではなく、未来を信じる、開拓者だ」

そして、彼女は、静かに見守っていたレンたちパーティの前に、ゆっくりと進み出た。
そして、王としてでも、頭目としてでもなく、ただ一人の、無力で、助けを求める人間として、深く、深く、その頭を下げた。

「私は、独りよがりな復讐という亡霊に、ずっと囚われていた。だが、お前たちと出会って、本当に守るべきもの、本当に生きるべき未来を、見つけることができた。どうか、お願いだ」

彼女は、ゆっくりと顔を上げた。その瞳は、涙で潤んでいたが、その光は、どこまでも真っ直гуだった。

「この民が、この子供たちが、心の底から笑って暮らせる、安住の地を見つけるまで、私に、お前たちの力を貸してほしい」
「そして、私を――お前たちの、仲間に、入れてくれ」

王女としてのプライドも、盗賊の頭目としての仮面も、全てを捨て去った、レイヴンの、魂からの懇願。

その、あまりにも重く、そしてあまりにも真摯な言葉の響きに、広場は、水を打ったように静まり返った。
風が止み、鳥の声も聞こえない。ただ、昇り始めた朝日だけが、頭を下げた彼女の黒髪を、そして、その言葉をそれぞれの表情で静かに受け止める仲間たちの姿を、荘厳に、そして神々しく照らし出していた。

物語は、その、新しい世界の始まりを告げる、静寂の瞬間を映し出して、幕を閉じる。
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