滅びた国の絶望王女が勇者を探していたので、俺(勇者)も一緒に探してみることにした件

Gaku

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第1部:出会いと勘違いの旅路

第22話:異世界でオタクトーク!?

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アシュフォード家の館は、ユウたちがこれまで見てきたどの貴族の邸宅とも、その趣を異にしていた。
石造りの重厚な建築様式は踏襲しているものの、無駄な装飾は削ぎ落され、むしろ機能美とも言えるすっきりとした直線で構成されている。庭に面した壁には大きなガラス窓が嵌め込まれ、陽光をたっぷりと室内に取り込んでいた。手入れの行き届いた庭園には、この大陸固有の色彩豊かな花々が咲き誇る一方で、その一角には淡い桜色の花びらをつけた、ユウの郷愁を微かにくすぐる木が植えられている。
伝統と革新。西洋と東洋。異なる要素が、不思議な調和をもってそこに存在していた。

「皆様、ようこそお越しくださいました。当主のリリア様が、応接室にてお待ちです」

一行を出迎えたのは、燕尾服を寸分の隙もなく着こなした老執事だった。その完璧な所作と、穏やかながらも全てを見通すような眼差しは、この館の格式の高さを雄弁に物語っている。
通された応接室は、豪華でありながらも、これ見よがしな金銀の装飾は控えめだった。壁にかけられた絵画も、歴代当主の肖像画ではなく、光と空気を柔らかなタッチで描いた、どこか印象派を思わせる風景画だ。全てが、この館の主の独特な美意識を反映しているようだった。

アレクは背筋を伸ばし、シルフィアは貴人との謁見に慣れた様子で静かに椅子に腰掛ける。レオンは壁の絵画に興味を惹かれているようだが、おそらく彼の目には全く違う何かが見えているのだろう。ゴードンは高価そうな壺を割りはしないかと、自分の巨体を縮こませてオロオロしている。
やがて、扉が静かに開かれ、一人の少女が姿を現した。

「皆様、本日はお越しいただき、ありがとうございます。わたくしが、この家の主、リリア・アシュフォードと申します」

銀糸のように繊細な髪が、窓から差し込む光を浴びてキラキラと輝いている。歳は十七か十八といったところだろうか。透き通るような白い肌と、大きな翠色の瞳が、どこか儚げで、守ってやりたいという庇護欲を掻き立てる。貴族令嬢としての気品を保とうと毅然と振る舞ってはいるが、その声は微かに震え、緊張を隠しきれていない。
彼女が護衛を必要としているという話は、本当なのだろう。アレクは「ご安心ください、お嬢様。このアレク、命に代えてもあなたをお守りすると誓いましょう!」と、早くも騎士道精神を全開にさせていた。

リリアが席に着き、老執事が丁寧な手つきで紅茶を淹れる。優雅なティーカップの香りが、部屋の緊張をわずかに和らげた。
護衛依頼の詳細な打ち合わせが始まった。リリアを狙っているという宗教団体のこと、彼らが夜な夜な不審な儀式を行っていること。アレクが時折、真剣な顔で質問を挟み、シルフィアが冷静に状況を分析する。
ユウは、そんな会話を半分聞き流しながら、この不思議な空間の居心地の良さを楽しんでいた。この館の空気、リリアという少女の雰囲気、そして先ほどから感じていた街全体の空気。その全てが、彼の心の奥底にある、忘れていた何かをくすぐるのだ。
その感覚の正体を確かめたくて、彼は何の悪気もなく、ふと思いついたことを雑談のように口にした。

「いやー、しかしお嬢様、この街ってなんか落ち着くんですよね。さっきもシルフィアと話してたんですけど、日本っぽいっていうか」

その瞬間、世界から音が消えた。

カシャン!

甲高く、澄んだ音が、静まり返った応接室に響き渡った。
音の源は、リリアの手元だった。彼女は持っていたティーカップをソーサーに取り落とし、琥珀色の液体が純白のテーブルクロスに染みを作っていく。
しかし、そんなことを気にする者は誰もいなかった。全員の視線が、リリアの顔に釘付けになっていたからだ。
彼女の顔から、血の気が引いていた。大きな翠色の瞳は、信じられないものを見るかのように大きく見開かれ、ユウを捉えて離さない。桜色の唇が、わなわなと震えている。
「……に、ほん?」
か細く、掠れた声が、彼女の唇から漏れた。
他のメンバーは、何が起きたのか全く理解できずに顔を見合わせている。「え、俺、なんかまずいこと言った?」ユウが小声でシルフィアに尋ねるが、彼女もただ首を横に振るだけだ。
次の瞬間、リリアは椅子から弾かれたように立ち上がると、テーブルを回り込み、一直線にユウの元へ駆け寄った。そして、華奢な両手で、彼の肩を強く掴んだ。その瞳には、切迫した光が宿っている。

「あなた、まさか……!?」

ユウもまた、彼女のその常軌を逸した反応を見て、全てを察した。脳天を雷で撃ち抜かれたような衝撃。まさか、そんなはずが、でも、この反応は。

「もしかして……君も?」

二人の間で、言葉にならない何かが、激しい火花を散らして通じ合った。
それは、何億光年も離れた銀河の果てで、たった一人の同郷人に出会えたかのような、魂が震えるほどの衝撃。広大な砂漠をたった一人で彷徨い続け、もう誰もいないと諦めかけた時に、同じ故郷の言葉を話す人間を見つけたかのような、絶望的な孤独からの解放。

護衛の打ち合わせは、その瞬間、完全に放棄された。

「マジかよ!信じらんねえ!俺、佐藤優!そっちは!?」
「鈴木梨々愛!梨々愛って書いて、リリア!うそ、こんなことって!こっち来てから誰とも、誰ともこういう話できなくて!」

二人は、他のメンバーの存在など完全に忘却の彼方へと追いやり、堰を切ったように、流暢すぎる日本語で話し始めた。それは、今まで誰とも共有できなかった知識と情熱と孤独を、互いにぶつけ合う、魂の叫びだった。

「好きなアニメ何だった!?俺はやっぱり『鋼の』かな!」
「分かるーっ!最終回ボロ泣きした!あとソシャゲ!私、F-G-Oの推しガチャで大爆死して、放心状態で歩いてたらトラックに……!」
「うわっ、それ俺とほぼ一緒!こっち来てから新作のラノベ読めなくてマジ禁断症状!」
「それな!てかコンビニのからあげクン、無性に食べたくならない!?」
「なるーっ!あと深夜アニメ見ながら食べるポテチとコーラ!あれは神の所業だった!」

二人は涙ぐみながら、しかし満面の笑みで、猛烈な速度で言葉を交わし続ける。その光景は、常人には理解しがたい、あまりにも異様なものだった。

その異次元空間から弾き出された、哀れな仲間たちは、ただ呆然と立ち尽くすしかない。

シルフィアは、ポカンとしていた。ユウが、自分の全く知らない言葉で、見たこともないような楽しそうな顔で笑っている。心の底から、本当に嬉しそうに。その笑顔が、自分ではなく、リリアという今日会ったばかりの少女に向けられている。胸の奥が、チクリと、小さな針で刺されたように痛んだ。

アレクは、真剣な顔で「異国の言葉か……?何かの暗号だろうか。よし、記憶するぞ!」と呟き、全く聞き取れていないであろう音の羅列を必死に脳に刻みつけようとしている。

レオンは、興味などないという風に窓の外を眺めているふりをしながら、その耳はピクピクと動き、必死に二人の会話を聞き取ろうと全神経を集中させていた。

ゴードンは、「な、何か、とんでもなく怒らせてしまったのでしょうか……?我々は、ここで殺されるのでしょうか……?」と小刻みに震え、今にも気絶しそうだった。

やがて、ひとしきり語り終えたリリアは、涙で濡れた瞳をキラキラと輝かせながら、改めてユウに向き直った。
「護衛の件、正式にお願いするわ!でも、それ以上に、あなたと話したいことが、山ほど、山ほどあるの!」
その言葉に、ユウも力強く頷いた。
「おう、任せとけ!俺もだ!徹夜で語り明かそうぜ!」

こうして、本来の目的であったはずの「令嬢の護衛依頼」は、思わぬ形で「異世界で初めて出会ったオタク仲間とのオフ会」へとその本質を変えた。
応接室には、熱く手を取り合って再会を喜ぶ二人の転生者と、世界の真理から完全に取り残され、ただただ立ち尽くす四人の冒険者たちの姿があった。彼らの奇妙な旅に、また一つ、誰も予測できないカオスの種が蒔かれた瞬間だった。
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