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第1部:出会いと勘違いの旅路
第47話:ライバル宣言
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シルフィアのか細い、しかし確かな告白が夜の静寂に溶けていった後、二人の間には心地よい沈黙が流れた。夜はさらに深まり、あれほど勢いよく燃えていた焚き火も、今は穏やかな熾火へと姿を変え、時折、赤い火の粉を静かに宙へと舞い上げている。周囲の闇が濃さを増し、森は音のない世界に沈んだかのようだ。先ほどまで見えていた月はいつの間にか厚い雲に隠れ、今は満天の星々だけが、まるでダイヤモンドダストを撒き散らしたかのように、無言で地上を見下ろしていた。
ひんやりと澄み切った空気が、嗅ぎ慣れた土と夜露の匂いを運んでくる。時折、風が木の葉を揺らす音だけが、さわさわと二人の間を通り過ぎていく。それは、まるで世界の大きな呼吸のようにも聞こえた。
イザベラは、自分の杯に残っていたワインをクイッと飲み干すと、満足そうに、そしてどこか楽しそうに微笑んだ。その笑みは、王都で初めて会った時の、全てを見透かすような冷たいものではなく、年相応の少女が持つ、温かく、そして少し悪戯っぽい光を宿していた。
「そうこなくっちゃ、面白くないわ」
彼女は空になった銀杯をことりと地面に置くと、シルフィアに向き直り、まるで重要な条約の締結でも宣言するかのように、きっぱりと言い放った。
「じゃあ、私たち、今日から正式にライバルってことで、いいわね?」
その、あまりにも真っ直ぐで力強い言葉に、シルフィアはハッとして顔を上げた。ライバル。その言葉の響きは、彼女が今まで生きてきた世界には存在しなかったものだった。
「ら、ライバルだなんて、そんな! とんでもないです!」
シルフィアは慌てて首を横に振る。自分の気持ちを認めたばかりで混乱している頭に、イザベラの言葉はあまりにも衝撃的すぎた。
「イザベラ様は、大陸でも有数の大国であるエルミナ王国の第一王女でいらっしゃいます。それに比べて私は……もう国もない、ただの亡国の姫です。あなた様と釣り合うはずが、ありません」
それは、彼女の心に深く根付いた、拭い去ることのできない劣等感からくる言葉だった。彼女はまだ、「王女」や「亡国の姫」という、過去から与えられた役割、属性という名の重い鎖に囚われていた。自分という存在を、その肩書を通してしか見ることができずにいたのだ。
しかし、イザベラはそんなシルフィアの自己卑下を、一笑に付した。彼女はシルフィアの肩にポンと手を置くと、その紫水晶の瞳を真っ直ぐに見つめ、諭すように、しかし有無を言わせぬ力強さで言った。
「いいこと、シルフィア。よくお聞きなさい」
その声には、一国の王女としての威厳が満ちていた。
「ここでは、そんな肩書、何の意味もないガラクタよ。『エルミナの王女』?『ヴァレンシアの姫』?そんなものは、この暗い森の中では何の役にも立たない、ただの記号に過ぎないわ。私たちが今ここにいるのは、ただのイザベラと、ただのシルフィア。そして私たちは、ただの女。一人の、どうしようもなく規格外で、どうしようもなく鈍感な男を想う気持ちに、国の大きさだの、身分だの、そんな下らない物差しが関係あると、本気で思うかしら?」
きっぱりと言い放つその姿は、王女としての威厳と、一人の人間としての、揺るぎない強さに満ち溢れていた。その言葉の一つ一つが、シルフィアの心を縛っていた見えない鎖を、一つ、また一つと断ち切っていく。
そうだ。この旅に出てから、自分が「王女」であることを意識したことがあっただろうか。泥にまみれ、焚き火の煙に咽び、仲間たちとくだらないことで笑い合う。そこには、ただ必死に「今」を生きる自分がいるだけだった。王女という役割は、自分が勝手に背負い込み、自分を苦しめていただけだったのかもしれない。
イザベラは、さらに言葉を続ける。その声は、どこか楽しそうだった。
「それにね、恋の行方なんて、誰にも予測できないものよ。神様でさえ、きっとサイコロを振ることしかできないわ」
彼女は夜空の星々を見上げ、まるで壮大な宇宙の法則でも語るかのように言った。
「どんなに有利な立場にいようと、どんなに美しい言葉を囁こうと、彼の心が最終的にどちらに向かうかなんて、誰にも分からない。全ては、これからの私たちと、彼とのやり取り……そう、『相互作用』次第で、どうにでも変わっていくものなのよ。まるで、この世界の理そのものじゃない?」
その言葉は、シルフィアの心に、新しい世界の扉を開いた。
運命は、決まっているものではない。未来は、白紙の地図のようなものだ。そして、その地図に道を記していくのは、他の誰でもない、自分自身の足なのだと。自分の行動、自分の言葉、自分の想い。その一つ一つが、複雑に絡み合い、影響し合って、誰も見たことのない未来を、新しい景色を、創り出していく。
イザベラは、シルフィアの肩に置いていた手をそっと離すと、悪戯っぽくウィンクした。
「だから、スタートラインは同じ。いいえ、むしろ、彼と先に出会っていた分、あなたのほうが少しだけリードしているかもしれないわね。せいぜい、私に追い抜かれないように頑張ることね、シルフィア」
その言葉には、もう一片の同情も、憐れみもなかった。ただ、対等なライバルとして認めた相手に対する、最大限の敬意と、挑戦的なエールだけが込められていた。
シルフィアの心の中に、温かい光が灯るのを感じた。それは、自分の気持ちを認めた安堵感とはまた違う、もっと力強く、清々しい光だった。卑下も、劣等感も、もうそこにはない。ただ、目の前に立つ、美しく、強く、そして誰より優しいライバルに対する、感謝と闘志だけがあった。
シルフィアは、顔を上げた。その瞳には、もう迷いの色はなかった。
「……はい! 望むところです、イザベラ!」
彼女は、はっきりとそう答えた。その声は震えていなかった。月明かりに照らされた二人の王女は、どちらからともなく、ふふっと笑い声を漏らした。それは、長い間心の奥底に仕舞い込んでいた本当の気持ちを解き放ち、新たな関係性を結んだ者だけが分かち合える、共犯者のような、そして親友のような、温かい笑い声だった。
その、あまりにも美しく、あまりにもシリアスで、そしてあまりにも重要な会話の一部始終を、約三十メートル離れたカシの大木の陰で、一人の男が息を殺して聞いていたことなど、二人は知る由もなかった。
その男、ギデオンは、もはや剣士でも、エロ親父でもなく、絶滅寸前の希少生物と化したただの小心者と化していた。
(終わった……俺の人生、完全に終わった……)
彼の額からは、もはや汗というレベルではない。それは、天然の湧き水か何かだった。ナイアガラの滝もかくやという勢いで、絶え間なく流れ落ち続けている。
元々は、ただの見張りだったのだ。純粋に。仲間たちの安全を確保するため、夜の闇に紛れ、周囲の警戒に当たっていた。それだけだった。それだけのはずだったのだ。
しかし、運命の女神は、時に残酷な悪戯を仕掛ける。
まさか、こんな星の綺麗な夜に、二人の姫君による、国家機密と恋愛機密と乙女の秘密が満載すぎる、超弩級のぶっちゃけ女子トークが開催されるなどと、一体誰が予測できただろうか。
最初は、シルフィアの身の上話だった。
(ほう、やはりヴァレンシアの姫君だったか。道理で気品があるわけだ)
などと、冷静に聞いていられたのはそこまで。話がユウのことに及んだ瞬間、ギデオンの剣士としての超感覚的知覚は、最大級の警報を脳内で鳴り響かせた。
(待て、待て待て待て! 聞こえる! 聞こえちまう! 俺の耳が良すぎるのが悪い! だが、ここで動けば物音を立ててしまう! 動けば奴らに俺の存在がバレる! バレたら最後、俺は社会的に抹殺される! いや、違う! あの氷の姫様のことだ、物理的に消される!)
彼の思考は、秒速で地獄のシナリオをシミュレーションする。
聞き耳を立てていたことがバレた場合:
ケース1:イザベラ王女が、「聞きましたわね?」と氷点下の微笑みを浮かべる。
ケース2:次の瞬間、俺の存在がこの次元から綺麗サッパリ消滅している。
ケース3:墓も立たない。誰も俺がここにいたことさえ覚えていない。
(無理ゲーじゃねえか!)
ギデオンは、己の存在そのものを、この世界の背景と一体化させることに全神経を集中させた。それは、もはや忍術の域を超え、一種の哲学的な問いにまで達していた。「我思う、ゆえに我あり」とデカルトは言ったが、ならば「我、思われなければ、我なし」なのではないか。そうだ、俺は今、この瞬間、存在しない。俺はただの木だ。風に揺れる葉っぱだ。土の匂いだ。
しかし、彼の無駄に高性能な聴覚は、残酷なまでに二人の会話を拾い続けてしまう。
イザベラのライバル宣言。シルフィアの覚悟。そして、二人の笑い声。
(あああああああああああああ!聞いちまった!聞きたくなかったのに、全部聞いちまった!なんで俺、こんなところにいるんだよぉぉぉ!)
心の中は、絶叫と号泣と後悔が入り乱れる地獄のカーニバルだ。しかし、彼の外面は、闇に溶け込む一本の木として、完璧なまでに静止している。
シルフィアとイザベラは、互いにライバル宣言をしたことで、むしろ心のわだかまりが完全に消え、スッキリした顔で笑い合っていた。その姿は、星明かりの下で、神々しいほどに美しかった。
その美しい光景のすぐ側で、一人の男が、人生最大のピンチに瀕し、己の存在証明を賭けた孤独な戦いを繰り広げている。なんという皮肉。なんという世界の理不尽。
(よし、今だ)
二人が立ち上がり、それぞれのテントに戻ろうと背を向けた瞬間。ギデオンは動いた。
音を立てない。気配を悟らせない。空気の流れさえも乱さない。
それは、剣技を極めた者だけが到達できる、究極の身体操作術だった。敵の背後を取り、必殺の一撃を放つための神速の歩法『無音歩』。かつて、幾多の強敵を屠ってきた彼の必殺のスキルが、今、人生で最も情けなく、そして最も必死な目的――「女子の恋バナを聞いてしまったことがバレないように、全力で逃走する」――のためだけに、無駄に、そして最高レベルで発揮されていた。
闇から闇へと、影のように滑らかに移動するギデオン。その背中は、どんな強敵と対峙した時よりも、小さく、そして哀れに丸まっていたのだった。
ひんやりと澄み切った空気が、嗅ぎ慣れた土と夜露の匂いを運んでくる。時折、風が木の葉を揺らす音だけが、さわさわと二人の間を通り過ぎていく。それは、まるで世界の大きな呼吸のようにも聞こえた。
イザベラは、自分の杯に残っていたワインをクイッと飲み干すと、満足そうに、そしてどこか楽しそうに微笑んだ。その笑みは、王都で初めて会った時の、全てを見透かすような冷たいものではなく、年相応の少女が持つ、温かく、そして少し悪戯っぽい光を宿していた。
「そうこなくっちゃ、面白くないわ」
彼女は空になった銀杯をことりと地面に置くと、シルフィアに向き直り、まるで重要な条約の締結でも宣言するかのように、きっぱりと言い放った。
「じゃあ、私たち、今日から正式にライバルってことで、いいわね?」
その、あまりにも真っ直ぐで力強い言葉に、シルフィアはハッとして顔を上げた。ライバル。その言葉の響きは、彼女が今まで生きてきた世界には存在しなかったものだった。
「ら、ライバルだなんて、そんな! とんでもないです!」
シルフィアは慌てて首を横に振る。自分の気持ちを認めたばかりで混乱している頭に、イザベラの言葉はあまりにも衝撃的すぎた。
「イザベラ様は、大陸でも有数の大国であるエルミナ王国の第一王女でいらっしゃいます。それに比べて私は……もう国もない、ただの亡国の姫です。あなた様と釣り合うはずが、ありません」
それは、彼女の心に深く根付いた、拭い去ることのできない劣等感からくる言葉だった。彼女はまだ、「王女」や「亡国の姫」という、過去から与えられた役割、属性という名の重い鎖に囚われていた。自分という存在を、その肩書を通してしか見ることができずにいたのだ。
しかし、イザベラはそんなシルフィアの自己卑下を、一笑に付した。彼女はシルフィアの肩にポンと手を置くと、その紫水晶の瞳を真っ直ぐに見つめ、諭すように、しかし有無を言わせぬ力強さで言った。
「いいこと、シルフィア。よくお聞きなさい」
その声には、一国の王女としての威厳が満ちていた。
「ここでは、そんな肩書、何の意味もないガラクタよ。『エルミナの王女』?『ヴァレンシアの姫』?そんなものは、この暗い森の中では何の役にも立たない、ただの記号に過ぎないわ。私たちが今ここにいるのは、ただのイザベラと、ただのシルフィア。そして私たちは、ただの女。一人の、どうしようもなく規格外で、どうしようもなく鈍感な男を想う気持ちに、国の大きさだの、身分だの、そんな下らない物差しが関係あると、本気で思うかしら?」
きっぱりと言い放つその姿は、王女としての威厳と、一人の人間としての、揺るぎない強さに満ち溢れていた。その言葉の一つ一つが、シルフィアの心を縛っていた見えない鎖を、一つ、また一つと断ち切っていく。
そうだ。この旅に出てから、自分が「王女」であることを意識したことがあっただろうか。泥にまみれ、焚き火の煙に咽び、仲間たちとくだらないことで笑い合う。そこには、ただ必死に「今」を生きる自分がいるだけだった。王女という役割は、自分が勝手に背負い込み、自分を苦しめていただけだったのかもしれない。
イザベラは、さらに言葉を続ける。その声は、どこか楽しそうだった。
「それにね、恋の行方なんて、誰にも予測できないものよ。神様でさえ、きっとサイコロを振ることしかできないわ」
彼女は夜空の星々を見上げ、まるで壮大な宇宙の法則でも語るかのように言った。
「どんなに有利な立場にいようと、どんなに美しい言葉を囁こうと、彼の心が最終的にどちらに向かうかなんて、誰にも分からない。全ては、これからの私たちと、彼とのやり取り……そう、『相互作用』次第で、どうにでも変わっていくものなのよ。まるで、この世界の理そのものじゃない?」
その言葉は、シルフィアの心に、新しい世界の扉を開いた。
運命は、決まっているものではない。未来は、白紙の地図のようなものだ。そして、その地図に道を記していくのは、他の誰でもない、自分自身の足なのだと。自分の行動、自分の言葉、自分の想い。その一つ一つが、複雑に絡み合い、影響し合って、誰も見たことのない未来を、新しい景色を、創り出していく。
イザベラは、シルフィアの肩に置いていた手をそっと離すと、悪戯っぽくウィンクした。
「だから、スタートラインは同じ。いいえ、むしろ、彼と先に出会っていた分、あなたのほうが少しだけリードしているかもしれないわね。せいぜい、私に追い抜かれないように頑張ることね、シルフィア」
その言葉には、もう一片の同情も、憐れみもなかった。ただ、対等なライバルとして認めた相手に対する、最大限の敬意と、挑戦的なエールだけが込められていた。
シルフィアの心の中に、温かい光が灯るのを感じた。それは、自分の気持ちを認めた安堵感とはまた違う、もっと力強く、清々しい光だった。卑下も、劣等感も、もうそこにはない。ただ、目の前に立つ、美しく、強く、そして誰より優しいライバルに対する、感謝と闘志だけがあった。
シルフィアは、顔を上げた。その瞳には、もう迷いの色はなかった。
「……はい! 望むところです、イザベラ!」
彼女は、はっきりとそう答えた。その声は震えていなかった。月明かりに照らされた二人の王女は、どちらからともなく、ふふっと笑い声を漏らした。それは、長い間心の奥底に仕舞い込んでいた本当の気持ちを解き放ち、新たな関係性を結んだ者だけが分かち合える、共犯者のような、そして親友のような、温かい笑い声だった。
その、あまりにも美しく、あまりにもシリアスで、そしてあまりにも重要な会話の一部始終を、約三十メートル離れたカシの大木の陰で、一人の男が息を殺して聞いていたことなど、二人は知る由もなかった。
その男、ギデオンは、もはや剣士でも、エロ親父でもなく、絶滅寸前の希少生物と化したただの小心者と化していた。
(終わった……俺の人生、完全に終わった……)
彼の額からは、もはや汗というレベルではない。それは、天然の湧き水か何かだった。ナイアガラの滝もかくやという勢いで、絶え間なく流れ落ち続けている。
元々は、ただの見張りだったのだ。純粋に。仲間たちの安全を確保するため、夜の闇に紛れ、周囲の警戒に当たっていた。それだけだった。それだけのはずだったのだ。
しかし、運命の女神は、時に残酷な悪戯を仕掛ける。
まさか、こんな星の綺麗な夜に、二人の姫君による、国家機密と恋愛機密と乙女の秘密が満載すぎる、超弩級のぶっちゃけ女子トークが開催されるなどと、一体誰が予測できただろうか。
最初は、シルフィアの身の上話だった。
(ほう、やはりヴァレンシアの姫君だったか。道理で気品があるわけだ)
などと、冷静に聞いていられたのはそこまで。話がユウのことに及んだ瞬間、ギデオンの剣士としての超感覚的知覚は、最大級の警報を脳内で鳴り響かせた。
(待て、待て待て待て! 聞こえる! 聞こえちまう! 俺の耳が良すぎるのが悪い! だが、ここで動けば物音を立ててしまう! 動けば奴らに俺の存在がバレる! バレたら最後、俺は社会的に抹殺される! いや、違う! あの氷の姫様のことだ、物理的に消される!)
彼の思考は、秒速で地獄のシナリオをシミュレーションする。
聞き耳を立てていたことがバレた場合:
ケース1:イザベラ王女が、「聞きましたわね?」と氷点下の微笑みを浮かべる。
ケース2:次の瞬間、俺の存在がこの次元から綺麗サッパリ消滅している。
ケース3:墓も立たない。誰も俺がここにいたことさえ覚えていない。
(無理ゲーじゃねえか!)
ギデオンは、己の存在そのものを、この世界の背景と一体化させることに全神経を集中させた。それは、もはや忍術の域を超え、一種の哲学的な問いにまで達していた。「我思う、ゆえに我あり」とデカルトは言ったが、ならば「我、思われなければ、我なし」なのではないか。そうだ、俺は今、この瞬間、存在しない。俺はただの木だ。風に揺れる葉っぱだ。土の匂いだ。
しかし、彼の無駄に高性能な聴覚は、残酷なまでに二人の会話を拾い続けてしまう。
イザベラのライバル宣言。シルフィアの覚悟。そして、二人の笑い声。
(あああああああああああああ!聞いちまった!聞きたくなかったのに、全部聞いちまった!なんで俺、こんなところにいるんだよぉぉぉ!)
心の中は、絶叫と号泣と後悔が入り乱れる地獄のカーニバルだ。しかし、彼の外面は、闇に溶け込む一本の木として、完璧なまでに静止している。
シルフィアとイザベラは、互いにライバル宣言をしたことで、むしろ心のわだかまりが完全に消え、スッキリした顔で笑い合っていた。その姿は、星明かりの下で、神々しいほどに美しかった。
その美しい光景のすぐ側で、一人の男が、人生最大のピンチに瀕し、己の存在証明を賭けた孤独な戦いを繰り広げている。なんという皮肉。なんという世界の理不尽。
(よし、今だ)
二人が立ち上がり、それぞれのテントに戻ろうと背を向けた瞬間。ギデオンは動いた。
音を立てない。気配を悟らせない。空気の流れさえも乱さない。
それは、剣技を極めた者だけが到達できる、究極の身体操作術だった。敵の背後を取り、必殺の一撃を放つための神速の歩法『無音歩』。かつて、幾多の強敵を屠ってきた彼の必殺のスキルが、今、人生で最も情けなく、そして最も必死な目的――「女子の恋バナを聞いてしまったことがバレないように、全力で逃走する」――のためだけに、無駄に、そして最高レベルで発揮されていた。
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まだまだ未熟者なので誤字脱字が多いと思いますが長〜い目で見守ってください。
閑話の時系列がおかしいんじゃない?やこの漢字間違ってるよね?など、ところどころにおかしい点がありましたら気軽にコメントで教えてください。
追伸、
雫ストーリーを別で作りました。雫が亡くなる瞬間の心情や死んだ後の天国でのお話を書いてます。
気になった方は是非読んでみてください。
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現在、第四章フェレスト王国ドワーフ編
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