滅びた国の絶望王女が勇者を探していたので、俺(勇者)も一緒に探してみることにした件

Gaku

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第2部:偽りの神と作られし者たち

第五十五話:偽りの神聖

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法国の大聖堂は、建築物というより、人の信仰そのものが結晶化した巨大な芸術品だった。

一行が足を踏み入れた瞬間、外の喧騒は嘘のように遠のき、絶対的な静寂と荘厳さが彼らの全身を包み込んだ。天井は遥か高みへとアーチを描き、ステンドグラスから色とりどりの光が幾筋もの帯となって差し込み、磨き上げられた大理石の床に幻想的な模様を描き出していた。

その圧倒的なまでの神聖さに、普段は騒がしい**「家族」のような一行**も、今回ばかりは完全に気圧されていた。

「おお……これぞ、女神様の威光が満ちる聖域……」 熱血漢のアレクは、胸の前で固く十字を切り、その瞳には純粋な畏敬の念が浮かんでいる。

一方で、侍女という名目でフードを目深に被り、最後尾を歩くエリアの心境は複雑だった。 (……かつて、私はこの場所を誰よりも愛していた) 司祭の娘として生まれ、この大聖堂の鐘の音を子守唄代わりに育った。 ここは彼女にとって、女神の慈悲を最も近くに感じる「家」そのものだった。しかし今、足裏から伝わる冷たい石の感触は、かつての温もりを失い、どこか死者の肌のような不気味さを孕んでいるように感じられた。

謁見の手続きは、イザベラの書状により異常なほど迅速に進んだ。一行は大聖堂の最も奥にある謁見の間へと通される。正面の巨大な壁は一枚のステンドグラスとなっており、降り注ぐ純白の光が、部屋の中央に置かれた純金の玉座を照らし出していた。

やがて扉が開き、新法王がその姿を現した。

法王は純白の法衣を纏い、神々しいオーラを放っていた。穏やかに微笑むその顔には、深い慈愛が湛えられているように見えた。

「――遠路はるばる、ようこそお越しくださいました、迷える子羊たちよ」

その声は、パイプオルガンのように深く優しく響き渡る。 シルフィアは「なんと神聖な……」と息を呑み、アレクはその場に跪いて感動に震えていた。ギデオンでさえ、その底知れぬ力に剣士としての勘を鋭く尖らせている。エリアは、この慈悲深い人物があの非道の元凶であるはずがない、と自分の記憶を疑い始めていた。

しかし。 その感動的な空気の中で、二人だけは、全く別の「地獄」を見ていた。

「(……ねえリリア。あれ、ヤバくない?)」 「(ええ、完全にアウトね。私の想像の五倍は、グロテスクだわ)」

ユウとリリア。二人の転生者の目には、神々しい法王の姿など微塵も映っていなかった。 玉座に鎮座しているのは、粘液質のドロドロとした黒いナメクジのような本体を、プルプルとした半透明のゼラチン状物質が覆っている、正体不明の化け物だった。

「(あの、スライムみたいな擬態……ずっと微妙に震えてて、生理的に無理)」 「(本体のナマコみたいなのが、中でうねうね動いてるわ。ある意味、極上のコズミックホラーね)」

法王が聖母のように微笑むたびに、ゼラチン質の擬態がにゅるりと歪む。 「どうかなさいましたかな? 私の顔に、何かついておりますかな?」 その言葉と共に、スライムの隙間から、無数の赤く爛々と輝く昆虫のような複眼が、ぎょろりと一斉にユウたちを覗き込んだ。 

あまりのキモさに、ユウは魂の叫びを上げそうになった。 「うわっ! スライムの隙間から目玉がいっぱい――」

その瞬間、リリアの鋭い肘鉄がユウの脇腹に、鋼鉄の槍のように叩き込まれた。 「ぐふっ!?」 「(あんた、我慢なさい! 今ここで叫んだら、私たちが悪者になるわよ!)」

感動で涙ぐむアレクたち、聖母のように微笑むグロテスクな怪物、そして腹痛を堪えながら冷や汗を流すユウとリリア。 謁見の間は、神聖さとグロテスクが入り混じる、あまりにもシュールなカオスと化していた。
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