魔王アリスは、正義の味方を殺したい。

ボヌ無音

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スピンオフ「デュインズ」

獲物2

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 ガタゴトと荷車が揺れる。舗装されている道ではないため、乗り心地は非常に悪い。
 エンプティがここにいたのであれば、延々と「アリス様をこのような荷車に乗せるなどと……」と呟いていたことだろう。
 荷車は都市とは違う方向へと進んでいた。リーベが街の人間から首都への行き方を聞いていたため、間違いではない。
 アリスはそれを知りながらも、大きく口を開けてあくびを漏らす。

 荷車は林へと入り、その足を緩め始めていた。ガコンと一番大きく揺れてその場に停止する。
 すると草むらや木の陰から、複数名の男達が現れる。誰もが武器を携帯していて、この荷車――アリス達を襲うつもりなのだと分かる。

「へっ! 全てが善意じゃねぇのは覚えておくんだな!」
「金持ちそうだし、ちょうどいいぜ」
「美人のねぇちゃんもいやがる……!」
「黒髪のガキと金髪の女は、人身売買組織に売り払えばいいだろ」

 男達はアリス一行を見ながら、どう処理してやろうかと口々に言っている。彼らからすれば、装備品も一級品だ。
 売り払えば相当な金になるだろうし、エキドナというスタイルも良い美女もいる。ハインツはいい労働力になりそうだし、これからの成長を見込めるリーベとアリス――の人間態――は組織に売ればいい金額で取引出来る。
 甘い未来を期待して、彼らは既に顔が緩んでいる。相手が誰なのかも知らずに。

「ふむ。人身売買組織か。そういうのもあるんだね」
「大臣らから、以前のアベスカに巣食っていた組織も、人身売買を行っていたと聞きました」
「そういえばそうだったね」
「陛下。対処をお忘れでは?」
「あ、ごめんごめん」

 アベスカの組織に関しては、もう既に懐かしい記憶だった。あれから随分と経過したなぁと思いを馳せている。
 しかしながら現在は、思い出に浸っている状況ではない。襲われている真っ最中で、「あの頃はまだ手探りだったなぁ」などと言っている場合ではないのだ。
 アリスだからこそ出来る余裕なのだが、ヨナーシュから口を出されてしまった。

「尋問が必要なら、ユータリスもつれてくるべきだった? スキルはあるけど、私の知識がないからなぁ……」
「ここは僕にお任せください」
「おっ! ユータリスの指導を受けたんだったね!」
「はい。役に立つ時が来て嬉しいです」
「何をごちゃごちゃ言ってやがる!」
「祈りでもしてんのかぁ?」

 男達はまだまだ真実を知らないため、アリス達の会話が理解できていない。
 盗賊に襲われて気が狂ってしまった金持ちが、命乞いだか言い訳だか、祈りでもしているものかと思っていた。
 その脳天気な考えも、次の一瞬で終わる。

「〈亜空間ポッシビリティ・完全掌握ブラックホール〉」

 アリスがそうつぶやくと、亜空間がその場にいた全員を飲み込んだ。一瞬で世界が変わり、現れたのは先程までいた林道ではなく真っ白な部屋だった。
 薄暗い林道から少し明るい部屋へと移動したため、盗賊達は目がくらんでいる。
 その隙に、アリスは一瞬で部屋の中に椅子を生成する。盗賊の人数分ある椅子は、これから行われる尋問に使われるものだ。

「なんだぁ!?」
「魔術か!? ――うおっ!?」
「ぐあっ!?」

 状況を理解する時間も与えられぬまま、その生成された椅子へと縛り付けられた。
 しかしこれはアリスが行ったことではなく、隣に立つヨナーシュによるものだった。ヨナーシュはアリスを見ると、ニコリと微笑んだ。

「ありがと、ヨナーシュ」
「いえ。助力するのは部下にとって当然です」
「うむ! いい心がけだなッッ! エンプティの教育の賜物かッ!」
「そうかもしれませんね」

 普段からエンプティの補佐をしているヨナーシュにとって、上の者の意図を理解して動こうとするのは慣れていること。
 特にエンプティは気が短いため、言っていることや頼んだことを即座に理解しなければならない。
 アリスはエンプティほど短気ではないが、エンプティによって体に叩き込まれたその〝察する能力〟は、こうして活かされているのだ。

 男達の拘束が完了すると、リーベが真っ先に動いた。先程、尋問の実施を買って出たためだ。
 リーベは亜空間ポーチから、ロールケースを取り出した。中には持ち運び可能な拷問道具が入っている代物だ。
 シスター・ユータリスはスキルにより、拷問に最適化された幹部だが、リーベにはそういったものはない。だからこうして道具の補助を得て、より素早く情報を抜き出す必要があるのだ。
 アリスはリーベが〝作業〟しやすいように、彼の身長に合わせたテーブルを追加生成する。

「ありがとうございます、母上」
「いいえ~。蘇生は?」
「必要ありません。殺しませんので」
「はいよー」

 アリスはどこからか、魔王形態でいつも羽織っているレースの羽衣を取り出した。空中へ投げると、ふわふわと浮遊して留まっている。
 アリスはそこへ乗り、寝転がる。ゆっくりとまぶたを閉じて、隣に佇むヨナーシュへと声をかけた。

「ヨナーシュ、終わったら起こして~」
「はい」

 数秒と経たずに、アリスは夢の中へと落ちていった。
 ヨナーシュはアリスが快適に眠れるように、ほんのりと周囲を温める。
 そして、何事もなかったかのように、リーベと強盗の方へと視線を戻した。

「お、おい、坊主。何をする気だ……?」
「さっきのはほんの冗談だよ」
「お前ら、凄腕の冒険者パーティか? 知らなかったんだよ!」

 流石の彼らも、状況が芳しくないと理解できてきたのだろう。冷や汗をかきながら、なんとかこの場を逃れようと必死だ。
 へらへらと愛想のいい笑顔を並べて、取り繕っている。
 リーベも男達同様に、両親から受け継いだ美しい顔に満面の笑みを浮かべている。

「君達が僕らを知っていようといまいと、今から行われることに代わりはない」
「は……?」
「何が……?」
「喜べ、愚かな人間よ。僕の練習台にしてもらうことを」

 ロールケースから、一本の針を取り出した。これはまだ〝初期〟の対処方法だ。
 ケースには他のも多数の道具が仕込まれており、これから強盗達は、それらを存分に味わうことになるだろう。
 キラリと光る針先を見て、強盗は静かに涙したのだった。



「――か、魔王陛下」
「んー、ふあぁ……」

 ヨナーシュの声に起こされて、アリスは眠りから目を覚ます。ヨナーシュが温度調整をしていたこともあって、最高の眠りだった。
 ぐぐぐ、と体を伸ばしているものの、これは人間の名残だ。彼女にとって凝り固まる心配などない。

「おはようございます、アリス様」
「おはよー。どうかな?」
「ちょうど終わりました」

 ヨナーシュにそう言われて男どもを見てみれば、椅子に縛り付けられていたのは既に事切れている死体だった。
 殺さないという話で進めていたため、死体が出来上がっていることにアリスは驚きを見せた。

「あれ、死んでるじゃん」
「生かしておく価値がありませんでしたので。ハインツ様とエキドナ様のご同意もあります」
「ん? エキドナも?」
「人身売買や強盗だけでなく、強姦や放火も常習的に行っていたようです。各地を転々としていることから、情報は多かったのが幸いですね」
「そっか」
「金品も幾つか手に入れましたので、暫くは安定できるかと」
「おー、よかった」

 パチンと指を鳴らして、アリスは亜空間スキルを解除した。一同は元いた林道へと戻っている。
 既に時刻は夜になっており、闇が世界を覆っていた。
 荷車は元の位置にあったものの、繋がれていた馬は逃げてしまったらしい。もともとつなぎ方が甘かったのだろう。
 それに、馬の持ち主は死亡してしまったため、逃げたところでなんの支障もない。

「遺体はどうされますか」
「ホムンクルスの素材にするから、亜空間にしまっておくよ」
「では首都へ向かいましょう」
「この荷車もいただこっか」
「では私が引かせて頂きますッッ!」
「じゃあ乗っちゃお」

 荷車にアリスとリーベ、エキドナそしてヨナーシュが乗ると、ハインツはそれを引き始めた。
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