「秘密の毒林檎」

C.B

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秘密毒57
木村も麗子も、それぞれに見え方の違う”果実”をじっと見つめ考えていた…。
「私は中森麗子。麗子で良いわ… もしかして、口裏合わせたいからシツコク聞いた?」
「俺… 俺は、木村巧…
 そうです。そのとおり…。あとは、これが現実に起こったことなのか確かめたかった…。怖がらせたならすいません…。俺はどーしても、知りたいことがあるんだ…。どーしても…」
「そう…。じゃあ、黄緑色のスーツ姿の変態女が現れて、マンゴー…じゃなくて、 果物撒いて行ったでいいわね? でも、この果物が他の人にどう見えるのか分からない… もしかしたら…ほんとはここに無いのかも…」
「見え方そのものは分からない… でも、看護婦が1個持って逃げた… だから、普通に存在してるはず…」
「えぇ~看護婦がにげたって?」
「…そろそろ警官隊が来る…」
 木村の耳に警察無線のイヤホンがはめられていた。
「そかぁー やっと増援が来てアイツを捕まえるのね♪」
「いや、俺を捕まえにだよ…」
「えぇーー あんたぁ! いったい何したのぉー」
「何もしてない… ただ、麗子さんをアイツから助けようとして、勘違いされた…」
 警官の木村はとても、冷静に物事を考えていた。
そして、二人はギョッとした! いつのまにか、薄暗くなっていた廊下。開け放たれたままのドアから、真っ白い何かが四つん這いで、病室に入って来たのだ!
「私はただのメス豚… 快楽を貪るただのメスぶちゃ 欲しいの… すごぃ匂うのここ… 私のここすごーくぅなってるのぉ… 見ちぇ~」
『こ、これもあいつの力?!』
 そうとしか思えないと木村は思った。
「何この変態先生! ここは病院で、バイト先のSMクラブじゃないっ! 何が起こってるのよぉ~鞠絵ちゃん! 起きてぇ~ 眠りミイラ姫ー!!」

秘密毒57-1
 木村が慌てて近づくと京香は床に腰をペタンと落ろし、股を開いた。欲しくて、欲しくて、ふっくらと膨らんだように見えるあそこ…。割れた部分から中が見え、とてもいやらしい…。そして、京香はいきなりパンストの前をビリビリ破り始めた。
「止めてください。目を覚まして御厨先生 うっ!」
 凄まじぃ奇妙な香りにふらつく木村は、京香の身体に倒れこんでしまった。
「バババババカモ~ン! こんな時に盛るなぁ~ ただの変態なら私の方が扱い上手いわよ」
 危害を加える様子は無いなと、麗子も京香を介抱しようと肩に手をかけた瞬間…
『ウッ! 凄い甘い匂い! ハァハァハァ』
 鼻を摘み、目がグルグル回るようなめまいを覚えてしまった。
『葉っぱ? まさか薬物…』
「な、なにこれ~頭が溶けそうぅうう あぁあああ~ん」
 突然麗子の目が潤み、上気したような赤ら顔で艶かしい動きになると、京香の着てる物を脱がせ始めた…。
「悪い子… お仕置きしなくちゃ?」
 普段の麗子の顔では無くなっていた…。バイトでやる女王様のフリでも無く、ただただ、行為に飢えた欲するままのメスになっていた。
「はぃ 私を正して… 変態のメス豚を本当のぶちゃにしてぇ ください あぁあああ」
 京香は木村の引き締まった尻を揉み、自分の股にぐいぐい押し付けはじめた。

秘密毒58
 鞠絵はスヤスヤと眠っていた。
周りで何が起こってるのかも知らず、ただただ眠り。夢を見ていた。
夢の中でも、彼女は眠っていて、
悪い魔女の呪文でカエルに変身させられた麗しの王子様がキスをしてくれるまで、ガラスの棺で永遠に眠る。眠り姫になっていた…。



 応援に駆けつけた無音のパトカーがパトライトだけを照らし、数台。病院の裏口へ止まった。
「とっさの出来事だったんです。ただ、警官が、付き添いの女性に拳銃を突きつけてのを見たんです! 私も襲われそうになって、果物拾ったまま慌てて逃げました! それだけです。刑事さん早く元の安全な病院に戻して!」
『果物?』
 若い刑事の稲葉は何気に思っていた。
「他には何か、おかしな点はありませんでしたか?」
 中年の刑事。大原が聞いた。
「あ! そうです。おかしな点ありました。何故だか理由は分かりませんが…」
 二人の刑事は彼女の言ってることの整合性を聞き逃すまいと、静かに厳しい目で聴いていた。
「病室に入ったら、とんでもない数の”イチジク”が…転がっていたんです。まだまだ増えているようにも見えたんです…。でも、きっと見間違いかも… あ。無花果がたくさんあったのは間違いありません!」
 通報した第一発見者の千代が興奮したまま喋っていた。
「そ、それは。医療用のイチジク。浣腸薬のことですか?」
 稲葉は、メモを取る手を止めた。
「いえ、本物。あ。果物の無花果です! これがそうですけど」
 千代はポケットからそれを取り出し見せてくれたが、何をどう見ても、ただの無花果に違い無かった。
「そうですか、分かりました。ありがとうございます。事件が病院なだけにやっかいですが患者さんたちを迅速に非難させてください」
 大原が言った。
「はい。とにかく、あんな奴さっさと捕まえてくださいね。撃たれてもここは病院です。すぐ治療できます!」
『おぃおぃ…』
 二人の刑事は、若い看護婦の言ったことに面食らってしまった…。

秘密毒58-1
「コラコラ 何、縁起の悪いこと言ってるんですか藤崎さん!」
 院長がたしなめた。
「どうもすみません。私たちは、これから患者さんたちを避難させます。行きましょう千代さん」
 看護婦長らしき人物が彼女の肩を叩いて言った。
「あ! どうもごめんなさい」
 言ったことにやっと気づいた千代は罰が悪そうに、ペコペコ頭を下げ、院長や婦長らと立ち会っていた数名の関係者たちは、警官隊を引き連れ病院内へ戻って行った。
「なんてこと言うんだぁー? 最近の若い子は。まったく…」
 稲葉は何気に千代の大きな尻を見て、ボソッと呟いた…。鞠絵がいる5階の病室は、この駐車場側から見えていて、
「応答あるか?」
 大原は、無線で呼びかけてるパトカーの警官に言った。
「いえ。木村巡査からの応答はありません…」
「最近の若い奴は何考えてるかさっぱり分からん! だから、こっちは法の名の下(もと)に正してやらんとな!」
「はい! 私も若い方ですが、その意見に大賛成です」
『ん? 俺に言わせりゃイナバァ~ おめぇーもだぁー カップラーメンに”砂糖”入れて喰うんじゃねぇー!!』
 と、大原が思っていると、一見黒塗りのミニバスのようにも見える中型車が静かに到着した。中から狙撃用ライフルを抱えた数名の特殊機動隊員が、機敏な動きで現た。
「特殊機動部隊。只今到着しました!」
 警官が大原に駆け寄り報告すると、
「被害はどんなもん?」
 全身黒尽くめの、機動部隊のリーダーらしき、長身の男が言った。
「ご苦労様です。ここから私が指示させてもらいます。ホシはあそこに見える。あの、5階の個室で立て篭もってます。今、患者を非難させてますから、その間に配置を完了させてください。最終判断は私が犯人と交渉した後、指示するまでそれぞれ待機をお願いします」
 現場はますます緊迫した雰囲気に包まれていった。退職したとはいえ長年の刑事魂は衰えることを知らない、大原と稲葉の乗る車に便乗した古田も、大原の指さす先。鞠絵の居る病室をじっと見つめていた。

*秘密毒59

ビリビリビリ!
 白いブラウスの前が引き裂かれ、飛んだボタンはあちこちに散りパラパラと音を立てた。
「うふ。大きい胸ねぇ もう硬くなってるはよぉ~ ここ!」
 言いながら、胸の突起をきつく捻り上げる麗子。
「んあぁああああああ!」
 木村の履いてるズボンのベルトを外そうとしていた女医は、急激な痛みにのけぞり、その拍子にベルトをスルッと引き抜いていた。
「あらー? これを使って欲しいの? ほら、彼の邪魔な服も全部脱がしなさい…ご褒美を上げるからぁ 早くしろ!」
 ベルトを片手に巻き、引き伸ばした麗子は皮の表面をペローンと舐め、京香の身体に垂らし柔らかくなぞっていたが、急に振り上げた!
パッシーーン!
「返事しろ! 返事は”はい”だ! 私の命令には”はい”とだけ答えろ!」
「あぁぁああーーーーっ!はい!主様」
 鞭代わりのベルトは、京香の尻にヒットし脱がせるのをせかすと、木村の制服が徐々に剥かれていき、線は細かったが、ガッチリした身体が少しづつあらわになっていった。
「ほら仰向けにさせなさい…お前の大好きなあれが見えるように。くふ」
 力の出ない京香は必死に男の身体を起こしていった。
その間も身体のいたる所を打たれ、耐え切れずもがいたが、やっと男を仰向けにさせ、あれにしゃぶりつこうとした。
「あーん? 誰が口に含んで良いと言った?」
 麗子のベルトが京香の顎下にあてがわれグィッと上げられた。
「あぅぐぅ~ スイマセン スイマセン 欲しいです。これが欲しいです! ください主様! なんでも致します~ うぐぅぐぐぐぐ~」
 京香は背後からベルトで首を絞められていった。
喉元を絞められた京香は、木村のあれを握った手をやっと離し、息ができず喘いだ…。
「ハァーアアアハァハァ~ うぅうう」
「駄目な子ねぇ… ほんとに医師免許持ってるお医者なの~? ちゃんとご褒美を上げるってさっき言ったよねぇ。お前が刺激を与えたせいでほら見てみろーこいつの”ここ”。とても立派におっ立ってるぞ? ほら、上の口より、この口に入れたいだろう? 跨っていいぞぉ」

秘密毒59-1
「あぁああ ありがとうございますぅ~」
 飢えた女医は、首を絞められたまま木村の”あれ”に、蜜の滴る自分の”あそこ”をあてがっていった。
「あぅっ あぁ あぁあああああ」
 それを飲み込んでいく京香は、至福な表情で溶けていきそうだったが、麗子のベルトはまだ首に巻き付いたまま、ギュウギュウに絞められていた…。
「腰を振れ! 意識が飛びそうなほどの快感だろう? いきなり天国へ逝けるかもなぁ クスススス」
 うつろな目で、涎を垂らし腰振りを止められない京香だった。

*秘密毒60

 特殊起動隊の突撃班数名は、病棟の屋上へ移動し一階下の部屋へ降りるための命綱を取り付け待機完了無線を送った。
「了解。そのまま指示を待て」
 リーダーは二人の担当刑事と共に鞠絵の個室の隣の部屋へ来ていて、情報収集担当の若い隊員は、手元で操作出来る、小型カメラ付きファイバースコープを、鞠絵の個室の中に滑らせた。
「いけます。画像入ります」
 ブリーフケースの中のパソコン画面が、暗い部屋をそこだけ照らし、皆の顔を浮き上がらせた。
「!」
 ぼけていた画面がクリアになった瞬間。皆、絶句してしまった…。
「な、なにー?!」
 リーダが言った。
「…あの看護婦が言ったとおり凄い無花果の数。いったい誰が持って来たんだ!」
 稲葉は驚きを隠せずモニターに見入っていた。
「どーいうこった…。こんなハレンチ極まる暴行事件だったのか…」
 大原は額をぺシッと叩き、モニターから目を離した。
「隊長! 拳銃を確認しました。そこのベッドの下に転がっています」
 ファイバースコープを操作してる若い隊員が言った。
「あいつら、ここをラブホと勘違いしてないか? ったくよぉー どうします? 大原警部?」
 リーダーが言った。
「なんか匂わないか?」
 大原は答えようとせず、鼻を鳴らし部屋の外へ出ようとすると、覗き込んでる黒い影と目が合い、眉をしかめた。
「どーやって来たんですか…」
 古田は頭をかきながら、
「見つかっちゃった~。ハハハ」
 モニターを指さした。
「包帯ぐるぐるのミイラが鞠絵ちゃんだ。彼女は無事なのか? しかし、こりゃあたまげた事件だなぁ…」
 稲葉も古田に気づき、仕方なしに中に引き込んだ。
「うわっちゃ ダメですよ! 関係者以外は。今から確認します。お願いですからここに居てくださいよ」
 そして、たて続けに言った。
「大原さんの言う匂いは、このとんでもない数の無花果からだと思います。でも、もしかしたら変な薬物でもやってるのか?」

秘密毒60-1
「こりゃ事件でもなんでもない。ただのアホどもの遊びだ!」
 大原は静かに地団太を踏んだ。
「だろうな… 俺たちの面目丸潰れか~? クソッ! 突撃班聞こえるかー? 全員こっちへ降りて来い! こっちで待機!」
『了解しました。急行します!』
 リーダーは無線で指示し、
「警部殿。このままだと私しら何しに来たのか分からんから、形だけでも突入させたいんだけどダメかな? まぁ念のためもあるし…」
「(薬物か…)ふむ。こちらも、了解。待機します」
 大原は背後のリーダーに小声で言い、廊下の左右に居る警官隊に前進して待機しろと指図すると、小さな手鏡を内ポケットから取り出した。

秘密毒61
 声が聞こえた。
「気持ち良いかぃ? こんなことされても、腰振りを止めないメス豚!」
ビシッ バシッ!
「あんあんあ~ん うぐぅ あぁあああん いやぁーー!」
 言って聞かせる冷たい声と、切なげな艶っぽい別の女の声…。何かが打たれる音がすると、悲痛な叫びに変わった。
『やってやがる…。エ・ス・エ・ム・プレイってやつだな…』
 鏡に角度をつけ覗き込むと、足が見えた。
すね毛の生えた男の足に黒いビキニブリーフが絡まり、上に乗って動いてるような女の手が床に突っ張っていた…。
『女たちの声しか聞こえんねぇ… 発砲巡査より女共の方が強かったってことかー? しかし、何をどーしたら、こんな色っぽぃ展開になるんだよ…』
 また角度を変え奥を見ると、鞠絵は尻を突き出し寝ていたようだったが、ごろんと寝返りをうった。
『おっとぉー ミイラちゃんは、そのまま寝ててくれよ。

 ピストルはっと… 位置は変わらずか… とどのつまり、遊びで拳銃で脅してそのまま”自分の銃”を使ったプレイかだな…決まり! これはただの乱痴気騒ぎ!』
 大原が黒い奴らはまだかと鏡で後ろを見ると、稲葉はともかく、しっかり古田もひっついていた…。
『こら! おっさん…』
 大原が呆れていると、機動部隊が向かって来てるのが見えた。

 鞠絵は相変わらず夢を見ていた…。
『らんなさまぁー チュー チュー ちゅぅ~♪』
 眠り姫のまま誰かのキスを待ち侘びているのか、大原には背中しか見えなくなっていたが、包帯で覆われた唇をもぞもぞ動かしていた…。
その時、個室から、いっそう激しいあえぎ声がした。
「あぁああああああ イクイクイクイクゥーー」
「いいぞ!いいぞ! もっといたぶってやる! 簡単には逝かせない くふふふふ」
 麗子は京香のまたがってる尻を持ち上げ、突き飛ばした。
果てる寸前だった京香は狂ったよう懇願した!
「いやーっ! いかせて いかせてください! んはぁああああ」

秘密毒61-1
 自分であそこを弄ろうとした京香に、麗子はベルトで両手を後ろ手にぐるぐる縛りつけ、こちら側へ向かせて言った。
「見てろ… くすすすす」
 ヌルヌルに光る木村のあれを握った麗子は、汚れた手を京香の口に突っ込み舐めさせ、自分のパンティをめくり腰を突き出した。
「受けろ…」
「あぁあああああ 嬉しいです。あぁああああ~」
 黄色い液体を浴びようと、歓喜の声を上げる京香は目を瞑った。
「ばかやろー 何してんだおまえらー!」
 稲葉が真っ先に飛び出していた。
「とつにゅうぅうう~ぅうっく… 警察だぁけどもね(先に出んなよ…)」
 号令をかけようとした大原は、拍子抜けしたが、ライフルを構えた機動部隊も、警官隊もそう広くは無い個室へドカドカと乱入していた。
と、その時。ミイラ女、眠れる鞠絵姫が目を覚ました。

 ふいに起き上がったミイラ女は、どこかの方角を指さしながらおごそかに立ち上がり、その異様な光景に警官たちはとっさに銃口を鞠絵に向けた。彼女は床に足を降ろすとスリッパを履くと見せかけ、ベッド下の”それ”をつかみ上げ飛んだ!
「な!」
 警官たちは、その行動に肝を冷やしたが、
パン! パン! パンッ!
彼女が着地すると同時に、大きな音が響いた。
「猿! 犬! 雉(きじ)! やめ~ぃ!」
 っと、叫び、三人の頭を”スリッパ”で叩いていた…。ハレンチ行為に及んでいた女たちと、ただ失神していた男は、その衝撃で我に返った。
「? あたし。ここで何してた? え? キャーーー!」
 すぐさま、叫ぶ半裸の京香に銃口が向けられ、
「あぁ あったま痛い… あんた誰?」
 目の前の京香に驚いた麗子に、銃口が向き、
「うっうーん… なんだったんだ…急に眩暈が…えっ?! えぇー なんで俺!ハダカ!!」
 神経を張り詰めていた警官たちの銃口は木村に向けられたが、やっと戦意は無しと上に傾けられた…。

秘密毒61-2
「変・態どもめーみんな逮捕だ! ハダカの理由はあとできっちり教えてもらうからな!」
 稲葉が叫んだ。
「うわっ。ベッチョベッチョ…」
 鞠絵は床が赤黒く汚れているのに気づき、足の裏を見ながら気持ち悪がっていると、誰かが呟いた。
「鬼もいるのかい?」
 そのセリフに、全員がその男を見た。
「ん?」
 鞠絵は自分がしたことを良く分かってないように首をかしげ、古田の言うことに訳が分からず見詰め返していた。

秘密毒62
 稲葉はハダカ同然の美しい女医に、木村が脱がされた制服の上着をかけてやり、本人にはズボンを投げつけ、
「はい、あなたたちは、騒乱罪で現行犯逮捕しますね。時間は…」
 と、言った。
その時…警官隊の一人が顔に付いた無花果の汁を拭おうとして、うっかり舐めてしまっていた。
「しかし、あんた女医だろう? なんで、こんな真似を…」
 稲葉の問いに、身を縮こまらせ、上ずった声で震える京香が言った。
「わ、分かりません… エレベーターで、へ、変な”奴”に襲われてしまって… 気づいたら、ここに連れて来られていたんです…」
『あんな訳の分からない”奴”のこと絶対誰も信じてくれない…』
 京香は口ごもりながら話した。
「他にも誰かいたのか!」
 木村の拳銃をやっと、取った大原がベッド下で振り向き声を荒げた。
「いたよ。黄緑色の服着た派手な女が、そいつが私を襲った後、これ撒いてった…」
 麗子が床を見て話すと、木村が続けて言った。
「そうです! 私は、その変な暴漢からこの方を守ろうとして、逆に何かを嗅がされてしまったみたいです…。それを、看護婦に勘違いされてしまって…」
「まぁいい、言い分は署でじっくり聞こう。手錠はかけないからおとなしくしてろよ?」
 稲葉が、優しく京香を立たせてあげていた。
「ここに、警官二名残して、あとは病院の出入り口を封鎖だ! それと、誘拐未遂事件の検問範囲を30kmに伸ばせと署に連絡してくれ! (鬼とは言わず。鬼もどきがほんとに居そうだなぁこりゃあ…)」
「了解しました」
 指示はすぐに無線機を持った警官により伝えられていき、他の警官たちは、それぞれの場所へドカドカと駆けて行った。

秘密毒62-1
「加賀屋さんはどうします?」
 稲葉が聞くと、
「動けますか?」
 大原が尋ねた。
「全然だいじょーぶです。このとーりピンピン!」
 鞠絵は屈伸したり、その場で飛び跳ねて見せた。
「…でも、いったい何があったんですか? この人は大事なお友達で、変なことする子じゃありません…決して」
 鞠絵は心配そうに親友の腕をさすり、麗子はミイラのままでは可哀想だと鞠絵にメイド服を着させ、
「顔解く?」
 小声で囁くと、
「まだ腫れぼったいし…」 
 と、首を横に振る鞠絵だった…。
「そうですか…とりあえずあなたも署までご同行願いたいんですが。外出許可を取らせないとまずいな。おい、誰か、下行って、許可貰って来い」
「はい!」
 その警官が部屋を出て行くと、いきなりだった。
「一度やってみたかった…」
「ギャッ!」
 麗子は背中を凄い力で押され、壁に激突した。
「やめろー!」
 古田が叫んだ!
「ぐへ… うへへへ やれやれってー言うんだぁ…黄緑色の女がさぁ~俺の事なんでも知ってるんだ~。…だからもっと弾けろって~言われたぁ~ グヘヘヘヘ」
 最後に一人残った警官が、鞠絵が履いたばかりのスカートからまたぐらに、拳銃を突きつけて、鞠絵の顔に巻かれた包帯の端を口に咥えニヤニヤ笑っていた。
『今度はお前か~!』
 病室に残された者たちは皆一様にそう思っていた。

秘密毒63
 銃口が鞠絵から刑事たちに向けられた一瞬の間に、特殊機動部隊のリーダーがすっと前に出て銃をつかみ上げ、ねじ伏せようとしたが、もみ合いになり、
パーンッ
 警官が引き金を引いてしまい衝撃音が響いた!
「ギャーーッ!」
 鞠絵の頭に銃弾が当たった天井の破片がパラパラと落ちてきて、彼女は恐怖に怯えうずくまった。
「やらせろ! やらせろ! そのメス豚とやらせろー! 離せーっ 離しやがれ!」
 警官は最後のあがきで口走ったが、リーダーは男をベッドに羽交い絞めに押し倒していた。
そして、振り向きざまに言った。
「大丈夫か! 誰も怪我してないか! またバカが湧きやがった… ふぅ」
「藤原隊長 助かりました!」
 稲葉がすぐさま拳銃を奪い、大原は警官に手錠をかけた。
「(前代未聞の事件だ…)大丈夫。もう安心だよ…」
「何かが狂ってる。もう、おかしすぎ! 頭いたいよー! えぇーーん」
 古田は呟きながら泣きじゃくる麗子の肩を優しく抱いてあげた。
一瞬の出来事に、呆然としてる鞠絵は、
「麗子ちゃん! 血!」
 と、自分の顔から垂れた包帯をぐるぐる巻き取り、さっきできてしまった額の傷にあてがった。木村は顔を覗かせた鞠絵の、生々しい傷跡に心を痛め、その愛らしい姿に、この世にはもう居ないと言われ続けた恋人の顔を思い出し重ねていた…。
『俺は、まだ君がどこかで生きてると信じてる…』
 恋人は自殺の名所で知られる断崖絶壁の海辺で、遺書を残し自殺したと判断されていたが、遺体は発見されておらず謎が残る事件でもあったのだ…。

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