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天に吠える狼少女
第五章 天に吠える狼少女・8
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ドクン、と。
見えない波がユウを中心に広がっていった。それはその時、その瞬間に世界が変わったことを示す証左。零が一に、無が有になった証明。本来あり得ざる可能性が生まれ落ちた産声。
世界が波打つ。その鼓動が運命の変動を世界の隅々まで伝えていく。その波を、知恵ある者は“界脈”と呼んだ。
レイが長剣を大地から引き抜いた。もうその必要がないと感じたからだ。
折り重なるように覆い被さっていた狼人族達もレイに続いて力を緩めて下がった。もう押さえつける必要はない。もう彼が暴れる様子はなかった。
「親父……」
おずおずとディナが歩み寄った。未だ泡立ち続けるその巨体を地面に横たえている彼へ向けて。
「親父……親父……ッ!!」
すぐ触れられるほどディナが近づいた瞬間、ビクンとその巨体が動いた。レイや他の狼人族が身構える中、その肉膨れした太い腕を支えに彼は上半身を起こした。
「う、おお大声出すなィ……ギ、き、聴こえてラァ……最初か、かかから、ずっと、な……」
肉に埋まった顎から、理性ある言葉が零れた。
テヴォの意識が戻ったのだ。
「「族長オオッ!!」」
周囲の狼人族達が歓喜の声を上げた。ユウも、その護衛の二人も、そしてもちろんディナも安堵に胸を撫で下ろした。
ユウの力によって、肉塊と成り果てたテヴォが人間と共に生きていける可能性を得たのだ。
涙ぐんでいることを悟られないように、ディナは一度目を閉じて空を仰ぐと、いたずらっぽい笑顔を作った。
「なんだよ。聞こえてんなら、ちゃんと返事しろよ。クソ親父……!」
「ぐ、ガ、ハハハ……だ、だぁれが、クソ親父だ、ば、馬鹿娘……そんなだから、へ、返事する気が、失せたんだ」
いつも通りのやりとり。心の底から楽しそうな、親子の会話。愛情の籠った悪態。
「感動の再開……再開?のところ悪いけど、長々と話してる暇はないわ。いつ再生の限界が来て身体が崩壊し始めるか分からない。私の知りうる魔法の知識を全て使って、元に戻す方法を探るわ。ディナも手伝って。練魔行が肉体を活性化させるならその逆もできるはず。まずはこの過剰再生を止めないと。失敗しても恨まないでね」
近寄っても安全であることを確認したセラがさっそくその身体を調べにかかる。意識が戻っても、治癒魔法の暴走が止まったわけではない。暴れなくなって多少は延命できたとしても、いずれは再生の限界が来て身体が崩れてしまう。それまでに解決策を見つけられるかどうか。
正直、見込みは零に近い。
それでも、限りなく零に近くとも可能性は存在する。ならば手を尽くす意義はある。諦めるのは手を尽くしてからでも遅くない。それはこの場でユウが証明したところだ。
跪いてテヴォの身体を触診するセラ。
だが――
「よしなぃ……ま、魔法師の姉ちゃん……」
見えない波がユウを中心に広がっていった。それはその時、その瞬間に世界が変わったことを示す証左。零が一に、無が有になった証明。本来あり得ざる可能性が生まれ落ちた産声。
世界が波打つ。その鼓動が運命の変動を世界の隅々まで伝えていく。その波を、知恵ある者は“界脈”と呼んだ。
レイが長剣を大地から引き抜いた。もうその必要がないと感じたからだ。
折り重なるように覆い被さっていた狼人族達もレイに続いて力を緩めて下がった。もう押さえつける必要はない。もう彼が暴れる様子はなかった。
「親父……」
おずおずとディナが歩み寄った。未だ泡立ち続けるその巨体を地面に横たえている彼へ向けて。
「親父……親父……ッ!!」
すぐ触れられるほどディナが近づいた瞬間、ビクンとその巨体が動いた。レイや他の狼人族が身構える中、その肉膨れした太い腕を支えに彼は上半身を起こした。
「う、おお大声出すなィ……ギ、き、聴こえてラァ……最初か、かかから、ずっと、な……」
肉に埋まった顎から、理性ある言葉が零れた。
テヴォの意識が戻ったのだ。
「「族長オオッ!!」」
周囲の狼人族達が歓喜の声を上げた。ユウも、その護衛の二人も、そしてもちろんディナも安堵に胸を撫で下ろした。
ユウの力によって、肉塊と成り果てたテヴォが人間と共に生きていける可能性を得たのだ。
涙ぐんでいることを悟られないように、ディナは一度目を閉じて空を仰ぐと、いたずらっぽい笑顔を作った。
「なんだよ。聞こえてんなら、ちゃんと返事しろよ。クソ親父……!」
「ぐ、ガ、ハハハ……だ、だぁれが、クソ親父だ、ば、馬鹿娘……そんなだから、へ、返事する気が、失せたんだ」
いつも通りのやりとり。心の底から楽しそうな、親子の会話。愛情の籠った悪態。
「感動の再開……再開?のところ悪いけど、長々と話してる暇はないわ。いつ再生の限界が来て身体が崩壊し始めるか分からない。私の知りうる魔法の知識を全て使って、元に戻す方法を探るわ。ディナも手伝って。練魔行が肉体を活性化させるならその逆もできるはず。まずはこの過剰再生を止めないと。失敗しても恨まないでね」
近寄っても安全であることを確認したセラがさっそくその身体を調べにかかる。意識が戻っても、治癒魔法の暴走が止まったわけではない。暴れなくなって多少は延命できたとしても、いずれは再生の限界が来て身体が崩れてしまう。それまでに解決策を見つけられるかどうか。
正直、見込みは零に近い。
それでも、限りなく零に近くとも可能性は存在する。ならば手を尽くす意義はある。諦めるのは手を尽くしてからでも遅くない。それはこの場でユウが証明したところだ。
跪いてテヴォの身体を触診するセラ。
だが――
「よしなぃ……ま、魔法師の姉ちゃん……」
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