贄の少女と伝説の魔物

塩チーズ

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生贄の花嫁と伝説の魔物

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 辺境の貧しい村で育った少女レインは幼いころから家族に虐げられて育ってきた。自分たちは何もせず、家の金を食いつぶす家族に辟易しながらも、抵抗すれば「役立たず」とののしられ、鞭で叩かれ段々と抵抗する気持ちもなくなっていた。そうして姉妹に押し付けられた家事や労働をレイン一人が担う日々が数年続いていた。

「レイン、喜べ。お前が魔物の花嫁に選ばれたぞ」
「私が、花嫁に……」

 そんな村には古い伝説が根強く残っていた。『洞窟に住む魔物と交わることで、強力な力を手に入れることができる』。魔物の花嫁、とはその伝説の魔物が住む洞窟で魔物と交わる贄として選ばれた者を指す。伝説が本当なら強大な力を目的にきっと家族は私を生贄に喜んで差し出したのだろう。
 過去に選ばれた生贄は皆貧しく、家族がいないような少女がなっていた。それなのに──でも、現状からどうすることもできず、生き地獄のまま生きるより──どちらにしろ拒否できる力は残っていなかった。

「はい、喜んで花嫁にならせていただきます」
「フッ、これで少しは家の役に立てるな」

 父親は冷たい言葉を残して、同じ空間にいるのが嫌なように手で退出を促した。頭を下げて部屋を後にし、自室としている屋根裏部屋に着く前に涙があふれていた。





 数日の準備期間の後、月もない夜が訪れうっそうと茂る森の奥に誰も近寄らない洞窟に一人。死を決心して洞窟に入るとそこに住むと言われている魔物が──いた。
 伝説の魔物、巨大な角と翼をもつドラゴン。伝説であり、ここに来た少女たちは餓死か森の獣に殺されて死んだのかと思っていたが、本当に魔物が存在しているとは思わなかった。

「あの、伝説の魔物様。花嫁としてまいりましたレインと申します」
「なに?」

 地に響くようなドスのきいた低い声。殺される──そう確信した。この魔物は並大抵の強さではない、きっとそうだ。たいして他の魔物と対峙したことがあるわけではないが、切り裂くような空気だけで、本能が死を確信していた。

「……私と、交わってください。代わりに一族に力を……」
「……はあ、まだ人間はそんな伝説を信じているのか」
「え……?」

 大きなため息を一つ、雰囲気が一気に軽くなる。話が通じることにも驚愕したが、ドラゴンの姿から人間の姿へと変身した魔物の姿にも困惑し言葉を失った。魔物の大きさは一般的な人間より少し大きく、立派な角はそのままに翼や鋭い爪はどこかへいってしまった。

「数十年前にもお前と同じように来た女にも同じように伝説を信じるなと伝えた気がするが……そなたの村には伝わっていないのか?」
「は、はい……花嫁になった少女たちは村に帰ったものはいませんので……」
「そうか……それはすまないことをしたな」

 伝説の魔物は少女たちへの悲しみの言葉を向けたことは意外だった。伝説の魔物の生贄になった少女たちは帰ってこない。つまり、殺されるということを意味していた。それなのに現実の魔物は心もあり、人間を殺すような理性のない魔物には見えなかった。

「昔は、魔物と人間の交わりで強大な力を手に入れていたかもしれない。しかし今はそんなことをするヤツはいないだろうよ」
「かかわることは禁忌……ということでしょうか」
「いや、こちら側も人間との干渉はいまだ続いている。だが交わることは今の世ではできんということよ」

 伝説の魔物によると、魔物界でも人間界と同じように規則があるらしいことを話してくれた。人間と売り買いをしたり、情報を交換したりと、かかわりを持つこと自体は行われているらしい。だが、魔物と人間が交わることは推奨されておらず、人間側から生贄としてささげられることに辟易している節さえあるという。

「それよりお前の家族のことだ、ずいぶん虐げられて過ごしてきたようだな」
「……」
「そうだな……お前が望めば家族から引き離すことはできるぞ」
「本当ですか……?」
「ああ。礼などいらん、記憶を勝手に覗いた詫びだ」

 私の記憶など面白くもないものだったろうに……伝説の魔物は憐れむような視線を向けてきた。
 家族から離れられる。それとも村に戻るか。そもそも村に戻ってどうする?今まで通り虐げられるだけで済むだろうか。生贄にもなれなかった私を家族が受け入れてくれるわけがない、再び生贄として洞窟に連れてこられ縄で縛られ放置されるのがオチだろう。

「死ぬのを待つか、俺と暮らすか」
「あなたと……暮らす……?」
「ああ。森で過ごすことになるだろうから、今までより不便な生活を強いられるだろうがな」
「あなたと……いたいです。森で、過ごしたいです」
「決まりだな!今から俺の花嫁だ!」
「へ?」

 素っ頓狂な声を上げたと同時に伝説の魔物は軽々と私の身を持ち上げた。洞窟の奥に進むと祭壇のような場所があり、その神聖そうな椅子に座らされる。

「契約などは面倒だが、どうにかなるだろう。ああ、俺はショール。ドラゴン族のショールという」
「ショール、様……」
「なんだ、他人行儀なのは好かん。旦那様とでも呼ぶがいい」
「だっ……!?」
「はは、愛いな」

 のちに豊穣の女神として彼女にそっくりな像が作られたという。彼女の虐げられた人生が神に拾われ、ともに生涯を幸せに暮らしたという物語が後世に語り継がれた。
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