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陽芹孝介

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第四章 絶望と希望

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  パジャマ姿の愛美が、部屋のドアの前に倒れている……血を流して……。
  葵はこの最悪の状況を確認すべく、有紀に説明を求めた。
 「有紀さん……なるべく簡略に説明を……」
 「私も今来たところだ。葵……検死を手伝ってくれ……」
  有紀も状況を把握しきっていないのを、察した葵は有紀を見て頷いた。
 「わかりました。では僕は上半身を……有紀さんは下半身をお願いします……」
  二人のやりとりに、山村は悲壮感と怒りが入り交じった、複雑な表情で止めに入った。
 「何をするつもりです!?人が………こんなに血を流して……何なんですかっ!?あなた達はっ!?」
  山村はかなり動揺している。何を言っているのか、いまいち理解できない。
  九条が山村を抑えた。
 「山村さんっ!落ち着いて……今はこの二人にまかせよう!」
  しかし山村は引かない。山村は九条を睨み付け激昂した。
 「九条さんはっ!どうして落ち着いてられるんですっ!?人が……人が……動かないんですよっ!?」
  九条は大声で言った。
 「僕だって!……気がどうにかなりそうだよっ!でもっ……周りを見てよっ!」
  山村はハッとして周りを見た。
  女性陣はこの状況と二人のやりとりに怯えている。
  九条は気を落ち着かせるように言った。
 「僕たちが……できるだけ冷静でなければ……誰が皆を守れるんですか?……」
  九条にそう言われると、山村は肩を落とした。
  すると光一が山村の肩を叩いた。
 「船長殿……九条殿のいう通りだ」
  葵が言った。
 「では、検死にとりかかります……」
  歩が言った。
 「ちょっと待って葵君……ここは二手に別れよう。検死組と待機組にね……女性陣にここの空気は辛い……」
  有紀が賛同した。
 「そうだな……。女性陣と山村氏、それに未成年の順平を連れて九条氏は、パーティールームで昨夜の各自の状況を聞いてくれ……。警戒は怠るなよ」
  九条が言った。
 「そうするしかないね……了解した」
  そう言うと九条は有紀に言われるまま皆を連れて、パーティールームへ向かった。
  葵が言った。
 「それでは検死を始めます。歩さんと堂島先生は周りを見張って下さい…」
  葵に言われ二人は黙って頷く。
  葵は愛美のパジャマのシャツに手をかけて言った。
 「愛美さん……失礼します」
  シャツの右胸元には丸い焦げあとがある……それを確認すると葵はシャツを脱がせた。
  愛美のつめたい肌が露になる……。出血元は……右胸元の傷。位置的に動脈を傷付けてしまったのだろう。
  葵が言った。
 「死因は……動脈損傷による、出血多量死か……おそらく肺も損傷してますから、呼吸不全のどちらかですね。シャツの焦げ跡と傷の形状から、拳銃による他殺ですね……。因みに弾丸は貫通してません」
  有紀が言った。
 「死後硬直の感じから、死亡推定時刻は……6~7時間前の、午前1時~2時の間だな」
  歩が言った。
 「この出血量だ……紫斑は、おそらく出てないな…」
  葵は愛美の部屋の中を調べようとし、ドアに手をかけが……しかしドアは開かなかった。
  だが、葵は閉ざされたドアの淵を見て何か気づいたようだ。
 「部屋の中で殺害されたようです……」
  歩が聞いた。
 「どういう事?」
 「ここを見て下さい」
  葵が指す方を、歩と光一が見た。
  葵が言った。
 「ドアに血痕が付着してません……弾は貫通していないので、それは不自然ではありませんが、問題はドアの淵です」
  明らかに引きずった血の跡が、ドアによって完全に切れている。
  歩が言った。
 「じゃあ、犯人は部屋の中で殺して、外まで引きずって来たって事?でもそれって……」
  葵が言った。
 「ええ……そうです。犯人は『死体を発見させたかった』という事になります」
  光一が言った。
 「どういう事だ?」
  葵が言った。
 「殺害したのを隠したいのなら、部屋の中で殺して……鍵を奪い、ドアを施錠して、死体を隠しておけばいいのですから」
  光一が言った。
 「だが、それでは……時間が経てば異変に気付くぞ」
  葵が言った。
 「その通りです……。何時間、何日も引きこもるのは無理があります。ですが……1~2日後くらいに、遺書か何かを、隙を見てドアの隙間に挟んでおけば?」
  歩が言った。
 「自殺を装おえる……」
 「そうです……だが、犯人はわざわざ死体を外まで引きずり出してます……。「見つけてくれ」と、言わんばかりにね」
  光一は考え込むように言った。
 「いったい何の為にだ?そもそも誰がこんな事を?」
  葵が言った。
 「確かに犯人が誰なのか?……それは重要ですが、それよりも厄介な事が……」
  歩が言った。
 「相手は拳銃を所持している……」
  葵が言った。
 「ええ……ですから、まず身の安全の確保からです」
 「とりあえず、弔ってやろう……」
  歩が愛美を抱き上げようとすると、葵が言った。
 「どうするつもりですか?」
  歩は葵の「どうするつもり?」……つまり遺体を弔う事に対して、反対する葵に不信感を漂わす感じで言った。
 「どうするって……このままじゃ、可哀想だろ?」
 「ダメです……死体はこのままにしておきます。試したい事があるので……」
  歩は勢いよく立ち上がり、葵の胸ぐらを掴んで葵に怒鳴った。
 「試したい事だってっ!?これ以上何をするってんだ!」
  葵は歩の目を見て、歩とは対象的に冷静に言った。
 「必要な事です……だから死体はそのままに……」
  歩は葵が言葉を言い終えるのを、待つことなく葵の左頬を勢いよく殴った。
  葵はそのまま倒れこみ、歩は葵に馬乗りになり、またも胸ぐらを掴んで勢いよく言った。
 「君はっ!……君は人の命を何だと思ってるっ!?仲間だったんだぞっ!会って間もないけど……仲間だったんだぞっ!」
  葵に抵抗する様子はまるでない。
  だが、葵はまたも冷たく歩に言った。
 「気がすみましたか?……」
  葵の言葉に歩の感情はさらに爆発する。
 「君はっ!………」
  さらに葵を殴ろうとする、歩の右手を有紀が止めた。
 「そこまでだ……」
  有紀に右手を抑えられ、歩も少しだけ落ち着いたのか……黙って葵の胸ぐらを離した。
  葵はゆっくり立ち上がり、そして言った。
 「歩さん、僕は……この歳で、多くの人の死に関わってきました」
  歩は葵に背を向けたままだ。
  葵は気にせず続けた。
 「ですが、僕は今まで一度でも……人の命を軽んじた事はありませんよ。もちろん、今回も……」
  歩は声を振り絞るように言った。
 「わかっているよ……」
  歩は少しだけ震えている。仲間を死なせた悔しさ……自分の無力さか……。
  すると光一はいつの間にやら、転送倉庫から何かを取り出している。
  葵と歩か揉めている間に用意したのか……因みに光一の部屋は愛美の隣の06番なので、転送倉庫は光一の部屋の裏にある。
  光一は取り出した物を持って来て、揉めていた二人に言った。
 「収まったか?二人とも」
  有紀が聞いた。
 「堂島氏、それは?」
  光一が有紀に答えた。
 「防臭機能がある寝袋だ。二人の言い分はわかった……。だが、彼女をこのままにしておくわけにはいかん……」
  有紀が言った。
 「なるほど……その寝袋に入れて、寝かせてやると……」
 「そうだ……。二人とも異論はないな?」
  葵が答えた。
 「ええ……ご配慮感謝します……堂島先生…」
 「いや、渡辺殿が殴らなかったら………儂が貴殿を殴っていたかもしれん……。儂も激情家だからな……」
 「……でしょうね……」
 「ただ、月島殿の今までの言動から、貴殿が非凡なのはわかる。だから殴らなかった……。それだけだ」
  有紀が言った。
 「そろそろ戻ろう……。皆をあまり待たすと、余計な不安がでる」
  パーティールームに戻る道中、有紀が葵に言った。
 「派手に殴られたな」
  有紀の言うように、葵の左頬は少し痣ができている。
  有紀は葵に聞いた。
 「なぜ、避けなかった?お前なら避けれただろう?」
  葵は答えた。
 「僕に油断があったから……歩さんにではないですよ……。この島に対しての油断です。この島に来た時点でもっと警戒するべきでしたが、完全に油断しました」
 「気を引き締めるためにも、わざと殴られたと?」
 「そうです……自分への怒りでいっぱいですよ」
  そう言った葵は拳を握りしめている。
  そんな葵に有紀は言った。
 「あまり自分を責めるな。お前のせいではない……現に我々大人達も呑気にしていたのも事実だ」
  葵は返事をすることなく黙っている。
  有紀は続けて葵に言った。
 「歩の事だが………許してやってくれ……」
 「僕には非があります……殴られて当然です」
 「それもあるが………あいつは誰よりも人の命を重んじている……ここにいる誰よりも……」
  葵は少し考えて言った。
 「それはわかってます……それもあったので殴られました。彼はただのカメラマンではありませんね?」
  有紀は葵の問いに、答える事はなかった。
  葵は有紀の様子を察して言った。
 「有紀さんに聞くことではありませんね……後で本人に聞きます」
 「そうしてくれ……今のあいつなら答えてくれるだろう……」
  葵は歩に殴られた左頬を、さすって言った。
 「痛いですね……色々な意味で……」
 
  色々な思い残す左頬は……。

  ただ…ただ…痛かった……。
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