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陽芹孝介

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第四章 亀裂

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  湖のほとりで皆はただ呆然とした。しかし、その中で葵と有紀は動いた。
 「とにかく検死だ…葵…」
 「はい……。とりかかりましょう」
  葵は陸の遺体を仰向けにした。
  瞳孔を開いた陸が皆を見ている。亜美は貧血を起こして倒れそうになった。
  すかさず九条が亜美を支えた。
 「愛さん、亜美ちゃんを……それに皆も一度屋敷に戻ろう…」
  五月は顔を青くして言った。
 「私はここに……カメラを…」
  歩は五月の様子を察して言った。
 「五月ちゃんは戻った方がいい……。カメラなら俺が撮るよ。俺、プロのカメラマンだから…」
  歩は五月からカメラを受けとると、九条に言った。
 「九条、皆を頼む……。検死が終わりしだい、俺達もすぐに戻る…」
 「わかった……。ただ、警戒は怠るなよ…」
  九条はそう言うと、葵、歩、有紀を残して屋敷に向かった。
  歩は陸の遺体をカメラで撮りながら言った。
 「やられたね…」
  葵は体が硬直してるか確認している。
 「やられましたね……。ただ、これでアマツカがここに来ているのはわかりました。上半身の硬直はまだないです」
  有紀が言った。
 「何故アマツカがいると?下半身もまだだな…」
  葵が言った。
 「タイミングが良すぎます……。脱出の糸口を見つけたとたんです……。僕の動きを把握しないと、このタイミングで殺人は出来ません…」
  歩が言った。
 「なるほどね……。で、死因はその刺傷かい?」
  有紀が言った。
 「腹部と右胸部に刺傷がある……。それにこの出血量……死因は出血多量だな…」
  葵が言った。
 「遺体の状態からして……死んで間もないですね。まぁあまり関係ないですが…」
  歩が言った。
 「関係ないって?」
 「時間です……。今は12時40分……死体が発見されたのは、12時20分。ここのルールだと、正午にリセットされます」
  有紀が言った。
 「そうか12時前に死んでいたら、死体は正午に消える……。つまり正午を過ぎてからの犯行ってことになる」
  葵は言った。
 「つまり、僕たちに『死体を発見させたかった』とも、とれます」
  有紀が言った。
 「こんな事を考え付くのは…」
  歩の表情はさらに険しくなった。
 「アマツカ………」
  葵が言った。
 「とにかく遺体をこのままにしておくには…」
  歩が言った。
 「そうだな、何かに入れて安置しよう……。このままだと可哀想だ…」
  歩は一人で屋敷に戻った。おそらく何か遺体を包む物を探しに行ったのだろう。
  葵が言った。
 「凶器は無いので、自殺では無いですね…」
 「そうだな……。しかし、いったい誰が?またアマツカが操っているのか?」
 「僕はそう思います……。先程も言いましたが、タイミングが良すぎます」
 「確かに……。では、誰がアマツカなんだ?」
 「それはまだわかりませんが……一つ忘れている事が…」
 「なんだ?」
 「客室が一つ空いてます…」
 「12人目か……それがアマツカだと?」
  葵は髪をクルクルしながら言った。
 「可能性の話です…」
  有紀は表情を険しくした。
 「とにかく12人目の事は警戒しなければ…」
  二人が話していると、歩が走って来た。歩の手にはビニールシートがある。
  歩が言った。
 「このビニールシートで遺体を包もう…」
  歩はビニールシートを広げた。遺体を包むには十分な大きさだった。
  3人で陸の遺体をを包み、それをそのまま湖のほとりに置いた。
  有紀が言った。
 「屋敷に戻ろう…」
  3人は屋敷に戻り、食堂に行った。食堂に入ると、皆が何か揉めていた。
 「だから、危険なんだ……。団体行動をしないと…」
  九条が皆に説明している。
  それに亜美は反論している。
 「でも……この中に、陸を殺した殺人犯がいるかもしれないじゃないですかっ!」
  亜美はかなり興奮している。
  すると葵たちに気付いた九条が、助けを求めた。
 「君たちからも言ってくれ……単独行動は危険だと…」
  どうやら、単独行動か団体行動のどちらにするかで、揉めていたようだ。
  愛が言った。
 「自殺したとかは?自殺の可能性はないんですか?」
  亜美が愛に噛み付いた。
 「陸は……陸は自殺なんかしないっ!ここにこれてよかったって言っていたのに……自殺なんてっ!」
  亜美は泣き出してしまった。
  九条が葵に聞いた。
 「検死の結果は…どうだったんだい?」
  葵はためらう事なく言った。
 「はっきり言います……。これは殺人事件です」
  食堂にいた全員の視線が葵に集中した。
  葵は続けた。
 「まず凶器がどこにもありません……陸さん自身が胸と腹を刺して、凶器を処分することは出来ません。それに刃物で自殺をする場合は、ためらい傷がつくはずですが……それも無かったので…」
  九条は暗い表情で言った。
 「総合的に考えて…他殺か…」
  祥子が言った。
 「決まりね……。団体行動は危険だわ……寝首を狩られるかもしれないもの…」
  葵が反論した。
 「そうとも言い切れませんよ……。団体行動は互いを見張る効果もあります…」
  祥子は険しい表情で言った。
 「疑ってるの?」
 「お互い様でしょ…」
  二人の間にしばし不穏な空気が流れる。
  歩が沈黙を破る。
 「まぁまぁ、葵君もはっきり言い過ぎ……。祥子ちゃんの言い分もわかる……とにかく身の安全を最優先にしよう」
  祥子が言った。
 「いつ、身の安全が確保できるの?犯人が誰だかわからないのに……仮に12人目がいたとして、どうなさるおつもり?屋敷で籠城でも決め込むつもり?」
  歩は言葉に詰まった。
 「そ、それは…」
  すると葵が言った。
 「ここから脱出すればいいのですよ…」
  脱出…。葵のその言葉に皆は様々な反応を示した。
  期待する表情や、乗り気でない表情など様々だ。
  葵がそれらの反応を見て言った。
 「どうも脱出に消極的な人たちがいるようですね……。人が一人死んでいるにも関わらず…」
  祥子が言った。
 「確かに……脱出は最善の手段よ……。ただし……できればの話だけど」
  葵が言った。
 「祥子さんの言うことも…ごもっともですが、皆で協力すれば可能です」
 「皆を信用していない私が、協力するとでも?」
 「してもらわなければ……困ります…」
 「ふふ…平行線ね…」
  祥子は先程より表情を緩めたが、目は笑って無かった。
  すると愛が言った。
 「とりあえず、夕食の時間まで待機しませんか?頭の整理もしたいので…」
  有紀が賛同した。
 「そうだな……皆、少し興奮気味や、消沈気味だ…。一度部屋に戻り、少し休むべきだ」
  九条が言った。
 「それじゃあ、一度解散しよう……。そうだな5時に食堂に集合はどうだろう?」
  有紀と九条の提案に、反対する者はいなかった。
  祥子、亜美、赤塚、マリアは食堂を出て部屋に戻り、愛は食堂の片付けを始めた。
  愛は呟いた。
 「皆…昼食とる気分じゃないか…」
  歩が立ち上がり愛の片付けを手伝う。
 「そうだね……昼食の事、忘れてたよ…」
  歩の言葉を聞き、愛は泣き出した。
 「うっ…、ど、どうして?…どうしてこんな事に……」
  静かになった食堂に、愛の泣き声がただ響いていた。
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