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陽芹孝介

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第四章 亀裂

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  歩は片付けを終えた後、愛を部屋まで送った。愛は泣きつかれ憔悴していた。
  食堂に残った4人、葵、有紀、九条、五月は事件について話ていた。
 「事件当時の皆さんの行動は?」
  そう葵が聞くと九条が答えた。
 「祥子さんは部屋で絵を描いていたそうだ…。後、赤塚さんとマリアちゃんはそれぞれ部屋に、歩と愛ちゃんは厨房で昼食の準備……。僕と亜美ちゃん、片岡さんは食堂にいたよ…」
 「僕と五月先輩は一緒に植物館と教会を調べていました…」
  九条が続けた。
 「そして正午を過ぎても、君達や陸君が食堂に来なかったので……亜美ちゃんが呼びに行って、湖で陸君を発見した…」
  葵は髪をクルクルしながら言った。
 「部屋にいた者はアリバイが不確かですね……。食堂にいる人間に、気付かれないように湖まで行き、陸さんを殺害……可能と言えば可能です」
  有紀が言った。
 「あと12人目が、本当にいるのか調べる必要がある…」
 「そうですね……。空部屋と陸さんの部屋を調べる必要があります、何か手懸かりがあるかもしれません…」
  九条が言った。
 「空き部屋はわかるが……陸君の部屋に手懸かりがあるのか?」
  葵は言った。
 「陸さんは普段、昼食をするまで……午前中はグランドで汗を流しています。その陸さんが何故湖にいたのか?引っ掛かります」
  五月が言った。
 「どういう事?」
 「誰かに呼び出された可能性があります…」
  有紀が言った。
 「そして殺害された……。遺体には刺傷以外の目立った外傷は無かったな…」
 「振り向き様に刺したとも考えられますが…」
  有紀が言った。
 「とにかく2つの部屋を調べる必要があるな…」
  五月が言った。
 「私が…行きますっ!」
  九条が言った。
 「危険だよ…」
  葵が言った。
 「僕がいるので大丈夫です……。それにカメラは必要ですから…」
 「私はただのカメラマンかっ!」
  五月は怒っているが、葵に気にした様子は無い。
  葵が言った。
 「時間がもったいない……行きますよ」
  葵は五月にそう言うと席を立った。五月は葵につられるように立ち上がり、葵の後を追った。
  食堂を出ると、丁度歩が2階から降りてきた。
  葵が言った。
 「歩さん、愛さんのようすは?…」
  歩はどうも…ばつの悪い表情をしている。
 「あ、ああ…もう落ち着いて、今は眠っているよ…」
  葵は歩の表情を見て言った。
 「何かありましたか?」
 「いや、別に……彼女の感情の爆発に少し驚いただけさ……。葵君は気にしなくていいよ…」
  何を言っているのかよくわからないが、深追いする必要も無さそうなので、葵は歩の言う通りに、気にしない事にした。
 「じゃあ、俺……夕食の準備があるから…」
  そう言うと歩は逃げるように食堂に行った。
  歩の様子を見て五月が言った。
 「絶対なんかあったわ……。あの二人…」
 「あの二人とは?歩さんと愛さんですか?」
 「そうよ……。前から怪しいと思ってたのよっ!」
  葵は不思議五月そうに言った。
 「怪しい?何処が?アリバイもしっかりありますよ…」
  五月は頭を抱えた。
 「そうじゃなくて……もういい……。それにしても、あんたって、本当に鈍いわ…」
 「何を言ってるんです?早く行きますよ」
  そう言うと葵は階段を登った。五月は呆れながら、葵の後を追った。
 「ここが陸さんの部屋です」
  葵の前には陸の部屋の扉がある。
 『205』号室で、左隣は有紀の部屋で『204』、右隣は『206』で愛の部屋だ。
  葵は陸の部屋の扉を引いた。
  部屋の中を覗いてみると、他の部屋と間取は変わらない。
  奥にベットがあり、その壁には窓が付いている。
  二人は中に入った。
  葵が五月に言った。
 「先輩は部屋の隅々まで写真を…」
 「わかった、任せといてっ!」
  葵は部屋の隅々まで調べたが、特にこれといって重要な物品は無かった。
 「あるのは、トレーニングウェアやらサッカーボールなど……事件に関するものは…うん?…」
  そう言った葵は入り口付近で何かを発見した。
  小さな紙切れが落ちていた。葵はそれを拾う。
「先程は気付かなかったが……これは、メモ…」
  葵はメモを読んだ。
 「『湖で待つ』…指定の時間は書いてませんね…。うん?紙の端に黒い…なんだ線か、印か?」
  葵の言うように紙の端に黒い2mm程の線がある。
  葵はメモをビニール袋に入れた。
  二人は陸の部屋を出て、12番目の部屋…空き部屋に向かった。
  部屋の前に着くと、葵はノブに手をかけた。
 「鍵は掛かっていませんね……。開けますよ」
  そう言うと葵はドアを開けた。
 部屋の中は殺風景としていた。生活の痕跡を探す。
  葵は部屋を調べながら言った。
 「一応隅々まで写真を……。まぁ、仮に誰かが生活していたとして、痕跡は残さないでしょうが…うん?」
  葵は何か違和感を感じた…。
  窓のふちを調べると、何か付いている。
 「これは…」
  窓の縁には2つ……糸のような繊維が付いている。
  葵は五月に言った。
 「先輩、このか所を写真に…」
  葵は次に洗面所、トイレと順に調べた。
 「先輩、洗面所とトイレも写真をお願いします」
  五月に写真を撮ってもらい、その他の部屋の箇所を調べたが、たいした痕跡は無かった。
  部屋を出て二人は食堂に戻った。
  食堂に入ると九条、有紀、歩がお茶をしていた。
  九条が葵に聞いた。
 「葵君、どうだった?」
  葵は陸の部屋で発見した、紙切れを皆に見せた。
  皆がそれを見終わると、葵は言った。
 「見ての通り、陸さんは誰かに呼び出されたようです…」
  有紀が言った。
 「いったい誰が?」
  葵が言った。
 「昨日…陸さんと亜美さんが、軽い口論をしていました…」
  九条が言った。
 「まさか亜美ちゃんが?」
  葵が言った。
 「可能性は捨てきれませんが、あの取り乱しかたからして……陸さんを殺害したとは…思えませんね。ただ…」
  有紀が言った。
 「ただ……なんだ?」
 「陸さんが湖に呼び出された事に、関係がある事は考えられます。ただその前に確認しなければならない事があります」
  歩が言った。
 「何を確認するんだい?アリバイ?」
 「いえ、アリバイはこれ以上確認しても仕方ありません。それより単純なことです」
  五月は考えながら言った。
 「う~ん……なに?」
  葵は言った。
 「皆に脱出する意志があるかどうかです」
  あまりにも当たり前の事に、皆は言葉が見つからない。ここにいる人間は皆が脱出したいに違いない。
  九条が言った。
 「脱出したいに決まってるじゃないか……葵君何を言っているんだい…」
  九条は、馬鹿馬鹿しいといった感じだか、葵の表情は真剣だった。
 「現在食堂にいる、僕を含めてこの5人は脱出する気があるのは、知っています……。しかし、他の人はどうでしょう…」
  有紀が言った。
 「どういう事だ?」
 「僕は彼ら彼女らが……心底脱出したいと、思っていないのでは?と、考えてます…」
  葵がそう言うと、食堂の入口から声がした。
 「月島君の言う通りよ…」
  皆がその声に反応した。声の主は……祥子だった。
  祥子は皆の視線を集めると、先程の続きを言った。
 「私は脱出したくないわ……。少なくとも亜美さん、愛さんもそう思っているはずよ…」
  葵は言った。
 「やはりそうですか……そんな気はしていましたが…」
 「ふふふ、私にとってこの世界は素晴らしいわ…」
 「何処が素晴らしいのです?人が一人死んでいるんですよ…」
 「元の世界でも人は死ぬわ……。死にたくなくても、いつかは…」
  葵は呆れながら言った。
 「こんな所で天寿を全うするつもりですか?」
  祥子はうすら笑みを浮かべた。
 「あなたなら理解できると思うのに……。でも、この世界で生きて……この世界は死ぬ……悪くないわ…」
  九条は少し表情を強張らせた。
 「本気かい?」
 「私は本気よ……この世界は私の理想よ」
  話は平行線で結論が出そうにない。
  脱出したい者と、脱出したくない者で、派閥ができてしまった感覚だ。
  葵は髪をクルクルさせながら言った。
 「簡単には……いきそうに、ないですね」
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